担任教師と温泉旅行

麻婆

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日付が変わっても……

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 二人は、大きな岩に突っ伏して呼吸を整えていた。

「…は、激し過ぎるわよ……」

「ごめん。調子に乗りすぎた」

 自覚はあったので、耕平は素直に謝った。

「…でも、すごかった……あんなの、初めて……」

 余韻が渚の身体を甘く痺れさせている。

「ホントに自分の身体なのか、信じられない感じ……」

「先生がいい反応してくれるから、俺も頑張っちゃったよ」

 耕平が言うと、渚は不満げに頬を膨らませた。

「あれ?  何、その反応…」

 何かまずいことでも言っちまったか、と思った耕平だったが、心当たりは全くなかった。

「……呼び方」

「え?」

「…最後…イク時…渚、って名前で呼んでくれたのに……」

 大人の女性らしからぬ拗ねた顔。一見クールビューティー渚にこんな顔をされると、渚大好きな耕平は萌え上がってしまう。

「…そ、そうだったっけ……?」

 実ははっきり覚えていたのだが、耕平は咄嗟にとぼけてしまう。なんとなく照れ臭かったのだ。

 だが、渚がそれで納得するはずがない。

「名前で呼んで欲しい」

 渚はきっぱり言った。

 いつも「先生」としか呼んでくれない耕平が初めて「渚」と呼んでくれた時のあの満幸感。嵐のような性感に翻弄される中でもはっきり聞き取れた声。

 それまでも「先生じゃなくて名前で呼んで欲しい」と思うことはあったが、それほど執着してはいなかった。しかし、好きな相手に名前で呼ばれる心地よさを知ってしまったら、それ以外の呼び方など認められるはずがなかった。

 一方、耕平に渚を名前で呼びたい気持ちはもちろんあった。ただ、普段から名前で呼んでいると、学校でもふとした拍子に名前で呼んでしまうかもしれない。そうなった時に困るのは自分達だということで、あえて先生呼びをしていたのだ。先程のは、理性の箍が外れた結果の魂の叫びである。

 元々そう呼びたいのだから、渚の希望を拒む理由はない。

「わかったよ、渚ーーこれでいい?」

「うん!」
 
 渚は満面の笑顔で頷いた。

「へへ~」

 猫がじゃれつくように耕平にくっつく。

 でれでれの渚は可愛かった。少なくとも耕平にはどストライクだった。

 そんな渚にじゃれつかれたら、当然の帰結として耕平は昂ってしまうのだ。

「あ」

 気づいた渚が、何とも言えない表情で耕平を見た。

「…ごめん」

「謝らなくていいわよ。あたしでこうなってくれるのは……正直嬉しいし」

 はにかみながらの素直な吐露が嬉しい。

「あぁ、もう、我慢なんてできっこない」

 耕平は渚を抱きしめた。胸板に当たる乳房の感触がたまらない。

 渚も耕平の背に手を回して、密着度を高める。

「渚、好きだ」

 ぎゅっ。

 ベタだが、名前を囁かれるのが嬉しい。

「あたしも。大好き」

 ぎゅぎゅっ。

 これ以上無理、というくらい固く抱き合う。

「…ヤバい…今日の俺、マジでどうかしてる。抱いても抱いても、またすぐに抱きたくなる」

「嬉しい」

 渚はにっこり微笑んだ。

「あたしも、耕平くんに抱かれたいよ」

「!?」

 今日の渚はなんでこんなに可愛いのか。耕平は萌え狂う寸前だった。

「渚っ!」

 唇を重ねる、というより、奪う。

 瑞々しい唇を荒々しく吸い、割り入った舌で渚の口内を蹂躙する。

 渚も負けじと舌を絡み合わせ、淫らな水音を奏でる。

 長く続いたキスの後、離れた二人の唇の間には涎の糸がかかった。

 潤んだ視線を交わすと、耕平はこれ以上言葉は要らないとばかりに腕を膝裏にあてがい、渚に左足を上げさせた。

「きゃっ」

 潤みきった秘所は今日四回目の訪問も歓迎した。

「あんんっ」

 片足立ちという不安定な姿勢のため、渚は耕平の首にしがみついた。

「ま、待って、耕平くん」

「ん?」

「お願い……」

 潤んだ瞳に半開きの唇、荒い呼吸はいずれも渚の欲情と興奮の度合いを如実に表していた。

「…お布団がいい……」

「ああ、そうだね」

 考えてみれば、今日はまだ一度もベッドないし布団ではしていない。温泉旅行という非日常の中で、セックスまで非日常になっていたようだ。もっとも、だからこそ燃えたという一面は否定できない。

