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46時間TV 編
46時間TV 3〜あのキスの意味〜
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「さくちゃんおつかれさま、また明日ね~」
「ゆっくり休むんだよ~」
生配信の会場から都内の自宅まで、ロケバスで送ってもらった。
まだ車内に残っていたメンバーに見送られて、私はバスを降りる。
地方出身組の私は、このグループで活動するために愛知から一人で上京してきた。
だから今は、都内のマンションで一人暮らし。
部屋に着いて早速、ソファで横になる。
生配信番組に2日続けて出演したので、体は疲れ切っていた。
動くのも億劫だったが、だらだらと時間を無駄にするわけにはいかない。
明日は46時間TVの最終日で、終盤には29枚目シングルの初披露もあるからだ。
(明日も朝早いんだよなぁ…お風呂に入ってすぐ休もうっと…)
浴槽にお湯を溜めている間、私はまたかっきーとのことを思い出していた。
ずっとイラストを描き続けて疲れているかっきーが心配だったから、帰り際に様子を見に行って…
なんでもいいから私もかっきーの力になりたいと思って、気付いたら抱きしめていて…
そして、目をつむって顔を見せてと言われたので言う通りにしたら…
かっきーの唇と私の唇が、触れていた…
(あのキスって……どういう意味だったんだろう…?)
そういえばキスの後、かっきーが何か言いかけていたんだった。
今まで忘れていたのは、一緒にバスで帰るみんなを待たせたくなくて慌てて会場をあとにしたから、というのもある。
それ以上に、私にとっては人生初のキスだったから、その衝撃が何よりも大きかったからだ。
(何を言いかけていたのか、かっきーにLINEして聞いてみようかな…)
でも、電視台の企画で絵を描き続けているかっきーは私以上に疲れてるはずだ。
こんな夜遅くに連絡して、休む時間を奪いたくない。
そんなことをぼんやりと考えていると、お風呂にお湯が溜まったことを知らせる音楽が流れる。
(かっきーが何を言おうとしていたのかは分からないけど…お風呂に入れば少しはスッキリするかな)
私はいつものように、お風呂にゆっくり入って体を休めることにした。
お風呂から出て髪を乾かし、肌のケアを手早く済ませてリビングのソファへ戻ってきた。
明日のアラームをかけようとスマホを手に取ると、LINEに通知マークが付いていることに気付く。
(もしかして…かっきーから…?)
少し緊張しながら、黄緑色のアイコンをタップしてみる。
(あ…なんだ…かっきーじゃなかった…)
がっかりしちゃったのは申し訳ないけど、LINEの送り主は今夜かっきーを車で送り届けていった女性のマネージャーさんだ。
内容は明日の入り時間とかタイムテーブルとかの最終確認で、よくある業務連絡。
いつものように「了解です」とだけ入力して送信ボタンを押す、つもりだったけど。
(かっきー、あの後すぐに帰れたのかな…今ごろ家に着いて休んでるといいけど…)
気になった私は、一文を付け加えてからマネージャーさんに返信した。
さくLINE「了解です。そういえば、かっきーってもう家に着いてますか?」
それだけ送り、返事を待ってる間に明日の準備をするためにいったんテーブルにスマホを置く。
すると、すぐにスマホの着信が鳴った。
マネージャーさんからだ。
(え…?普通にLINEのトークで返ってくると思ってたのに…なんだろう…?)
さくら「もしもし、おつかれさまです」
マネ「おつかれさま~。ごめんねこんな遅くに」
さくら「いえ、全然、大丈夫です。何かありましたか?」
マネ「いや、大したことじゃないんだけどさ…さくちゃん、今日、帰る前にかっきーとなんかあった?」
さくら「えっ…?!」
心臓がドクンっと音を立てて鳴った、ような気がした。
(もしかして、マネージャーさんに見られてた…?)
いや、それはないはずだ。
マネージャーさんがスタジオに入って来たのは、かっきーと私の唇が離れた後だったはず。
さくら「いえ…あの…別に何もなかったですよ…?」
マネ「そっか~。いや、かっきーも帰りの車の中でさくちゃんのこと私に訊いてきたからさ。それに、なんだかぼーっと考え事しちゃってる感じで。もしかしたら、ケンカでもしちゃって気まずい感じなのかな~って…」
さくら「いやいや、そんな、かっきーとケンカなんて、これまでだって一度もないですから」
マネ「そうよね。二人が仲良いのは私も知ってるし。ごめんね変なこと訊いて。あっ、そうそう、かっきーなら私がちゃんと家まで送っていったから安心して。15分くらい前かな。」
(よかった…じゃあ、今日はゆっくり休めるよね…)
さくら「そうですか、だったら良いんです。安心しました。わざわざありがとうございます」
マネ「うん。かっきーもだけど、さくちゃん、あなたもゆっくり休むんだよ?」
さくら「はい、そうですよね。今日はもう休みますね。それじゃ、おやすみなさ……あっ…!あのっ!」
マネ「ん?どうかした?」
さくら「さっき、かっきーも私のこと訊いてきたって……それって、どんなこと言ってましたか?」
マネ「え~と、なんだったかな…たいしたことじゃなかったような気がするけど…あっ、そうそう。さくちゃんのマンションの近くを通ったときだったかな。そういえばさくちゃんが住んでるのってこの辺でしたよね?とか。あと、さくちゃんの明日の入り時間も気にしてたかな」
(私の家の場所と、明日の入り時間…?なんでそんなことを気にしてたんだろう…?)
かっきーの意図は分からないけど、これ以上マネージャーさんに探りを入れるのも変に思われてしまうだろう。
私は改めて別れの挨拶を済ませると、通話を切った。
私は、仕事場に出やすいように都心に住ませてもらっている。
かっきーも同じだったはずだ。
お互いの部屋に遊びに行ったことはないので正確な場所までは分からないが、そう遠くはなかったはず。
(なんだろう…もしかして、かっきーも私のこと心配してくれてたのかな…?今頃うちに着いてるのかな、って…)
明日の入り時間を気にしてたのは不思議だけど、一緒に活動してるメンバーだし、話の流れでマネージャーさんに訊いてみるのも珍しいことじゃない。
私は時計を見た。
明日起きる時間のことを考えると、そろそろ寝たほうが良い時間だ。
明日の準備をささっと済ませると、私はベッドに入って明かりを消した。
(かっきーのことは気になるけど…明日また会えるし…でも、どんな顔で会えばいいかな……普通に挨拶、できる…かな……)
考えたいことはあったけど、体の疲れには逆らえなかった。
私は、スタジオでかっきーを抱きしめたときの華奢な体、かっきーの髪の香り、そして、柔らかかった唇を思い出しながら、眠りに付いた…
・・・・・・・・・・・・
翌朝。
私は明け方に目が覚めた。
目覚ましで起きたわけではなかった。
いま何時だろうと思ってスマホの画面を点けると、LINEの通知があった。
(ん……誰だろう…またマネージャーさんかな…?)
トーク画面を開き、いちばん上にある名前を確認する。
「えっ…?!」
私は、思わず体を起こしてしまった。
送り主は、かっきーだった。
時間を見ると、送られてきたのはついさっき。
(かっきー、いま起きてるんだ…)
私は、ドキドキしながらかっきーからのLINEを開いた。
~続く~
「ゆっくり休むんだよ~」
生配信の会場から都内の自宅まで、ロケバスで送ってもらった。
まだ車内に残っていたメンバーに見送られて、私はバスを降りる。
地方出身組の私は、このグループで活動するために愛知から一人で上京してきた。
だから今は、都内のマンションで一人暮らし。
部屋に着いて早速、ソファで横になる。
生配信番組に2日続けて出演したので、体は疲れ切っていた。
動くのも億劫だったが、だらだらと時間を無駄にするわけにはいかない。
明日は46時間TVの最終日で、終盤には29枚目シングルの初披露もあるからだ。
(明日も朝早いんだよなぁ…お風呂に入ってすぐ休もうっと…)
浴槽にお湯を溜めている間、私はまたかっきーとのことを思い出していた。
ずっとイラストを描き続けて疲れているかっきーが心配だったから、帰り際に様子を見に行って…
なんでもいいから私もかっきーの力になりたいと思って、気付いたら抱きしめていて…
そして、目をつむって顔を見せてと言われたので言う通りにしたら…
かっきーの唇と私の唇が、触れていた…
(あのキスって……どういう意味だったんだろう…?)
そういえばキスの後、かっきーが何か言いかけていたんだった。
今まで忘れていたのは、一緒にバスで帰るみんなを待たせたくなくて慌てて会場をあとにしたから、というのもある。
それ以上に、私にとっては人生初のキスだったから、その衝撃が何よりも大きかったからだ。
(何を言いかけていたのか、かっきーにLINEして聞いてみようかな…)
でも、電視台の企画で絵を描き続けているかっきーは私以上に疲れてるはずだ。
こんな夜遅くに連絡して、休む時間を奪いたくない。
そんなことをぼんやりと考えていると、お風呂にお湯が溜まったことを知らせる音楽が流れる。
(かっきーが何を言おうとしていたのかは分からないけど…お風呂に入れば少しはスッキリするかな)
私はいつものように、お風呂にゆっくり入って体を休めることにした。
お風呂から出て髪を乾かし、肌のケアを手早く済ませてリビングのソファへ戻ってきた。
明日のアラームをかけようとスマホを手に取ると、LINEに通知マークが付いていることに気付く。
(もしかして…かっきーから…?)
