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091 盗賊さん、教会へ行く。
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ミンティオと一緒に錬金術ギルドを出たボクは、彼の案内に従ってタラッサ聖教の教会へと足を運ぶ。そんなボクの隣を闇夜に溶け込んだ黒猫が足音も立てずについて来ていた。またボクの前を行くミンティオも、黒猫同様に足音はなかった。
やがて到着した教会は、夜の静けさに相応しい慎ましやかさで佇んでいた。人の気配はなく、正面から見える範囲にある締め切られた木窓の隙間からは、明かりも漏れ出ていない。誰もいないんじゃないかとも思える教会の扉に付いたドアノッカーを、ミンティオは遠慮なくゴンゴンと鳴らした。静寂を破って響くノック音は、厳かな空気に染み入るように消え、再び静けさを取り戻す。身体にまとわりつくような重たい沈黙に耐えながら、不在なんじゃないかとミンティオに声をかけるタイミングを計っていると、厳しい造りの扉が蝶番を軋ませながらボクらを招き入れるように内側へも引き開かれた。
ひとがひとり通れるほどにまで開かれた扉の隙間から、夜を着込むように修道服を身にまとった女性が頼りない炎が揺らめくランタンを片手に姿を見せた。
「あ、どうもっす。ホムラの姉さん、グレモリーさんいらっしゃいますかね」
瞳の焦点があっているのかも疑わしい女性は、生気を感じさせない表情のまま無言で扉を大きく開いた。どうやら客として出迎えてくれているらしく、ミンティオは女性の前を堂々たした足取りで横切って、教会に踏み入っていた。それに続くように黒猫がするりと入り込み、遅れてボクも教会に入ろうと足を前に出す。扉を押し支えて沈黙を保つ女性の前を通る際に、ちらりと顔を窺う。暗くて判然としなかったが、その顔はどこかで見覚えがあった。
ボクが教会内に入ると扉は閉じられ、女性の手にあるランタンの光が暗い室内を不気味に照らし出す。あまりの暗さに不便を感じたボクは、暗視魔術『キャットアイ』を行使した。室内にぐるりとひと通り目を走らせると、左右に長椅子が等間隔に整然と並べられ、正面奥にはタラッサ聖教で信仰対象とされている創世母神ティアマトの女神像が、慈愛に満ちた表情で室内全体を見守るように見下ろしていた。
どうやら祈りを捧げる場所らしい大部屋を抜け、頼りない足取りの女性の後に続いて、正面左手奥にある扉一枚で隔てられた区画に進む。扉一枚抜けただけだと言うのに、直前まで歩んでいた厳かな雰囲気とは打って変わり、ひとの生活感が感じられた。
やがて女性は、ひとつの扉の前で歩みを止めた。そこで案内は終わりなのか女性は無言で佇むばかりだった。するとミンティオは女性にかまわず扉をノックして、そのまま続けて閉じられた扉に向けて用件を告げた。
「グレモリーさん、オレっす。身分照会のため、関係者の方を共同墓地に案内したいんすけど、いいっすか」
ややあって扉が開くと、以前と同様に喪服を着込んで顔をベールで隠したグレモリー女史が姿を見せた。
「では、これから参りましょうか」
「助かるっす」
「ホムラさん、後のことは頼みます」
グレモリー女史は、扉の脇に佇むばかりの女性にそれだけ言い残すと、大部屋の方へと歩みを進めていった。ミンティオもそれに続くように、この場を立ち去るべく足音も立てずに後を追って行った。ふたりの手には灯りはなにもなかったが、それを気にした様子はなかった。
ボクはランタンを片手に佇む女性に視線を向けた。その顔立ちは、どこかで目にした記憶があった。どこで見たのだろうかと記憶を探りながら、ボクは彼女に一礼して先を行くふたりの後を追った。
迷いのない足取りのふたりを後ろから眺めながら黒猫と歩調を合わせ、真っ暗な教会を出る。入口の扉はミンティオが開いて支えていた。
教会を出たボクらは北門を目指して足を進める。その道中でボクはふたりとそれなりに距離を保ったまま黒猫を抱き上げ、その耳元に小声で話しかけた。
「どう思う」
そんな問いかけに対して黒猫はボクの顔を見上げた。かと思うと、その口から不自然だけれど耳慣れた声がこぼれ出た。
『全く言及してなかったけど、ヒロちゃんが暗視魔術使ってるのをわかってたみたいね、あのふたり』
「ここでは珍しいけど、魔術に慣れてるのかな」
『なんと言うか、建前上の素性ははっきりしてるはずなのに、どっちも怪しいことこの上ないわね』
「今度、日を改めて教会に行くことにするよ。あそこに残った女性のことも気になるし」
『得体が知れないんだから下手に刺激するのだけはやめときなさいよ』
「わかってるよ」
そこでボクらは会話を打ち切って、黒猫を地面に下ろした。ほどなく北門が目に入り、ボクは足を早めてふたりとの距離を縮めた。するとミンティオが「先に話つけてくるっす」と言い残して一足先に北門へとたどり着くと、ミンティオは門番をしている衛兵に対して親しげに話しかけていた。
「やっ、どーもっす先輩」
「なんだお前、またサボりか」
「違うっすよ。今日非番なんで」
「非番だってんならなんでこんなとこに来てんだ。冷やかしか」
「昨日見つかった遺体の身元照会っすよ」
そう言ったミンティオは、遅れて到着したボクらを示した。それに気付いた先輩衛兵は、ミンティオを応対していたときとは打って変わって、姿勢を正してグレモリー女史に深々と頭を下げていた。
「いつもご苦労様です、グレモリー殿」
そこからはとんとん拍子に話がまとまり、ボクらは何事もなく北門を出ることが出来た。
やがて到着した教会は、夜の静けさに相応しい慎ましやかさで佇んでいた。人の気配はなく、正面から見える範囲にある締め切られた木窓の隙間からは、明かりも漏れ出ていない。誰もいないんじゃないかとも思える教会の扉に付いたドアノッカーを、ミンティオは遠慮なくゴンゴンと鳴らした。静寂を破って響くノック音は、厳かな空気に染み入るように消え、再び静けさを取り戻す。身体にまとわりつくような重たい沈黙に耐えながら、不在なんじゃないかとミンティオに声をかけるタイミングを計っていると、厳しい造りの扉が蝶番を軋ませながらボクらを招き入れるように内側へも引き開かれた。
ひとがひとり通れるほどにまで開かれた扉の隙間から、夜を着込むように修道服を身にまとった女性が頼りない炎が揺らめくランタンを片手に姿を見せた。
「あ、どうもっす。ホムラの姉さん、グレモリーさんいらっしゃいますかね」
瞳の焦点があっているのかも疑わしい女性は、生気を感じさせない表情のまま無言で扉を大きく開いた。どうやら客として出迎えてくれているらしく、ミンティオは女性の前を堂々たした足取りで横切って、教会に踏み入っていた。それに続くように黒猫がするりと入り込み、遅れてボクも教会に入ろうと足を前に出す。扉を押し支えて沈黙を保つ女性の前を通る際に、ちらりと顔を窺う。暗くて判然としなかったが、その顔はどこかで見覚えがあった。
ボクが教会内に入ると扉は閉じられ、女性の手にあるランタンの光が暗い室内を不気味に照らし出す。あまりの暗さに不便を感じたボクは、暗視魔術『キャットアイ』を行使した。室内にぐるりとひと通り目を走らせると、左右に長椅子が等間隔に整然と並べられ、正面奥にはタラッサ聖教で信仰対象とされている創世母神ティアマトの女神像が、慈愛に満ちた表情で室内全体を見守るように見下ろしていた。
どうやら祈りを捧げる場所らしい大部屋を抜け、頼りない足取りの女性の後に続いて、正面左手奥にある扉一枚で隔てられた区画に進む。扉一枚抜けただけだと言うのに、直前まで歩んでいた厳かな雰囲気とは打って変わり、ひとの生活感が感じられた。
やがて女性は、ひとつの扉の前で歩みを止めた。そこで案内は終わりなのか女性は無言で佇むばかりだった。するとミンティオは女性にかまわず扉をノックして、そのまま続けて閉じられた扉に向けて用件を告げた。
「グレモリーさん、オレっす。身分照会のため、関係者の方を共同墓地に案内したいんすけど、いいっすか」
ややあって扉が開くと、以前と同様に喪服を着込んで顔をベールで隠したグレモリー女史が姿を見せた。
「では、これから参りましょうか」
「助かるっす」
「ホムラさん、後のことは頼みます」
グレモリー女史は、扉の脇に佇むばかりの女性にそれだけ言い残すと、大部屋の方へと歩みを進めていった。ミンティオもそれに続くように、この場を立ち去るべく足音も立てずに後を追って行った。ふたりの手には灯りはなにもなかったが、それを気にした様子はなかった。
ボクはランタンを片手に佇む女性に視線を向けた。その顔立ちは、どこかで目にした記憶があった。どこで見たのだろうかと記憶を探りながら、ボクは彼女に一礼して先を行くふたりの後を追った。
迷いのない足取りのふたりを後ろから眺めながら黒猫と歩調を合わせ、真っ暗な教会を出る。入口の扉はミンティオが開いて支えていた。
教会を出たボクらは北門を目指して足を進める。その道中でボクはふたりとそれなりに距離を保ったまま黒猫を抱き上げ、その耳元に小声で話しかけた。
「どう思う」
そんな問いかけに対して黒猫はボクの顔を見上げた。かと思うと、その口から不自然だけれど耳慣れた声がこぼれ出た。
『全く言及してなかったけど、ヒロちゃんが暗視魔術使ってるのをわかってたみたいね、あのふたり』
「ここでは珍しいけど、魔術に慣れてるのかな」
『なんと言うか、建前上の素性ははっきりしてるはずなのに、どっちも怪しいことこの上ないわね』
「今度、日を改めて教会に行くことにするよ。あそこに残った女性のことも気になるし」
『得体が知れないんだから下手に刺激するのだけはやめときなさいよ』
「わかってるよ」
そこでボクらは会話を打ち切って、黒猫を地面に下ろした。ほどなく北門が目に入り、ボクは足を早めてふたりとの距離を縮めた。するとミンティオが「先に話つけてくるっす」と言い残して一足先に北門へとたどり着くと、ミンティオは門番をしている衛兵に対して親しげに話しかけていた。
「やっ、どーもっす先輩」
「なんだお前、またサボりか」
「違うっすよ。今日非番なんで」
「非番だってんならなんでこんなとこに来てんだ。冷やかしか」
「昨日見つかった遺体の身元照会っすよ」
そう言ったミンティオは、遅れて到着したボクらを示した。それに気付いた先輩衛兵は、ミンティオを応対していたときとは打って変わって、姿勢を正してグレモリー女史に深々と頭を下げていた。
「いつもご苦労様です、グレモリー殿」
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