「渚、ちゃんとつかまってて」

「え?」

 返事を待たずに、耕平は渚のもう片方の足も抱え上げた。繋がったまま抱え上げられた格好になる。

「きゃあっ!?」

 渚は慌てて耕平にしがみついた。

 いわゆる駅弁スタイルだが、そんな体位は知識外の渚にとってはただひたすらびっくりするだけだ。

「ちょ、ちょっと、どうする気よ!?」

「このまま布団まで行く」

「や、やだ、下ろしてよーーあんっ」

 耕平が一歩歩く度に最奥を突かれて、渚は嬌声をあげる羽目になった。

「あ…あっ、や、やだ……怖いよ……」

 未知の感覚と落下の恐怖が渚に悲鳴を上げさせる。

「大丈夫。落としゃしないよ」

「そ、そんなこ…あんっ…あっ…言ったって……」

 布団にたどり着くまでほんの一分ほどだったが、渚には遥かに長く感じられた。

 優しく布団に横たえられてホッと息をつくかと思いきや、渚は首に回した腕、腰に回した足に更に力を入れて、全身で耕平にしがみついた。

「耕平くぅん……」

「このまま、しちゃうよ」

 渚は無言で何度も頷いた。

 全身でお互いを感じながら、二人の交わりは果てることなく続く。

「…あっ……んっ…あっ…こ、耕平くんっ……」

「渚っ、渚っ……」

 名前を呼び合うことで加速度的に高まっていく。二人共に天井知らずになっている性感は、ここでも未知の領域へと昇り詰めていく。

「あっ…あっ……ああっ……すごい、すごいのぉ……」

 どこまで高まっていくのか、恐怖に似た思いに襲われながらも、止まることもできない。耕平に突かれるまま、快楽を享受していく。

「うぅっ、くっ……っ……」

 もういつ爆発してもおかしくない。それでも耕平の腰は止まらない、と言うか、止めることができなかった。

「あっ…あっ…あっ…ああっ……んっ……」

 途切れることのない渚の甘い喘ぎに耳をくすぐられ、耕平はひたすらに腰を振った。ことここに至ると、技巧だとか気持ちよくさせようとかは頭になく、本能に命じられるままの動物的な営みになってしまったことは否めなかった。

「うううぅーーお、おおおぉーーーーーっ」

「あっ、あっ、あっ、ああーーーーーーっ」

「「イクうっ!!」」

 完璧にシンクロしたエクスタシー。

 今までのめくるめく官能が単なる前戯に過ぎなかったと思わせるような、圧倒的な絶頂。

 今日一回目に勝るとも劣らないような量と濃度の、安全日であっても孕んでしまいそうな精液の直撃を子宮に受けて、渚は悶絶した。

 精根尽き果て、二人は重なりあったまま脱力した。さすがに耕平にも渚を気遣う余裕はなく全体重をかけてしまったのだが、渚の方もそれを重いと感じることもできないくらい疲労困憊であった。

「……」

「……」

 二人共に口もきけないくらいに消耗しきっていた。部屋の中の音と言えば、二人の荒い呼吸音だけだった。

 天井を見上げながら、渚は身体の中で燃え盛っていた炎が鎮まるのを待っていた。

(…どうしちゃったの、あたしの身体…こんな、する度に良くなっていくなんて……)

 耕平に抱かれるのは、これが初めてではない。回数は多くないが、お互いの感じるポイントを理解するくらいには抱き合っていた。セックスには満足していたし、耕平の方もそれは同じだと思う。

 しかし、今日の自分たちは明らかにおかしかった。雰囲気にあてられたのだとしてもちょっと常軌を逸していたように思う。制御しきれない自分の身体の成り行きが怖かった。

 どれくらいそうしていただろうか、ようやく息をが整った耕平が、腕を立てて身体を離した。

 ついさっきまでの狂態の記憶が生々しく、お互い顔を見合わせるのが照れ臭かった。

 それでも、いつまでもそっぽを向いているわけにもいかず、二人して相手の様子を伺うようにチラ見した。

 すると、図ったように視線が絡んだ。

「あ……」

 身体に電流が走った。

 揃って驚いた表情を浮かべた後、二人は吸い寄せられるように唇を重ねていた。久しぶりに再会した恋人たちが交わすような熱い口づけ。

 たっぷり五分以上は貪り合っただろうか、やっと唇を離した二人は至近距離で見つめ合った。

「…あたし、おかしくなっちゃった……こんなにいっぱいエッチしたのに、もっと欲しいの……」

 下から耕平の頬に手をあてた渚は潤んだ目で訴えた。

「大丈夫。俺も同じだから。俺ももっと渚を抱きたい。さっき終わった時は十分満足したと思ったのに、渚と目が合ったら、また抱きたくなっちゃったんだ」

「嬉しい」

 耕平が自分と同じように感じてくれていたのが、たまらなく嬉しかった。

「耕平くんが好きなだけしていいよ」

 言ってしまってから、渚は赤面した。

「…こんなエッチな女、嫌いにならない?」

「惚れ直したよ」

 耕平は大真面目に言った。

「ホントに?」

「自分をこれだけ求めてくれるんだ。大事にしなきゃバチがあたる」

 そう言って、耕平は渚に軽く唇を重ねた。

「俺も目一杯頑張るから、渚もいっぱいエッチになってね」

「うんーーはああぁっ」

 挿入で甘声を引き出された渚は、自分からキスをせがんだ。

 上でも下でも繋がった二人は、どこまで行けるのかを試すように、時間を忘れて愛し合うのだった。
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