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032 盗賊さん、救助する。
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気絶した兎仮面のメイドが目を覚ますまで、ボクは黄色いスライムからドロップしたアイテムを整理する。ドロップした小瓶の中には多量の魔素を含んだ粉末が詰まっていたが、その効果を外見から判断するのは難しい。
おそらく黄色いスライムの有していたスキルと関連するような効果を宿しているはず。だとすると筋弛緩系の効果を発揮する粉末かな。スキルを受けた彼女の崩れ落ち方が、そんな印象だった。
もし推測通りの効果なら麻酔として使えるかもしれない。ただ彼女の場合、痛みで気絶したようなので痛覚が神経系の麻痺で緩和された様子もなく、逆に痛覚過敏になっていたようだった。
そこそこの時間をかけてアイテム整理を済ませたけれど、兎仮面のメイドはなかなか目を覚ます気配がない。このまま放置していくわけにもいかなかったので、今日のダンジョン探索は切り上げることにして、ボクは気を失ったままの彼女を背負った。
1層に続く階段にたどり着くまでに、何度か黄色いスライムと遭遇したが、プルが手早く駆除していた。でも、あまりにも数が多くてプルの対応が間に合わず、ボクの元にまで接近したものに関しては、【奪取】で捕獲したり、周辺の魔素を奪って身体を構成している魔素を霧散させりして対処した。
それによって特殊なスキルを持った手駒を増やすことに成功し、また2層の濃い魔素を[アイテムキューブ]として押し固めることで、錬金術ギルド地下空間を増設するのに不足していた魔素が大量に手に入った。
その後、何度かスライムの群れと遭遇した。プルのために魔石集めをしていたときは都合がよかったけれど、その頻度はどうにも多いような気がしてならなかった。
何事もなく魔物出現エリアと外部とを隔てる扉の前にまでたどり着いた。ボクはなんとなく、ダンジョンを出る前に昨日盗み取った天井へと目を向けた。視線の先にある天井は、昨日ボクが盗み取ったときのまま一切修復された様子はなかった。
魔物出現エリアを隔てる扉を開くと、ついさっきは外に出されることを怯えていたプルが、ボクのよりも先に外へと出た。勇んで飛び出したプルは、ボクらを護衛するようにぽよんぽよんと階段を跳ね上っていく。ボクはその後をゆっくりと追い、外部の光が視認出来るところにまで至ったところで、背負っていた兎仮面のメイドを下ろしてプルに声をかけた。
「プル、ウエストポーチの中に入れる?」
ダンジョンの魔物であるプルが、ダンジョン外に出ている姿を見られるのはまずいので、一時的に隠れてもらいたかった。[アイテムキューブ]にしたスライムは普通に収納出来たけれど、プルは出入り可能だろうか。もし難しいとなると他に手を考えなければならない。などといった心配は杞憂に終わった。
プルはウエストポーチの中にするりと入り込み、問題ないよとばかりにちらりと身体の一部を外に出して、わかりやすくボクに伝えて来た。
「ボクがいいって言うまでこの中に隠れててくれるかな」
そんなお願いに対してプルは、頷くような仕草をしてウエストポーチの中へと完全に姿を隠した。それを見届けてからボクは兎仮面のメイドを背負い直して、ダンジョン入口横の受付小屋に立ち寄った。
「すいません。ボクより前にダンジョンに入ったひとが、2層で気絶していました。対応願います」
「その仮面付けたメイド、やっぱり無茶したらしいな。ちょっとそいつの緊急連絡先確認すっから待ってな」
彼女の身柄を預けてそのまま立ち去るつもりだったボクは、ちょっとした足止めをくらってしまった。
ギルド職員が提出された探索許可証を手早く調べていると「おん?」などと気の抜けた声を出した。
「どうかしました?」
「いやなんだ。そのメイドと坊主の緊急連絡先が同じだったもんでな」
「それって彼女の緊急連絡先が錬金術ギルドってことですか?」
