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第2編 消えた人々の行方
帰城
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「お前こそ何者だ?私の妻に何をしている?」
「は?妻?」
モールの混乱はより大きくなるばかりだった。
「ジャンティーのことだ。お前がこの子に何をしようとしたのかは見当がついてる。これ以上好きにはさせない。連れ帰らせてもらうぞ」
そう言うと男は、またゴォーッという音を立てて消えていった。
「……何だったんだ、今のは」
狭い家に置き去りにされて、モールはその場に立ち尽くすことしか出来なかった。
──────────────────────
「う、うん……」
ジャンティーが目を開けると、自室の天井が視界に飛び込んできた。
「ああ、ウォルター殿。ジャンティーが目を覚ましたようだ」
「ジャンティー、大丈夫かい?」
ウォルターとシャルルが、ベッド脇に跪いて心配そうにジャンティーの顔を覗き込んでいる。
「……大丈夫です、ウォルター様、お父様。帰りが遅くなってしまってごめんなさい。ぼく、えっと……」
ジャンティーは半身を起こして、額に今までの記憶を掘り起こそうとしてみたけれど、何も出てこない。
「お前ときたら、昔の仲間とはしゃいでお酒を飲みすぎてしまって、倒れてしまったようだよ」
ウォルターが呆れたように、それでいて愛おしそうな顔でジャンティーに微笑みかける。
「え?ぼく…そんなこと……」
自分の記憶のないうちにそんなことをしていたのかと思うと、ジャンティーはなんだか恥ずかしくなってしまって、顔を真っ赤に染めあげた。
「ジャンティー、昔の友人に会えて嬉しかったのはわかるけれど、無茶はしないでおくれよ」
シャルルは心配そうな顔をして身を乗り出すと、ジャンティーの両頬に手を当てた。
「ごめんなさい、お父さま。心配かけたね」
「心配だったとも。なあ、ジャンティー。お前は私の大事な一人息子なんだ。母さんに先立たれて、次にお前までいなくなったら、どうしたらいいか……」
「うん、本当にごめんなさい。これからは気をつけるよ」
両頬を包む手の温かさが、ジャンティーには少しばかり心苦しかった。
この温もりを失うわけにはいかない。
「義父上、そのくらいにしておきましょう。無事に帰ってきたのだから、それでいいでしょう。ジャンティー、ベッドから出て。皆で食事を摂ろう」
「ええ、ウォルター様」
3人はジャンティーの自室から出て行くと、広間に向かって歩き出した。
─────────────────────
一方、東の街にある質屋。
店の主人が客と話し込んでいた。
「このブレスレット、たぶんものすごく高いものだろう?素人の俺でもわかるよ。どこのどいつがこんなものをこんな場末の質屋なんぞに売ってきたんだい?」
客の男は、店内に置かれている金の装飾が施されたカイヤナイトのブレスレットを、まじまじと見つめた。
「さあ。私もいつからこれがここにあるのかは知らないね。気がついたときにはここにあったんだ。帳簿を遡って調べてみても、売ったヤツの名前とか、どこから来たのかとか、何ひとつ書かれてなかったんだ。まあでも、これがいいものには違いない。どうだいお前さん、おひとつ買うかい?」
場末の質屋などと言われたことに気を悪くしたのか、店主はやや不機嫌そうだった。
「いや、遠慮しておくよ。ちょっと気味が悪いもの」
客はさっさと店を出て行く。
その背後で、カイヤナイトがキラリと意味深に光った。
いまや誰ひとりとして、モールの存在を知らない。
モールはもちろんのこと、アヴァールもリュゼも、かつて王子だったウォルターを迫害した貴族連中もその手下も。
まるで最初からこの世にいなかったかのように、その存在は誰の記憶にも無い。
知っているのはウォルターだけだ。
ウォルターが誰がを消したいと思ったとき、その誰かが人々の記憶からすべて消えてしまうことなど、ジャンティーとシャルルには知る術もない。
妹たちのこともモールのこともすっかり忘れたジャンティーは、ウォルターとシャルルと一緒に、幸せそうに笑い合っていた。
