【完結】週刊誌の記者は忘れられない

若目

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敏雄の家

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「青葉、お前ちょっと飲み過ぎじゃないのか」
敏雄は、怒り心頭に発する青葉をなだめた。
「そうですね。すごく酔ってます、今のぼく」

──普通、ホントに酔ってるヤツは「酔ってます」なんて言わねえんだけどなあ…

青葉の反応を見るに、彼はまだ冷静を保ってはいる。
しかし、この冷静もいつまで続くかわからない。

「おい、もう出ようぜ。そうだ、俺の家に来るか?」
敏雄は青葉が素面でいるうちに店を出ようと判断して、会計に進むよう促した。
「いいんですか?」
青葉は口ではそう言うが、あまり驚いたふうではなかった。
青葉だってバカではないし、敏雄がこう切り出すのを、ある程度は予測できていたのかもしれない。

「いいぜ。着いたら、たくさん可愛がってやるよ」
青葉の耳元に唇を近づけて、敏雄は艶っぽく囁いた。
仕事もひと段落したし、最近ご無沙汰だった。
いい加減、お楽しみが欲しいとも思っていたから、ちょうどいい。


「ふふふ、楽しみにしてます」
青葉は赤面すると、ほんのり笑ってみせた。
少しは怒りが和らいだらしい。

そんなわけで敏雄と青葉はさっさと会計を済ませると、2人してライトバンに乗り込み、敏雄の住むマンションに向かった。


「敏雄さん、やっぱいいところに住んでますねえ」
ライトバンから降りるなり、青葉はマンションを見上げた。
鉄筋コンクリート構造の10階建てで、築25年。
エレベーターが4基、部屋の数と駐車スペースが30ほど。
もちろん、駐輪場だってある。

この駐輪場の大半は、中高生が通学に使うようなママチャリや、主婦が子どもの送り迎えに使うのであろう子ども乗せ自転車で埋められている。
そして、さらにその隙間を埋めるように、スケボーやキックボードが置かれている。
きっと、住人の子どもたちの所有物だ。

このマンションは、中学校と小学校、保育園と幼稚園が近いという土地柄もあってか、ファミリー層が多く住んでいる。

周囲は夜間も営業しているスーパーやコンビニがいくつもあり、そこまでのアクセスが容易い。
駅までは徒歩25分というデメリットはあるが、それだけに周囲はいつも静かで過ごしやすい。
それに敏雄の場合は、移動は所有しているライトバン1台で済むため、滅多に電車に乗らない。
したがって、駅が遠いことなど大したハンデにはならなかった。

むしろ、駅が遠いことで都合の良いこともある。
この辺り一帯の治安は、決して悪くはない。
しかし、駅前にはときどき、夜間も早朝もお構いなしに騒ぐ若者や、無鉄砲に暴れ回る酔っ払いが出てくることもある。

そういった連中を避けられたことを考えれば、このマンションを選んで正解だったのだと思う。
住めば都、というのもあるかもしれない。

「ねえ、早く行きましょうよ」
青葉が急かしてくる。
「おう、エレベータ乗るぞ」
「そうですね。ぼく、もう足がフラフラだし、まともに階段あがれる気がしません」
そう言って青葉は、わざとらしくフラつくような動作で、敏雄の方へ寄ってきた。

「おい、ちゃんと歩けよ」
甘えるように擦り寄ってくる青葉にクスクス笑いながら、敏雄は茶化すように注意した。
「はーい」
青葉が、教師に軽く注意された学生のような返事をした。

そうして、親子ほど歳の離れた恋人たちは、エレベーターに乗り込んでいった。
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