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2章 あなたと共に過ごす日々
06 新しい生活
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始まった雅との共同生活は順調だった。
有野くんのせいで、雅はお金持ちのイメージがその後なんとなくつきまとったけど、雅はそれっぽくなかった。良い意味で。
何でもひとりでやろうとしたし、とりあえず家事はひと通りできることがわかった。
分担とかしなくても、気がつけば洗い物や掃除を済ませてくれていたし――さすがに私の部屋の掃除はしなかったけど。
料理もできた。ていうか、本当に実家暮らしだったのかと思うぐらいひとりで暮らすことに長けていた。
お手伝いさんがいるレベルのお金持ちではないんだな……と、膨らみ過ぎた妄想をリセットする。
いやね。雅は純粋で素直だから。
どこかの旧家で蝶よ花よと育てられてきたのかとも思ったんだよ。
ちなみに雅のことを調べると息巻いていた千夏と涼子は早々に挫折していた。
田中くん、鈴木くんをはじめ、彼女たちと繋がりのある雅の友達は、雅の家族や家のことは何も知らないらしい。
そりゃ、普通に友達として接していれば知らなくても何ら影響ないだろうし。
家に集まろう――という話になっても、大体ターゲットになるのはひとり暮らしの子の所だ。
雅の実家に行ったことがある人なんて――よっぽど昔から面識のある人――幼馴染でもないといないんじゃないかって話になって、結局は収穫なし。
「いずれ色々わかる日がくるんじゃないの……」と、千夏と涼子はサジを投げた。
残念のような、ホッとしたような……気持ちは複雑だったけど。
雅のいないところで雅のことを知っていくことはやっぱり良くない気がするから、これで良しとする。
意外なことと言えば、もうひとつ。
雅は見かけよりずっと真面目で勤勉だった。
一緒に暮らし始めて最初の一週間くらいは、大学から帰って食事と家事が終わると自室に籠ってしまう雅が、いったい何をしているのかわからなかった。
夜遅くに私と同じ空間に居るのを避けるためかとも思ったけど、深夜まで部屋の隙間から煌々と光が漏れているし。
気になる。でも、あまりプライベートに首を突っ込むのはどうだろうと思っていたら、ある日雅の部屋から英会話が聞こえてきたもんだから何事かと思った。
そぉ~っと扉の隙間から覗いて中を伺えば、イヤホンマイクをしている雅がパソコンの向こうの誰かと話している。
翌朝に何をしていたのかと問えば、オンライン英会話というものをやっていたそうだ。
「安く語学を教えてくれるとこいっぱいあるよ。ネットなら時間も縛られないし、便利だよ」
今はそんなことまで出来るのか。恐るべし文明の利器。
それはそうと、雅は日常会話のように英語を話していたような気がするんだけど。
「……雅って、語学はどのくらいできるの?」
「んー、英語とフランス語は……なんとなくわかるかなぁ。ドイツ語もフランス語よりは理解しやすいし……あと……」
指折り、指折り、語学を並べてくる雅に呆然とする。
ま、負けた。
私は英語だけ……でもあそこまでは喋れない。
机に噛り付いて勉強するくらいしか能がなかったけど。
時代の先を生きている人は、時間もツールも有効に利用しているんだなぁ。
雅は、がっくりしている私をフォローするように「美亜もやる?」と訊いてくれた。
語学を含め勉強することを、私はなんとなく、色々できないと就職に不利だろうと思ってやっていたけど。
雅は違う気がする。
明確な目標を持っているのかもしれない。
引っ越しの片付けをしている時に目にした雅の部屋の本棚を思い出しても、娯楽の本はほとんどなかった。
経営戦略、マーケティングに始まり、統計学や会計の本まで。
商学部というより、経済学に近いものもあったから、多分あそこにあるのは授業で使っている本だけじゃない。
「雅は将来何になりたいの?」
そう思って私が問えば、雅は少し困ったように力なく笑った。
「んー…………」
暫く黙りこむ表情が陰って、返ってきた答えは――。
「決まってないよ。どうしようね。正直、よく、わかんないや……」
大多数の、私達と何ら変わらない。
同じ悩みを抱えた大学生のものだったけど。
有野くんのせいで、雅はお金持ちのイメージがその後なんとなくつきまとったけど、雅はそれっぽくなかった。良い意味で。
何でもひとりでやろうとしたし、とりあえず家事はひと通りできることがわかった。
分担とかしなくても、気がつけば洗い物や掃除を済ませてくれていたし――さすがに私の部屋の掃除はしなかったけど。
料理もできた。ていうか、本当に実家暮らしだったのかと思うぐらいひとりで暮らすことに長けていた。
お手伝いさんがいるレベルのお金持ちではないんだな……と、膨らみ過ぎた妄想をリセットする。
いやね。雅は純粋で素直だから。
どこかの旧家で蝶よ花よと育てられてきたのかとも思ったんだよ。
ちなみに雅のことを調べると息巻いていた千夏と涼子は早々に挫折していた。
田中くん、鈴木くんをはじめ、彼女たちと繋がりのある雅の友達は、雅の家族や家のことは何も知らないらしい。
そりゃ、普通に友達として接していれば知らなくても何ら影響ないだろうし。
家に集まろう――という話になっても、大体ターゲットになるのはひとり暮らしの子の所だ。
雅の実家に行ったことがある人なんて――よっぽど昔から面識のある人――幼馴染でもないといないんじゃないかって話になって、結局は収穫なし。
「いずれ色々わかる日がくるんじゃないの……」と、千夏と涼子はサジを投げた。
残念のような、ホッとしたような……気持ちは複雑だったけど。
雅のいないところで雅のことを知っていくことはやっぱり良くない気がするから、これで良しとする。
意外なことと言えば、もうひとつ。
雅は見かけよりずっと真面目で勤勉だった。
一緒に暮らし始めて最初の一週間くらいは、大学から帰って食事と家事が終わると自室に籠ってしまう雅が、いったい何をしているのかわからなかった。
夜遅くに私と同じ空間に居るのを避けるためかとも思ったけど、深夜まで部屋の隙間から煌々と光が漏れているし。
気になる。でも、あまりプライベートに首を突っ込むのはどうだろうと思っていたら、ある日雅の部屋から英会話が聞こえてきたもんだから何事かと思った。
そぉ~っと扉の隙間から覗いて中を伺えば、イヤホンマイクをしている雅がパソコンの向こうの誰かと話している。
翌朝に何をしていたのかと問えば、オンライン英会話というものをやっていたそうだ。
「安く語学を教えてくれるとこいっぱいあるよ。ネットなら時間も縛られないし、便利だよ」
今はそんなことまで出来るのか。恐るべし文明の利器。
それはそうと、雅は日常会話のように英語を話していたような気がするんだけど。
「……雅って、語学はどのくらいできるの?」
「んー、英語とフランス語は……なんとなくわかるかなぁ。ドイツ語もフランス語よりは理解しやすいし……あと……」
指折り、指折り、語学を並べてくる雅に呆然とする。
ま、負けた。
私は英語だけ……でもあそこまでは喋れない。
机に噛り付いて勉強するくらいしか能がなかったけど。
時代の先を生きている人は、時間もツールも有効に利用しているんだなぁ。
雅は、がっくりしている私をフォローするように「美亜もやる?」と訊いてくれた。
語学を含め勉強することを、私はなんとなく、色々できないと就職に不利だろうと思ってやっていたけど。
雅は違う気がする。
明確な目標を持っているのかもしれない。
引っ越しの片付けをしている時に目にした雅の部屋の本棚を思い出しても、娯楽の本はほとんどなかった。
経営戦略、マーケティングに始まり、統計学や会計の本まで。
商学部というより、経済学に近いものもあったから、多分あそこにあるのは授業で使っている本だけじゃない。
「雅は将来何になりたいの?」
そう思って私が問えば、雅は少し困ったように力なく笑った。
「んー…………」
暫く黙りこむ表情が陰って、返ってきた答えは――。
「決まってないよ。どうしようね。正直、よく、わかんないや……」
大多数の、私達と何ら変わらない。
同じ悩みを抱えた大学生のものだったけど。
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