【完結】週刊誌の記者は忘れられない

若目

文字の大きさ
48 / 73

思わぬ続報

しおりを挟む
A市女子中学生いじめ自殺事件の取材打ち切りから、約1週間後。
もう12月も終わりになるかという矢先に、続報が入った。

「敏雄さん!あの教育長、襲われたらしいです」
出勤するやいなや、青葉がスマートフォンを片手に報告してきた。
差し出されたスマートフォンの画面を見たところ、「A市教育長、襲撃され負傷」の文字が目に飛び込んできた。
青葉が開いたニュースサイトには、教育長が負傷した経緯が次のように書かれていた。

『12月X X日、午前8時半ごろ。A市の教育長が、侵入してきた地元住民の大学生(19歳)にハンマーで殴られる事件が起きた。

男はA市市役所別館にある教育長室に侵入してすぐ、所持していたハンマーを教育長の頭めがけて振り下ろした。
教育長はよろめいて倒れ、そのすきに男が馬乗りになって首を絞めようとしたところを、駆けつけた職員らに取り押さえられた。

男は殺人未遂ならびに住居侵入の容疑で、職員からの通報を受けて駆けつけた警察に逮捕された。

調べに対し男は「事件に対する教育長の態度に腹が立ち、許せないと思った。殺すつもりだった」と容疑を認めている』

──たぶん、が原因だな

敏雄は、青葉の取材した際の教育長の様子をそのまま報道した。
その様は、こういった事件の取材に慣れている敏雄でさえ眉をひそめたくなるような対応であったから、報道を見た一般人が怒って事件を起こすのも無理は無いことかもしれない。
それこそ、その事件の経緯が載っているニュースサイトのコメント欄には、「この大学生はよくやった」「教育長、殺されればよかったのに」「身から出た錆だろ」などとある。どちらかと言えば、世間は加害者の大学生を英雄視しているのだろう。

──これもカルマってヤツかね…

なんとも形容しがたい気持ちを抱きながら、敏雄は今後の教育長の対応を予想した。
おそらく、教育長は辞任するだろう。
今の今まで、面倒なことからは逃げてきたような男なのだ。
これほどの面倒が起こってもなお、彼は逃げ続けるに決まっている。

もっとも、今は彼よりも青葉の様子が気になった。
青葉は意味ありげな表情を浮かべながら、スマートフォンの画面を見つめていた。




「今年の仕事は、とりあえずはひと段落ってとこだな」
いつもの居酒屋のカウンター席。
ピーチウーロンを飲みながら、敏雄はここ1年の仕事を振り返った。
「ひと段落なんですか、アレ」
青葉が不満げな顔をして敏雄を見つめた。
「俺たちの仕事はひと段落したよなってことだよ」

敏雄は、青葉の言わんとしていることが少しはわかっていた。
青葉と2人で追っていたいじめ自殺事件は、まだひと段落とはいかない。
問題が山積みなのに、何ひとつろくに解決も対応もされてないばかりか、新しい事件まで発生している始末なのだ。
今のところ、それに対する明確な回答もない。

「なんか、消化不良です」
青葉が不満げな顔をしたまま、俯いた。
「そうだな。でも、俺たちが介入できるのはここまで。あとは警察だの法律だの仕事だ」
「わかってます。ただ…」
「ただ?」
敏雄は根気よく聞いてみることにした。
青葉は、この事件に並々ならぬ思い入れがあるらしい。
いったい、その思い入れの根源は何なのか。
敏雄はそれが気にかかったのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
「普通を探した彼の二年間の物語」 幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です

はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。 自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。 ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。 外伝完結、続編連載中です。

【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました! 応援ありがとうございました! ******************* その日、澤下壱月は王子様に恋をした―― 高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。 見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。 けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。 けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど―― このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

処理中です...