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鳥籠の夕焼け姫
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王宮の最奥。
現在、この国を牛耳っている、まだ年若い王の寝室。
近衛騎士の中でもごく一部の限られた者しか入れないその場所に、ローガンは足を踏み入れた。
「さぁ、どうぞ。ここが君の仕事場だ」
寝室の奥にこんな場所があるなんて、王宮に仕える使用人だってほとんど知らないだろう。
ローガンはその光景に、驚いてつい立ち止まってしまった。
「わっ……!」
暗い天井が開け、まばゆいばかりの光が降り注いでいる。
室内だったそこは、大広間がまるっと入るくらい大きな温室になっていたのだ。
魔術によって適切な空調が保たれたここには、溢れんばかりの花が咲き誇り、鳥たちが優しく囀っている。
「すごい」
これがすべて、たった一人の男のために作られたとは、誰も思わないだろう。
温室の中央。
宝石のように輝くバラが咲き誇るその真ん中。
人が3人くらいは軽々と眠れるだろうベッド……その中央に眠る、一人の男。
「俺特製の鳥籠だ。作ったはいいが、自慢できる相手もいなくてな。どうだ?美しいだろう?」
狂っている——!
ローガンがそう息を飲むほどに、この状況はあまりに異質だ。
「あぁ、ファーガル。起きなさい。お前の話し相手を連れてきてやったぞ。もうここに来てひと月が経つだろう。話し相手がいなくてつまらないと言うお前のわがままのために、一人連れてきてやったんだ。俺は優しいだろう?」
ローガンをこの温室に案内した相手——この国の王は、砂糖菓子の上にはちみつをかけたかのような甘い声で、眠っている男に声をかけた。
その声に、ゆっくりと男が目覚める。
夕焼けを切り取ったような、見事な赤紫色の瞳が、ローガンを見つめる。
じゃらりと耳障りな鎖の音は、男の左足から。
温室の中にあるベッドをぐるりと囲むように作られた、真鍮製の大きな鳥籠。
王宮の寝室の奥という、近衛騎士さえも入ることができない秘密の場所。
鳥籠に入れただけでは足りず、鎖まで繋いで。
そこまでして、この王が逃がしたくないと思う相手が、ここにいる。
「初めまして。ローガンと言います。ローガン・ティルベール。ティルベール男爵の第2子でございます。本来ならば、王宮に上がれる身分ではないのですが、どうかよろしくお願いいたします」
ローガンの挨拶に、男はけだるげに微笑んだのだった。
○プロローグ
現在の王、サリオン・スペンサーは残虐王として有名である。
前王の長子であった彼は、身分の低い第三王妃を母親として持つ。
原則としてこの国は、王妃の身分に関わらず長男が国を継ぐ。
しかし、彼が生まれた5年後に、公爵家出身の第一王妃が男子を生んだ。そのせいで、第一王妃やその派閥の人間に、サリオンは常に命を狙われ続けた。
サリオンが皇太子となるために、裏で多くの血が流れたと言う。
サリオンが皇太子になってすぐ、まだ若かったはずの王が崩御した。
王宮では、サリオンが前王を殺したと噂された。そう噂されても仕方ないほど、サリオンが皇太子に決まると同時に王が病死したのだ。
だが、証拠はない。第一王妃一派が血眼になってサリオンが前王を殺したと言う証拠を探し、ついにはでっちあげようとしたが、そこまでしても何も出てこなかった。
そして、サリオンは王となった。
王となってすぐ、今まで抑えられていた鬱憤を晴らすように、高位貴族や第一王妃一派の粛清が始まった。
一体どれほどの貴族家が、告発を受けて処刑されただろう。
スペンサー王家の玉座は血に穢れてしまった、とまで言われることになった原因の王。
そんなサリオンが、恋に狂った。
にわかにそんな噂が広がり始めたのは、今から半年前の冬だ。
サリオンにはもともと婚約者がいた。けれど彼は、王位に就くと同時に多くの貴族を“粛清”の名の下に殺した。婚約者一家も例外ではなく、彼は自分の婚約者を国外追放にしている。
新たな婚約者候補が現れたこともあったが、貴族の可憐な女性たちはサリオンを怖がり、王位に就いても彼は未婚のまま。
彼の側近たちは、貴族であれば誰でも……貴族でなくても、サリオンを怖がらない相手なら貴族の養子にしてでも、とにかく結婚して欲しいと願っていた。
王は結婚して、世継ぎを作ってこそ、である。
しかしそんな側近たちの思いを無視して、まさかサリオンが愛した人は、“男”であった。
ファーガル・ユルフェ。ユルフェ伯爵家という魔術師の名門出身の彼は、若くして天才と呼ばれる宮廷魔術師である。その才能もさることながら、あまりの美貌に彼は有名である。
特に“夕焼け色”と称される赤紫色の瞳が美しく、男性であるにも関わらず、多少からかいの意味も込めて『夕焼け姫』とまで称される。
王が男に恋をした、なんて醜聞、側近たちはひどく頭を抱えたことだろう。
宮廷魔術師たちがいる魔塔へ通う王を何度も目撃され、ファーガルを口説く姿も、数多くの魔術師や貴族たちが目撃している。
正当な王妃を娶った上で、愛人としての扱いであればまだ許されただろう。しかし、初めての恋にのめりこみ、ファーガル以外目に入らないサリオンは許されなかった。
彼の忠実な側近の一人が、ファーガルに、王と会わないように告げた。
それが、サリオンの執着心に火をつけてしまった。
自分から身を引こうとしたファーガルに激昂した王は、あろうことか彼を王宮に閉じ込めてしまった。
そんな出来事が、約一か月前。
王宮に閉じ込められた彼を、この一か月誰も見ていない。
誰にも見せないほどに、溺愛と呼ぶことさえ足りないほどの執着心でもってファーガルを閉じ込めた王は、ひと月経ってようやく、側近たちにファーガルの近況を漏らした。
いわく、元気がない。
食欲がない。
笑わなくなった。
誰もが、当然だろう、と思った。
例え王の寵愛を得られるとしても、誰とも会えない場所に閉じ込められたい人はいないだろう。それにファーガルは、宮廷魔術師として働く立派な男だ。
側近の一人が、恐る恐る、ファーガルを解放したらどうかと言った。
サリオンは、その言葉に怒らなった。それほどに元気のないファーガルを心配していたのだ。
だが、ファーガルを手放すことはできない、できれば誰にも見せたくない。誰にも盗られたくないと嘆く王に、“せめて話し相手でも呼んだらどうだ”と一人が言った。
仕方ない、とようやく受け入れた王に、王宮で内密に話し相手の選定が行われた。
万が一にでもファーガルが恋をしないような、平々凡々な男。できれば、身分が低い貴族がいい。そんな貴族は、金を渡せばいくらでも好きに使えるし、後々始末することだって簡単。そういう理由で、ローガン・ティルベールが選ばれた。
がしゃんと大きな音を立てて、鳥籠のカギが開いた。
鳥籠の中に入ったサリオンは、すぐにファーガルを抱きかかえる。
真っ白なベッドに、真っ白なドレス。真っ黒な長い髪。
色とりどりの花が咲く温室において、白と黒しかない鳥籠の中は、いっそ異質な程に美しい。
サリオンの輝くような金髪が邪魔に思えるほど、ファーガルの美貌は完璧だ。
「あぁ、ファーガル。元気にしていたか?」
「元気な訳が、ないでしょう」
あまりの美貌に見とれていたローガンは、その声がイメージと異なりすぎて驚いた。
ガラガラにしゃがれた声。
どうしてこんな老人みたいな……と思いかけて、ドレスの中にキスマークが見えてハッと気づいた。
「あぁ、朝まで一緒にいたのだからな。だが、今日は話し相手が来る初日だから、いつもより無理はさせなかっただろう?優しいお前の王様に感謝して欲しいものだ」
横暴な王の声に、はぁ、とファーガルがため息をつく。
「いい加減にしてくださいな。こんなことは、長く続きません。あなたは王で、私はただの魔術師の男。いかに現代の魔術が優れていても、私が天才であっても、私は女にはなれませんし、王の御子を孕むことはできないんですよ」
