Stain

K-E

文字の大きさ
14 / 20
第二章

第十四話

しおりを挟む
扉を開けると場内には激しいミット打ちの音が響き渡っており、空間に漂う汗の匂いと殺気を含んだ独特の空気に、体中の神経が一つ一つ起こされていく感覚を覚えた。

練習場の中央には6メートル四方のリングが設置されており、壁際には大小四つのサンドバッグが置かれ、その他にも様々な練習器具が揃っていた。
想像していた以上に本格的な練習環境に、俺のテンションは最高潮に達していた。

「Where's your sparring partner? (お前の相手どこ?)」
Patが誰とスパーするのか確かめたかった。
「He is right there, that white guy. (あそこだよ、あの白人の奴。)」
Patが指差す方を向くと、少しぽっちゃり目のPatとは真逆の、全身引き締まった筋肉に覆われている大男がストレッチをしていた。

「Are you sure you'll fight that guy? (本当にあいつとやるの?)」
正直Patが彼に勝てるイメージが湧かなかった。
「Yeah, don't worry bro. (おう、心配すんなよ。) One left hand, that's it. (左一発で終わるよ。)」
Patは余裕の笑みを見せていた。

準備運動を済ませ、ミット打ちを始めたPatの近くでシャドー(シャドーボクシングの略、仮想の相手をイメージして動く練習)をしていると何人かの選手が声をかけてきた。
彼らは一年生らしく、まだボクシングを始めたばかりだと言っていた。

アメリカには先輩後輩という概念はないが、新参者でも経験者はある程度尊敬される。そこは日本もアメリカも変わらなかった。
どのスポーツにおいても言えることだが、特にボクシングにおいては強い奴が圧倒的に偉い。

彼らにステップの使い方を教えていると、Patのミット打ちが終わり、スパーの準備に入った。

スパーは3分3ラウンドで行われることになり、僕はセコンドとしてPatのサポートに付いた。
グローブをきつくはめ、ヘッドギアをつけ終わる頃にはさすがのPatも戦闘態勢に入っていた。
顔にはまだ余裕の笑みが浮かんでいたが、体中から闘志と殺気が溢れ出ていた。

「He is taller than you bro, how you goona fight?(相手お前より身長でかいぞ兄弟、どう戦うの?)」
「Don't worry bro, just watch. (心配すんなよ兄弟、ただ見とけよ。)」
そう言ってPatは拳を突き出してきた。

この時俺は、他の選手たちがPatに憧れの視線を向けている理由が分かる気がした。
彼は最高に格好良い男だ。
「Alright man. (分かったよ。)」
俺は突き出された拳に自分の拳を合わせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

初体験の話

東雲
恋愛
筋金入りの年上好きな私の 誰にも言えない17歳の初体験の話。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...