「は?妻?」
モールの混乱はより大きくなるばかりだった。
「ジャンティーのことだ。お前がこの子に何をしようとしたのかは見当がついてる。これ以上好きにはさせない。連れ帰らせてもらうぞ」
そう言うと男は、またゴォーッという音を立てて消えていった。
「……何だったんだ、今のは」
狭い家に置き去りにされて、モールはその場に立ち尽くすことしか出来なかった。
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「う、うん……」
ジャンティーが目を開けると、自室の天井が視界に飛び込んできた。
「ああ、ウォルター殿。ジャンティーが目を覚ましたようだ」
「ジャンティー、大丈夫かい?」
ウォルターとシャルルが、ベッド脇に跪いて心配そうにジャンティーの顔を覗き込んでいる。
「……大丈夫です、ウォルター様、お父様。帰りが遅くなってしまってごめんなさい。ぼく、えっと……」
ジャンティーは半身を起こして、額に今までの記憶を掘り起こそうとしてみたけれど、何も出てこない。
「お前ときたら、昔の仲間とはしゃいでお酒を飲みすぎてしまって、倒れてしまったようだよ」
ウォルターが呆れたように、それでいて愛おしそうな顔でジャンティーに微笑みかける。
「え?ぼく…そんなこと……」
自分の記憶のないうちにそんなことをしていたのかと思うと、ジャンティーはなんだか恥ずかしくなってしまって、顔を真っ赤に染めあげた。
「ジャンティー、昔の友人に会えて嬉しかったのはわかるけれど、無茶はしないでおくれよ」
シャルルは心配そうな顔をして身を乗り出すと、ジャンティーの両頬に手を当てた。
「ごめんなさい、お父さま。心配かけたね」
「心配だったとも。なあ、ジャンティー。お前は私の大事な一人息子なんだ。母さんに先立たれて、次にお前までいなくなったら、どうしたらいいか……」
「うん、本当にごめんなさい。これからは気をつけるよ」
両頬を包む手の温かさが、ジャンティーには少しばかり心苦しかった。
この温もりを失うわけにはいかない。
「義父上、そのくらいにしておきましょう。無事に帰ってきたのだから、それでいいでしょう。ジャンティー、ベッドから出て。皆で食事を摂ろう」
「ええ、ウォルター様」
3人はジャンティーの自室から出て行くと、広間に向かって歩き出した。
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一方、東の街にある質屋。
店の主人が客と話し込んでいた。
「このブレスレット、たぶんものすごく高いものだろう?素人の俺でもわかるよ。どこのどいつがこんなものをこんな場末の質屋なんぞに売ってきたんだい?」
客の男は、店内に置かれている金の装飾が施されたカイヤナイトのブレスレットを、まじまじと見つめた。
「さあ。私もいつからこれがここにあるのかは知らないね。気がついたときにはここにあったんだ。帳簿を遡って調べてみても、売ったヤツの名前とか、どこから来たのかとか、何ひとつ書かれてなかったんだ。まあでも、これがいいものには違いない。どうだいお前さん、おひとつ買うかい?」
場末の質屋などと言われたことに気を悪くしたのか、店主はやや不機嫌そうだった。
「いや、遠慮しておくよ。ちょっと気味が悪いもの」
客はさっさと店を出て行く。
その背後で、カイヤナイトがキラリと意味深に光った。
いまや誰ひとりとして、モールの存在を知らない。
モールはもちろんのこと、アヴァールもリュゼも、かつて王子だったウォルターを迫害した貴族連中もその手下も。
まるで最初からこの世にいなかったかのように、その存在は誰の記憶にも無い。
知っているのはウォルターだけだ。
ウォルターが誰がを消したいと思ったとき、その誰かが人々の記憶からすべて消えてしまうことなど、ジャンティーとシャルルには知る術もない。
妹たちのこともモールのこともすっかり忘れたジャンティーは、ウォルターとシャルルと一緒に、幸せそうに笑い合っていた。
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