「そんなことはもう聞き飽きた。何を言おうと、お前はここから出ることはないんだ。永遠に、この鳥籠がお前の住処だ」
ファーガルは、何も言い返さない。
ただ、今度はローガンを見て、疲れたように笑った。
「サリオン。ローガンが困っているよ。だいたい、この鳥籠は一面がベッドだ。さすがに、君以外の男をベッドに入れるのは君もイヤだろう?話をする時くらいは、鳥籠から出ても良いでしょう?」
思い切り眉を寄せ、しぶしぶながら、サリオンが頷く。
「ほら、どうせ鳥籠から出たところで、私は満足に歩けもしないのだから。あまり心配なさらないでくださいな」
抱きしめるサリオンの手を押しのけて一人で立ち上がったファーガルの足には、太い鎖。だけではない。足首に巻き付いた鎖が隠すようにして、醜い傷跡が現れた。
……足の腱を、切られている。
王の執着は、ここまでするのか。
ファーガルはゆっくりと、傷跡のある左足を引きずりながら鳥籠の外へ出る。
眩しそうに目を細める姿に、ローガンの胸が痛んだ。
鳥籠から出たところで、ここは温室。外に出ることは絶対にできない。
痛ましい、小さな鳥。
プロローグ 2
この国の貴族は、ほとんどが魔力を持つとされる。しかし、ティルベール家はもともと騎士として名をあげ、男爵位をいただいた家名である。魔力のほとんどないローガンは、宮廷魔術師であるファーガルに会ったことはなかった。
宮廷魔術師としての彼と出会えば、また印象は違ったのかもしれない。
だが、体の線が見えるような白いドレスを纏い、腰まで届く長い髪を無造作にかきあげるその姿は、可憐な少女にしか見えない。
温室の中にある小さな噴水の端に座ると、ファーガルはついて来たサリオンに目配せする。
「ほら、仕事があるでしょう?私はここから逃げないから、早く行きなさい」
「……ローガン・ティルベール。万が一にもファーガルに触れたら、一族皆殺しだと思え。ファーガルの側で呼吸をし、ファーガルを見て、言葉を交わすことを許してやるだけ特例だと思うことだな」
サリオンはきつくローガンを一睨みすると、そのまま温室の出口へと歩いて行く。
先ほどまでの執着と異なり、案外あっさりした様子に、ローガンは少しだけ面食らった。
ローガンのごとき平凡で取り柄のない男は、敵にもならないと思われているのだろうか。
「すまないね。サリオンが迷惑をかけた。でも、今までずっと独りだったから、話ができて嬉しいよ。私のことはファーガルと呼んで欲しい。ローガン。隣にどうぞ?」
ファーガルが、自分の隣を勧めてくる。
これは、申し出に頷いて良いのだろうか。迷いに迷った挙句、ローガンは隣に座った。“話し相手”として呼ばれたのだから、あまり遠くにいては声が届かない。
「ありがとう。聞かせて欲しい。私がここに閉じ込められてから、外はどうなっているの?あぁ、安心して欲しい。この温室の中の声はサリオンには届かない」
「はい。え、えぇと……とにかく、あなたは憔悴しきって、物を食べることもできないほどだと聞いていました。こうしてお元気な姿を見ることができて光栄です」
ローガンの言葉に、ファーガルの目が丸くなった。
「た、確かに。案外元気、かな?」
焦ったように見えるのはなぜだろうか。
「と、とにかく!サリオンの側近たちは怒ってるだろう?王宮は?魔術師たちは?」
「俺はしがない男爵家の出。次男であるため、家を継ぐこともできません。入手できる情報は限られています。けれど、社交界であなたのことは絶対の禁句になっています。王の怒りを買いたくないので、誰もが暗黙の了解として口をつぐんでいます」
「魔術師たちは?」
「俺は騎士の出であるため、魔術師のことは分かりません。ただ、あまりの王の横暴続きに、貴族の間で不満がたまっているのは確かです。それに、騎士は……」
「騎士?」
「オーウェン・パルシェーラという男をご存じですか?」
ローガンは、自分がファーガルの話し相手となったことを誰にも知らせることが許されていなかった。あくまで秘密裡に行われた契約。
しかし、王宮というのはいつもどこからか秘密が漏れるもので。
同じ騎士団に所属するオーウェンが、夜中にローガンの私室を訪ねてきたのだ。
「オーウェン?う、うん。知ってるよ」
「あなた様にお会いしたいと、もしあなたが外に出たいと願うのであれば、王を裏切ってでもあなたを助けたいと、お話されました」
真っ白なファーガルの顔が真っ赤に染まって、ものすごい勢いでローガンの口がふさがれる。
「しっ!声が大きい!」
しまった、とローガンは内心で思った。
愛しすぎて足の腱まで切った男と、見知らぬ男を二人きりにしているのだ。声は外には漏れないと言っていたが、あまり大きな声を出すと、見張りに聞こえてしまうこともあるのかもしれない。
「あ、えぇと。その、えーと」
けれど、赤紫色の瞳をぱちくりさせながらどもるファーガルに、ローガンはつい笑ってしまう。
先ほどベッドの上に横たわっていた彼は美しかったけれど、まるで氷の彫刻のように近寄りがたい雰囲気があったのだ。
「オーウェンのことを、好きなのですか?」
「ばっ……」
ファーガルの手をはがしてこっそり呟いた言葉に、さらに彼の顔が真っ赤になった。
「ち、違う!い、いや。違います。だいたい、オーウェンが俺に対してそんなことを言うこと自体、聞き間違いでしょう。俺だって……いや、こほんっ」
口調が乱れたファーガルが、冷静さを取り戻すように小さく咳払いした。
「とにかく、滅多なことを言うものじゃない。もし万が一、それがたとえ絶対に叶わないことだとしても、私のことを好きだなんて男がいたら、サリオンが何をするか分からない。ローガン。ここの声は、確かに基本的にはサリオンには聞こえない。だが、用心するに越したことはないだろう?」
「申し訳ありませんでした。でも、もしあなたがここから出たいと言われるのであれば、と思いまして」
思い切ったローガンの言葉に、ファーガルの瞳が鋭く輝く。
これは、希望を失っていない目だ。
王の寵愛に堕ちた愛人ではなく、魔術師として逆襲を企む“男”の目だ。
「まだ早いよ。ローガン。もう少し君がサリオンの信頼を得てから、この話をするとしよう」
にこりと微笑んだファーガルに、ローガンはゆっくりと頷いたのだった。
プロローグ 3
コンコン、とローガンの私室をノックする音が聞こえた。
騎士団に所属する騎士は、一部の高位の貴族を覗き、宿舎に寝泊まりしている。
ローガンも、もちろん例外ではない。しかし、騎士団の団員は貴族であるため、私室を与えられてはいる。だが、ローガンのような下位の貴族は、風呂もトイレも共有であり、ベッドと簡易的なテーブルのある小さな部屋しか与えられなかった。
「どうぞ」
ローガンが許可をすると、一人の背の高い男が入って来た。
同じく騎士団宿舎に寝泊まりしている男、オーウェンである。
ローガンは低位と言えど、れっきとした貴族の出身だ。だが、オーウェンの身分は少し変わっている。今でこそパルシェーラという伯爵家の姓を名乗っているが、彼の母親は娼婦であり、もともとは庶民として生まれた。剣の腕に優れていたことと、貴族しか持たないと言われる魔力があったことから伯爵家の血を継ぐと分かり、養子として引き取られたのだ。
男爵家と伯爵家。本来であれば気安く話ができる身分差ではない。だが、庶民として生まれたオーウェンは高位の貴族の間にうまくなじむことができず、こうして未だに下位の宿舎に住んでいるのだ。
高位の貴族にすり寄る人間ばかりの貴族社会で、無骨に剣の腕だけを追求する男。そんなオーウェンに、ローガンは少し憧れを抱いていた。
それに、親しみも。
ローガンの貴族としての地位は低く、剣の腕は中の下、魔力さえほとんどなく見た目は平凡。そんなローガンに気安く声をかけてくれる人間など、あまりいない。
だからこそ、王の恋人というあまりに遠い存在に恋をしているこの男を、少しだけ応援したいと思ってしまったのだ。
