【完結】週刊誌の記者は忘れられない

若目

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2人で買い物

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青葉から告白されたのはつい昨日のことだし、特に恋人らしいやり取りなど何もしていなかったから、まったく実感が湧かなかった。
「別に、お前が俺に何かしたとしても文句は言わねえよ」
敏雄はクスッと笑った。

──ふざけたり真剣になったり赤くなったり、忙しいヤツだな

不思議なことに、今はそんな青葉になんだか妙な愛着が湧いてきている。
「え、いや、本当に何もしませんってば!」
敏雄の言葉に、青葉があわてふためく。
「何かするかしないかは、この際どうでもいいよ。お言葉に甘えて、お前の家に泊めてもらってもいいか?
お前の言う通り、こんな大事なときだっていうのに、事故起こして仕事できなくなるのも困るしな」
「…いいですよ」
青葉が照れ臭そうな顔をして了承する。

──ホントに忙しいヤロウだな


「じゃ、ちょっとコンビニ寄っていくか。あのドラッグストア、確か夜の9時で閉店だろ?もう間に合わねえよな」
敏雄はオフィスの壁掛け時計に視線を移した。
すでに21時を過ぎている。

「替えのパンツと…歯ブラシも要るな」
青葉の家に泊まるにあたって、敏雄は必要なものを頭の中でリストアップしていく。
「歯ブラシなら、うちのヤツ貸しますよ」
「お前の使用済み?汚ねえ間接キスだな」
敏雄はからかい半分にフッと笑った。
「違いますよお、うちの家に置いてある予備あげますってことです」
敏雄の冗談につられるように、青葉もフフフッと笑った。

「おう、じゃあ頼むわ。一緒に帰ろうぜ」
「はい!」
敏雄が呼びかけると、青葉が元気よく返事して、2人はオフィスから出て行った。

会社近くのコンビニエンスストア。
時刻は21時半。
敏雄と青葉は替えの下着と食料を買うため、店内に入った。

──コンビニの弁当ってなんで揚げ物入ったのとか、こってりしたヤツが多いんだろう?

弁当コーナーに並んだ商品を見つめながら、敏雄はどれを買うか悩んでいた。
若い頃は好きだった揚げ物も、今はひとかけらだって食べたいとは思わなくなった。
嫌いになったのではなく、胃が受けつけないのだ。

──俺もトシだなあ…

結局、10巻入りのパック寿司とアンパン、ペットボトルの麦茶だけを買った。
若い頃は揚げ物や塩分の濃いおかずが入った弁当を2つも3つも買っていたし、それだけでは飽き足らず、スナック菓子やパンまで追加で買っていた。

「伊達さん、それだけでいいんですか?」
隣に立っていた青葉が、敏雄の買い物カゴの中を覗いてきた。
「お前は買い過ぎだよ」
青葉が持っている買い物カゴの中には、弁当が2つ。
それと一緒にパンやスナック菓子もそこそこに入れられていて、今にもカゴからあふれそうだ。

「これぐらい食わなきゃやってられませんよお。腹へって仕方ないし」
青葉が唇を尖らす。
「仕事キッツいからってヤケ食いばっかりしてると、豚みたいになるぞ。デブデブになって歩けなくなっても、俺は知らないからな」
敏雄は青葉を軽く諭した。
実際、この仕事に就いてから急激に太った者は少なくないから、他人事ではない。

「わかってまーす。そこは気をつけますよ」
青葉が教師に生活指導を受けた学生のような返事をする。
「俺はもうレジ行くぞ。お前は?」
「ぼくもです」
「じゃ、並ぶか」
敏雄が言うと、2人はそれぞれレジに向かおうとした。

「ああ悪い、買い忘れた物あったわ。先に精算済ましてくれ。すぐに行く」
敏雄がぴたりと足を止めた。
「わかりました」
言って青葉が、レジに進んでいく。

このとき青葉は、空腹と疲労もあって、敏雄が何を買い忘れたかなどまるで気に留めていなかった。
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