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みんな何かに怒りたい
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Under ground 編集部では、えぐみ子こと神江久実子が起こしたトラブルについて話していた。
「トレパク?」
タブレットを片手に、編集者はテーブルを挟んで向かいに座っている真紀子の顔を見た。
「そうです。トレースっていって、絵や写真をそのまま写して描ける機能があるんですけど、これがよく盗作の手段として使われるそうです」
「はあ、なるほどねー。やっぱりさ、あったりするんですねえ。キャラクター同士を好き勝手に妄想して書く小説とかマンガとか…」
編集者はスマートフォンの画面を眺めながら、真紀子の話を聞いていた。
その画面は、えぐみ子を批判するツイートで埋め尽くされている。
「ありますよ。いろんなところで競うようにアップされてます。でも、ああいうのって、ファン同士の諍いの原因にもなりやすいんですよね」
「あなたはダクストのことを何もわかってない、私の好きなローゼン様を歪めた、みたいなアレ?」
編集者がスマートフォンから顔を上げて苦笑いを浮かべる。
「そうです。まあ、ダクストの場合はケンカっていうのか、もっと深刻なカンジがしますね。当時のトラウマが蘇ってきてるみたいです。ラストを巡って延々と議論し続けてたり」
「カップリングをめぐっての争いとかも?」
編集者の苦笑いが、より濃く浮かび上がる。
「ええ、あとヘイト創作なんてのもありますよ」
「何それ?」
「まあ、なんです。嫌いなキャラクターを二次創作の作品内で痛めつけたり、酷い目に遭わせたりする話ですね」
「そんなのあるんですねえ」
編集者はスマートフォンに視線を戻し、「ヘイト創作」と検索した。
「ダクストはねえ、人間性に難があるキャラクターがいっぱい出てくるんですよ。お金に汚かったり、美に異常に執着してたり、そのことで人様を見下してたり他人を陥れたりするんですよ。で、その難が原因で一悶着あって、激闘の末にメデタシメデタシ。大まかなストーリーはそんなカンジなんですけど、基本的に改心はしないんですよね。「前よりマシにはなったけど基本的には何も変わらない」ってスタンス」
「なるほどねー。ていうかさ、みんな結構いい大人ですよね?少なくとも成人はしてるでしょう?」
急に話が切り替わったので、真紀子は身構えた。
「ええ、私が入ったグループ、最年長は40代後半の人でした。なおのこと疑問ですよね。酢いも甘いも経験してきた大人の女性が、そんなことで争い合うってどうなんでしょう?」
「うーん。他人から見たら「そんなこと」でも、本人は真剣なんですね。でも理由なんてどうでもいいんだと思います。対象はなんでもよくて、ただ怒りをぶつけたいだけかもしれない。ねえ、「対岸の火事」って言葉あるじゃないですか。アレって要は「他人事だから自分には関係ない」ってことですけど、今の時代の風潮見ると、そのうち意味が変わりそうな気がします」
「どういうことです?」
真紀子は首を傾げた。
「SNSが台頭してからですかね?自分のところが火事になってるのに、向こう岸の火事をずっと気にしてる人が増えてるカンジがします。ネットで誰かを誹謗中傷する人って、理由を聞くと「離婚して辛かった」とか「妊娠中で不安になってやった」とか……いやいやアンタそれ、ネットやってる場合じゃないでしょ、病院行きなさいよって言いたくなるような人が多いじゃないですか」
「トレパク?」
タブレットを片手に、編集者はテーブルを挟んで向かいに座っている真紀子の顔を見た。
「そうです。トレースっていって、絵や写真をそのまま写して描ける機能があるんですけど、これがよく盗作の手段として使われるそうです」
「はあ、なるほどねー。やっぱりさ、あったりするんですねえ。キャラクター同士を好き勝手に妄想して書く小説とかマンガとか…」
編集者はスマートフォンの画面を眺めながら、真紀子の話を聞いていた。
その画面は、えぐみ子を批判するツイートで埋め尽くされている。
「ありますよ。いろんなところで競うようにアップされてます。でも、ああいうのって、ファン同士の諍いの原因にもなりやすいんですよね」
「あなたはダクストのことを何もわかってない、私の好きなローゼン様を歪めた、みたいなアレ?」
編集者がスマートフォンから顔を上げて苦笑いを浮かべる。
「そうです。まあ、ダクストの場合はケンカっていうのか、もっと深刻なカンジがしますね。当時のトラウマが蘇ってきてるみたいです。ラストを巡って延々と議論し続けてたり」
「カップリングをめぐっての争いとかも?」
編集者の苦笑いが、より濃く浮かび上がる。
「ええ、あとヘイト創作なんてのもありますよ」
「何それ?」
「まあ、なんです。嫌いなキャラクターを二次創作の作品内で痛めつけたり、酷い目に遭わせたりする話ですね」
「そんなのあるんですねえ」
編集者はスマートフォンに視線を戻し、「ヘイト創作」と検索した。
「ダクストはねえ、人間性に難があるキャラクターがいっぱい出てくるんですよ。お金に汚かったり、美に異常に執着してたり、そのことで人様を見下してたり他人を陥れたりするんですよ。で、その難が原因で一悶着あって、激闘の末にメデタシメデタシ。大まかなストーリーはそんなカンジなんですけど、基本的に改心はしないんですよね。「前よりマシにはなったけど基本的には何も変わらない」ってスタンス」
「なるほどねー。ていうかさ、みんな結構いい大人ですよね?少なくとも成人はしてるでしょう?」
急に話が切り替わったので、真紀子は身構えた。
「ええ、私が入ったグループ、最年長は40代後半の人でした。なおのこと疑問ですよね。酢いも甘いも経験してきた大人の女性が、そんなことで争い合うってどうなんでしょう?」
「うーん。他人から見たら「そんなこと」でも、本人は真剣なんですね。でも理由なんてどうでもいいんだと思います。対象はなんでもよくて、ただ怒りをぶつけたいだけかもしれない。ねえ、「対岸の火事」って言葉あるじゃないですか。アレって要は「他人事だから自分には関係ない」ってことですけど、今の時代の風潮見ると、そのうち意味が変わりそうな気がします」
「どういうことです?」
真紀子は首を傾げた。
「SNSが台頭してからですかね?自分のところが火事になってるのに、向こう岸の火事をずっと気にしてる人が増えてるカンジがします。ネットで誰かを誹謗中傷する人って、理由を聞くと「離婚して辛かった」とか「妊娠中で不安になってやった」とか……いやいやアンタそれ、ネットやってる場合じゃないでしょ、病院行きなさいよって言いたくなるような人が多いじゃないですか」
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