「ファーガル様は、元気だったよ」
ローガンの一言に、オーウェンがほっと詰めていた息を吐いた。
「驚いたよ。本当に綺麗な人だな。女性と見間違うばかりだったけど、貴族の女性にだってあんな綺麗な人はいない。夕焼け姫だなんて、よく言ったもんだ」
「あいつは、そう言われるのを嫌がっていた。だいたいあり得ない。ファーガルは女扱いされるのが何より嫌いだったんだ。確かにずっと王とは仲が良かった。だが、それは決して男女の仲としてじゃなかったし、あの“血の粛清”を乗り越えた戦友だったはずだ。それがまさか、こんなことになるなんて」
“血の粛清”
サリオン王が即位した翌日から行われた、貴族の大粛清のことだ。
前王の時代に権力を握っていた貴族のほとんどが粛清された。様々な罪をでっちあげられ、処刑されたのだ。王であるサリオンの弟たちも例外ではない。今では、第一王妃が生んだ第二王子が残っているくらい。
しがない男爵であったローガンは、その粛清を免れたけれど。
「だけど、王は本当にファーガル様を愛してるって感じだった。鳥籠みたいなところに閉じ込めて、あんな見えるところにまでキスマークつけてさ。声だってガラガラだったのは毎晩愛し合ってるからだろうし、足だって……」
さすがに言いかけて、ハッとした。
足の腱が切られたことは、言わない方がいい。
自分の大切に思っている相手が傷つけられたと知って、オーウェンが激昂するかもしれない。
「足?」
「あ、足にさ!鎖をつけられてたんだよ。え、と。すごい執着だよなぁ」
オーウェンが疑うような目でローガンを見る。
だが、乾いた笑いを浮かべてごまかすローガンに諦めたのか、はぁと大きなため息をついた。
「なぁ、オーウェン。お前、あの方を好きなのか?確かにぞっとするほど綺麗だったけど、男だぞ?まして、王の愛人だ。どうしたって諦めた方がいいだろ」
「あいつは、自分が女として見られることは酷く嫌っていた。だから俺は、あいつが女性を好きなんだと思い込んでいたんだ。だから、愛していると告げることを恐れた……俺はあいつに、“好きだ”の一言も言えなかった」
「だからって……」
「俺にとってファーガルは、かけがいのない人なんだ。ファーガルは自由を愛すし、束縛なんて受け入れる男じゃない。たとえ王のことを本気で愛していたとしても、今の状況を良しとする男じゃないんだ。鎖をつけて、鳥籠に閉じ込められていたということは、ファーガルは逃げようとしたんだろう。ならば、もし、ファーガルがまだ逃げたいと思っているのなら、俺は手を貸す」
オーウェンは、剣に生きる不器用な男だったはずだ。色恋なんて無縁の男だと思っていたのに。
まさか、残虐王だけでなく、この男まで狂わしてしまうとは。
なんと恐ろしい男なんだろう、ファーガルという男は。
「ファーガルが再び自由になれるのであれば、俺はどうなってもいい。ただ、できれば最後に、ファーガルに俺の思いを伝えたい。叶わなくてもいい。ただ、もう一度ファーガルのあの瞳を見て、手を取って……」
じわりとオーウェンの瞳ににじんだ涙に、慌ててローガンは話題を変えた。
「え、えと。サリオン王のあまりの横暴さに、他の貴族たちだって黙ってないだろ!第一王妃だってまだ生きているんだ。この勢いに乗って、第二王子派が政権を握るかもしれないだろ。そうしたら、ほら、ファーガルは自由になるじゃん」
「たとえ自由になったところで、ファーガルの心は深い傷を負うだろう。それに、ファーガルはユルフェ伯爵家のれっきとした魔術師。同じ伯爵家と言えど、庶子の俺と天才魔術師と言われるあいつでは天と地ほどの差がある。俺なんて、本来ならば話ができる相手でさえないんだ」
オーウェンは酒でも飲んでいるのだろうか。
ローガンは頭を抱えたくなった。恋する男はこれだから面倒くさい。
それに、ローガンが見たファーガルは、今回のことに傷ついて泣くような男に見えなかった。むしろ、逆襲の時を虎視眈々と待つようなしたたかさが隠れ見えたのだ。
まぁ、だからこそ、王はあそこまでファーガルを厳重に隠しながら一向に安心できないのだろうけど。
「と、とにかく!俺がちゃんとファーガル様の様子を教えてやるから、一人で馬鹿なことをしようと思い詰めるなよ。俺が見た限り、ファーガル様だってオーウェンのことを憎からず思ってる。お前に何かあれば、ファーガル様だって傷つく」
ローガンの一言に、オーウェンがハッとした顔をした。
「……分かってる。あいつは優しい男だ。友人の一人である俺に何かあれば、きっと責任を感じるさ」
本当に“友人”の距離感なのだろうか。
ファーガルだって、オーウェンのことを思っているのではないだろうか。
だがしかし、これ以上ローガンは何も言わない。純粋な目の前の男が、恋に狂ってどんなことをするか想像がつかなかったからだ。
プロローグ 4
最初は週に一度。ファーガルの訴えで、三日に一度。今では二日に一度、ローガンはファーガルの下へ通っている。
何度かは王も同席していたし、なんなら王と睦あっている姿を見せつけられたこともある。ただ、姿は見せたくないと言われて声のみだったけど。仲が良いのを見せつけたいけど、好きな相手の姿は見られたくないとか、嫉妬深い男の思考回路は良く分からない。
王にも、ファーガルにも、だいぶ信頼されてきたと思う。
この信頼を裏切りたくないと思うと同時に、そろそろ時が近づいて来たことも分かっていた。
「ローガン。決行は今日だ」
陰から聞こえた声に、ローガンは思わず舌打ちしたくなった。
「分かっています。俺が寝室へと続く裏道を開ける。あの残虐王が死ぬほど大切にしているファーガル様を人質に取れば、あの男も大人しくなるでしょう」
自室の暗がりに、ローブを深くかぶった男がぬっと現れた。
転移の魔術は、高位の魔術師しか行うことができない。それに、転移を行うと痕跡が残るため、今回のような隠密の仕事にはふさわしくない。
だが、ローガンのいる宿舎には転移を感知する高度な魔法陣はないし、万が一バレたとしてもローガンを切り捨てればよいと思っているのだろう。
しょせん、捨て駒。
いつだってローガンの役割はそうなのだ。
男爵家で重要なのは、剣の腕があり、家を継ぐ長男だけ。
次男の自分は、こうして家の役に立てれば十分なのだ。
ティルベール家は、弱小の貴族家だった。騎士として名をあげた先祖のおかげで貴族の末席に名があるだけの家柄。代々子どもたちは騎士団に所属しているが、大した功績を遺すこともない。
そんなティルベール家が存続の危機に陥ったのが、あの“血の粛清”の日。本当に小さな不正だった。貴族なら誰しもしていた横領の罪。今なら、その罪だけであの王が当主を処刑まではしなかっただろうと分かる。
だが、当時のティルベール家はそんなことは分からなかった。
殺されるかもしれないと思った当主の前に現れたのは、第一王妃の手の者だった。助ける代わりに、手駒となれという取引。
当主であった父は、一も二もなく頷いた。
いずれ王を殺して、第二王子を玉座に就けるまで、第一王妃による極秘の指示は続いた。金策から暗殺まで。主にそれを請け負ったのは、次男のオーウェンであった。
今回のファーガルの話し相手の一件もそうだ。
ただ、第二王子派の暗躍で話し相手候補にまでは押し込めたけれど、それ以上は王の決定だった。あの時以上に、平凡で取り柄のない自分の見た目に感謝したことはなかった。
今回は、王の派閥の者を暗殺するいつもの仕事とは違う。
“王の暗殺”なのだ。
上手く行っても、失敗しても、おそらくローガンは殺される。
自分を捨て駒のように扱ってきたティルベール家にも、第二王子派にも忠誠心なんてない。第二王子だって、第一王妃だってローガンは一度も会ったこともない。
だが、ローガンが行ったことで、ファーガルが喜ぶのなら。
友人として親しくしてくれた、オーウェンが喜ぶのなら。
それを理由に、殺されてもいい気がした。
