二次元だって、裏切ります

若目

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終焉の前

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「とんでもない。では、ほかのサークルさんもまわりますので、これで失礼しますね」
マキナは恭しくお辞儀をしたかと思うと、その場を優雅な動作で去っていった。

──嬉しい、マキナさんが来てくれた!

久実子は、先ほどもらった千円札を手に取って、しばらくそれをうっとりと眺めた。
それをクッキー缶にしまうと、久実子はバッグからコンパクトミラーを取り出した。


──つけまつげ久しぶりにしたけど、ズレてないよね?このメイク濃すぎた?

マキナに会うと、いつもこうだ。
ついついドキドキして、まるで初デート前の女の子みたいに、自分の格好が気になってしまう。











その日は、いや、正確にはその日、本は大して売れなかったが、マキナが自分の同人誌を買ってくれた事実が、久美子の心を躍らせた。

イベントが終わった後、久実子はTwitterのDMからマキナに「本日はありがとうございました」と礼を述べた。

その途端に、また高揚感で鼓動が早くなり、久実子は夢心地で帰り道を歩いた。
その日に限っては、いつもは憂鬱だった帰り道がハリウッドスターを迎えるレッドカーペットのように華やいで見えた。

その日ばかりは、山と積まれた同人誌の在庫も、長時間座りっぱなしで生じた足腰の痛みも気にならなかった。




いつもように「ただいま」と独り言と変わらない帰りの挨拶を放って部屋に戻ると、久実子はバッグからタブレットと専用のタッチペンを引っ張り出した。

入稿はまだまだ先のことだが、今はやる気がみなぎって止まらない。
せっかく沸いたやる気を、ムダにしたくはなかった。

そうして久実子は、タブレットでになりそうな画像を検索しては保存、検索しては保存を繰り返した。

そして、お絵描きアプリを開くと、「新規のキャンバス」の表記を押して、次に「写真読み込み」の表記を押した。
そうしてペンを滑らせていくうちに、1ページ半完成させることができた。

──なかなか素晴らしい仕上がりだわ!


風呂に入り、ベッドに入って眠りについた後も、高揚はなかなか冷めなかった。

イベントの後は大抵、疲れ切ってすぐに寝入ってしまうし、明日の仕事のことを考えて辛くなるのだけど、今日は違う。
むしろ、いい夢を見られそうだという心地にさえなった。

そんな久実子だから、眠っている間に異変が起きていたことも、それが原因で大事なものを失うことになることも、まだ知らないままでいた。



















────────────────────







『この絵師さん、他の絵師さんのイラストをトレパクしています。
そのことを指摘しましたところ、ブロックされました。
私が指摘した後も他の絵師さんのイラストをトレパクしています。
トレパクされた絵師さんには報告済みですが、私が知っている人以外にも被害に遭われた方がいらっしゃる可能性がありますので注意喚起です

#トレパク
#注意喚起 』

あるTwitterアカウントが、複数のイラストとスクリーンショットを投稿した。
そのイラストは、先日のイベントで久実子が売っていた同人誌の表紙イラストだった。
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