「あぁ、そうなんだが……坊主の様子からして、そのメイドとは顔見知りじゃねぇんだろ」
「そうですね。でも、ボクって昨日バーガンディに着いたばかりなので、錬金術ギルドの知り合いって、昨日一緒にここに来た人だけなんですよね」
「うーん、それなら顔知らなくても仕方ねぇか。正直、胡散クセェが書類上はそうなってやがるみてぇだしな。悪いが、そのメイド錬金術ギルドまで連れて行くなり、関係者呼ぶなりして身柄の確認してくれるか」
「そういうことならボクがこのまま錬金術ギルドまで連れて行きますよ。今日はもう帰るつもりでしたから」
「すまんな。ギルド本部のやつらが適当な仕事してるみたいでよ」
「彼女が身分詐称してるとは限らないですし、問題ないですよ。なにかあれば衛兵隊に届け出ればいいだけですから」
「手間取らせちまうな。一応、ギルド本部には雑な書類審査に関して申し伝えとくよ」
「お気遣いどうもです。でも、もし彼女が本当に錬金術ギルドの関係者だった場合に申し訳が立たないので、わざわざそこまでしていただかなくても大丈夫ですよ」
ギルド職員は腕を組んで唸っていたが、ボクが念を押すように断りを入れると、どうにか引き下がってくれた。
「すいません。最後にひとつ聞かせてもらいたいんですが、いいですか」
「いいぞ」
「彼女の名前を教えてもらえませんか」
しばしの迷いを見せていたが、ギルド職員はボクの疑問に答えてくれることになった。
「本来、他人の情報を開示するのは禁止されてるんだが、坊主は関係者だし教えても問題ないか。んで、そのメイドの名前だったな。書類上では、ラビィリオ・ラビュリントスとして登録されてる。まぁ、偽名としか思えんがな」
ボクは情報提供に関する礼を述べ、受付小屋を後にした。そこからの家路は、やたらと好奇の視線を集めることとなってしまった。原因は兎の仮面を付けたメイドを背負っていることであるのは明白だった。だからといって対処する術はなかった。
なにか事情があって顔を隠しているのだろうけれど、あまりにも不審なことには変わりなかったので、勝手ながら仮面を取ってしまおうとしたのだが、なぜか彼女の顔に張り付いていて取れなかったのである。
その様子から兎の仮面は、ダンジョン産の呪われたアイテムかなにかだろうと察した。
おそらく黄色いスライムの有していたスキルと関連するような効果を宿しているはず。だとすると筋弛緩系の効果を発揮する粉末かな。スキルを受けた彼女の崩れ落ち方が、そんな印象だった。
もし推測通りの効果なら麻酔として使えるかもしれない。ただ彼女の場合、痛みで気絶したようなので痛覚が神経系の麻痺で緩和された様子もなく、逆に痛覚過敏になっていたようだった。
そこそこの時間をかけてアイテム整理を済ませたけれど、兎仮面のメイドはなかなか目を覚ます気配がない。このまま放置していくわけにもいかなかったので、今日のダンジョン探索は切り上げることにして、ボクは気を失ったままの彼女を背負った。
1層に続く階段にたどり着くまでに、何度か黄色いスライムと遭遇したが、プルが手早く駆除していた。でも、あまりにも数が多くてプルの対応が間に合わず、ボクの元にまで接近したものに関しては、【奪取】で捕獲したり、周辺の魔素を奪って身体を構成している魔素を霧散させりして対処した。
それによって特殊なスキルを持った手駒を増やすことに成功し、また2層の濃い魔素を[アイテムキューブ]として押し固めることで、錬金術ギルド地下空間を増設するのに不足していた魔素が大量に手に入った。
その後、何度かスライムの群れと遭遇した。プルのために魔石集めをしていたときは都合がよかったけれど、その頻度はどうにも多いような気がしてならなかった。
何事もなく魔物出現エリアと外部とを隔てる扉の前にまでたどり着いた。ボクはなんとなく、ダンジョンを出る前に昨日盗み取った天井へと目を向けた。視線の先にある天井は、昨日ボクが盗み取ったときのまま一切修復された様子はなかった。
