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語るエウジェニオ

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「一悶着?確かにあったけれどね。別に私には何の問題も無いから、わざわざ訪ねてくれなくてもよかったんだよ?」
「問題はあるだろうよ。大いにある」
エウジェニオが淡々と返す。

「どんな問題があるっていうんだい?」
「お前ときたら、いつまでも過去のことに縛られてるじゃないか」
「どこがどう縛られているというんだい?」
「新町長さまが、お前のお父さんが助けた子どもだとわかった途端に飛びかかっただろう」
「それはもう終わった話だろう」
ピノキオは少しばかりムッとした。
確かにエウジェニオの言う通りではあるけれど、それだってもう過去のことではないか。

「そうですよ、エウジェニオさん。私はピノキオさんにつかみかかられたことに対しては、何の怒りもございません。むしろ、アレは私が悪かったようにすら思いますから」
「ああ、そうだとも。アレはもう解決したことだ。けれど、ピノキオの問題はずっと解決してない。ジェペットさんが亡くなったあのときからずっとな」
エウジェニオは、カルロの方をほとんど見ずに、ピノキオのほうへ視線を向けたまま話し続けた。

「私の問題とはいったい何なんだい?」
ピノキオの頭に疑問符が浮かんだ。
自分には、何の問題もないはずだ。
これといった身寄りもないから、多くの者が抱える家族がらみの揉め事も皆無だし、裕福とは言えないが生活できるだけの金もある。
エウジェニオは、こんな自分のどこに問題があるというのだろう。

「ピノキオ、お前はずっとこの古くて壊れかけの家に住み続けてるよな?この家ときたら、すっかり古ぼけてしまって、ドアの開け閉めさえまともにできやしないのに、お前はずっと手放そうともしない」
「それがどうしたっていうんだい?」
ピノキオはだんだんイラついてきた。
エウジェニオはいったい、何が言いたいのだろう?

「お前、いまだにジェペットさんの死に責任を感じてるんじゃないのか?ジェペットさんの死との思い出にすがることしか今を生きることができないんじゃないのか?」
エウジェニオの言葉に、ピノキオは押し黙った。
何と返すべきか思いつかなかった。

「それこそお前ときたら、ジェペットさんが死んでからというもの、仕事以外では誰ともほとんど関わらなくなっちまったよな?もともと仲の良かった俺とも、子どもの頃に世話になったバナーレさんとも、ろくに会うことも話すこともしなくなった」
「……そうだな」
エウジェニオの言う通りだった。
確かにピノキオは、ジェペットが死んでからというもの、仕事と自宅を行き来するだけして、誰かと密に関わった記憶がなかった。

「お前らもともと人間不信なところはあったけど、ジェペットさんが死んでからはよりいっそう酷くなった気がするんだ。俺はよ、ずっとそれが気がかりでしかたがなかった」
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