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大川という男
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「何と言ったんです?」
敏雄はごくりと生唾を飲んだ。
大川のこの反応を見るに、校長がろくでもないセリフを吐いたのは明確だ。
「あの校長、「広田さんってどなたですか?」と言ったんですよ?信じられませんよ、本当に!記者会見して、保護者会も開いておきながら、亡くなった女の子の名前もろくに把握してなかったんです。ジャーナリストが感情的になるなんて、本来ならあっちゃいけないことですがね、思わず怒鳴ってしまいましたよ。カーッとなってしまってね…「広田さんですよ!あなたの教え子だった女の子です!」って」
「それで、校長は何と?」
敏雄はレコーダーを握る手に、グッと力を入れた。
「さらに聞いて呆れましたよ「ああー、亡くなった子ですね」って。他人事みたいな態度で言うんです。私、また怒鳴ってしまいましたよ「そんな言い方ないでしょう!!」って」
大川の肩はわなわなと震えていた。
この人は情に厚いところがあり、時折カッとなってしまうところがあるから、今回のことで怒り出してしまうのも仕方のないことと言える。
大川に限らず、今回の事件に怒っている人は多い。
「ほかにありますか?校長への取材は、そこで終わりですか?」
「ええ、私が怒鳴ってしまったもんですから、もう萎縮してしまったんですかね。「もう帰ってくださいませんか」と言われましたし、これ以上何を聞いても無駄だと感じて帰りました。わざわざ都内からA市まで行ったんですが、あれほどの無駄足は滅多にありませんよ」
大川はがっくりと肩を落とした。
「個人的にはね、校長よりも教頭の言ったことがどうにも心に残るんですよ、わたしは…」
この言葉を聞くに、大川は教頭にも取材していたらしい。
「何と言ったんです?」
教頭への取材もまともにできなかった敏雄は、これ幸いと大川の話を聞いた。
「あの教頭ね、広田さんのお母さんに向かって「10人の加害者の未来と、1人の被害者の未来、どっちが大切だと思いますか?全員、まだ子どもなんですよ。1人のために10人の未来をつぶしていいんですか。どっちが将来の日本のためになりますか。もう一度、冷静に考えてみて下さい」と言ったんだそうです。これはもう、暗に「黙っていろ」と言ってるのと大差ないですよ!信じられますか⁈」
「信じられない…」
敏雄と大川のやりとりを見ているだけだった青葉が、ぼそりと漏らした。
「ええ、本当に信じられないでしょう、青葉さん」
大川が青葉を見つめて訴える。
「……情報は、それだけでしょうか?」
敏雄は2人の様子を伺いつつ、大川に尋ねた。
「はい、それだけしか得られなかったんですよ。まあ、私情を挟むようですが、もうこれ以上取材したくないという気持ちもありましたから…」
「そうですか、では、話はこれで終わらせますね。お時間いただき、本当にありがとうございます。お仕事お疲れ様でした」
敏雄はレコーダーのスイッチを切って、大川に礼をした。
青葉もあわてて、それに続く。
「お二人も、お疲れ様です」
大川も続いて礼をして、話はそこで終わった。
「大川さんは立派な人だろ?」
道中、敏雄は青葉に問いかけた。
「そうですね。わざわざA市まで行って、校長の家まで…」
「まあ、それもあるな。だが、大川さんのすごいところは、「共感する力」が存分にあるところだ」
「共感する力?」
青葉がキョトンとする。
「あの手の事件をずっと取材してるとな、しんどくなって辞めちまうか、だんだん慣れてきちまうんだ。慣れてくると共感する気持ちも失う。そうなると、被害者や遺族の気持ちに寄り添うこともできなくなって、他人から見たら不謹慎なことも平気で聞いちまうような輩に成り下がるんだ。その点、大川さんはちゃんとしてるよ。他人への敬意を絶対に忘れないんだ」
「そういうことですか…」
敏雄の言葉を聞いて、青葉は感心したと同時に、以前から抱いていた敏雄への敬意がより強くなるのを感じた。