魔物出現エリアを隔てる扉を開くと、ついさっきは外に出されることを怯えていたプルが、ボクのよりも先に外へと出た。勇んで飛び出したプルは、ボクらを護衛するようにぽよんぽよんと階段を跳ね上っていく。ボクはその後をゆっくりと追い、外部の光が視認出来るところにまで至ったところで、背負っていた兎仮面のメイドを下ろしてプルに声をかけた。
「プル、ウエストポーチの中に入れる?」
ダンジョンの魔物であるプルが、ダンジョン外に出ている姿を見られるのはまずいので、一時的に隠れてもらいたかった。[アイテムキューブ]にしたスライムは普通に収納出来たけれど、プルは出入り可能だろうか。もし難しいとなると他に手を考えなければならない。などといった心配は杞憂に終わった。
プルはウエストポーチの中にするりと入り込み、問題ないよとばかりにちらりと身体の一部を外に出して、わかりやすくボクに伝えて来た。
「ボクがいいって言うまでこの中に隠れててくれるかな」
そんなお願いに対してプルは、頷くような仕草をしてウエストポーチの中へと完全に姿を隠した。それを見届けてからボクは兎仮面のメイドを背負い直して、ダンジョン入口横の受付小屋に立ち寄った。
「すいません。ボクより前にダンジョンに入ったひとが、2層で気絶していました。対応願います」
「その仮面付けたメイド、やっぱり無茶したらしいな。ちょっとそいつの緊急連絡先確認すっから待ってな」
彼女の身柄を預けてそのまま立ち去るつもりだったボクは、ちょっとした足止めをくらってしまった。
ギルド職員が提出された探索許可証を手早く調べていると「おん?」などと気の抜けた声を出した。
「どうかしました?」
「いやなんだ。そのメイドと坊主の緊急連絡先が同じだったもんでな」
「それって彼女の緊急連絡先が錬金術ギルドってことですか?」
「あぁ、そうなんだが……坊主の様子からして、そのメイドとは顔見知りじゃねぇんだろ」
「そうですね。でも、ボクって昨日バーガンディに着いたばかりなので、錬金術ギルドの知り合いって、昨日一緒にここに来た人だけなんですよね」
「うーん、それなら顔知らなくても仕方ねぇか。正直、胡散クセェが書類上はそうなってやがるみてぇだしな。悪いが、そのメイド錬金術ギルドまで連れて行くなり、関係者呼ぶなりして身柄の確認してくれるか」
「そういうことならボクがこのまま錬金術ギルドまで連れて行きますよ。今日はもう帰るつもりでしたから」
「すまんな。ギルド本部のやつらが適当な仕事してるみたいでよ」
「彼女が身分詐称してるとは限らないですし、問題ないですよ。なにかあれば衛兵隊に届け出ればいいだけですから」
「手間取らせちまうな。一応、ギルド本部には雑な書類審査に関して申し伝えとくよ」
「お気遣いどうもです。でも、もし彼女が本当に錬金術ギルドの関係者だった場合に申し訳が立たないので、わざわざそこまでしていただかなくても大丈夫ですよ」
ギルド職員は腕を組んで唸っていたが、ボクが念を押すように断りを入れると、どうにか引き下がってくれた。
「すいません。最後にひとつ聞かせてもらいたいんですが、いいですか」
「いいぞ」
「彼女の名前を教えてもらえませんか」
しばしの迷いを見せていたが、ギルド職員はボクの疑問に答えてくれることになった。
「本来、他人の情報を開示するのは禁止されてるんだが、坊主は関係者だし教えても問題ないか。んで、そのメイドの名前だったな。書類上では、ラビィリオ・ラビュリントスとして登録されてる。まぁ、偽名としか思えんがな」
ボクは情報提供に関する礼を述べ、受付小屋を後にした。そこからの家路は、やたらと好奇の視線を集めることとなってしまった。原因は兎の仮面を付けたメイドを背負っていることであるのは明白だった。だからといって対処する術はなかった。
なにか事情があって顔を隠しているのだろうけれど、あまりにも不審なことには変わりなかったので、勝手ながら仮面を取ってしまおうとしたのだが、なぜか彼女の顔に張り付いていて取れなかったのである。
その様子から兎の仮面は、ダンジョン産の呪われたアイテムかなにかだろうと察した。
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