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「は?」
驚いた敏雄は素っ頓狂な声を出した。
この期に及んで、いったい何の悪ふざけであろうかと訝しんだ。
「伊達さんのことが好きなんです。付き合って欲しいんです、恋人として」
青葉は敏雄をまっすぐ見つめたまま、はっきりと言った。
長年、いろんな人と接してきた敏雄だから、相手の言っていることやその意図は、目を見ればわかる。
これは悪ふざけなんかではない、青葉は本気なのだ。
「…なんでまた、こんな俺みたいなオッサンなんだ?」
答えを半分わかっていながら、敏雄はあえて確認してみた。
「伊達さんは人望あるし、編集長とか、上の立場の人たちからも信頼されてるし、仕事に真剣なところとか、人間としてもすっごく尊敬できるなって思うんです。それに、この仕事してから真っ当に接してくれたの、伊達さんだけなんです」
──ああ、やっぱり
敏雄からしてみれば、社内でトラブルを起こされてはかなわないと思って声をかけただけなのだけど。
それは孤立して気持ちが沈んでいた青葉からしてみれば、命を救われたような気持ちになったのかもしれない。
そして、そこから変な気を起こしたとしても、何の不思議もない。
──ここは、了承してやった方がいいか
青葉は自分の感情に正直なところがある。
もしここで青葉をふってしまえば、そのショックで落ち込んで塞ぎ込み、業務に影響を及ぼすかもしれない。
そう考えると、青葉の思いに応えるべきであろう。
敏雄はそう考えた。
──なあに、社内には若くて可愛い女子も山ほどいるから、そのうちそっちに気が移るさ
「ああ、いいぞ。付き合おう」
青葉が自分と付き合いたいなとど言い出したのは、興味本位とか、若い頃によくある歳上の人間への強い憧れであろうとタカをくくった敏雄は、あっさり了承した。
「本当ですか⁈」
神妙だった青葉の面持ちが、緊張の糸がほぐれたみたいにゆっくり綻んだ。
「伊達さん、ぼくみたいな若造なんか相手にしないかもしれないと思ってたので、嬉しいです」
青葉が赤面して微笑む。
「俺だって、この歳になって若いヤツに相手にされるとは思ってなかったよ。まして、告白されるなんて考えだってこともなかったし」
そう言うと敏雄は、焼きししゃもを尻尾から一口かじった。
ほどよい苦味と塩味が、口に広がる。
現場に行かない日が続いて、いじめ事件の加害者やその保護者、学校側の人間に直接会う機会が減ったからだろうか、いつもより食べることが楽しく感じられた。
「伊達さん、すごーくモテそうですけどね…」
照れ臭そうに言うと青葉は、フライドポテトを1本手に取って、ケチャップをつけた。
「はっはっは。ありがとよ、最高の褒め言葉だ!」
「伊達さん、信じてないでしょ?」
茶化して笑う敏雄に、青葉はムッとしたような顔を向けた。
「いやあ、すまんすまん。人様と頻繁に会う仕事してるとな、お世辞もよく言われるんだよ。そのせいで、相手の言ったことが本音なのかお世辞なのか考えるのもバカバカしくてなあ。テキトーに流すクセがついちまったんだ、許せ」
敏雄は幼児を寝かしつける母親のような手つきで、青葉の肩をポンポンと軽く叩いた。
「上司として恋人として、これからよろしくな、青葉」
敏雄は手を差し出して、握手を求めた。
「はい!」
青葉が手を伸ばしてきた。
敏雄はその手を思い切りグッと掴んで引っ張り、青葉の体を引き寄せた。
「ケチャップがほっぺたについてんぞ」
敏雄は青葉の頬に顔を近づけると、そこについたケチャップをぺろりと舐めた。
「もう!伊達さんたら!!」
青葉はサッと後退りして、舐められた頬を押さえた。
「はっはっは!」
こうして楽しく談笑した後、2人は明日の取材のためになるだけ早く食事を済ませて、それぞれの家に帰っていった。
