5 / 82
投資家の間中
しおりを挟む
「その人というのがねえ、花比良さんっていうんですけど、お子さんにピッタリの結婚相手を探しているというよりは、家の再興がしたいみたいなんですよ」
燕の巣を飲み込んで、間中はううんと軽く咳払いした。
「再興、というのは?」
「花比良さんは地方名家のご主人でして、ちょっと前まではいくつかの飲食店の経営やってたんです。
あと、土地を持ってたんですよ。で、その土地転がしでもそれなり儲けていたみたいなんですが…」
スープが入ったボウルを置いて、間中が言い淀んだ。
「あー…商売が立ち行かなくなったんですか?」
「そうです」
総治郎は当てずっぽうで言ったのだけど、これが当たりらしかった。
「経営してる飲食店ってねえ。一見さんお断りの高級料亭なんですよ」
間中が今度は水餃子を箸でつまんだ。
「そりゃ、継続は難しいでしょうね」
「でしょう?こんなご時世ですから」
間中は水餃子を一口かじると、湯呑みに入ったお茶を飲んだ。
ここ最近の平均収入だとか、1人あたりの賃金は下がりつつある。
10年ほど前に、この国全体を襲った不景気のせいかもしれない。
その不景気の煽りは総治郎も受けたし、そこからの巻き返しにかなり苦労した記憶がある。
現在、国全体の経済状況は持ち直したものの、やはり国民ひとりあたりの生活水準は下がっている。
そんな折では、料亭なんて行く機会も自然と減る。
地方ならなおさらだ。
「花比良さんもねえ、一見さんお断りって縛りはやめて、団体の観光客なんかもOKにしてみたんです。
でもまあ、大半の人は料亭なんて馴染みがないから集客は見込めないし、古参のお客さんの高齢化も進んでなかなか来なくなっちゃって…それで、10軒くらいある店のうち3軒は畳んじゃったんです」
「高級料亭が3軒も店を畳むとなると、なかなかの痛手なんじゃないでしょうか?」
総治郎は飲食店の運営に関しては専門外であるけれど、商売の知識はある。
それをもってすれば、間中の知人のその後は、だいたい予想できる。
「そうなんですよ。大衆向けのチェーン店ならね、3軒くらいは大した痛手にはなりません。料亭なんかと比べたら、1店舗あたりの売り上げがそんなにないですし。
大衆、とりわけ若い人は新しい物が好きだから、また新しい店舗をどっかに作ったり、ある程度のリニューアルを図ればまた集客は見込めます。
でも、花比良さんの店はそうもいかなくて…」
「ネット販売ですとか、仕出し弁当の卸売りとかは?」
答えはわかっていたが、総治郎はあえて聞いてみた。
「ネット販売はねえ、すでに別の料亭や割烹店が市場を独占してますから、老舗の出る幕はほぼないに等しいわけです。
あと、都心の百貨店に仕出し弁当を卸してはいたんですけどね、それも売れ行きが落ちました。
やっぱり収入が減るとねえ、正月に食べるおせちや法事で出す弁当のランクも落としちゃうわけです。
今どきの消費者はお金がないから、「今回は奮発しよう!」なーんて言ってられないワケで…」
「難儀なもんですね…」
総治郎は顔も知らない地方名家の主人に同情した。
飲食店の運営は専門外でも、商売の大変さは嫌というほど知っているからだ。
燕の巣を飲み込んで、間中はううんと軽く咳払いした。
「再興、というのは?」
「花比良さんは地方名家のご主人でして、ちょっと前まではいくつかの飲食店の経営やってたんです。
あと、土地を持ってたんですよ。で、その土地転がしでもそれなり儲けていたみたいなんですが…」
スープが入ったボウルを置いて、間中が言い淀んだ。
「あー…商売が立ち行かなくなったんですか?」
「そうです」
総治郎は当てずっぽうで言ったのだけど、これが当たりらしかった。
「経営してる飲食店ってねえ。一見さんお断りの高級料亭なんですよ」
間中が今度は水餃子を箸でつまんだ。
「そりゃ、継続は難しいでしょうね」
「でしょう?こんなご時世ですから」
間中は水餃子を一口かじると、湯呑みに入ったお茶を飲んだ。
ここ最近の平均収入だとか、1人あたりの賃金は下がりつつある。
10年ほど前に、この国全体を襲った不景気のせいかもしれない。
その不景気の煽りは総治郎も受けたし、そこからの巻き返しにかなり苦労した記憶がある。
現在、国全体の経済状況は持ち直したものの、やはり国民ひとりあたりの生活水準は下がっている。
そんな折では、料亭なんて行く機会も自然と減る。
地方ならなおさらだ。
「花比良さんもねえ、一見さんお断りって縛りはやめて、団体の観光客なんかもOKにしてみたんです。
でもまあ、大半の人は料亭なんて馴染みがないから集客は見込めないし、古参のお客さんの高齢化も進んでなかなか来なくなっちゃって…それで、10軒くらいある店のうち3軒は畳んじゃったんです」
「高級料亭が3軒も店を畳むとなると、なかなかの痛手なんじゃないでしょうか?」
総治郎は飲食店の運営に関しては専門外であるけれど、商売の知識はある。
それをもってすれば、間中の知人のその後は、だいたい予想できる。
「そうなんですよ。大衆向けのチェーン店ならね、3軒くらいは大した痛手にはなりません。料亭なんかと比べたら、1店舗あたりの売り上げがそんなにないですし。
大衆、とりわけ若い人は新しい物が好きだから、また新しい店舗をどっかに作ったり、ある程度のリニューアルを図ればまた集客は見込めます。
でも、花比良さんの店はそうもいかなくて…」
「ネット販売ですとか、仕出し弁当の卸売りとかは?」
答えはわかっていたが、総治郎はあえて聞いてみた。
「ネット販売はねえ、すでに別の料亭や割烹店が市場を独占してますから、老舗の出る幕はほぼないに等しいわけです。
あと、都心の百貨店に仕出し弁当を卸してはいたんですけどね、それも売れ行きが落ちました。
やっぱり収入が減るとねえ、正月に食べるおせちや法事で出す弁当のランクも落としちゃうわけです。
今どきの消費者はお金がないから、「今回は奮発しよう!」なーんて言ってられないワケで…」
「難儀なもんですね…」
総治郎は顔も知らない地方名家の主人に同情した。
飲食店の運営は専門外でも、商売の大変さは嫌というほど知っているからだ。
0
あなたにおすすめの小説
黒の執愛~黒い弁護士に気を付けろ~
ひなた翠
BL
小野寺真弥31歳。
転職して三か月。恋人と同じ職場で中途採用の新人枠で働くことに……。
朝から晩まで必死に働く自分と、真逆に事務所のトップ2として悠々自適に仕事をこなす恋人の小林豊28歳。
生活のリズムも合わず……年下ワンコ攻め小林に毎晩のように求められてーー。
どうしたらいいのかと迷走する真弥をよそに、熱すぎる想いをぶつけてくる小林を拒めなくて……。
忙しい大人の甘いオフィスラブ。
フジョッシーさんの、オフィスラブのコンテスト参加作品です。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる