優しい彼の裏の顔は、、、。【完】

夏目萌

文字の大きさ
30 / 90
STORY3

9

しおりを挟む
 郁斗が席に座った瞬間、店内はざわめきに包まれる。

 郁斗は稀に客として席に着いては、キャストたちの成績に貢献してくれる。そこは勿論自腹でだ。

 そして彼の事が好きなキャストたちは誰が彼に指名されるのか、それを常に待ち望んでいた。

 最近郁斗が客として座る事などあまり無かった事もあって皆は自分が呼ばれるのではないかと期待する。

 特に出勤した時に今度指名してくれるという約束を取り付けていた樹奈は、自分が呼ばれるのではと思っていたようなのだけど、太陽が郁斗の元へ詩歌を連れて行った瞬間ざわめきは一転、場の空気が凍りつく。

 そして、

「い、くとさん……?」

 席に連れてこられる際、相手が郁斗だと言う事は伏せられていたようで、自分がこれから接客をする相手が郁斗だと知った詩歌は面を食らっていた。

「白雪、ここに居るという事は、俺は客なんだ。俺を満足させられるよう接客をしてみせろ。いいな?」
「は、はい……」

 そして、いつもと違う口調、違う雰囲気を纏う郁斗に戸惑いつつも、これは仕事、せっかく与えられたチャンスなんだと理解し頭を切り替えた詩歌は、

「初めまして、白雪と申します。よろしくお願いします」

 先程の接客同様、きちんと姿勢を正し、綺麗にお辞儀をして見せた詩歌は郁斗の隣の席に腰掛けて接客を始めたのだ。

 こんな事は、今まで有り得なかった。

 太陽を始め、キャストやボーイたちも皆驚いている。

 それだけ、詩歌は特別なのかと。

 けれど、そんな風に彼女だけを特別扱いすれば、詩歌はこの『PURE  PLACE』でやっていく事が厳しくなる。太陽はそれを心配しているのだが、勿論郁斗はその事も全て考えての行動だった。


「……おい、酒の作り方がなってねぇぞ」
「す、すみません……」

 昨夜教わった通りに作ってはいるものの、まだ慣れない詩歌の手つきはどこか頼りなく、グラスに氷を入れる際掴み損ねてテーブルの上に落としてしまう。

 慣れていない事も勿論あるのだけど、詩歌が萎縮している事も失敗する原因の一つであり、その原因というのが郁斗の豹変ぶりだった。

 彼のその豹変ぶりには、太陽を除く全員が驚いている。それというのも郁斗は市来組に居る時以外は常に“紳士”な態度を心掛け、人柄が良く飄々としていて、人畜無害そうな人間で通っているから。

 そんな彼が今は全くと言っていい程別人のように冷たい態度でふんぞり返るように座っている。

 周りは皆別人を見ているような感覚に陥っていた。

 詩歌もその内の一人ではあるものの、これは自分の接客を試す為に打っている芝居なのではと思い、泣きそうになりながらも一生懸命接客を続けていく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレヤクザの束縛婚から逃れられません!

古亜
恋愛
旧題:ヤンデレヤクザの束縛婚〜何も覚えていませんが〜 なぜかここ一年の間の記憶を失い、なぜかその間にヤクザの若頭と結婚することになってました。 書いてみたかった記憶喪失もの。相変わらずのヤクザものです。 文字数バラバラで40話くらい。 なんでも許せる方向け。苦手な方は即回れ右でお願いします。 お肌に合わないと感じたら即座に使用を止めてください。誤字脱字等はご指摘いただければありがたく修正させていただきます。肌に合わない、想像と違った等の批判否定は豆腐メンタルにきて泣きますのでご遠慮ください。 この話はフィクションです。

お隣さんはヤのつくご職業

古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。 残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。 元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。 ……え、ちゃんとしたもん食え? ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!! ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ 建築基準法と物理法則なんて知りません 登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。 2020/5/26 完結

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

ヤクザの組長は随分と暇らしい

海野 月
恋愛
キャバクラでバイトするリカ 店に来たヤクザの組長である中井律希のテーブルにつかされた 目当ての女の接客じゃないことに面倒くさそうな態度だったこの男。それがどうして―― 「リカちゃん。俺の女になって」 初めての彼氏がヤクザなんて絶対にごめんだ! 汚い手も使いながらあの手この手で迫ってくる中井を躱し、平和な日常を取り戻そうとあがくストーリー

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

処理中です...