48 / 63
告白と返答
しおりを挟む
どういうことかと、咲子が円の顔を覗き込んだ。
「あの事件の関係者?あなたが?」
大木の母親が「信じられない」とでも言いたげに目を見開いた。
父親も同様だ。
まあ、妥当な反応であろう。
大木だってそうだった。
こんな突拍子もない話をされて、即座に信じられるわけもない。
「ボクはあの現場にいたんです。刺し殺されたCEOは、ボクの父です」
「えっと……きみは今いくつだい?」
大木の父親がゴクリと生唾を飲んで、彼の喉仏が上下した。
「28歳です」
「現場に3歳の子どもが逃げ遅れた、と記憶していたが、その子がきみか?」
「そうです」
円が深くうなづく。
大木の両親が具体的に何歳かまでは知らないが、少なくとも事件当時はすでに成人していただろうし、ワイドショーや新聞などで事件を知っている可能性は大きい。
「ねえ、円さん。なんでいきなりそんなこと言うの?円さんが事件の関係者とか、どうでもよくない?」
咲子が円の肩にもたれかかって、眉をひそめた。
円の言うことがまだ信じられないのかもしれないし、純粋に、その言葉通りに、なぜこんなことを言い出すのか理解できないのかもしれなかった。
「咲子ちゃん、大きな事件が起きるとね、いつまでも覚えてる人が必ずいるんだよ」
「それは…そうよね」
大木の母親が顔を曇らせ、ほんの少し顔を下に向けた。
彼女もあの事件のことを覚えていて、円の言葉に心当たりがあるのかもしれない。
「たとえば、テレビの特番であの事件が紹介されたとするよね?そしたら、みんな事件について調べはじめるんだよ。現場に遭遇したオメガや子どもたちは今どうしてるんだとか、そういうのを知りたいんだろうね。中には、家や職場を探ろうとする人もいるんだ」
「ごもっともだな…」
大木の父親が深くうなづく。
「実際、どうやって場所を知られたのかわかりませんが、実家にマスコミ関係者とか、事件に興味を持った一般人とかが来たことがありました。それで、母親とかボクに、いろいろ聞いてくるんです。今までに何度もそういうことがありました」
「ひどい……」
大木の母親が、顔に怒りを滲ませて呟いた。
「今のところ、ボクの家は知られてないし、知成くんのところにもマスコミは来ていないみたいですけど。もし、このままボクと関わっていたら、巻き添えになるかもしれませんよ。今はお付き合い程度ですけど、結婚するとなったら、大木くんも咲子ちゃんも、丈成さんも啓子さんも「事件の関係者」みたいな扱いになるんです。少しでも情報が欲しいからって理由で、下世話なマスコミに追い回されるかもしれません。それで、根掘り葉掘りいろいろ聞いてくると思います。それでも、このままボクが知成さんとお付き合いするのを、許容できますか?この中の1人だけでも、「そんなのはごめんだ」とお思いでしたら、ボクは身を引くつもりでいます」
「そんな……」
咲子が小さく声を漏らした。
最初に会ったときの明るさが嘘のような、険しい声色だ。
大木の両親は、黙ったまま円を見つめている。
ここまで言われると、円の話を信じざるをえない。
そんな顔つきだ。
「事件の関係者であることを抜きにしても、ボクは片親育ちで、決して裕福とはいえない家庭の生まれなんです。おまけに、母親は若い頃に水商売してたような人です。あなたたちと釣り合うようなお家柄じゃないんです。それでも、いいんですか?このままでいても」
円は続けた。
大木の両親と咲子は何と言うのだろう。
円は手を膝の上に置いていた手を、ギュッと握りしめた。
「……そんなことは、些細なことだ」
大木の父親が、重い口を開いた。
口を開くまでに結構な間があったのを見ると、その間にさまざまな思いを巡らせ、やっと出した言葉がそれだったのだろう。
「些細なこと……」
円がオウム返しして呟いた。
「ああ、きみが昔の事件の関係者であることも、きみのお母さんが過去に水商売をしていたことも、ぜんぶ些細なことだ」
それが大木の父親の答えだった。
「あの事件の関係者?あなたが?」