「お前が報告した通り、本当にファーガルは解放を願っているんだな?あの男は今でこそ王の愛妾なんてしているが、もともとは残虐王の片腕として血の粛清を手伝った天才魔術師だ。あいつが魔術を行使すれば、王の暗殺は難しくなる」
「……それについては、最後にもう一度確認します。後、俺からもいいですか?」
「なんだ」
「オーウェンをこちら側に引き入れませんか?彼はファーガルを愛していますし、ファーガルも彼を愛しています。もし彼をこちら側に引き込むことができれば、ファーガルも完全にこちら側に落ちるでしょう」
ローブの男が、ケッと下卑た笑いを浮かべる。
「男同士で愛だの恋だの、汚らわしい。まぁおかげで、あの残虐王にも隙ができたがな」
「どうしますか?」
「それは許せない。オーウェンは仮にも、パルシェーラ伯爵家の人間だ。パルシェーラはサリオン王の腹心と言っても差し支えない家柄だ。万が一にも計画を漏らされたら困る。今回は、不確定要素をできる限り排除する。分かったな」
分かりました。ローガンはうつむいたまま答える。
「分かっているだろうな。ローガン、今回の件がうまく行き、第二王子が王となれば、お前を近衛騎士に命じよう。ティルベール家も侯爵位にしてやる。いい子だから、家のために頑張るんだ」
あり得ない。
例え暗殺が成功したところで、きっとそんなことはあり得ない。
ローガンはぐっと目を閉じて、深く頷いたのだった。
プロローグ 終わり
「ローガン!待っていたよ!」
最近では、王が不在の時も温室へと入ることができるようになった。
王の寝室のカギ渡されるとは、とんでもない信用である。そのカギの複製を作り、すでにもうローブの男に渡してある。
ファーガルは足を引きずりながら鳥籠から出ると、にこにこと定位置になった噴水の淵に腰かける。
「今日も、オーウェンのことを聞かせて欲しい」
最近の話題はもっぱらオーウェンのことだ。
不謹慎な気はしている。目の前のファーガルは、王の寵愛を受けているのだ。首筋には赤い印だけでなく、歯形まで見えるほどに執着されているし、気だるい色気は彼が愛されている証拠だ。にもかかわらず、他の男について語っている。
だが、この話題が一番、ファーガルが喜ぶ。
今回の暗殺で、ファーガルも殺されてしまうかもしれない。
暗殺を目撃するだろうファーガルは、第二王子たちにとっては邪魔者でしかないからだ。だからローガンは、オーウェンを連れて来たかった。会わせてあげたかったし、あれほどまでファーガルを愛しているオーウェンなら、ファーガルとともに死んでも悔いは残らないとさえ思ったのだ。
「……ファーガル様、オーウェンに会いたくはないですか?」
口をついて出た言葉に、ファーガルは微笑んだ。
「会いたいよ。でも、ローガンの口から出るオーウェンは別人みたいだ。オーウェンと私は確かに仲が良かったけど、それは悪友みたいなもので……。だから分かってるんだ。ローガンは私に気を使って、オーウェンが私のことを思ってるなんて言ってくれるんだろ?」
私の片思いなんだ。
そう寂し気に話すファーガルの横顔は、オーウェンにそっくりだ。
「会って確かめたくはないですか?このままで良いのですか?あなたは最初、私が王の信頼を得たらこの話をしようと言いました。もはや時は満ちたのではありませんか?」
ほろほろと、ファーガルの赤紫色の瞳から涙が零れ落ちる。
ローガンはそれをじっと見つめる。瞳はこんなに鮮やかな色をしているのに、涙に色はないんだなんて、不思議な気がした。
「会いたい。そのためなら、王を裏切ってもいい。サリオンは、こんな人じゃなかったんだ。いつの間にか狂ってしまった。こんなことなら、第二王子が王となれば良かった。あんな狂ってしまった男、王には相応しくない」
ファーガルの口から出た言葉に、ローガンは嬉しくなった。
ファーガルが第二王子派となってくれれば、どれほど心強いか。今でこそ、可憐な少女のように泣く彼は、本来は天才魔術師として名高い男なのだ。彼が一緒ならば、ローガンも殺されずに済むかもしれない。
それに、ファーガルも生き残って、オーウェンと愛し合える未来があるかもしれない。
「ローガンはどう思う?」
「同じです。あの男が即位してから、この国はおかしくなってしまった。ファーガル様、どうか私の手を取って。私は第二王子の指示の下、あなたを助けに来た者です」
うん、と頷いて、ファーガルがローガンの手を取った。
「今ここで決着をつけましょう。手練れがそろっています。あなたがここにサリオン王を呼んでください。すぐにでも」
温室が、ぐらりと揺れて見える。草木の影のあちこちに、黒いローブが見えた。
ローガンが渡した合い鍵によって、暗殺者たちが入り込んだのだ。
ローガンは暗殺者の一人から一振りの短剣を受け取り、ファーガルに渡した。
ファーガルは、短剣をしっかりと受け取った。
「分かったよ。だけど、サリオンは手ごわい。いい?まずは私が誘いこむから、それからだ」
ファーガルは足を引きずりながら鳥籠の中へ戻る。そしてそっと、鳥籠に触れた。
「魔術がかかってる。私が呼べば、サリオンはすぐに来る」
少しだけ、鳥籠が揺れたように見えた。
「どうした?俺を呼ぶなんて珍しいな、ファーガル」
温室の中へとやってきたサリオンは、鳥籠の中にいるファーガルを見て目を細める。
ファーガルに気を取られて、暗殺者たちには気づかないようだ。
いくら残虐王と呼ばれる人間でも、自分の陣地と分かっている場所で警戒したりしないだろう。
「サリエル。突然呼んでごめんなさい。でも、会いたくなってしまったの。体がうずいて仕方がないの」
誘うようなファーガルの声に、ローガンが今まで見たことがないほどサリエルの顔が高揚した。
「そうか。分かった!ようやくこの時が来たんだな!待っていたぞ、ファーガル。あぁ、本当に長かった。まさかお前から誘ってくれる日が来るなんて」
興奮したように鳥籠へ近づくサリエルにファーガルは手を伸ばす。
そしてサリエルがファーガルを抱きしめたその瞬間、真っ赤な血がシーツに飛び散った。
「ごめんなさい、サリエル。私はあなたを愛していないの」
横腹を刺され、あまりの衝撃に固まるサリエルを置いて、ファーガルは鳥籠から飛び出る。
怖がるように鳥籠のドアを閉めたファーガルを、一人の暗殺者が羽交い絞めにした。
「きゃっ」
「サリエル王子。ここが運の尽きのようだな。愛した男を殺されたくなければ、大人しく我々に殺されるのだ!」
ファーガルの喉元に短剣を突き付けたままの暗殺者の言葉に、サリエルは何も返さない。それほどに、ファーガルに裏切られたことがショックなのだろうか。
もしや、裏切った男など知らないとサリエルが言ったらどうしようか。いくら手練れを連れてきているといっても、いくらファーガルに刺された傷があるといっても、剣の達人であるサリエルには勝てないかもしれない。
そんなローガンの不安をよそに、サリエルは不敵に笑った。
「ファーガル。仕方ない。お前のために死んでやろう」
「サリエル」
「お前は俺を嫌っていても、俺はお前を愛している。お前への愛のために殉じれば、少しはお前も俺を思ってくれるだろう!」
ほら、殺せ!
サリエルが叫んだ声を合図に、一斉に暗殺者たちが銃を撃った。
王宮内では、許された一部の者しか魔術を使うことができない。実戦ではあまり役立たない銃も、こんな時だけは役に立つのだ。
銃声が止み、噴煙が徐々に晴れてくる。
終わってみれば、あっけない。
そんなローガンの思いをよそに、鳥籠には少しの傷もついていなかった。
もちろん、中にいた王にも。
「残念だったなぁ。俺が殺せなくて」
横腹に刺さった短剣を抜き、王は不敵に笑った。
「だが、さすがに刺されれば痛かったぞ、ファーガル」
「うっせぇなぁ!人の足の腱を切って、お前と愛し合ってるフリまでさせやがったんだ、それくらい軽いもんだろっ!俺の方が何百倍も気持ち悪かったんだ!」
……は?
今の声は、聴き間違いだろうか?
