【完結】オメガの純が夢見ていること

若目

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恋煩いと食欲

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仁志も結希人に倣うようにして、アルカトラを細切れにしてから口に入れた。
「だれ?職場でいっしょの子?」
「うん」
「どんな子?かわいい?」
結希人はアルカトラを口いっぱいに頬張ってもごもご言いながら、いかにも好奇心いっぱいといった様子で聞いてくる。

「うん、すっごくかわいい。最近うちの店に入ってきた同い年のオメガの男の子だよ」
「へえ。脈はあるカンジ?」
「あんま無いかなあ」
話しながら食べている間に、2人はアルカトラも平らげてしまった。
「えー、意外!お前超モテてたじゃん。あ、デザート取ってくるね。肉ばっか食ってたもんだから、甘いもの欲しくなっちゃった」
結希人は会話を中断させると、デザートビュッフェコーナーまで向かっていった。

結希人はいつもこうだ。
移り気というのか、自分から話を振っておいて、その話を途中で脱線させてしまう。
このあたりは中学生の頃から何も変わっていないなと呆れつつ、仁志も甘いものが欲しくなってきたので、デザートを取りにいくことにした。

「で、何の話だっけ?」
結希人はブルーベリーのムースとフォンダンショコラ、ベイクドチーズケーキ、モンブラン、ココアビスケット10枚を皿に乗せて席についた。
「お前なあ…」
仁志はストロベリーショートケーキ、ティラミス、キャラメルプディング、ホワイトチョコレートのタルト、ラズベリーのゼリーが乗った皿をテーブルに置いて、席についた。

「えーと、オメガのかわいい子が気になるんだろ?で、アタックはしないの?その子、カレシ持ちとか?」
結希人がブルーベリーのムースにスプーンを差し込んだ。
「いや、カレシはいないけど。ただ、番になってくれる結婚相手探してるらしいんだよ。アルファの人で…」
言うと仁志は、ラズベリーのゼリーを飲むように食べた。
「そりゃ絶望的だなあ」
「そうだろ?アルファ様には何しても勝てねえよ。うちの店長もアルファだけどさ、たくましくて頼りになるし。ホントに、何やったって勝てる気しねえよ…ベータはオメガと番になれないし……オレ、その子とは、その…寝てるんだけどさ…」
キャラメルプディングをもそもそ食べながら、仁志は自信なさげに言った。

「え?」
仁志の言葉を聞いた結希人は、持っていたスプーンをカタンと落とした。
「オレ、その子のセフレなんだよ」
「え?その子、セフレがいる中で番探してるの⁈」
結希人が驚いて口を開くと、口内に残っていたブルーベリーのムースがテーブルに落ちた。
「発情期が辛いらしいんだよ。薬もぜんぜん効かないらしくて…だから、番を欲しがってるんだよ」
仁志が顔をしかめながらナプキンを手に取り、結希人の口からテーブルに落ちていったムースを拭く。
「なるほどねー、お前は発情期がしんどいときの慰め役ってワケか」
結希人は落ちたスプーンを拾うと、それでモンブランをすくった。

「…うん」
仁志が力なくうなずく。
「でもさ、肉体関係から発展して、付き合えることもあるかもよ?」
元気のない仁志の様子を見た結希人が、慰め半分に告げた。
「オレじゃあ、番にできないよ」
「うん、番にはできなくてもさ、その子が心変わりしてくれることがあるかもよ?手の届かないアルファの相手より、目の前のベータの男の方がいいかも、ってなカンジで」
モンブランを食べ切った結希人は、今度はココアビスケットをかじり始めた。

「オレ、そんな妥協されて付き合うことになるわけ?」
仁志がホワイトチョコレートのタルトを手づかみでかじる。
「妥協された上でもさ、付き合えるならいいんじゃない?セフレでさえいられなくなるよりはいいじゃん」
「そうだけど…」

「まあ、そのときに付き合うか、付き合わないかは、お前が決めることだよ」
結希人がフォンダンショコラにスプーンを刺すと、中からチョコレートがとろりと溢れた。
「まあな」

──どうするかな、ホント…



仁志は真剣に悩んだ。
しかし、真剣に悩みながらも食は進む。
それこそ、この2人は落ち込んだときでも食欲だけはしっかり機能するタイプだ。

この日は結局、2人で肉は合計7キロ、サラダは4杯、ケーキは2ホール半ほど食べた。
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