少し緊張しながら、黄緑色のアイコンをタップしてみる。
(あ…なんだ…かっきーじゃなかった…)
がっかりしちゃったのは申し訳ないけど、LINEの送り主は今夜かっきーを車で送り届けていった女性のマネージャーさんだ。
内容は明日の入り時間とかタイムテーブルとかの最終確認で、よくある業務連絡。
いつものように「了解です」とだけ入力して送信ボタンを押す、つもりだったけど。
(かっきー、あの後すぐに帰れたのかな…今ごろ家に着いて休んでるといいけど…)
気になった私は、一文を付け加えてからマネージャーさんに返信した。
さくLINE「了解です。そういえば、かっきーってもう家に着いてますか?」
それだけ送り、返事を待ってる間に明日の準備をするためにいったんテーブルにスマホを置く。
すると、すぐにスマホの着信が鳴った。
マネージャーさんからだ。
(え…?普通にLINEのトークで返ってくると思ってたのに…なんだろう…?)
さくら「もしもし、おつかれさまです」
マネ「おつかれさま~。ごめんねこんな遅くに」
さくら「いえ、全然、大丈夫です。何かありましたか?」
マネ「いや、大したことじゃないんだけどさ…さくちゃん、今日、帰る前にかっきーとなんかあった?」
さくら「えっ…?!」
心臓がドクンっと音を立てて鳴った、ような気がした。
(もしかして、マネージャーさんに見られてた…?)
いや、それはないはずだ。
マネージャーさんがスタジオに入って来たのは、かっきーと私の唇が離れた後だったはず。
さくら「いえ…あの…別に何もなかったですよ…?」
マネ「そっか~。いや、かっきーも帰りの車の中でさくちゃんのこと私に訊いてきたからさ。それに、なんだかぼーっと考え事しちゃってる感じで。もしかしたら、ケンカでもしちゃって気まずい感じなのかな~って…」
さくら「いやいや、そんな、かっきーとケンカなんて、これまでだって一度もないですから」
マネ「そうよね。二人が仲良いのは私も知ってるし。ごめんね変なこと訊いて。あっ、そうそう、かっきーなら私がちゃんと家まで送っていったから安心して。15分くらい前かな。」
(よかった…じゃあ、今日はゆっくり休めるよね…)
さくら「そうですか、だったら良いんです。安心しました。わざわざありがとうございます」
マネ「うん。かっきーもだけど、さくちゃん、あなたもゆっくり休むんだよ?」
さくら「はい、そうですよね。今日はもう休みますね。それじゃ、おやすみなさ……あっ…!あのっ!」
マネ「ん?どうかした?」
さくら「さっき、かっきーも私のこと訊いてきたって……それって、どんなこと言ってましたか?」
マネ「え~と、なんだったかな…たいしたことじゃなかったような気がするけど…あっ、そうそう。さくちゃんのマンションの近くを通ったときだったかな。そういえばさくちゃんが住んでるのってこの辺でしたよね?とか。あと、さくちゃんの明日の入り時間も気にしてたかな」
(私の家の場所と、明日の入り時間…?なんでそんなことを気にしてたんだろう…?)
かっきーの意図は分からないけど、これ以上マネージャーさんに探りを入れるのも変に思われてしまうだろう。
私は改めて別れの挨拶を済ませると、通話を切った。
私は、仕事場に出やすいように都心に住ませてもらっている。
かっきーも同じだったはずだ。
お互いの部屋に遊びに行ったことはないので正確な場所までは分からないが、そう遠くはなかったはず。
(なんだろう…もしかして、かっきーも私のこと心配してくれてたのかな…?今頃うちに着いてるのかな、って…)
明日の入り時間を気にしてたのは不思議だけど、一緒に活動してるメンバーだし、話の流れでマネージャーさんに訊いてみるのも珍しいことじゃない。
私は時計を見た。
明日起きる時間のことを考えると、そろそろ寝たほうが良い時間だ。
明日の準備をささっと済ませると、私はベッドに入って明かりを消した。
(かっきーのことは気になるけど…明日また会えるし…でも、どんな顔で会えばいいかな……普通に挨拶、できる…かな……)
考えたいことはあったけど、体の疲れには逆らえなかった。
私は、スタジオでかっきーを抱きしめたときの華奢な体、かっきーの髪の香り、そして、柔らかかった唇を思い出しながら、眠りに付いた…
・・・・・・・・・・・・
翌朝。
私は明け方に目が覚めた。
目覚ましで起きたわけではなかった。
いま何時だろうと思ってスマホの画面を点けると、LINEの通知があった。
(ん……誰だろう…またマネージャーさんかな…?)
トーク画面を開き、いちばん上にある名前を確認する。
「えっ…?!」
私は、思わず体を起こしてしまった。
送り主は、かっきーだった。
時間を見ると、送られてきたのはついさっき。
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私は、ドキドキしながらかっきーからのLINEを開いた。
~続く~
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