さっきまで、「きゃっ」とか言っていた男はどこにいるんだ。
可憐な少女と見間違うばかりだったファーガルは、うっとおしいとばかりに自分を拘束する暗殺者の腕を振り払う。
彼が一つ指を鳴らすと、みるみる間に足の鎖も、傷も消える。
……治療の魔術は、非常に高度な魔術だ。
それを詠唱も魔法陣もなく行使するとは。
「お前ら、本当に俺がこのアホ王に捕まったと思ったのか?天才魔術師ファーガル様が?この温室の目くらましを作ったのは俺だし、絶対に魔術も銃も剣も通さない守りの鳥籠を作ったのは俺なのに!?俺のことを見くびりすぎだと思わなかったのかっ!」
この男は、何に怒っているのか。
「この俺を相手に、たかがこの程度の暗殺者で足りると思ったのかよ!」
ごごごごと地鳴りのような音がする。
いつの間にか入口は閉ざされ、温室内のバラの蔦が暗殺者を捕らえる。
剣も銃もすべてが無意味だ。この、絶対的な魔術の前では。
先ほどまで絶対的優位だと思っていた暗殺者たちが、次々に悲鳴を上げて捕らえられていく。
持っていた銃は無残にもひしゃげて、万が一王と戦うかもしれないと携えた剣さえ、バラの蔦に傷一つつけることができない。
まさに、一瞬の出来事。
あっけにとられることしかできない。
「ほら、早く近衛兵呼べよ。とりあえず全員捕まえてやったから」
「その前に、俺の腹の傷を治してくれないか?」
「残念。鳥籠の中は、俺でも魔術が使えないんだ。傷口は治せないよ。それに暗殺者がまだいるかもしれないから、鳥籠からは出せない。ごめんね」
せいぜい苦しめばいい、という副音声が聞こえそうなほど憎しみのこもった笑顔で言い放ったファーガルに、とりあえずこの場の全員が見とれることしかできなかった。
近衛兵に引き渡されていく暗殺者たちを横目に、ファーガルは大きなため息をつく。
「ローガン。俺の傍を離れない方がいいぜ。まだ、ネズミが1匹残ってる」
え?とローガンがファーガルを見る。
ファーガルがいまだ自分を心配することが不思議で、むしろ自分も暗殺者と一緒に近衛兵に捕まると思っていたのに。
固まるローガンを横目に、ファーガルは片頬をあげて笑ってみせると、いまだ鳥籠から王を解放することなく、目の前にやってきた近衛兵に向き直る。
「ファーガル魔術師様。無事に暗殺者たちを全員捕らえました」
「ご苦労」
「あ、あの。その、サリオン王はあのままで良いのですか……?」
「ん?あぁ。いいんだよ。あいつはもう少しそのままで」
そうですか、と奇妙なものを見る目で近衛兵はファーガルを見る。
あれ、この声、どこかで聞き覚えがある気がすると、ローガンは近衛兵を見る。
いつもはフードで隠されていて、くぐもった声だったけれど。
この声は、まさか——!
ファーガル様、危ないっ。そう叫ぼうとしたローガンの声は、目の前の近衛兵の叫び声にかき消された。
「覚悟しろっ」
目の前の近衛兵が、短剣を構える。
「危ないっ!ファーガル!」
それと同時に叫ぶ声は、暗殺者たちを連れていく近衛兵集団の中から。
ローガンはそこに、見知った顔を見つけた。
しかし、ファーガルの側にいた近衛兵が短剣を向けた先は、ファーガルとは違う方向。
この男が狙っているのは、自分だ——!
当たり前だ。作戦に失敗したローガンは、王に殺される前に、第一王妃一派に殺される。
いつものフードの男が、ローガンを始末しに来たのだ。
短剣の痛みを覚悟してぎゅっと目を瞑ったローガンはしかし、いつまで経っても痛みが訪れないことを疑問に思って、ゆっくりと目を開けた。
目を開けた先には、ニヤニヤと笑うファーガル。それと、ローガンを襲ってきた近衛兵を捕まえるもう一人の近衛兵——オーウェン。
「ファーガルっ!ローガン、無事だったか?」
「あぁ。この男を捕らえろ。どうせ拷問したところで碌な情報なんざ吐きゃしないだろが…」
舌を噛んで死のうとしたのか、それとも口内に毒を隠してでもいたのか。思い切り口の中を噛もうとしていた男を、ファーガルの魔術がいっそ鮮やかなほど素早く拘束する。
柔らかな光が男を包み込み、すぐに彼は眠りに落ちてしまったようだ。
そんな男を見て、オーウェンはほっと安心したような眼差しでファーガルを見つめる。
「本当に無事で良かった」
「大丈夫だよ。俺を誰だと思ってるんだ。それにしても、オーウェン。お前は近衛兵じゃなかったよな?どうしてここにいるんだ?」
ギクリと、オーウェンがローガンに視線を向ける。
それもそのはず。オーウェンをここに送り込んだのは、ローガンだ。
今夜この襲撃が行われることをフードの男に告げられたローガンは、こっそりオーウェンに夜警の近衛兵として王宮の見張りに混ざることを提案したのだ。
襲撃がうまく行けば、オーウェンがファーガルを救い出すことができる。
もし失敗してファーガルが殺されることとなっても、その今際の際に一目会うことができたら……などと考えていたのだ。
それがまさか、こんな結果になるとは。
このまま行けば、なぜか今は見逃されていても、襲撃を手引きした罪でローガンも投獄される。しかし今はそれよりも、この二人の気まずい再会の方が気になってしまう。
「それは、だな……」
何と言おうか迷っているオーウェンが視線をさ迷わせると、ばっちりと胸元の開いたファーガルの胸に視線がいってしまった。
男なんだから、別にいいだろう……とも言い切れない何とも妖しげな胸元に、オーウェンの顔が真っ赤になる。それに一拍遅れて気づいたファーガルが、同じく顔を真っ赤にして胸元を締めた。
「ち、違うっ!これは、違うからなっ!」
「わ、分かってる。分かってるから……」
「いや、分かってない!お前も勘違いしてるだろっ。本当に、俺とサリオンはなんでもないんだ。うっとおしい第一王妃派を騙すために仕組んだことで……」
「実際にセックスはしていないがな。だが、確かにファーガルの首元にキスマークをいくつも付けたのは俺だし、演技とはいえ、あいつの喘ぎ声を聞いたのは俺だがな?」
ニヤニヤした声は、鳥籠の中から。
腹に血のにじむ傷を抱えながら、楽し気にこちらを見る男。
「サリオンっ!」
「ローガンを騙す時は、お前も楽しんでただろう?何を、俺だけの責任にするんだ」
「てめぇっ。本当にふざけるなよ。誰のために、恥を忍んでこの俺があんな演技に付き合ってやったと思ってるんだっ」
そんなサリオン王とファーガルのやりとりを見て、オーウェンがくっと笑い声をこぼした。
「「オーウェン?」」
不思議そうな声は、ファーガルとサリオン王の二人から。
この二人、恋人を“演じていた”はずだが、なかなかにやはり息が合っている。
「まったくもう、こちらがどれだけ心配したと思っているのですか。それに、サイオン王。この度のことは、この私にも教えてくれず、二人で企んだのですね。さすがに少し、お二人に妬いてしまいます。いつもは私も、混ぜてくださったのに」
「いいぞ、オーウェン。今からでもお前も混ざるか?二人でファーガルを愛でようではないか」
ニヤリと笑ったサリオン王に、ついにファーガルが切れた。
先ほどと同じような魔術でできたバラの蔦が鳥籠に絡まり、ガラガラと鳥籠を揺らす。
「いい、加減に、しろっ!どれだけ俺が恥を忍んで、女役をしたと思ってるんだっ!」
「似合っていたぞ。何なら本当に、俺の愛妾になるか?」
ファーガルの作り出した蔦が、ついに鳥籠をひっくり返そうとしていた時だった。
「それくらいにしておけ、ファーガル。サリオン王がふざけるのはいつものことだろう?」
静かなオーウェンの声が、二人の間に割って入った。
「オーウェンは、俺がどんな辱めを受けたか知らないからそんなことを言えるんだ。女みたいにドレスを着させられて、女みたいに喘ぎ声を強要されて、嫌だって怒る俺に、面白がってアホみたいにキスマークまでつけやがって」
わーんっと泣き真似をするファーガルを優しくオーウェンがなだめる。
それはまるで兄弟のようで、一見するとほのぼのとする光景だ。
だが、オーウェンがファーガルに恋をしていると知っているローガンだけは、気づいていた。
オーウェンの目が、決して笑ってはいないことを。
「本当に、サリオン王がお前のことを閉じ込めたのかと思った」
優しく頭を撫でながら、ぽつりと呟かれた言葉。
ファーガルは、拗ねたような甘い視線を、オーウェンに向ける。
サリオン王との“演技”をさんざん見てきたローガンも、初めて見る表情。この表情を見ると、一瞬で分かってしまう。
確かに、サリオン王とのやりとりは、“演技”だったのだと。
「さぁ、とにかくここから出よう。その前にファーガル、さすがにサリオン王を治してやってくれ」
オーウェンの一言に、仕方ないとばかりにファーガルもようやく鳥籠へと向かったのだった。
プロローグおわり
結論から言えば、ローガンが処刑されることはなかった。
そしてさらに言えば、あの日捕まった男たちから、第一王妃の名前が出ることもなかった。
しょせん、自分に指示を出していたあのフードの男さえ、第一王妃たちにとっては捨て駒だったのだ。
第一王妃一派が関わっているということは誰もが分かっていたが、決定的な証拠が出てくることはなかった。
ローガンも、自分に暗殺を指示した者は分かっても、それ以上先は分からない。第一王妃が関わっていると憶測で言うことはできるが、確実な情報がない限り、例え王と言えど、前王の王妃を処刑することはできないのだ。
「つまりは、俺の演技は、無駄足だったわけだ」
王宮魔術師としての黒いローブに身を包んだファーガルは、むっすりとそう言い放った。
「ただただ、ファーガル魔術師は王の愛妾だって噂が残っただけで、本当に何の意味もないことだったんだ!」
ここは王の私室。
どうしてそんな場所にローガンが入ることができたかと言うと、これもローガンの命を守るためだと言う。
王の寝室での一件から、ローガンの生い立ちを知った王とファーガルは、ローガンを生かすと決めた。今後何かの役に立つかもしれない、という打算もあるのかもしれない。だが、仲間にすると誓った王は、いつ狙われるか分からないローガンを自身の護衛として、王宮内に引き入れることを選んだ。
王宮内であれば、王も、そして天才魔術師として名高いファーガルの目もある。この場で、殺人事件を起こすことはなかなかに至難の業だった。
騒ぎ立てるファーガルを横目に、つまらなさそうに王は書類をめくっている。
そして、ローガンと同様に“仲間”として王の私室にいるオーウェンが、そんなファーガルの様子を微笑みながら見守っている。
「この、天才魔術師ファーガル様がだぞ!?魔術師の間で噂されてるんだ。あれは囮捜査なんかじゃなく、本当に王は俺を愛していたんだって。で、俺を愛しているからこそ、王は俺が第一王妃一派に殺されることを恐れて解放したんだって!そして俺も、そんな王の愛を知りながら、王のためを思って泣く泣く身を引いたって……!」
その噂は知っている。
というか、そんな話で王宮内は持ち切りだ。
なんて悲恋。なんて健気な愛。男同士で報われない、切ない愛——。
王の鳥籠を離れた可哀そうな夕焼け姫は、気丈にもまだ愛する人に仕えるために、王宮魔術師として王宮に残った——。
目の前で悪態をまくしたてるファーガルを見れば、彼がそんな悲恋に殉じる人間だとは思わないだろう。
ローガン自身も、こうして“夕焼け姫”と親しく接するまで、彼がこんな見た目と反する性格だとは知らなった。
「人のうわさも七十五日、だ。魔術師も、騎士も、貴族たちも、皆お前の有能さは分かっているんだ。少しの我慢だ、ファーガル」
「オーウェンは、それでいいのかよ。俺が、お前の友人である俺やサリオンが、ありもしない噂にさらされてても」
むすっと返したファーガルに、オーウェンはニヤリと笑って返す。
「最初に、俺を仲間外れにしたのはお前たちだろう?俺ができることなんて、限られる」
うっと黙り込んだファーガルに、今度は愉し気にサリオン王が口をはさむ。
「オーウェンが噂を上書きしてやればいい。王宮のど真ん中でファーガルに告白でもすれば、俺とファーガルの噂なんぞ過去のことになるだろうよ」
サリオンの一言に、オーウェンとファーガルの二人が固まった。
目を合わせて二人して赤くなり、さっと目を逸らす様子に、サリオン王の唇がニヤリとゆがんだ。
「まぁ、そんな面白いことになったら、俺が再びファーガルを鳥籠にさらって、噂を盛り上げてやるがな?」
おや?
ローガンは盗み見たサリオン王の瞳に、真剣な色を見つけて首を傾げる。
王とファーガルの恋人は、あくまで“演技”。少なくともファーガルは、サリオン王に対して恋愛感情を持っていないように思えた。
だが、ひょっとして。もしかして、サリオン王の方は……。
「どうして噂を大きくしようとするんだ、このバカ王はっ!」
オーウェンの視線を避けるように怒鳴ったファーガルは、気づかない。
だが、オーウェンの目はしっかりと、サリオン王を捕らえていた。
「そうしたら、前代未聞の三角関係ですね?陛下」
「うむ。なんならローガンも混ざるか?仲間外れは良くないだろう?」
からかうように言われたサリオン王の一言に、こんなややこしい関係に混ぜないで欲しいと、ローガンは心底思ったのだった。
現在、この国を牛耳っている、まだ年若い王の寝室。
近衛騎士の中でもごく一部の限られた者しか入れないその場所に、ローガンは足を踏み入れた。
「さぁ、どうぞ。ここが君の仕事場だ」
寝室の奥にこんな場所があるなんて、王宮に仕える使用人だってほとんど知らないだろう。
ローガンはその光景に、驚いてつい立ち止まってしまった。
「わっ……!」
暗い天井が開け、まばゆいばかりの光が降り注いでいる。
室内だったそこは、大広間がまるっと入るくらい大きな温室になっていたのだ。
魔術によって適切な空調が保たれたここには、溢れんばかりの花が咲き誇り、鳥たちが優しく囀っている。
「すごい」
これがすべて、たった一人の男のために作られたとは、誰も思わないだろう。
温室の中央。
宝石のように輝くバラが咲き誇るその真ん中。
人が3人くらいは軽々と眠れるだろうベッド……その中央に眠る、一人の男。
「俺特製の鳥籠だ。作ったはいいが、自慢できる相手もいなくてな。どうだ?美しいだろう?」
狂っている——!
ローガンがそう息を飲むほどに、この状況はあまりに異質だ。
「あぁ、ファーガル。起きなさい。お前の話し相手を連れてきてやったぞ。もうここに来てひと月が経つだろう。話し相手がいなくてつまらないと言うお前のわがままのために、一人連れてきてやったんだ。俺は優しいだろう?」
ローガンをこの温室に案内した相手——この国の王は、砂糖菓子の上にはちみつをかけたかのような甘い声で、眠っている男に声をかけた。
その声に、ゆっくりと男が目覚める。
夕焼けを切り取ったような、見事な赤紫色の瞳が、ローガンを見つめる。
じゃらりと耳障りな鎖の音は、男の左足から。
温室の中にあるベッドをぐるりと囲むように作られた、真鍮製の大きな鳥籠。
王宮の寝室の奥という、近衛騎士さえも入ることができない秘密の場所。
鳥籠に入れただけでは足りず、鎖まで繋いで。
そこまでして、この王が逃がしたくないと思う相手が、ここにいる。
「初めまして。ローガンと言います。ローガン・ティルベール。ティルベール男爵の第2子でございます。本来ならば、王宮に上がれる身分ではないのですが、どうかよろしくお願いいたします」
ローガンの挨拶に、男はけだるげに微笑んだのだった。
○プロローグ
現在の王、サリオン・スペンサーは残虐王として有名である。
前王の長子であった彼は、身分の低い第三王妃を母親として持つ。
原則としてこの国は、王妃の身分に関わらず長男が国を継ぐ。
しかし、彼が生まれた5年後に、公爵家出身の第一王妃が男子を生んだ。そのせいで、第一王妃やその派閥の人間に、サリオンは常に命を狙われ続けた。
サリオンが皇太子となるために、裏で多くの血が流れたと言う。
サリオンが皇太子になってすぐ、まだ若かったはずの王が崩御した。
王宮では、サリオンが前王を殺したと噂された。そう噂されても仕方ないほど、サリオンが皇太子に決まると同時に王が病死したのだ。
だが、証拠はない。第一王妃一派が血眼になってサリオンが前王を殺したと言う証拠を探し、ついにはでっちあげようとしたが、そこまでしても何も出てこなかった。
そして、サリオンは王となった。
王となってすぐ、今まで抑えられていた鬱憤を晴らすように、高位貴族や第一王妃一派の粛清が始まった。
一体どれほどの貴族家が、告発を受けて処刑されただろう。
スペンサー王家の玉座は血に穢れてしまった、とまで言われることになった原因の王。
そんなサリオンが、恋に狂った。
にわかにそんな噂が広がり始めたのは、今から半年前の冬だ。
サリオンにはもともと婚約者がいた。けれど彼は、王位に就くと同時に多くの貴族を“粛清”の名の下に殺した。婚約者一家も例外ではなく、彼は自分の婚約者を国外追放にしている。
新たな婚約者候補が現れたこともあったが、貴族の可憐な女性たちはサリオンを怖がり、王位に就いても彼は未婚のまま。
彼の側近たちは、貴族であれば誰でも……貴族でなくても、サリオンを怖がらない相手なら貴族の養子にしてでも、とにかく結婚して欲しいと願っていた。
王は結婚して、世継ぎを作ってこそ、である。
しかしそんな側近たちの思いを無視して、まさかサリオンが愛した人は、“男”であった。
ファーガル・ユルフェ。ユルフェ伯爵家という魔術師の名門出身の彼は、若くして天才と呼ばれる宮廷魔術師である。その才能もさることながら、あまりの美貌に彼は有名である。
特に“夕焼け色”と称される赤紫色の瞳が美しく、男性であるにも関わらず、多少からかいの意味も込めて『夕焼け姫』とまで称される。
王が男に恋をした、なんて醜聞、側近たちはひどく頭を抱えたことだろう。
宮廷魔術師たちがいる魔塔へ通う王を何度も目撃され、ファーガルを口説く姿も、数多くの魔術師や貴族たちが目撃している。
正当な王妃を娶った上で、愛人としての扱いであればまだ許されただろう。しかし、初めての恋にのめりこみ、ファーガル以外目に入らないサリオンは許されなかった。
彼の忠実な側近の一人が、ファーガルに、王と会わないように告げた。
それが、サリオンの執着心に火をつけてしまった。
自分から身を引こうとしたファーガルに激昂した王は、あろうことか彼を王宮に閉じ込めてしまった。
そんな出来事が、約一か月前。
王宮に閉じ込められた彼を、この一か月誰も見ていない。
誰にも見せないほどに、溺愛と呼ぶことさえ足りないほどの執着心でもってファーガルを閉じ込めた王は、ひと月経ってようやく、側近たちにファーガルの近況を漏らした。
いわく、元気がない。
食欲がない。
笑わなくなった。
誰もが、当然だろう、と思った。
例え王の寵愛を得られるとしても、誰とも会えない場所に閉じ込められたい人はいないだろう。それにファーガルは、宮廷魔術師として働く立派な男だ。
側近の一人が、恐る恐る、ファーガルを解放したらどうかと言った。
サリオンは、その言葉に怒らなった。それほどに元気のないファーガルを心配していたのだ。
だが、ファーガルを手放すことはできない、できれば誰にも見せたくない。誰にも盗られたくないと嘆く王に、“せめて話し相手でも呼んだらどうだ”と一人が言った。
仕方ない、とようやく受け入れた王に、王宮で内密に話し相手の選定が行われた。
万が一にでもファーガルが恋をしないような、平々凡々な男。できれば、身分が低い貴族がいい。そんな貴族は、金を渡せばいくらでも好きに使えるし、後々始末することだって簡単。そういう理由で、ローガン・ティルベールが選ばれた。
がしゃんと大きな音を立てて、鳥籠のカギが開いた。
鳥籠の中に入ったサリオンは、すぐにファーガルを抱きかかえる。
真っ白なベッドに、真っ白なドレス。真っ黒な長い髪。
色とりどりの花が咲く温室において、白と黒しかない鳥籠の中は、いっそ異質な程に美しい。
サリオンの輝くような金髪が邪魔に思えるほど、ファーガルの美貌は完璧だ。
「あぁ、ファーガル。元気にしていたか?」
「元気な訳が、ないでしょう」
あまりの美貌に見とれていたローガンは、その声がイメージと異なりすぎて驚いた。
ガラガラにしゃがれた声。
どうしてこんな老人みたいな……と思いかけて、ドレスの中にキスマークが見えてハッと気づいた。
「あぁ、朝まで一緒にいたのだからな。だが、今日は話し相手が来る初日だから、いつもより無理はさせなかっただろう?優しいお前の王様に感謝して欲しいものだ」
横暴な王の声に、はぁ、とファーガルがため息をつく。
「いい加減にしてくださいな。こんなことは、長く続きません。あなたは王で、私はただの魔術師の男。いかに現代の魔術が優れていても、私が天才であっても、私は女にはなれませんし、王の御子を孕むことはできないんですよ」
「そんなことはもう聞き飽きた。何を言おうと、お前はここから出ることはないんだ。永遠に、この鳥籠がお前の住処だ」
ファーガルは、何も言い返さない。
ただ、今度はローガンを見て、疲れたように笑った。
「サリオン。ローガンが困っているよ。だいたい、この鳥籠は一面がベッドだ。さすがに、君以外の男をベッドに入れるのは君もイヤだろう?話をする時くらいは、鳥籠から出ても良いでしょう?」
思い切り眉を寄せ、しぶしぶながら、サリオンが頷く。
「ほら、どうせ鳥籠から出たところで、私は満足に歩けもしないのだから。あまり心配なさらないでくださいな」
抱きしめるサリオンの手を押しのけて一人で立ち上がったファーガルの足には、太い鎖。だけではない。足首に巻き付いた鎖が隠すようにして、醜い傷跡が現れた。
……足の腱を、切られている。
王の執着は、ここまでするのか。
ファーガルはゆっくりと、傷跡のある左足を引きずりながら鳥籠の外へ出る。
眩しそうに目を細める姿に、ローガンの胸が痛んだ。
鳥籠から出たところで、ここは温室。外に出ることは絶対にできない。
痛ましい、小さな鳥。
プロローグ 2
この国の貴族は、ほとんどが魔力を持つとされる。しかし、ティルベール家はもともと騎士として名をあげ、男爵位をいただいた家名である。魔力のほとんどないローガンは、宮廷魔術師であるファーガルに会ったことはなかった。
宮廷魔術師としての彼と出会えば、また印象は違ったのかもしれない。
だが、体の線が見えるような白いドレスを纏い、腰まで届く長い髪を無造作にかきあげるその姿は、可憐な少女にしか見えない。
温室の中にある小さな噴水の端に座ると、ファーガルはついて来たサリオンに目配せする。
「ほら、仕事があるでしょう?私はここから逃げないから、早く行きなさい」
「……ローガン・ティルベール。万が一にもファーガルに触れたら、一族皆殺しだと思え。ファーガルの側で呼吸をし、ファーガルを見て、言葉を交わすことを許してやるだけ特例だと思うことだな」
サリオンはきつくローガンを一睨みすると、そのまま温室の出口へと歩いて行く。
先ほどまでの執着と異なり、案外あっさりした様子に、ローガンは少しだけ面食らった。
ローガンのごとき平凡で取り柄のない男は、敵にもならないと思われているのだろうか。
「すまないね。サリオンが迷惑をかけた。でも、今までずっと独りだったから、話ができて嬉しいよ。私のことはファーガルと呼んで欲しい。ローガン。隣にどうぞ?」
ファーガルが、自分の隣を勧めてくる。
これは、申し出に頷いて良いのだろうか。迷いに迷った挙句、ローガンは隣に座った。“話し相手”として呼ばれたのだから、あまり遠くにいては声が届かない。
「ありがとう。聞かせて欲しい。私がここに閉じ込められてから、外はどうなっているの?あぁ、安心して欲しい。この温室の中の声はサリオンには届かない」
「はい。え、えぇと……とにかく、あなたは憔悴しきって、物を食べることもできないほどだと聞いていました。こうしてお元気な姿を見ることができて光栄です」
ローガンの言葉に、ファーガルの目が丸くなった。
「た、確かに。案外元気、かな?」
焦ったように見えるのはなぜだろうか。
「と、とにかく!サリオンの側近たちは怒ってるだろう?王宮は?魔術師たちは?」
「俺はしがない男爵家の出。次男であるため、家を継ぐこともできません。入手できる情報は限られています。けれど、社交界であなたのことは絶対の禁句になっています。王の怒りを買いたくないので、誰もが暗黙の了解として口をつぐんでいます」
「魔術師たちは?」
「俺は騎士の出であるため、魔術師のことは分かりません。ただ、あまりの王の横暴続きに、貴族の間で不満がたまっているのは確かです。それに、騎士は……」
「騎士?」
「オーウェン・パルシェーラという男をご存じですか?」
ローガンは、自分がファーガルの話し相手となったことを誰にも知らせることが許されていなかった。あくまで秘密裡に行われた契約。
しかし、王宮というのはいつもどこからか秘密が漏れるもので。
同じ騎士団に所属するオーウェンが、夜中にローガンの私室を訪ねてきたのだ。