驚いた敏雄は素っ頓狂な声を出した。
この期に及んで、いったい何の悪ふざけであろうかと訝しんだ。
「伊達さんのことが好きなんです。付き合って欲しいんです、恋人として」
青葉は敏雄をまっすぐ見つめたまま、はっきりと言った。
長年、いろんな人と接してきた敏雄だから、相手の言っていることやその意図は、目を見ればわかる。
これは悪ふざけなんかではない、青葉は本気なのだ。
「…なんでまた、こんな俺みたいなオッサンなんだ?」
答えを半分わかっていながら、敏雄はあえて確認してみた。
「伊達さんは人望あるし、編集長とか、上の立場の人たちからも信頼されてるし、仕事に真剣なところとか、人間としてもすっごく尊敬できるなって思うんです。それに、この仕事してから真っ当に接してくれたの、伊達さんだけなんです」
──ああ、やっぱり
敏雄からしてみれば、社内でトラブルを起こされてはかなわないと思って声をかけただけなのだけど。
それは孤立して気持ちが沈んでいた青葉からしてみれば、命を救われたような気持ちになったのかもしれない。
そして、そこから変な気を起こしたとしても、何の不思議もない。
──ここは、了承してやった方がいいか
青葉は自分の感情に正直なところがある。
もしここで青葉をふってしまえば、そのショックで落ち込んで塞ぎ込み、業務に影響を及ぼすかもしれない。
そう考えると、青葉の思いに応えるべきであろう。
敏雄はそう考えた。
──なあに、社内には若くて可愛い女子も山ほどいるから、そのうちそっちに気が移るさ
「ああ、いいぞ。付き合おう」
青葉が自分と付き合いたいなとど言い出したのは、興味本位とか、若い頃によくある歳上の人間への強い憧れであろうとタカをくくった敏雄は、あっさり了承した。
「本当ですか⁈」
神妙だった青葉の面持ちが、緊張の糸がほぐれたみたいにゆっくり綻んだ。
「伊達さん、ぼくみたいな若造なんか相手にしないかもしれないと思ってたので、嬉しいです」
青葉が赤面して微笑む。
「俺だって、この歳になって若いヤツに相手にされるとは思ってなかったよ。まして、告白されるなんて考えだってこともなかったし」
そう言うと敏雄は、焼きししゃもを尻尾から一口かじった。
ほどよい苦味と塩味が、口に広がる。
現場に行かない日が続いて、いじめ事件の加害者やその保護者、学校側の人間に直接会う機会が減ったからだろうか、いつもより食べることが楽しく感じられた。
「伊達さん、すごーくモテそうですけどね…」
照れ臭そうに言うと青葉は、フライドポテトを1本手に取って、ケチャップをつけた。
「はっはっは。ありがとよ、最高の褒め言葉だ!」
「伊達さん、信じてないでしょ?」
茶化して笑う敏雄に、青葉はムッとしたような顔を向けた。
「いやあ、すまんすまん。人様と頻繁に会う仕事してるとな、お世辞もよく言われるんだよ。そのせいで、相手の言ったことが本音なのかお世辞なのか考えるのもバカバカしくてなあ。テキトーに流すクセがついちまったんだ、許せ」
敏雄は幼児を寝かしつける母親のような手つきで、青葉の肩をポンポンと軽く叩いた。
「上司として恋人として、これからよろしくな、青葉」
敏雄は手を差し出して、握手を求めた。
「はい!」
青葉が手を伸ばしてきた。
敏雄はその手を思い切りグッと掴んで引っ張り、青葉の体を引き寄せた。
「ケチャップがほっぺたについてんぞ」
敏雄は青葉の頬に顔を近づけると、そこについたケチャップをぺろりと舐めた。
「もう!伊達さんたら!!」
青葉はサッと後退りして、舐められた頬を押さえた。
「はっはっは!」
こうして楽しく談笑した後、2人は明日の取材のためになるだけ早く食事を済ませて、それぞれの家に帰っていった。
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