天職はドロップ率300%の盗賊、錬金術師を騙る。

朱本来未

文字の大きさ
90 / 118

090 盗賊さん、行方を知る。

しおりを挟む
「詳しい話を聞かせてもらってもいいかな」
「そのつもりで来てるんで、そりゃかわまないっすけど……」
 ミンティオは奥にいるサク姉にちらりと視線を向けた。それが意図するところを察して伝える。
「彼女は別口で調査に協力してくれてたひとだから問題ないよ」
「そうっすか。そういうことなら、おふたりに手短に話させてもらうっすよ」
 ミンティオを錬金術ギルド内に招き入れ、サク姉の待つテーブルまで案内した。ミンティオは、サク姉に軽く一礼して椅子に腰を下ろした。
「それで、わかったことってなに。あまりいい話ではなさそうだけど。ボクと別れた後、なにがあったの」
「兄さんから依頼を受けてから各城門を巡って、例の女性が西門から出てったってことはすぐにわかったんすよ。そんでそこまでわかってんならその後の動向も調べられそうだったんで、西門の日勤だったひとらにいろいろと聞いて回ったんすけど、戻って来たかどうか知ってるやつはいなかったんすよね」
「それがなんで死んでるかもしれないなんてことに? 西門の先ってそんなに危険な地域なの」
「あぁ、そういうことじゃないっすよ。西門の向こうは街道沿いなら比較的安全っすから。野盗が出たって話も聞かないっすし。んで、話を戻すっすけど、例の女性が西門を出たのって、俺が兄さんと初顔合わせした日の昼前だったらしいんすよね」
 だとするとユーナちゃんのお母さんは、ユーナちゃんを孤児院に引き渡してすぐに西門を出て行ったことになる。彼女が行方をくらまして既に3日が経とうとしていることを考えると、確かに最悪の事態に巻き込まれた可能性は高い。
「西門の先で一番近い城壁外の村って、徒歩でどれくらいなの」
「半日もかかんないっすよ。それならそこに行ったって可能性は?」
「ないっすね」
 ボクが口にした仮定の話をミンティオは、ばっさりと切り捨てた。
「根拠は?」
「遺体が発見されたからっすよ。ひどく損壊してたっすけど、顔は無事だったんで兄さんの似顔絵で身元が判明したんすよ。夜勤のやつが対応してたらしくって、その情報掴むのが少し遅くなったんすよね。んで、対応したやつに直接聞いたんすけど、昨晩、森の中で遺体が発見されてたみたいっす。ただ身元不明だったんで、夜中のうちにそのまま共同墓地に運んだみたいっすね。俺もそれが事実か確認するのに共同墓地に行ったんすけど、見た感じ、例の似顔絵に女性そっくりだったすよ」
「死因は?」
「首吊りっすね。自殺だったみたいっすよ」
 少し前にミンティオが話した内容と噛み合わずに眉根を寄せる。
「さっき遺体は損壊してたって言ってなかった」
「あぁ、それなんすけど。首吊ってから結構経ってたみたいで、無神経な言い方をしちまうっすけど、糞尿垂れ流しの状態だったみたいなんすよね。その臭いが付近の森を縄張りにしてる獣を呼び寄せたみたいで。縄張りを荒らされたと感じたらしい獣に、下半身がズタボロに損壊させられてたんすよ。ただ首を括ってた縄が頑丈だったからか、上半身は落ちずに済んで、損壊させられなかったみたいっすね」
 聞かされた内容はなんとも言い難いものだった。
「そこまでやったんなら遺体を引き摺り落としそうなものだけど」
「そのまま放置してたらいずれそうなってたかもしれないっすね。そうなる前に済んだのは遺体の発見者がいたからっすね。西の街道沿いに行った先にある村で依頼を受けてた冒険者が、帰りに獣が荒ぶってるのを感じ取って、様子を見に行って発見したって流れみたいっすよ」
「共同墓地で、その遺体の確認をしたんだよね」
「そうっすね」
「まだ遺体の形は残ってた?」
「まだ砂にはなってないっすね。でも、それも時間の問題かもしれないっす。損傷が激しかったっすからね。だから念のために今から本人かどうか確認に行かないっすか。これ以上時間が経つと砂になっちまって、本人かどうかも判別つかなくなっちまいそうなんで」
「もう城門閉まってるんじゃないの」
「それなら方法がないわけじゃないんで大丈夫っすよ」
 ミンティオが気配を消して現れたことが引っ掛かり、探るように時間外でも城壁外に出れるという方法を訊ねる。
「その方法って?」
「タラッサ聖教のグレモリーさんに頼むんすよ。あのひと夜間の通行許可証持ってるんで。あれがあればバーガンディの住民で身分がはっきりとしてる人間ならふたりまでは同行可能なんで」
「あなたはいいかもしれないけど、ボクはバーガンディの住民とは言い難いよ。まだここに来て片手の指で足りるほどの日数しか過ごしてないからね」
「それに関しては俺が同行するんで、なんとでもなるっすよ。まぁ、俺が兄さんの身元保証人になる感じっすかね」
 ボクは黙って話の内容を聞くことに徹しているサク姉に目を向けた。
「私のことは気にしないで行ってきなよ。ただ心配だから私の飼ってるねこを一緒に連れてってくれない」
 サク姉が言わんとすることを察して頷く。するとなにもなかったはずのテーブルの下から真っ黒な毛並みに青い瞳をしたねこが、ひょこりと現れてボクの膝の上に飛び乗って来た。
 ボクは黒猫を抱き上げてミンティオに訊ねる。
「ねこに身分保証って必要かな」
「ペットなら問題ないっすよ。ただ、城壁外で逃げられても知らないっすよ」
「大丈夫だよ。この仔は賢いからね」
 そう言って膝の上に下ろした黒猫の頭をなでた。するとボクの言葉を肯定するように黒猫は短く鳴いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い

夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティ【熾天の剣】で《ヒール》しか使えないアレンは、「無能」と蔑まれ追放された。絶望の淵で彼が覚醒したのは、死者さえ完全に蘇らせる禁忌のユニークスキル【完全蘇生】だった。 故郷の辺境で、心に傷を負ったエルフの少女や元女騎士といった“真の仲間”と出会ったアレンは、新パーティ【黎明の翼】を結成。回復魔法の常識を覆す戦術で「死なないパーティ」として名を馳せていく。 一方、アレンを失った元パーティは急速に凋落し、高難易度ダンジョンで全滅。泣きながら戻ってきてくれと懇願する彼らに、アレンは冷たく言い放つ。 「もう遅い」と。 これは、無能と蔑まれたヒーラーが最強の英雄となる、痛快な逆転ファンタジー!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた

ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。 今の所、170話近くあります。 (修正していないものは1600です)

処理中です...