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付き合い始めた2人 編
あすぴーさんの直感
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かっきーと付き合い始めてから変わったことが、もう一つあった。
グループ全体のお仕事の現場で、かっきーとの接し方に少し気を使うようになったこと。
私とかっきーの関係が他のメンバーに気付かれないように意識すると、そうなってしまう。
これまで通り接していればみんなから注目されることはない。
でも、その「これまで通り」が今となっては分からない。
どれくらいの距離で、どれくらい触れあって、どれくらい会話してたか。
これまで意識せずにやっていたことを意識して再現しようとするのは、とても難しい。
結局、慎重に接しなきゃと思うあまり、なんとなくかっきーを避けるようになってしまっていた。
かっきーがどこで誰と一緒にいるか気になることはあるけど、かっきーばっかり目線で追うのも不自然だし。
そして、以前と接し方を変えているのは多分かっきーのほうも同じで。
私はその変化を、ほんの少しだけ切なく感じることがあった。
そんな頃、10周年のバースデーライブのリハーサル期間が始まった。
・・・・・・・・・・・・・・
ライブのリハーサル中は、ステージの様子が舞台裏のモニターで常に流れている。
自分が出演しない曲のリハ中は、振り付けの確認や休憩をしながらモニターを見るメンバーも多い。
だから私も、モニターに映るかっきーなら堂々と見ていられる。
リハ中のステージを見ていることにすれば、周りの目をごまかせるから。
今は、かっきーが参加するユニット曲のリハーサル中だった。
(ステージに立ってるかっきー、良いなぁ…キラキラしてて、華があって…それなのにたまに切ない表情も見せてくれて……あぁ~もう、好きっ、大好きっ…!!)
そんなことを考えながら、モニターに映るかっきーに夢中になっていたらしい。
後方から近付いてきた誰かに、いきなり抱きつかれた。
がしっ…!
??「えんぴーせんせ~~」
私の腰まわりをゆるくホールドする、華奢な腕。
どこか気だるそうな声。
そして、私を呼ぶ時の独特なあだ名。
ここまで条件が揃えば、当てはまる人は世界中で1人しかいない。
さくら「飛鳥さん。おつかれさまです」
飛鳥「おつかれ~。えんちゃんの出番、これの次だっけ?」
「ええと、次の次、ですね。今やってるのがここなので、、」
「あぁ~そっかそっか。だから今かっきーが出てるのか」
以前はえんぴーと呼んでくれていたけど、最近はえんちゃんのほうが増えてきた。どちらにしろ、私を名字のほうのあだ名で呼んでくれるめずらしい先輩だ。
壁に貼ってある今日の進行表を見ながら、飛鳥さんとリハの進み具合を確かめ合う。
飛鳥さんはグループ結成当時から活動している1期生で、私たち4期生にとっては大先輩だ。
そして、私にとって特別な先輩の一人。
この人に、これまで私が何度救われたか分からない。
例えば、2度目のセンターに選んでもらった曲のMV撮影があった日。
プレッシャーに押しつぶされそうで余裕がなくなり、涙が止まらなくなった私に気付いてくれたのも飛鳥さんだった。
こつちがどんなに追い詰められていても決して深刻そうな顔はせず、いつも通りゆるい空気をまとって近付いてくる人。
でも、その裏に深い優しさがあることを私はとっくに知っている。
飛鳥さんは私の背中にくっついたまま、私の肩越しにモニターを見ていた。
他人とは一定の距離を保っているように見える反面、今みたいに激しめのスキンシップをしてくれることもある。
優しくて、ちょっぴり謎に包まれてて、大好きな先輩。
飛鳥「そういえば、かっきーとえんちゃんってさぁ…」
さくら「えっ…?……私とかっきーが、どうかしました…?」
かっきーの名前と私の名前が続けて呼ばれて、ドキッとした。
「なんか最近、あんまり2人で話してるの見なくなったなーって……んなことない?」
さきほどよりも大きく、心臓がドキッと鳴った。
「いや、普通、ですよ…?いつも通りです。ほら、かっきーっていろんな子にモテるから…4期生とか特に」
「あー、たしかにね。かっきーはモテてるわ」
「私は、そうやってかっきーを中心にいろんな子が仲良くしてるのを眺めてる、っていうのが好きなので……前からそんな感じですよ」
「うーん、そっかぁ。なんとなく、2人の距離感がちょっとだけ変わったのかなぁって感じがしてたけど。考え過ぎだったかな?」
「そう、ですね。飛鳥さん、私たちのこと気にしててくれたんですか?」
「いや、ちょっと前からね。46時間TVの頃かな?」
46時間TVといえば、私とかっきーが付き合い始めた日だ。
(……時期まで当ててくるなんて……さすが飛鳥さん…)
「いや、別に、何もなかったですよ?あの頃も、今も…」
飛鳥さんは昔から、後輩のことをあんまり見てないようでちゃんと見てくれてる人だ。
それに、グループで活動してきた経験が長いから、見てるつもりはなくてもメンバー同士の関係性の変化を直感で感じ取ってしまうのか。
「でもえんちゃん、なんか抱えてることがあったらちゃんと私には話すんだよ~?約束したでしょ?」
「はいっ…ありがとうございます、あすぴーさん♪」
「おー、よろしいよろしい」
そう言って、飛鳥さんはまたどこかへ行ってしまった。
飛鳥さんの優しさと頼もしさに、胸が熱くなる。
私は、いや、私も含めて4期生みんな、先輩には本当に恵まれている。
(かっきーとのこと、飛鳥さんだけには打ち明けてもいいのかな…いやでも、私一人じゃ決められないし…やっぱりしばらく秘密にしておいたほうがいいか…)
そのうちかっきーに相談してみよう。
その件はとりあえず保留にして、私はモニターの中のかっきーに再び熱い眼差しを向けるのだった。
~続く~
グループ全体のお仕事の現場で、かっきーとの接し方に少し気を使うようになったこと。
私とかっきーの関係が他のメンバーに気付かれないように意識すると、そうなってしまう。
これまで通り接していればみんなから注目されることはない。
でも、その「これまで通り」が今となっては分からない。
どれくらいの距離で、どれくらい触れあって、どれくらい会話してたか。
これまで意識せずにやっていたことを意識して再現しようとするのは、とても難しい。
結局、慎重に接しなきゃと思うあまり、なんとなくかっきーを避けるようになってしまっていた。
かっきーがどこで誰と一緒にいるか気になることはあるけど、かっきーばっかり目線で追うのも不自然だし。
そして、以前と接し方を変えているのは多分かっきーのほうも同じで。
私はその変化を、ほんの少しだけ切なく感じることがあった。
そんな頃、10周年のバースデーライブのリハーサル期間が始まった。
・・・・・・・・・・・・・・
ライブのリハーサル中は、ステージの様子が舞台裏のモニターで常に流れている。
自分が出演しない曲のリハ中は、振り付けの確認や休憩をしながらモニターを見るメンバーも多い。
だから私も、モニターに映るかっきーなら堂々と見ていられる。
リハ中のステージを見ていることにすれば、周りの目をごまかせるから。
今は、かっきーが参加するユニット曲のリハーサル中だった。
(ステージに立ってるかっきー、良いなぁ…キラキラしてて、華があって…それなのにたまに切ない表情も見せてくれて……あぁ~もう、好きっ、大好きっ…!!)
そんなことを考えながら、モニターに映るかっきーに夢中になっていたらしい。
後方から近付いてきた誰かに、いきなり抱きつかれた。
がしっ…!
??「えんぴーせんせ~~」
私の腰まわりをゆるくホールドする、華奢な腕。
どこか気だるそうな声。
そして、私を呼ぶ時の独特なあだ名。
ここまで条件が揃えば、当てはまる人は世界中で1人しかいない。
さくら「飛鳥さん。おつかれさまです」
飛鳥「おつかれ~。えんちゃんの出番、これの次だっけ?」
「ええと、次の次、ですね。今やってるのがここなので、、」
「あぁ~そっかそっか。だから今かっきーが出てるのか」
以前はえんぴーと呼んでくれていたけど、最近はえんちゃんのほうが増えてきた。どちらにしろ、私を名字のほうのあだ名で呼んでくれるめずらしい先輩だ。
壁に貼ってある今日の進行表を見ながら、飛鳥さんとリハの進み具合を確かめ合う。
飛鳥さんはグループ結成当時から活動している1期生で、私たち4期生にとっては大先輩だ。
そして、私にとって特別な先輩の一人。
この人に、これまで私が何度救われたか分からない。
例えば、2度目のセンターに選んでもらった曲のMV撮影があった日。
プレッシャーに押しつぶされそうで余裕がなくなり、涙が止まらなくなった私に気付いてくれたのも飛鳥さんだった。
こつちがどんなに追い詰められていても決して深刻そうな顔はせず、いつも通りゆるい空気をまとって近付いてくる人。
でも、その裏に深い優しさがあることを私はとっくに知っている。
飛鳥さんは私の背中にくっついたまま、私の肩越しにモニターを見ていた。
他人とは一定の距離を保っているように見える反面、今みたいに激しめのスキンシップをしてくれることもある。
優しくて、ちょっぴり謎に包まれてて、大好きな先輩。
飛鳥「そういえば、かっきーとえんちゃんってさぁ…」
さくら「えっ…?……私とかっきーが、どうかしました…?」
かっきーの名前と私の名前が続けて呼ばれて、ドキッとした。
「なんか最近、あんまり2人で話してるの見なくなったなーって……んなことない?」
さきほどよりも大きく、心臓がドキッと鳴った。
「いや、普通、ですよ…?いつも通りです。ほら、かっきーっていろんな子にモテるから…4期生とか特に」
「あー、たしかにね。かっきーはモテてるわ」
「私は、そうやってかっきーを中心にいろんな子が仲良くしてるのを眺めてる、っていうのが好きなので……前からそんな感じですよ」
「うーん、そっかぁ。なんとなく、2人の距離感がちょっとだけ変わったのかなぁって感じがしてたけど。考え過ぎだったかな?」
「そう、ですね。飛鳥さん、私たちのこと気にしててくれたんですか?」
「いや、ちょっと前からね。46時間TVの頃かな?」
46時間TVといえば、私とかっきーが付き合い始めた日だ。
(……時期まで当ててくるなんて……さすが飛鳥さん…)
「いや、別に、何もなかったですよ?あの頃も、今も…」
飛鳥さんは昔から、後輩のことをあんまり見てないようでちゃんと見てくれてる人だ。
それに、グループで活動してきた経験が長いから、見てるつもりはなくてもメンバー同士の関係性の変化を直感で感じ取ってしまうのか。
「でもえんちゃん、なんか抱えてることがあったらちゃんと私には話すんだよ~?約束したでしょ?」
「はいっ…ありがとうございます、あすぴーさん♪」
「おー、よろしいよろしい」
そう言って、飛鳥さんはまたどこかへ行ってしまった。
飛鳥さんの優しさと頼もしさに、胸が熱くなる。
私は、いや、私も含めて4期生みんな、先輩には本当に恵まれている。
(かっきーとのこと、飛鳥さんだけには打ち明けてもいいのかな…いやでも、私一人じゃ決められないし…やっぱりしばらく秘密にしておいたほうがいいか…)
そのうちかっきーに相談してみよう。
その件はとりあえず保留にして、私はモニターの中のかっきーに再び熱い眼差しを向けるのだった。
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