二次元だって、裏切ります

若目

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コラボカフェ

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──それに、今日はマキナさんが来てるし…

久実子は、自分のちょうど真向かいに座っているマキナを見つめた。
かじったタルトのかけらが、そのまま皿の上にポロポロ落ちて、口の端にイチゴジャムがつく。

「ね、えぐみ子さん。ひょっとして、今日は調子が悪いんですか?」
久実子の視線に気がついたのか、それとは無関係なのか、久実子の方へ顔を向けたマキナと、ばっちり目が合った。

「え、いや、そんなことないですよ」
あわてて口の端についたイチゴジャムを拭うと、手がジャムでベタついた。

「そうですか?」
「はい、ホントに、何もないんです。ただ、コラボカフェまでやるなんて思ってなかったから、その、嬉しくて…ついついほーっとしちゃって……」
久実子はあわててナプキンを手に取り、手についたイチゴジャムを拭き取った。


「それならよかったです。しんどいところを無理して来てくれたのかなと思って、心配だったもんですから…」
マキナが上半身を伸ばして、向かいの席から久実子の顔を覗き込む。
本当に心配そうな顔をしている。

マキナの整った顔が近づいてきて、久実子はドキドキした。
心なしか、いい香りもする。
香水でもつけているのかもしれない。

本当にキレイな顔をしている。
マスカラを塗ったまつ毛に縁取られた二重の目、細い鼻梁、形の良い唇、見事なカーブを描いたフェイスライン。
久実子は、マキナの顔のあまりの美しさにうっとりした。



「ふうっ…」
ウツミの隣に座った最年長のきゃさりんが、そんな会話などどこ吹く風と言わんばかりに、わざとらしいため息を吐いて、睨むように久実子を見つめていた。

──あ、そういえば…

たしか彼女はジャンを推していたから、当たったコースターはきゃさりんにあげてしまおう。
久実子はテーブルに無造作に置きっぱなしにしていたコースターを、ちらりと見やった。

「きゃさりんさん…」
久実子がきゃさりんに呼びかけた。
「こう言っちゃあ難だけどデマ流した人には感謝よねえ」
しかし、その呼びかけは隣に座っていたうってぃの早口によって遮られてしまった。

うってぃは片手にフォークを握っていて、そこにかじりかけのアップルパイが刺さりっぱなしになっている。
口の周りにはパイのかけらがついていて、早口で話しているうち、それが白いテーブルクロスにポトリと落ちた。

「あー、たしかに言えてるかもー」
先ほど「マグリブが当たった」とはしゃいでいたハイリが、マグリブのコースターをテーブルに置いて、スマートフォンでパシャパシャ撮っている。

運ばれてきたカレーライスには、いっさい手をつけていない。
カレーライスは、もうすっかり冷めているのか、先ほどまで立っていた湯気が消えていた。

マグリブは、「アラジンと魔法のランプ」の魔法使いをモチーフにしたキャラクターで、ハイリのお気に入りだ。


「それは、そうよね…」
久実子は、うってぃの言うことに賛同した。
実際、うってぃの意見は正しいと思っていたからだ。

久実子、うってぃー、ハイリ、きゃさりん、マキナ。
この5人が推しているアプリゲーム「ダークサイド・ストーリー」は、とっくの昔に配信終了している。

今回のコラボカフェが実現したきっかけは、今から1年以上前に起きたデマ拡散だった。
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