さくらと遥香

youmery

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46時間TV 編

46時間TV 2〜聞きそびれた言葉〜

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かっきーの唇が私の唇に重ねられてから、どれくらい経ったんだろう。

ほんの一瞬な気もするのに、10秒くらい経ったような気もする。

私から動くことも出来ないままじっと待っていると、かっきーの唇がそっと離れた。

かっきーがどんな表情をしているのか、すごく気になる。

でも、恥ずかしくてかっきーの目をまっすぐ見れない。

かと言ってどこに目線を合わせたらいいのか分からないので、かっきーの唇をじっと見つめる。

私の唇にまだその感触が残っている、かっきーの唇。

(かっきーの唇って、こんな形だったんだ…)

4期生としてデビューして、もう3年以上。

一緒に活動することも多かったかっきーの顔の一部なんだから、唇なんてもうとっくに見慣れている。

でも、見慣れた唇から「その柔らかさを知ってしまった唇」になっただけで、これまでとは比べものにならない存在感がある。

(下唇がちょっと厚くて…柔らかそうで……実際、柔らかかったし…)

「…さくちゃん…」

「えっ…?うん…」

なんて言ったらいいか分からない。

けど、声をかけられたのがきっかけになって、やっとかっきーの目を見れた。

いつもより眠そうで、疲れてる顔。

でも、それだけじゃなくて。

恥ずかしいような、申し訳なさそうな、慌ててるような、トロンとしてるような。

見たことのない顔をしていて、感情が読み取れない顔だった。

「さくちゃん…あのね…わたし……」

何かを言いたそうにしているかっきー。

かっきーの唇がどう動いて、どんな言葉を発してくれるのか。

私は、静かなスタジオの中で全神経をかっきーに向けて待っていた。

でも……

「あーいたいた!さくちゃーん!さくちゃんもバスで帰るんでしょ?!もうみんなバスに向かってるよー!!」

スタジオに入ってくるなり静寂を破ったのは、女性のマネージャーさんだった。

バスで帰るはずだったのに着替えに来ない私を探しに来たんだ。

さくら「あっ!!すみませんっ!!ちょっと、かっきーが疲れてないか心配で…」

「かっきーなら今日は私が家まで送っていくから!かっきーもほら、今夜はそんなに無理しちゃダメだから、もうぼちぼち切り上げてね!準備できたら電話ちょーだい!」

遥香「えっ?!あっ、はいっ…」

あっという間に、場の空気がマネージャーさんのペースになってしまった。

もうここにはいられない。

かっきーの言葉の続きは気になるけど、バスで帰る他のメンバーを待たせるわけにはいかなかった。

さくら「じゃあ、かっきー…また明日、ね…?」

遥香「うん…さくちゃん、また明日…」

マネージャーさんに急かされて、楽屋までダッシュで向かった。

楽屋にはもう誰も残っていなかった。

深夜の配信に出るメンバーの荷物が残っているだけだ。

私は、グループの制服から私服に大急ぎで着替える。

私物をカバンに詰め込んで忘れ物がないことだけ確認すると、バタバタと楽屋を出てバスへ走った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「あー、さくちゃんやっと来たー。なかなか来ないから心配したよー」

さくら「はぁ…はぁ…すみません…遅くなっちゃって…」

バスに着くと、先輩たちと同期たちが迎えてくれた。

どうやら、みんなそれぞれの座席に着いてくつろぎ始めたくらいのタイミングだったようだ。

(よかった…そんなに待たせずに済んだみたい…)

「ってさくちゃん、顔真っ赤じゃん。もー、そんなに急がなくても大丈夫だったのに」

さくら「えっ…うそっ…そんなに?」

「あっ、しかもさくちゃん、その服、ボタンかけ違えてない?」
「ほんとだー。どんだけ慌てて着替えたのよー、かわいいなぁ」

さくら「あはは、ほんとだ…はずかし…」

「そういえばさくちゃん今日は司会もやって大変だったもんね。おつかれさまー」

さくら「ううん…大変だったのはみんなも同じだよ。特に、ほら…」

(かっきーは特に頑張ってて大変そうだった)

そう言おうとしたけど、かっきーの名前を出そうと思ったらさっきのキスを思い出してしまい、言葉に詰まってしまった。

さくら「ーーほら、電視台やったメンバーとか…特に大変だったんじゃないかな…」

「うんうん、そうだよねー」
「私の電視台明日だよー…ちゃんと喋れるかすごい心配…」
「なにやるんだっけ?あっまだ秘密なんだ?」

みんなの話題が私から他のメンバーに移ってくれたので、ようやく私も適当な席に着いた。

バスまで走ってきたせいで、まだ胸がドキドキしてる。

しばらくはいつも通り賑やかな車内だったが、みんな2日目の配信を終えて疲れていたのだろう。

バスが動き出して間もなく、車内の喋り声はすぐにおさまった。

でも、私の胸のドキドキだけはいつまで経ってもおさまらなかった。

原因は分かっていた。

私は窓に映る夜景を眺めながら、かっきーの唇の感触を何度も何度も思い出していたから…

~続く~
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