青葉が敏雄を好きになった理由は、この他人の尊敬すべきところをきちんと見据える人間性なのだ。
敏雄はごくりと生唾を飲んだ。
大川のこの反応を見るに、校長がろくでもないセリフを吐いたのは明確だ。
「あの校長、「広田さんってどなたですか?」と言ったんですよ?信じられませんよ、本当に!記者会見して、保護者会も開いておきながら、亡くなった女の子の名前もろくに把握してなかったんです。ジャーナリストが感情的になるなんて、本来ならあっちゃいけないことですがね、思わず怒鳴ってしまいましたよ。カーッとなってしまってね…「広田さんですよ!あなたの教え子だった女の子です!」って」
「それで、校長は何と?」
敏雄はレコーダーを握る手に、グッと力を入れた。
「さらに聞いて呆れましたよ「ああー、亡くなった子ですね」って。他人事みたいな態度で言うんです。私、また怒鳴ってしまいましたよ「そんな言い方ないでしょう!!」って」
大川の肩はわなわなと震えていた。
この人は情に厚いところがあり、時折カッとなってしまうところがあるから、今回のことで怒り出してしまうのも仕方のないことと言える。
大川に限らず、今回の事件に怒っている人は多い。
「ほかにありますか?校長への取材は、そこで終わりですか?」
「ええ、私が怒鳴ってしまったもんですから、もう萎縮してしまったんですかね。「もう帰ってくださいませんか」と言われましたし、これ以上何を聞いても無駄だと感じて帰りました。わざわざ都内からA市まで行ったんですが、あれほどの無駄足は滅多にありませんよ」
大川はがっくりと肩を落とした。
「個人的にはね、校長よりも教頭の言ったことがどうにも心に残るんですよ、わたしは…」
この言葉を聞くに、大川は教頭にも取材していたらしい。
「何と言ったんです?」
教頭への取材もまともにできなかった敏雄は、これ幸いと大川の話を聞いた。
「あの教頭ね、広田さんのお母さんに向かって「10人の加害者の未来と、1人の被害者の未来、どっちが大切だと思いますか?全員、まだ子どもなんですよ。1人のために10人の未来をつぶしていいんですか。どっちが将来の日本のためになりますか。もう一度、冷静に考えてみて下さい」と言ったんだそうです。これはもう、暗に「黙っていろ」と言ってるのと大差ないですよ!信じられますか⁈」
「信じられない…」
敏雄と大川のやりとりを見ているだけだった青葉が、ぼそりと漏らした。
「ええ、本当に信じられないでしょう、青葉さん」
大川が青葉を見つめて訴える。
「……情報は、それだけでしょうか?」
敏雄は2人の様子を伺いつつ、大川に尋ねた。
「はい、それだけしか得られなかったんですよ。まあ、私情を挟むようですが、もうこれ以上取材したくないという気持ちもありましたから…」
「そうですか、では、話はこれで終わらせますね。お時間いただき、本当にありがとうございます。お仕事お疲れ様でした」
敏雄はレコーダーのスイッチを切って、大川に礼をした。
青葉もあわてて、それに続く。
「お二人も、お疲れ様です」
大川も続いて礼をして、話はそこで終わった。
「大川さんは立派な人だろ?」
道中、敏雄は青葉に問いかけた。
「そうですね。わざわざA市まで行って、校長の家まで…」
「まあ、それもあるな。だが、大川さんのすごいところは、「共感する力」が存分にあるところだ」
「共感する力?」
青葉がキョトンとする。
「あの手の事件をずっと取材してるとな、しんどくなって辞めちまうか、だんだん慣れてきちまうんだ。慣れてくると共感する気持ちも失う。そうなると、被害者や遺族の気持ちに寄り添うこともできなくなって、他人から見たら不謹慎なことも平気で聞いちまうような輩に成り下がるんだ。その点、大川さんはちゃんとしてるよ。他人への敬意を絶対に忘れないんだ」
「そういうことですか…」
敏雄の言葉を聞いて、青葉は感心したと同時に、以前から抱いていた敏雄への敬意がより強くなるのを感じた。
青葉が敏雄を好きになった理由は、この他人の尊敬すべきところをきちんと見据える人間性なのだ。
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