恋人以上、恋愛未満

右左山桃

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3章 恋の証明

29 3つの条件

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「ただ本当に私と雅を別れさせたいだけなら、多忙なあなたがわざわざ私の元に出向く必要は無いと思ったんです。私くらいの年代は商品の購買層に当たりますし、会社の顔とも言える経営者がイメージを落とすようなことをする必要なんて無い。私が雅の相手として気に入らないのであれば、自分の手を汚さずにもっと上手く別れさせる方法がいくらでもあった筈です。それでも直接自分の足で雅の相手である私に会いに来ている。私に『前の子はもっと素直だった』と、雅の前の恋人の時もそうしたと話してくれましたよね」


ずっと微笑を浮かべていた孝幸さんの表情が真顔になる。


「ちゃんと息子のことに興味を持っている、雅を大事に思っている。だから私のことを調べた。そして私に揺さぶりをかけて、私がどんな反応をするのか自分の目で見て確かめたかった」


孝幸さんの口が開く前に、私は更に話を続ける。


「この面接だって、そうですよね?」


孝幸さんは合理的な印象が強かっただけに、面接時間をずらして学生を待たせない配慮をしているのが意外だった。
学生一人ひとりにかける時間なんて、きっと一定ではない。
採用する学生はじっくり時間をかけて話を聞きたいだろうし、早々に見切りをつけて帰らせたい学生だっているだろう。


「一度に受験者を全員集めてしまった方が会社にとって効率がいいのに、持ち時間を決めて、その間ひとりの学生を見る姿勢を貫いている」


私の言葉に孝幸さんは驚いた顔をして、その後でまた薄く笑った。


「買い被りすぎだよ。ここでそんなことまで考えた学生なんて、君くらいなんじゃないの」

「でも、私はあなたの真意はそうだと思う」


譲らない。
ごまかされても。


「孝幸さんなら、きっと誠心誠意望めば私のことをちゃんと見てくれます。だから、私は圧倒的に不利な面接でもこうして最後まで受けられている。違いますか?」

「…………」

「リリーバリーの社員に求めるものと、雅の相手に求めるものは似ていますか?」

「……えぇ?」

「私が孝幸さんの望む人間になったら、いつか雅への気持ちを認めてもらえますか? 私は知りたいんです。どんな人が雅にふさわしい人なのか。あなたのおっしゃる”然るべき人”とは、どんな人ですか?」


私の矢継ぎ早の質問に孝幸さんは暫く呆気にとられ、少し間をおいてから息を吐いて笑った。
今度の笑みには、温度が感じられた気がした。


「望む人間……か……」


「そうだなぁ……」とひとりごちながら、顎を指でさする孝幸さんに、私はゴクリと息を飲む。


「雅にはいずれ私の跡を継いでもらうつもりだからね。私が息子の相手に求めていることがあるとすれば、3つ」

孝幸さんは胸の前で指を3本立てて私に見せる。
それから、人差し指だけを立てた。


「ひとつ目は、出生や過去、自分の力でどうにもできないことに縛られていないこと。引け目をとらず、過去を受け入れ、自分の生き方を肯定できること。過去のことを詮索されてとやかく言う周りの人間の言葉に潰されない強さが必要だ。誰にどんな弱みを掴まれても君はいつも堂々としていなければならないよ。足元を掬われるから」


きょとんとする私に、孝幸さんは2本目の指を立てて言葉を続ける。


「ふたつ目は、金に心を動かされないこと。一番大切な意思決定を、目の前の利益に飛びついて決めるような人間を私は信用できないな」


そこまで言われて、やっと私は自分の憶測は正しかったのだと確信を持ち始めた。
孝幸さんが会社を大きくするまでには色々な苦労があったのだろうし、雅と一緒にいるためには、それなりに辛いことを受け入れる覚悟も必要なのだと言いたいのかもしれない。

それはいい、そんなことは大した問題ではない……けど。
ふたつ目はともかくとして、ひとつ目の反応を見られたときの自分はどんな風だった?
孝幸さんの揺さぶりに、まんまと動揺しまくっていた自分を思い出して、私はダラダラと冷や汗をかく。
まずい。
あの豆腐メンタルな反応は確実に減点だった。
今なら、今ならもっと上手く受け流せる筈なのに……!


「あの……あのですね。私、強くなりました。あの後にもまた色々ありまして……あの……逞しくなったんです。孝幸さんが思っているよりは……もっと……ずっと……」


さっきまでの攻めの姿勢は陰を潜め、しどろもどろ、必死になって弁明を始める私の格好悪いことと言ったら……。
でも今はそれどころではない。
終わったことを弁明しようと焦っている辺りで、過去を受け入れ、自分の生き方を肯定することから完全に逸脱している訳だけど、今の私にはそれに気づくだけの余裕はない。

焦りまくる私を尻目に、孝幸さんは苦笑しながら「まだ、もうひとつあるんだけど」と言うので、私はキュッと口を噤んで姿勢を正した。


「みっつ目。でもね、ひとつ目ふたつ目なんてどうでもいいんだ。結局の所、これさえクリアできれば大抵のことは乗り越えられるよ」

「そ……それは、どういう……」


身を乗り出して次の言葉を待つ私を、孝幸さんは面白そうに眺めて、それから少しだけ感傷的な表情になった。
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