天職はドロップ率300%の盗賊、錬金術師を騙る。

朱本来未

文字の大きさ
31 / 118

031 盗賊さん、奇妙な冒険者と出会う。

しおりを挟む
 とろけたプルをウエストポーチの上に乗せ、ボクはサンプルとして追加で3体ほどスライムを捕獲した。それをウエストポーチにしまっていると、プルがいそいそとボクの肩に登って来た。
「外に出れるようにはなったみたいだけど、2層に降りるのも大丈夫?」
 2層は1層よりも魔素が濃い。普通に考えればダンジョン外に出るのと違って問題なさそうだけど、魔物って決まった階層から移ったりしないから気になってたんだよね。
 プルは大丈夫と言いたげに全身をぽよぽよとさせて、問題ないと訴えかけているようだった。無理そうなら勝手に逃げるだろうし、ここまま次の階層に降りることにした。
 魔石集めの際に見つけていた下階に続く長い階段を、肩にプルを乗せたまま降りていった。2層の入口には扉などはなかった。
 この階層には状態異常を引き起こすスキルを持ったスライムが出現するらしいので、種別ごとに数体ずつ確保したいところ。スライムの一部を【奪取】しても素材としては微妙なので、今度はまるごと捕獲するだけでいいかな。
 適当に歩いていると索敵範囲内にスライムが異様に密集している場所を見つけた。そこには魔物以外の反応も感じ取れたので、受付小屋で耳にした不審人物なのかもしれないと様子を見に行くことにした。魔物を一箇所に集めてなにかよからぬことをしている可能性もあったからね。

 魔力と高密度の魔素の反応をたどって行き着いた先では、激しい戦闘(?)が繰り広げられていた。
 顔の上半分を長い耳の付いた白い兎の仮面で隠し、メイド服を着た女性がスライム相手に素手で戦っていた。彼女が「はっ」「やっ」「せりゃっ」などといった気合のこもった声と同時に拳や脚を振るうたびに、ハーフツインにしたストロベリーブロンドの髪が振り乱される。そのニ房の髪の方が、仮面に付いた長い耳よりもよほど兎の耳のようだった。
 聞こえる声の感じからして兎仮面のメイドは、ボクと同年代くらいの少女のような印象を受ける。彼女は黄色いスライム複数を相手に立ち回り続けていたが、攻撃手段が打撃しかないからか決め手に欠けているようで、体当たりしてくるスライム達を撃ち落とすことに徹し続けていた。
「手を貸そうか?」
 ボクは余計なお世話だとは思いながらも、なんとなしにそんなことを聞いていた。
「助太刀不要っ」
 返って来たのは、そんな拒絶の返事だった。けれどそのまま立ち去る気も起きず、戦闘の成り行きを見守ることにした。
 兎仮面のメイドは膠着状態を打破するためか、全身へと均等に配分されていた魔力を拳や足先に集中させ始めた。ただ彼女は魔力操作が不得手なのか、その流れは遅い。それを見逃すほど相手も生易しくはなく、黄色いスライムが全身から空気中に存在するものとは反応の異なる魔素を薄っすらと噴出させた。
 それに気付いていないのか、彼女は大きく踏み込んで軽く跳躍した黄色いスライムに接近し、魔力を多めに込めた拳を放とうとして突然全身が弛緩したように不自然な姿勢で地面に崩れ落ちた。
 反撃することがなくなった兎仮面のメイドにスライム達は殺到し、ベキボコと強烈な体当たりを喰らわせていた。頭部こそ狙われていなかったが、彼女が攻撃に使用していた手脚は重点的に狙われ、ただの打撲と言うのは憚られるような酷いダメージを負わされていた。
 さすがにこのまま傍観はしていられなかったので、兎仮面の周囲一帯にある空気から魔素だけを根こそぎ【奪取】した。すると彼女に群がっていたスライム達は危険を感じてか、慌てたように飛び退いた。
「プル。あっちの対処、頼めるかな」
 肩に乗ったままのプルに訊ねると、言われるまでもないとばかりに、黄色いスライム達を目掛けて飛び出していた。
 倒れ伏した兎仮面のメイドは、強烈な痛みに耐えかねてか、気絶しているようで意識がなかった。彼女の手脚は関節や骨が破壊され、通常ではあり得ない方向を向いていた。
 初心者ダンジョン2層で、これほど凶悪な攻撃力を持った魔物というのは異常だとしか思えない。しかも、それが魔物の中でも最弱と名高いスライムなのである。それとも本当にこれが、このダンジョン本来の姿なのだろうか。気になって仕方がないけれど、今は目の前で倒れ伏す負傷者の治療を優先させる。
 ウエストポーチからボク独自の錬成技術を用いて作製したポーションを取り出す。ただ骨折や打撲の場合、患部にポーションを振り掛けても効果はない。だから飲ませる必要があるのだが、気絶していて飲ませるのは困難だった。だからといってそのまま放置するわけにもいかないので、ボクは乱暴な手を使うことにした。
 ナイフ型に【施錠】した空気で、兎仮面のメイドが骨折した箇所を斬り付け、新たに傷をつくってポーションを振り掛けた。すると切傷と一緒に骨折も治癒されていった。
 そうやって全ての骨折箇所の治療を終える頃、プルは黄色いスライム達を殲滅してドロップアイテムと思われる大量の小瓶をボクの元にせっせと運んで来ていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い

夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティ【熾天の剣】で《ヒール》しか使えないアレンは、「無能」と蔑まれ追放された。絶望の淵で彼が覚醒したのは、死者さえ完全に蘇らせる禁忌のユニークスキル【完全蘇生】だった。 故郷の辺境で、心に傷を負ったエルフの少女や元女騎士といった“真の仲間”と出会ったアレンは、新パーティ【黎明の翼】を結成。回復魔法の常識を覆す戦術で「死なないパーティ」として名を馳せていく。 一方、アレンを失った元パーティは急速に凋落し、高難易度ダンジョンで全滅。泣きながら戻ってきてくれと懇願する彼らに、アレンは冷たく言い放つ。 「もう遅い」と。 これは、無能と蔑まれたヒーラーが最強の英雄となる、痛快な逆転ファンタジー!

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

処理中です...