優しい彼の裏の顔は、、、。【完】

夏目萌

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STORY7

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「美澄、悪いが小竹と二人で至急事務所へ戻って金を受け取って来てくれ」
『金、ですか?』
「ああ、詩歌を助けるのに必要なんだ。頼む」
『いや、でも二人で行くのは……』
「額がデカいから、万が一の事も考えて二人居る方が安心だ。頼む、俺なら一人で問題ねぇから」
『……分かりました、行ってきます』

 そして、美澄と小竹に金を取りに行かせた郁斗は電話を切り、

「金はすぐに用意出来る。だから、居場所を教えてくれ」

 再度黛と詩歌の居場所を迅に尋ねた。

「すげぇな、市来組は一千万をすぐに用意出来んのかよ」
「……いや、こんな事もあろうかと予め金をすぐに用意出来る手筈を調えていただけだ」
「へぇ?  頭が回るな、お前は」
「頼む、早く教えてくれ」
「駄目だ。金と交換だ」
「……っ、無茶苦茶言ってんのは分かってる!  ただ、こうしてる間にも黛は詩歌に何をするか分からねぇんだ!  金は確実にやるから、居場所を教えてくれ!」

 迅相手に何か言ったところで、彼の意見を覆す事が出来ないと分かっていても言わずにはいられない郁斗は何度も頭を下げて教えを乞うけれど、彼は聞く耳を持たず煙草に火を点けた。

「……郁斗、お前よぉ、いい加減諦めたらどうだ?」
「何と言われようがそれは出来ない……守るって、約束しちまったから」
「たかがそんな事でか?  はあ……俺には分からねぇなぁ……」
「俺だって、彼女と出逢うまでは分からなかったさ。初めは好奇心から彼女を傍に置いただけだったんだけど、いつしか惹かれてたんだよ、詩歌に」

 そして、はぁーっと煙と溜め息を吐き出した迅は、ポケットから一枚のコインを取り出しながら、

「…………やっぱり分からねぇな。おい郁斗、一発勝負だ。これで、お前が勝てば、先に居場所を教えてやる。負けたら金が来るまで教えねぇ。退屈しのぎにゃ丁度いい勝負だろ?」

 そう勝負を持ち掛けた。

 迅が持ち掛けてきたのはコイントス。

 表か裏かを当てる、ただそれだけ。

「分かった」

 これならロシアンルーレットとは違って命を落とす事は無いので、郁斗は要求を飲む事にした。

 迅は右手を握り、親指で弾きやすいように人差し指にコインを乗せる。

 そして、親指を強く上に向けて弾いた。

 するとコインは回転しながら彼の手の甲へ落ちていき、そのタイミングで迅がコインを隠す。

「さてと、郁斗、コインは表か、それとも裏か。どっちだ」

 正直、これは完全に運だ。

 イカサマも出来なくはないが、迅はそういうのを嫌う傾向にあるのを郁斗は分かっていた。

 一瞬考えた郁斗は自身の選択を信じて、「裏だ」と答えた。

 それを聞いた迅が左手を退けると、

「……ッチ、相変わらず運の良い奴め。お前の勝ちだな、郁斗」

 面白くなさそうな表情を浮かべながら、迅が手の甲にあるコインを見せながら言った。

「約束だ、居場所を教えてくれ」
「へいへい。場所はこの紙に書いてある。そこは黛のプライベートルームだから、結構な確率で寝起きをしてる。あの女を自分好みに躾けるとか言ってたから、暫くそのマンションに置いておくはずだぜ」
「そうか。分かった。美澄や小竹には伝えておく。金は二人から受け取ってくれ」
「おいおい、本当に平気なのかよ?  お前の舎弟って阿呆だろ?  俺、刺されるとか嫌なんだけど」
「そんな事しねぇよ。二人はそこまで馬鹿じゃねぇし、詩歌救出が最優先だから、余計な事はしねぇって」
「……ならいいけどよ」

 話を終えた郁斗は迅を残して部屋を後にした。

 すると、一人残された迅の元に黛から電話がかかってくる。

「――はい」
「迅、夜永はどうした?」
「あー、それが、罠だって分かってんのか、現れないっすね」
「何?  本当なのか?」
「はい」
「金払ってんだから、それに見合った働きをしねぇと、割に合わねぇんだが?」
「いや、そうは言っても、この場に来なきゃどうにもならないし」
「…………どんな手使っても探し出せ。金は上乗せしてやるから」
「…………いくらだ?」
「あ?」
「いくら上乗せしてくれる?」
「とりあえず百万だな」
「……そうか、百万か……。ま、もう少し待ってみて、それから考えるって事でいいか?」
「……まあ、いい。とにかく、何が何でも仕留めろよ」

 黛との電話を終えた迅は煙草を吸いながら、窓の外に視線を向けると、

「……これは貸しだぜ?  郁斗」

 そう呟きながらスマホを床に置くと、飲みかけのビールの缶を傾け、スマホに直接掛けて水没させた。
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