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当然の報い

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水中に落下したピグロとブルローネが、両手を伸ばしてバタバタ動かして、水中でもがいているのが遠目に見えた。

自分の教え子たるピグロとブルローネがこんな有り様になっても、ピノキオはどこか冷静だった。
あの2人なら、大人の言いつけを破って行ってはいけないと言われた土手にも、構わず行ってしまうだろう。
その結果、2人して湖に転落してこのザマなのだから、怒りを通り越して笑えてきてしまう。

「おい、まずいぞ!雨が降ってきた!!」
町民の1人が叫ぶ。
突然降り出した雨は徐々に強くなっていき、やがては土砂降りとなって、地面を打ちつけた。
「まずい!放っておいたら増水しちまうぞ!!」
バナーレがびしょ濡れになりながら叫ぶが、どうにもならない。

「坊や!わたしの坊やがあ!!」
「誰か!助けて!!」
野次馬の中から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
声のする方へ視線を向けると、ブルローネとピグロの母親がいた。
2人とも、なすすべもなく溺れる我が子をただ見ていることしかできない。

そのときだった。
「……お母さんたち、落ち着いて!私がいま向かいますから!!」
カルロが叫ぶと、着ていた上着を脱いだ。
ピノキオは驚いた。

「新町長さま!危ないですよ!!」
「このまま放っておく方が危ないですよ」
バナーレが止める言葉も聞かずに、カルロは靴を脱いだ。


「カルロ、ピグロとブルローネのことはもう放っておけ!!」
ピノキオはカルロに向かって怒鳴り散らした。
「お、おい…ピノキオ、新町長さまを呼び捨てに……」
バナーレがピノキオを止めようとする。

「あの2人はいつもそうだ!何かと悪さばかりして、大人に楯突いたり他の子にケガをさせたりして親に手を焼かせて……あまつさえ言いつけを破って行っちゃいけない場所に入って、結果このザマだ!こんなもんはもう自業自得っていうんだ!!そもそも助けたところで何の意味がある?どうせまた同じ悪さを繰り返して、また同じように痛い目を見るだけだ!!」
バナーレの制止も構わず、ピノキオは叫んだ。
今の今まで抑えていた感情が、口から一気に吹き出
たように止まらなかった。

ずっと溜め込んでいた言葉が、いまこのときになって飛び出してきた。
以前からずっと、ピノキオはピグロとブルローネに腹を立てていたのだ。

親や周りの大人の言うことをまともに聞かない。
イタズラばかりして、あまつさえほかの子を危険に晒す。
注意すれば逆上して喚き散らす。
学校にもまともに行かない。
その結果、こんな痛い目に遭って、泣き喚く。
まるで、子どもの頃の、かつて人形だった頃の自分ような2人に。

「ごもっともではございます、ピノキオさん。でも私は、あの子たちを放ってはおけません」
「ああっ⁈新町長さま!!」
カルロは上等な靴や服を脱げるだけ脱ぐと、荒れ狂う湖に飛び込んだ。









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