大木の母親が「信じられない」とでも言いたげに目を見開いた。
父親も同様だ。
まあ、妥当な反応であろう。
大木だってそうだった。
こんな突拍子もない話をされて、即座に信じられるわけもない。
「ボクはあの現場にいたんです。刺し殺されたCEOは、ボクの父です」
「えっと……きみは今いくつだい?」
大木の父親がゴクリと生唾を飲んで、彼の喉仏が上下した。
「28歳です」
「現場に3歳の子どもが逃げ遅れた、と記憶していたが、その子がきみか?」
「そうです」
円が深くうなづく。
大木の両親が具体的に何歳かまでは知らないが、少なくとも事件当時はすでに成人していただろうし、ワイドショーや新聞などで事件を知っている可能性は大きい。
「ねえ、円さん。なんでいきなりそんなこと言うの?円さんが事件の関係者とか、どうでもよくない?」
咲子が円の肩にもたれかかって、眉をひそめた。
円の言うことがまだ信じられないのかもしれないし、純粋に、その言葉通りに、なぜこんなことを言い出すのか理解できないのかもしれなかった。
「咲子ちゃん、大きな事件が起きるとね、いつまでも覚えてる人が必ずいるんだよ」
「それは…そうよね」
大木の母親が顔を曇らせ、ほんの少し顔を下に向けた。
彼女もあの事件のことを覚えていて、円の言葉に心当たりがあるのかもしれない。
「たとえば、テレビの特番であの事件が紹介されたとするよね?そしたら、みんな事件について調べはじめるんだよ。現場に遭遇したオメガや子どもたちは今どうしてるんだとか、そういうのを知りたいんだろうね。中には、家や職場を探ろうとする人もいるんだ」
「ごもっともだな…」
大木の父親が深くうなづく。
「実際、どうやって場所を知られたのかわかりませんが、実家にマスコミ関係者とか、事件に興味を持った一般人とかが来たことがありました。それで、母親とかボクに、いろいろ聞いてくるんです。今までに何度もそういうことがありました」
「ひどい……」
大木の母親が、顔に怒りを滲ませて呟いた。
「今のところ、ボクの家は知られてないし、知成くんのところにもマスコミは来ていないみたいですけど。もし、このままボクと関わっていたら、巻き添えになるかもしれませんよ。今はお付き合い程度ですけど、結婚するとなったら、大木くんも咲子ちゃんも、丈成さんも啓子さんも「事件の関係者」みたいな扱いになるんです。少しでも情報が欲しいからって理由で、下世話なマスコミに追い回されるかもしれません。それで、根掘り葉掘りいろいろ聞いてくると思います。それでも、このままボクが知成さんとお付き合いするのを、許容できますか?この中の1人だけでも、「そんなのはごめんだ」とお思いでしたら、ボクは身を引くつもりでいます」
「そんな……」
咲子が小さく声を漏らした。
最初に会ったときの明るさが嘘のような、険しい声色だ。
大木の両親は、黙ったまま円を見つめている。
ここまで言われると、円の話を信じざるをえない。
そんな顔つきだ。
「事件の関係者であることを抜きにしても、ボクは片親育ちで、決して裕福とはいえない家庭の生まれなんです。おまけに、母親は若い頃に水商売してたような人です。あなたたちと釣り合うようなお家柄じゃないんです。それでも、いいんですか?このままでいても」
円は続けた。
大木の両親と咲子は何と言うのだろう。
円は手を膝の上に置いていた手を、ギュッと握りしめた。
「……そんなことは、些細なことだ」
大木の父親が、重い口を開いた。
口を開くまでに結構な間があったのを見ると、その間にさまざまな思いを巡らせ、やっと出した言葉がそれだったのだろう。
「些細なこと……」
円がオウム返しして呟いた。
「ああ、きみが昔の事件の関係者であることも、きみのお母さんが過去に水商売をしていたことも、ぜんぶ些細なことだ」
それが大木の父親の答えだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
248
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる