恋人以上、恋愛未満

右左山桃

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3章 恋の証明

11 戦略会議

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「「ミスキャンパスに出る……だぁ!?」」


千夏と涼子に話した結果は散々なものだった。

数日後、千夏を誘って寄らせてもらった涼子の部屋で、私は世間話でもするように「今年の学際でミスキャンパスに出てみようかと思うんだけどさ……」と切り出してみた。
まぁ、そんなのは私のキャラではなかったし、驚かれるんだろうなー、とは思っていたけれど……。

千夏は眉間に指を乗せて難しい顔で「うーん」とうなるし、涼子は落ち着きなく部屋をウロウロと歩き回る始末。

ふたりにはミスキャンパスに向けてのおしゃれ対策について、あわよくば――明るくキャッキャと――相談に乗ってもらいたいなーと思っていたのだけれど。
なんだかとてもそんな雰囲気ではなくて、私は冷や汗を垂らしながら俯いた。


「…………えと……なんかすみません……」


しょぼん、と肩を落とす私に、千夏はフッと息を吐くと「別にいいんだけどさ」と切り出した。


「うちのミスキャンに選ばれる子って、元から決まってるらしいよ」

「え!? そうなの……?」

「学生票だもん。人脈がものを言う所あるし、大きなサークルに入ってないと難しいよ。私ら3人、入学当初に誘われたサークルに何となく入ったきり何の活動もやってないじゃない。論外でしょ」


さすが、思った通り私なんかよりずっと内情に詳しい。
そりゃ、そうか。


「出て勝てるもんなら、ふたりともとっくに出てミスキャンパス取ってるか」


そう言う私に、ふたりは『私はごめんだ』と言わんばかりに首を横に振った。


「あら? でも涼子はそうでもないんじゃない? 毎年参加者のチェックを欠かさないぐらいには……興味あるみたいだし」

「ち、ちがっ! ……それとこれとは話が別だよ! だって気になるじゃない? 誰が出て、どんな傾向の子に人気が集まるのか、とか。どういう格好、メイクして演出するのか……とかっ……」


涼子は歩き回るのをやめて、千夏の隣に置いてある水玉のクッションにボスン! と飛び込んだ。
千夏からの冷やかしをムキになって否定しているけど、涼子ならおしゃれへの知的好奇心でチェックしていても何ら不思議ではない気がする。


「ミスキャンに出ると、PRムービーがネットに出回ったり、地元の新聞に載るんだよ? 生半可な覚悟でやると、冷やかしや中傷に傷つくって……私はそういうのは嫌だよ……」


不安そうな顔で「それでも美亜は本当にやりたいの?」と尋ねてくる涼子に、私は小さく頷く。
うちのミスキャンのカラクリがどうであれ、学祭の目玉イベントであることに変わりはない。
人の目に触れる機会が多いのなら、雅や孝幸さんの目に止まることがあるかもしれない。
可能性があるのなら――孝幸さんに私という人間を知ってもらうきっかけがあるのだとしたら――全部試しておきたい。
今までは容姿なんて私の負い目でしかなかったけど、武器にできるなら利用して、ひとつずつ私が誇れるものを増やしたい。


「雅……に……」


ふたりの前で、雅の名前を出すのはカフェでの一件以来だったから……なんだか緊張してしまう。
その名前を聞いて、意外な顔をするふたりの視線を受け止めきれず、私は顔を赤らめて曖昧に笑った。


「雅に、もう一度……自分に自信をつけてから会いに行きたいんだ」


私の言葉を理解しきれなかったのか、ふたりは間の抜けた表情で「は?」「え?」とそれぞれ言葉を返した。


「なんで雅くん? だって……この間の有野くんとはどうなったの? 次に行ったんじゃ……?」

「有野くんには、ちゃんと話したよ。私はまだ雅が好きで諦めたくないって。ごめんね、ふたりには話すのが遅くなっちゃって。なんだかあの日、言い出すタイミングを逃しちゃって……」

「え? え? 美亜が雅くんを……まだ好き??」


私と千夏の顔を交互に見ながら不思議そうに尋ねてくる涼子に、ちゃんと話せなかったことを改めて申し訳なく思った。
混乱している頭を整理しようとしても、どうしても納得できなかったのか、私に顔を近づけると声を荒らげる。


「まだ好きで諦めたくないって! じゃあ、どうして別れたりしたの!?」


その問いにはどう答えるべきなのか少し悩んだけど、誤魔化したり曖昧に話すのは性に合わないのでやめた。


「別れた直接の原因が、私と雅にあったというより、私が雅のお父さんに認めてもらえなくて……」


私の話が終わらないうちに、涼子は「信じられない!」と叫んだ。


「何その時代錯誤……っ! ひどっ!!」


私の変わりに怒ってくれる涼子に感謝しつつも、少しだけ後ろめたい気持ちを覚える。
確かに腹が立ったし、ショックだったけど、それでも孝幸さんを――雅のお父さんを悪く思うことには抵抗があった。
感情的になる涼子とは対照的に、千夏が淡々と会話を続ける。


「で? それで……。ミスキャンパスで優勝できたら雅くんのお父さんを見返せるかもって、そう思ってるの?」

「それはさすがに……そこまで甘くはないだろうけど。雅のお父さんにとって、何が良くて何が駄目なのか、私にはイマイチ掴めて無いから。とりあえず自分のステータスは上げないと駄目だなって。色々試した後で……攻め方考えないと……」

「「…………」」

「どんな人間なら……誰もが認めようって思えるんだろう……」


ブツブツと理想の人間像を思い描いては戦略を考えている私に、ふたりは絶句している。


「そんな……らしくないことまでしようとするなんて…………」


どちらともなく呟いた「好きなんだね」という言葉に、私は途方もない気持ちで「好きだよ……」と返した。


「でも私の気持ちや行動は、雅には内緒にしておいてね。それが原因で雅とお父さんの関係が悪くなるのは嫌なんだ……」

「うーん、なんだか面倒な……難儀な恋愛になっちゃったなぁ……」

「……そう……かな。そんなこともないよ」


それなりに生きていくことばかり考えていた私が、必死になって自分を高めたいと思っている。
私が変わるきっかけをくれるのは、いつだって雅なんだ。
吹っ切れた笑顔をふたりに見せれば、千夏も困った顔で「これは応援せざるを得ない感じかな」と笑った。
そして涼子も――って、あれ?


「そっか……美亜、ミスキャン、出るんだ……ねぇ」


応援ムードになった千夏とは対照的に、眉間に深いしわを刻んで腕を抱えている。


「雅くんのことも……まだ好きなんだねぇー……。そっかぁ、そっかぁ……うー……ん……」

「なによ、涼子。歯切れ悪いわね」

「いや……さ。もう美亜には関係ないんだろうなって思ってたから、あえて話さなかったんだけど……。いや、やっぱりもう時効っていうか関係ないのかもはしれないんだけどね……」

「?」


含みのある言い方をする涼子を、千夏が「はっきり言いなさいよ」と促す。


「ミスキャン、今年はあの子も出るって聞いたんだよね……」

「あの子って?」


千夏の問いに、涼子が複雑な表情で私に目を配る。
答えは聞かなくてもわかるような気がした。


「雅くんの元カノのー……社未南」

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