天職はドロップ率300%の盗賊、錬金術師を騙る。

朱本来未

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033 盗賊さん、仮面を調べる。

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 錬金術ギルドに戻り、1階の適当な空き部屋のベッドにメイドを運び込んで寝かせる。一応グレンに事情を説明しようかとも思ったが、彼の気配は館内からは感じ取れなかった。どうやら無用心にも戸締りもせずに出かけているらしい。
 ボクは意識を取り戻さないメイドの状態を探るように、頭の先から足先までを視線でなぞる。するとさっきまで気付けなかった違和感に気付いた。どうやら彼女が装着している仮面は、微量ながらも装着者から強制的に魔力を徴収しているようだった。もしかしたらそれが原因で、なかなか目を覚さないのかも知れないと判断したボクは、無理矢理にでも彼女から仮面を引き剥がすことにした。
 通常の手段では仮面を剥ぎ取れないのは既にわかっているので、ボクは【奪取】を使用してメイドの顔面に張り付く仮面を、手元に引き寄せるようにしてスキルで奪い取ることに成功した。
 引き剥がした仮面の下から現れたのは、ボクと同年代くらいの少女の顔だった。
 意識の戻らない少女をそのままに、ボクは手元の仮面に視線を移す。仮面が装着者から強制的に魔力を奪って発揮していた効果が、彼女の意識を取り戻させない原因なのかと思ったボクは、試しに自身の身で持って使用感を確かめることにした。
 仮面を付けてみると、微量の魔力が奪われる感覚とともに、自身の存在が不確かになるような奇妙な感覚を得た。仮面に奪われる魔力以上の魔力を流し込んでやると、自身の存在がより希薄になり、やがて自分ではない何者かとして存在が書き換えられるような、なんとも言えない違和感が全身を包んでいった。
 その辺りで検証は充分だと判断したボクは、仮面を取ろうとするが外せなかった。一度装着してしまうと簡単に外せないのは仕様らしい。それなら強制的に仮面へと吸い上げられる魔力の流れを意識的に遮断した。すると仮面はすんなりと外せた。
 身を持って体感した仮面の力と、冒険者ギルドの彼女への対応からなんとなく、どういった効果が発揮されていたのかを理解した。
 おそらく仮面に魔力を与えることで、周囲の人間に対して自身の存在を違和感なく誤認させるような効果だと思われる。その効果は仮面に与える魔力量に比例して高まるんじゃないかな。
 冒険者ギルド本部でダンジョン探索の申請時には魔力に余裕があり、仮面は十全に効果を発揮させていた。けれどダンジョン前の受付小屋では、仮面から自動的に吸い出される魔力だけにして魔力消費を抑えていたから、仮面の効果が薄れて受付に居たギルド職員に不信感を抱かれたんだと思う。
 スライムから頭部だけが狙われなかったのも、仮面の効果によって彼女の頭部だけが存在が上手く認識されずに攻撃を免れていたんじゃないかな。加えて1層を難なく通り抜けられたのも、仮面の認識阻害効果によってスライムに敵認識されなかったと思われる。それで最終的には2層で魔力が不足し、複数のスライムに囲まれることになった。戦闘時の魔力操作がお粗末だったのも、仮面に魔力を強制徴収されながらの戦闘経験がなかったために、普段通りやろうとして失敗したんじゃないかな。
 錬金術ギルドまでの家路で不躾な視線を多数もらうことになったのも、仮面への魔力供給不足が原因だろうね。気絶した彼女から充分な魔力が得られず、仮面が半端にしか効果を発揮出来なかったせいで余計に注目を集めてしまったのかもね。
 なんでこんなものを装着してまでダンジョン探索したかったのかわからないけれど、アイテムによって認識阻害を使わなければダンジョン探索することも叶わないような立場にあるのかもしれない。
 ベッドに横になったまま目を覚さない少女の肌はきめが細かく、普段から手入れを怠っていないのがよくわかる。なんとなくその姿から好きに出歩くことを許されていない良家の御令嬢が、冒険に憧れて無茶をしたってところかな。メイド服の調達先なんかも考えると、それが一番無難な答えだろうね。あくまでもボクの想像だけどね。

 それからしばらく目を覚さない少女の側に付き添い、目覚めるのを待つ。やがて外から昼時を知らせる12の鐘が鳴った。空腹を感じたボクは、ウエストポーチからグレンのお手製ランチを格納した[アイテムキューブ]を取り出す。その際にウエストポーチの隙間から、プルがもの言いたげにちらりと身体の一部を覗かせていた。
「ごめんごめん。出て来ていいよ」
 プルはしゅるりとウエストポーチから這い出ると、ボクの腕を伝って肩にまで登って来た。まるでそこが定位置だとでも言うようにして、ボクの頬に身体を擦り付けてきた。
 そんなプルを相手しながら手元の[アイテムキューブ]を【解錠】して、サンドイッチのたくさん詰まったバスケットを取り出す。そこからひとつつまみ上げ、ぱくりとひとくち味わう。味に違和感はなく、一度[アイテムキューブ]に食品を格納しても問題がないとわかった。
 ふたつ目のサンドイッチを口にしているとプルが物欲しそうにしていた。
「プルも食べる?」
 そう訊ねるとプルは身体をぽよぽよとさせ、ボクの問いに対して全身で肯定していた。求められるままにサンドイッチを与えてみると、プルは腕のような2本の触手を出してそれを受け取った。そして身体に口のような空洞をつくり出して、ボクを真似るようにサンドイッチをぱくつく。そうやってプルの体内に取り込まれたサンドイッチは、わずかな時間を置いて光の粒子となり、なにも残さず吸収されていった。
 そんなやり取りをプルとしてると、近くできゅるりと腹の虫が鳴くのを聞いた。そちらに目を向けるとさっきまで気を失っていた少女が、目を瞬かせながら空腹を誤魔化すように腹部をさすっていた。
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