3 / 82
結婚生活初日
しおりを挟む
総治郎の自宅は高級住宅街の真ん中に位置する3階建ての一軒家だ。
20畳のリビングに、9畳の部屋が1つ、6畳の部屋が2つ、4畳の部屋が1つ、トイレが2ヶ所、ウォークインクローゼットが2ヶ所、ホームエレベーターが1基。
コンロが3口あるシステムキッチン、テレビ番組が視聴可能なモニターとジェットバスがついたバスルーム、3台分が駐車可能な車庫。
駅からは徒歩5分の場所に位置しており、駅前周辺は小洒落た飲食店やショッピングモール、デパートが立ち並んでいて、活気にあふれている。
ここは総治郎が起業して、商売が起動に乗り始めた40歳の頃に購入した家で、住んでからもう10年が経つ。
直生からしてみれば、ここが新しい住処となるわけだ。
「必要なものや欲しいものは、全部これで買いなさい。現金が必要になったときは、私に直接言ってくれ」
総治郎は、新しく発行しておいたクレジットカードを直生に渡した。
挙式の翌日の朝、妻に初めて話した内容がこれだった。
「はい…」
総治郎に差し出されたクレジットカードを、直生はおずおずと受け取った。
その声は、変声期をとうの昔に過ぎた成人とは思えないほどに、高くてあどけない。
「今日は都合が悪くて来ていないけど、家のことは、いつも世話になってる家事代行の中野さんに頼むといい。
電話の横に彼女が所属してる家事代行サービス会社の電話番号が貼ってあるから、家のことで困ったことがあったら、来て欲しい日時を言って呼びなさい。
優秀な人だから、きっと頼りになるぞ」
「はい」
総治郎が部屋の隅にある電話台を指さすと、直生がそれに応えるように、指さした方向を向き、家政婦の電話番号を確認した。
「ほかに何か、聞いておきたいことはないか?」
「……ありません」
「そうか、じゃあ行ってくる」
言うと総治郎は廊下を伝って、玄関まで歩いていく。
「…はい」
直生がペコリとしおらしい態度で頭を下げると、短くて癖のある蒸栗色の髪がふわりと揺れた。
その仕草はどことなく上品で、直生の育ちの良さが垣間見える。
「お仕事がんばってくださいね。でも、無理はなさらないで」
玄関の上がり框に腰掛けて靴を履く総治郎の背中に向かって、直生が声をかける。
「ああ…わかってる」
答えながら総治郎は、シューズクローゼットのドアノブにかけられた靴べらを手に取った。
「今日は何時ごろに帰られるんですか?」
「あー…今日は泊まりがけの仕事だから、帰ることはできない」
靴べらを踵に差し込みながら、総治郎は答えた。
「…そうなんですね」
「うん、だから、今日一日は私に構わず好きに過ごしなさい。この辺りはオシャレで美味い店がたくさんあるし、映画館やフィットネスジムやブティックなんかもたくさんあるから、行ってみるといい」
総治郎は靴べらを引き抜くと、シューズクローゼットのドアノブにかけ戻した。
「わかりました。いってらっしゃい、総治郎さん」
「ああ、いってくる」
玄関ドアを開けて、総治郎は家を出た。
20畳のリビングに、9畳の部屋が1つ、6畳の部屋が2つ、4畳の部屋が1つ、トイレが2ヶ所、ウォークインクローゼットが2ヶ所、ホームエレベーターが1基。
コンロが3口あるシステムキッチン、テレビ番組が視聴可能なモニターとジェットバスがついたバスルーム、3台分が駐車可能な車庫。
駅からは徒歩5分の場所に位置しており、駅前周辺は小洒落た飲食店やショッピングモール、デパートが立ち並んでいて、活気にあふれている。
ここは総治郎が起業して、商売が起動に乗り始めた40歳の頃に購入した家で、住んでからもう10年が経つ。
直生からしてみれば、ここが新しい住処となるわけだ。
「必要なものや欲しいものは、全部これで買いなさい。現金が必要になったときは、私に直接言ってくれ」
総治郎は、新しく発行しておいたクレジットカードを直生に渡した。
挙式の翌日の朝、妻に初めて話した内容がこれだった。
「はい…」
総治郎に差し出されたクレジットカードを、直生はおずおずと受け取った。
その声は、変声期をとうの昔に過ぎた成人とは思えないほどに、高くてあどけない。
「今日は都合が悪くて来ていないけど、家のことは、いつも世話になってる家事代行の中野さんに頼むといい。
電話の横に彼女が所属してる家事代行サービス会社の電話番号が貼ってあるから、家のことで困ったことがあったら、来て欲しい日時を言って呼びなさい。
優秀な人だから、きっと頼りになるぞ」
「はい」
総治郎が部屋の隅にある電話台を指さすと、直生がそれに応えるように、指さした方向を向き、家政婦の電話番号を確認した。
「ほかに何か、聞いておきたいことはないか?」
「……ありません」
「そうか、じゃあ行ってくる」
言うと総治郎は廊下を伝って、玄関まで歩いていく。
「…はい」
直生がペコリとしおらしい態度で頭を下げると、短くて癖のある蒸栗色の髪がふわりと揺れた。
その仕草はどことなく上品で、直生の育ちの良さが垣間見える。
「お仕事がんばってくださいね。でも、無理はなさらないで」
玄関の上がり框に腰掛けて靴を履く総治郎の背中に向かって、直生が声をかける。
「ああ…わかってる」
答えながら総治郎は、シューズクローゼットのドアノブにかけられた靴べらを手に取った。
「今日は何時ごろに帰られるんですか?」
「あー…今日は泊まりがけの仕事だから、帰ることはできない」
靴べらを踵に差し込みながら、総治郎は答えた。
「…そうなんですね」
「うん、だから、今日一日は私に構わず好きに過ごしなさい。この辺りはオシャレで美味い店がたくさんあるし、映画館やフィットネスジムやブティックなんかもたくさんあるから、行ってみるといい」
総治郎は靴べらを引き抜くと、シューズクローゼットのドアノブにかけ戻した。
「わかりました。いってらっしゃい、総治郎さん」
「ああ、いってくる」
玄関ドアを開けて、総治郎は家を出た。
0
あなたにおすすめの小説
黒の執愛~黒い弁護士に気を付けろ~
ひなた翠
BL
小野寺真弥31歳。
転職して三か月。恋人と同じ職場で中途採用の新人枠で働くことに……。
朝から晩まで必死に働く自分と、真逆に事務所のトップ2として悠々自適に仕事をこなす恋人の小林豊28歳。
生活のリズムも合わず……年下ワンコ攻め小林に毎晩のように求められてーー。
どうしたらいいのかと迷走する真弥をよそに、熱すぎる想いをぶつけてくる小林を拒めなくて……。
忙しい大人の甘いオフィスラブ。
フジョッシーさんの、オフィスラブのコンテスト参加作品です。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる