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Wセンター 編
肩
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かっきーがすっかり泣き止んで、傾いた夕日が部屋へ差し込んできた頃、、
「さくちゃん、もう一個もらってもいい?いっぱい泣いたら、おなか空いちゃった。えへへ」
「いいよ、好きなだけ食べて?風邪の予防にもなるし。私も、もう一個食べようかな」
ベッドに並んで腰掛けていた私たちは、二人一緒にみかんを食べていた。
かっきーの部屋へ来る途中に寄った果物屋さんで、お土産に買ったみかん。なぜか私は寒い時期のみかんに絶大な信頼を寄せていて、自分でもよく食べるし、人にもすすめたくなる。ファンの皆さん向けのトークではみかんだけの写真を送ってしまうくらいだ(きっと呆れられているんだろな…)。
そのみかんを口いっぱいに頬張ってもぐもぐするかっきーが、可愛い。
「こうしてると、年末の収録を思い出すね。さくちゃんと2人でみかん食べたり、おせんべい食べたり……」
「ふふ、そうだね。お仕事なのに、あんなにのんびりさせてもらってよかったのかな」
私たちが懐かしんでいたのは、年末に収録した動画だった。こたつで私とかっきーがまったりするだけの企画で、申し訳ないくらい自由な時間を過ごさせてもらった。
この冬の良い思い出の一つだ。
「私ね、いつかグループを卒業したら、さくちゃんと2人だけであんなふうに年末を過ごせるのかなって考えてて。グループのみんなで慌ただしく過ごすのも良いけど、さくちゃんとのんびり過ごすのもすごく幸せだろうな、って」
「うん……実は、私もそんなこと考えてた。こたつでのんびりしながらみかん食べて、年末の歌番組に出てる後輩たちを応援して」
「おー、それもいいね。振り覚えてたら、テレビ見ながら一緒に踊ったりしてね」
「えへへ、かっきーそれほんとにやりそう」
「えー?さくちゃんも一緒に踊ろうよ」
「いやー、私はたぶん卒業したら振りとかすぐ忘れちゃうよ~。元々どんくさいし」
こうやって、卒業後の話に花を咲かせるのも楽しい。
それに、卒業後の未来が当たり前のように"2人の未来"になっている。
かっきーの未来に、私もいる。なんて幸せなんだろう。
「でもさ、そうやって過ごすのは、もう少し先な気がするんだ。なんていうか、私も美月さんみたいに『アイドルやり切ったぞ!』って自信を持って卒業発表したいから」
「そうだね。カッコいいよね、『やり切った』とか『悔いはない』って言い切れるのって」
これまで卒業していった先輩たち。それに、同期も。
みんな、しっかり前を向いて卒業していった。それぞれが思い描いていたアイドル像とは違うことだってたくさんあったはずなのに。それでも、次のステージへ進んでいく決意をしたその背中は、力強くて、美しかった。
もしも今の私が卒業を決めたとして、あんな背中を見せられるだろうか。たぶん、無理だ。全然自信がない。
だからきっと、まだその時じゃないんだと思う。かっきーが言うように、その未来はもう少し先なんだ。
「私、美月さんが卒業するって聞いた日に、少しお話をさせてもらったんだよね」
「……うん」
35thシングルの選抜発表があった日だ。
あの日かっきーが美月さんと話したことは、私も美月さんから聞いている。
「あの時、実はさ、、美月さんから『これからもグループで頑張れそう?』って聞かれた時に、私、答えられなくてね……それがすごく、申し訳なくて、悔しくて、情けなくて……」
「かっきー……」
「でも、今なら大丈夫。これからもこのグループで頑張ります、安心してて見ててください、って。美月さんにちゃんと言える」
「そっか。いつかかっきーの言葉で、美月さんに直接伝えられたらいいね」
「うん。美月さんが卒業する前には、絶対に伝えたい。さくちゃん、ありがとね。今日さくちゃんが来てくれて、嬉しい言葉も聞けて、たくさん泣いたら、、なんか吹っ切れた」
「ううん、私は何も。かっきーはちゃんと自分で立ち上がったんだよ」
「さくちゃん…」
かっきーの左手が、私の右手をきゅっと握り締める。私も、同じ力で握り返す。
「ねぇ、かっきー。それでも、もしもまた不安になったり疲れちゃったりしたら……いつでも甘えてね?」
左手で自分の右肩をポンポンと叩く。
「さくちゃん、もしかして覚えててくれたの?肩の話…」
「当たり前じゃん。私の肩だったら、かっきーはいつでもどこでも独り占めしていいって宣言したもん」
「えへへ、じゃあ、今日もさくちゃんの肩をMonopolyしちゃおうかな…」
「どうぞどうぞ♪ちょっと低いかもだけど」
私の右肩に、かっきーが頭をちょこんと乗せてくれる。
もっと思いっきり乗せてくれたっていいのに。その重さからは、ほんの少しの遠慮が伝わってくる。それが、とてもかっきーらしくて、たまらなく愛おしい。
「あの、かっきー……今だったら、肩以外もMonopolyしてくれていいんだけど……」
「……え?」
「いや、だって、ほら……2人きりだし……」
つい口が滑ったのは、愛おしさが溢れてしまったせいだ。そういうことにしておこう。
「えっ…と……じゃあ、さくちゃん……と、、泊まってく?」
「う、うん…………ふふっ」
「えへへ……なんか、初めてのお泊まりみたいだね」
お互いのあまりのぎこちなさがおかしくって、ほぼ同時に笑った。
かっきーは、私の部屋へ泊まりに来るのには慣れていても、お泊まりに誘うのは全然慣れていないみたい。
そういう私も、付き合い始めてもう2年が経とうとしているのに、いまだに変な場面で緊張しちゃう。
でもきっと、こうやっていつまでも初々しさが抜け切らないところが、私たちにしか出せない空気感というやつを生んでいるのかもしれない。ダブルセンターをやらせてもらったシングルにも、そんな空気感が出てたらいいな……
~~~~~~~~~
結局この日の夜は、肩以外にも"あんなところ"や"こんなところ"までかっきーに独り占めしてもらった。
いつも通りかっきーにたくさん愛された、といえばそれだけのことなんだけど。
この日は、初めてかっきーの部屋で肌を重ねたからだろうか。
お布団からも枕からもかっきーの香りを感じながらたっぶり愛された私は感度が上がっていたようで……
初めて達してしまったらしい。
知らない世界に飛び込むようで不安だったけど、かっきーはずっと私の手を握ったり、髪の毛を優しく撫でたりしてくれていた。だから恐怖はなくて、むしろ天に昇るような感覚だった。
それに、達するその瞬間は全身を強く抱き締めてくれて、それが嬉しくて、頼もしくて、たまらなく愛おしくて。
かっきーで良かった、と思った。
人生で初めてキスをして、
初めてお付き合いをして、
初めて身体も結ばれて、
初めて一緒にダブルセンターに選ばれて、
そして、これから先もずっと一緒にいたいと思える。
その全ての相手がかっきーで、本当に良かった。
~続く~
「さくちゃん、もう一個もらってもいい?いっぱい泣いたら、おなか空いちゃった。えへへ」
「いいよ、好きなだけ食べて?風邪の予防にもなるし。私も、もう一個食べようかな」
ベッドに並んで腰掛けていた私たちは、二人一緒にみかんを食べていた。
かっきーの部屋へ来る途中に寄った果物屋さんで、お土産に買ったみかん。なぜか私は寒い時期のみかんに絶大な信頼を寄せていて、自分でもよく食べるし、人にもすすめたくなる。ファンの皆さん向けのトークではみかんだけの写真を送ってしまうくらいだ(きっと呆れられているんだろな…)。
そのみかんを口いっぱいに頬張ってもぐもぐするかっきーが、可愛い。
「こうしてると、年末の収録を思い出すね。さくちゃんと2人でみかん食べたり、おせんべい食べたり……」
「ふふ、そうだね。お仕事なのに、あんなにのんびりさせてもらってよかったのかな」
私たちが懐かしんでいたのは、年末に収録した動画だった。こたつで私とかっきーがまったりするだけの企画で、申し訳ないくらい自由な時間を過ごさせてもらった。
この冬の良い思い出の一つだ。
「私ね、いつかグループを卒業したら、さくちゃんと2人だけであんなふうに年末を過ごせるのかなって考えてて。グループのみんなで慌ただしく過ごすのも良いけど、さくちゃんとのんびり過ごすのもすごく幸せだろうな、って」
「うん……実は、私もそんなこと考えてた。こたつでのんびりしながらみかん食べて、年末の歌番組に出てる後輩たちを応援して」
「おー、それもいいね。振り覚えてたら、テレビ見ながら一緒に踊ったりしてね」
「えへへ、かっきーそれほんとにやりそう」
「えー?さくちゃんも一緒に踊ろうよ」
「いやー、私はたぶん卒業したら振りとかすぐ忘れちゃうよ~。元々どんくさいし」
こうやって、卒業後の話に花を咲かせるのも楽しい。
それに、卒業後の未来が当たり前のように"2人の未来"になっている。
かっきーの未来に、私もいる。なんて幸せなんだろう。
「でもさ、そうやって過ごすのは、もう少し先な気がするんだ。なんていうか、私も美月さんみたいに『アイドルやり切ったぞ!』って自信を持って卒業発表したいから」
「そうだね。カッコいいよね、『やり切った』とか『悔いはない』って言い切れるのって」
これまで卒業していった先輩たち。それに、同期も。
みんな、しっかり前を向いて卒業していった。それぞれが思い描いていたアイドル像とは違うことだってたくさんあったはずなのに。それでも、次のステージへ進んでいく決意をしたその背中は、力強くて、美しかった。
もしも今の私が卒業を決めたとして、あんな背中を見せられるだろうか。たぶん、無理だ。全然自信がない。
だからきっと、まだその時じゃないんだと思う。かっきーが言うように、その未来はもう少し先なんだ。
「私、美月さんが卒業するって聞いた日に、少しお話をさせてもらったんだよね」
「……うん」
35thシングルの選抜発表があった日だ。
あの日かっきーが美月さんと話したことは、私も美月さんから聞いている。
「あの時、実はさ、、美月さんから『これからもグループで頑張れそう?』って聞かれた時に、私、答えられなくてね……それがすごく、申し訳なくて、悔しくて、情けなくて……」
「かっきー……」
「でも、今なら大丈夫。これからもこのグループで頑張ります、安心してて見ててください、って。美月さんにちゃんと言える」
「そっか。いつかかっきーの言葉で、美月さんに直接伝えられたらいいね」
「うん。美月さんが卒業する前には、絶対に伝えたい。さくちゃん、ありがとね。今日さくちゃんが来てくれて、嬉しい言葉も聞けて、たくさん泣いたら、、なんか吹っ切れた」
「ううん、私は何も。かっきーはちゃんと自分で立ち上がったんだよ」
「さくちゃん…」
かっきーの左手が、私の右手をきゅっと握り締める。私も、同じ力で握り返す。
「ねぇ、かっきー。それでも、もしもまた不安になったり疲れちゃったりしたら……いつでも甘えてね?」
左手で自分の右肩をポンポンと叩く。
「さくちゃん、もしかして覚えててくれたの?肩の話…」
「当たり前じゃん。私の肩だったら、かっきーはいつでもどこでも独り占めしていいって宣言したもん」
「えへへ、じゃあ、今日もさくちゃんの肩をMonopolyしちゃおうかな…」
「どうぞどうぞ♪ちょっと低いかもだけど」
私の右肩に、かっきーが頭をちょこんと乗せてくれる。
もっと思いっきり乗せてくれたっていいのに。その重さからは、ほんの少しの遠慮が伝わってくる。それが、とてもかっきーらしくて、たまらなく愛おしい。
「あの、かっきー……今だったら、肩以外もMonopolyしてくれていいんだけど……」
「……え?」
「いや、だって、ほら……2人きりだし……」
つい口が滑ったのは、愛おしさが溢れてしまったせいだ。そういうことにしておこう。
「えっ…と……じゃあ、さくちゃん……と、、泊まってく?」
「う、うん…………ふふっ」
「えへへ……なんか、初めてのお泊まりみたいだね」
お互いのあまりのぎこちなさがおかしくって、ほぼ同時に笑った。
かっきーは、私の部屋へ泊まりに来るのには慣れていても、お泊まりに誘うのは全然慣れていないみたい。
そういう私も、付き合い始めてもう2年が経とうとしているのに、いまだに変な場面で緊張しちゃう。
でもきっと、こうやっていつまでも初々しさが抜け切らないところが、私たちにしか出せない空気感というやつを生んでいるのかもしれない。ダブルセンターをやらせてもらったシングルにも、そんな空気感が出てたらいいな……
~~~~~~~~~
結局この日の夜は、肩以外にも"あんなところ"や"こんなところ"までかっきーに独り占めしてもらった。
いつも通りかっきーにたくさん愛された、といえばそれだけのことなんだけど。
この日は、初めてかっきーの部屋で肌を重ねたからだろうか。
お布団からも枕からもかっきーの香りを感じながらたっぶり愛された私は感度が上がっていたようで……
初めて達してしまったらしい。
知らない世界に飛び込むようで不安だったけど、かっきーはずっと私の手を握ったり、髪の毛を優しく撫でたりしてくれていた。だから恐怖はなくて、むしろ天に昇るような感覚だった。
それに、達するその瞬間は全身を強く抱き締めてくれて、それが嬉しくて、頼もしくて、たまらなく愛おしくて。
かっきーで良かった、と思った。
人生で初めてキスをして、
初めてお付き合いをして、
初めて身体も結ばれて、
初めて一緒にダブルセンターに選ばれて、
そして、これから先もずっと一緒にいたいと思える。
その全ての相手がかっきーで、本当に良かった。
~続く~
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