「オーウェン?う、うん。知ってるよ」
「あなた様にお会いしたいと、もしあなたが外に出たいと願うのであれば、王を裏切ってでもあなたを助けたいと、お話されました」
真っ白なファーガルの顔が真っ赤に染まって、ものすごい勢いでローガンの口がふさがれる。
「しっ!声が大きい!」
しまった、とローガンは内心で思った。
愛しすぎて足の腱まで切った男と、見知らぬ男を二人きりにしているのだ。声は外には漏れないと言っていたが、あまり大きな声を出すと、見張りに聞こえてしまうこともあるのかもしれない。
「あ、えぇと。その、えーと」
けれど、赤紫色の瞳をぱちくりさせながらどもるファーガルに、ローガンはつい笑ってしまう。
先ほどベッドの上に横たわっていた彼は美しかったけれど、まるで氷の彫刻のように近寄りがたい雰囲気があったのだ。
「オーウェンのことを、好きなのですか?」
「ばっ……」
ファーガルの手をはがしてこっそり呟いた言葉に、さらに彼の顔が真っ赤になった。
「ち、違う!い、いや。違います。だいたい、オーウェンが俺に対してそんなことを言うこと自体、聞き間違いでしょう。俺だって……いや、こほんっ」
口調が乱れたファーガルが、冷静さを取り戻すように小さく咳払いした。
「とにかく、滅多なことを言うものじゃない。もし万が一、それがたとえ絶対に叶わないことだとしても、私のことを好きだなんて男がいたら、サリオンが何をするか分からない。ローガン。ここの声は、確かに基本的にはサリオンには聞こえない。だが、用心するに越したことはないだろう?」
「申し訳ありませんでした。でも、もしあなたがここから出たいと言われるのであれば、と思いまして」
思い切ったローガンの言葉に、ファーガルの瞳が鋭く輝く。
これは、希望を失っていない目だ。
王の寵愛に堕ちた愛人ではなく、魔術師として逆襲を企む“男”の目だ。
「まだ早いよ。ローガン。もう少し君がサリオンの信頼を得てから、この話をするとしよう」
にこりと微笑んだファーガルに、ローガンはゆっくりと頷いたのだった。
プロローグ 3
コンコン、とローガンの私室をノックする音が聞こえた。
騎士団に所属する騎士は、一部の高位の貴族を覗き、宿舎に寝泊まりしている。
ローガンも、もちろん例外ではない。しかし、騎士団の団員は貴族であるため、私室を与えられてはいる。だが、ローガンのような下位の貴族は、風呂もトイレも共有であり、ベッドと簡易的なテーブルのある小さな部屋しか与えられなかった。
「どうぞ」
ローガンが許可をすると、一人の背の高い男が入って来た。
同じく騎士団宿舎に寝泊まりしている男、オーウェンである。
ローガンは低位と言えど、れっきとした貴族の出身だ。だが、オーウェンの身分は少し変わっている。今でこそパルシェーラという伯爵家の姓を名乗っているが、彼の母親は娼婦であり、もともとは庶民として生まれた。剣の腕に優れていたことと、貴族しか持たないと言われる魔力があったことから伯爵家の血を継ぐと分かり、養子として引き取られたのだ。
男爵家と伯爵家。本来であれば気安く話ができる身分差ではない。だが、庶民として生まれたオーウェンは高位の貴族の間にうまくなじむことができず、こうして未だに下位の宿舎に住んでいるのだ。
高位の貴族にすり寄る人間ばかりの貴族社会で、無骨に剣の腕だけを追求する男。そんなオーウェンに、ローガンは少し憧れを抱いていた。
それに、親しみも。
ローガンの貴族としての地位は低く、剣の腕は中の下、魔力さえほとんどなく見た目は平凡。そんなローガンに気安く声をかけてくれる人間など、あまりいない。
だからこそ、王の恋人というあまりに遠い存在に恋をしているこの男を、少しだけ応援したいと思ってしまったのだ。
「ファーガル様は、元気だったよ」
ローガンの一言に、オーウェンがほっと詰めていた息を吐いた。
「驚いたよ。本当に綺麗な人だな。女性と見間違うばかりだったけど、貴族の女性にだってあんな綺麗な人はいない。夕焼け姫だなんて、よく言ったもんだ」
「あいつは、そう言われるのを嫌がっていた。だいたいあり得ない。ファーガルは女扱いされるのが何より嫌いだったんだ。確かにずっと王とは仲が良かった。だが、それは決して男女の仲としてじゃなかったし、あの“血の粛清”を乗り越えた戦友だったはずだ。それがまさか、こんなことになるなんて」
“血の粛清”
サリオン王が即位した翌日から行われた、貴族の大粛清のことだ。
前王の時代に権力を握っていた貴族のほとんどが粛清された。様々な罪をでっちあげられ、処刑されたのだ。王であるサリオンの弟たちも例外ではない。今では、第一王妃が生んだ第二王子が残っているくらい。
しがない男爵であったローガンは、その粛清を免れたけれど。
「だけど、王は本当にファーガル様を愛してるって感じだった。鳥籠みたいなところに閉じ込めて、あんな見えるところにまでキスマークつけてさ。声だってガラガラだったのは毎晩愛し合ってるからだろうし、足だって……」
さすがに言いかけて、ハッとした。
足の腱が切られたことは、言わない方がいい。
自分の大切に思っている相手が傷つけられたと知って、オーウェンが激昂するかもしれない。
「足?」
「あ、足にさ!鎖をつけられてたんだよ。え、と。すごい執着だよなぁ」
オーウェンが疑うような目でローガンを見る。
だが、乾いた笑いを浮かべてごまかすローガンに諦めたのか、はぁと大きなため息をついた。
「なぁ、オーウェン。お前、あの方を好きなのか?確かにぞっとするほど綺麗だったけど、男だぞ?まして、王の愛人だ。どうしたって諦めた方がいいだろ」
「あいつは、自分が女として見られることは酷く嫌っていた。だから俺は、あいつが女性を好きなんだと思い込んでいたんだ。だから、愛していると告げることを恐れた……俺はあいつに、“好きだ”の一言も言えなかった」
「だからって……」
「俺にとってファーガルは、かけがいのない人なんだ。ファーガルは自由を愛すし、束縛なんて受け入れる男じゃない。たとえ王のことを本気で愛していたとしても、今の状況を良しとする男じゃないんだ。鎖をつけて、鳥籠に閉じ込められていたということは、ファーガルは逃げようとしたんだろう。ならば、もし、ファーガルがまだ逃げたいと思っているのなら、俺は手を貸す」
オーウェンは、剣に生きる不器用な男だったはずだ。色恋なんて無縁の男だと思っていたのに。
まさか、残虐王だけでなく、この男まで狂わしてしまうとは。
なんと恐ろしい男なんだろう、ファーガルという男は。
「ファーガルが再び自由になれるのであれば、俺はどうなってもいい。ただ、できれば最後に、ファーガルに俺の思いを伝えたい。叶わなくてもいい。ただ、もう一度ファーガルのあの瞳を見て、手を取って……」
じわりとオーウェンの瞳ににじんだ涙に、慌ててローガンは話題を変えた。
「え、えと。サリオン王のあまりの横暴さに、他の貴族たちだって黙ってないだろ!第一王妃だってまだ生きているんだ。この勢いに乗って、第二王子派が政権を握るかもしれないだろ。そうしたら、ほら、ファーガルは自由になるじゃん」
「たとえ自由になったところで、ファーガルの心は深い傷を負うだろう。それに、ファーガルはユルフェ伯爵家のれっきとした魔術師。同じ伯爵家と言えど、庶子の俺と天才魔術師と言われるあいつでは天と地ほどの差がある。俺なんて、本来ならば話ができる相手でさえないんだ」
オーウェンは酒でも飲んでいるのだろうか。
ローガンは頭を抱えたくなった。恋する男はこれだから面倒くさい。
それに、ローガンが見たファーガルは、今回のことに傷ついて泣くような男に見えなかった。むしろ、逆襲の時を虎視眈々と待つようなしたたかさが隠れ見えたのだ。
まぁ、だからこそ、王はあそこまでファーガルを厳重に隠しながら一向に安心できないのだろうけど。
「と、とにかく!俺がちゃんとファーガル様の様子を教えてやるから、一人で馬鹿なことをしようと思い詰めるなよ。俺が見た限り、ファーガル様だってオーウェンのことを憎からず思ってる。お前に何かあれば、ファーガル様だって傷つく」
ローガンの一言に、オーウェンがハッとした顔をした。
「……分かってる。あいつは優しい男だ。友人の一人である俺に何かあれば、きっと責任を感じるさ」
本当に“友人”の距離感なのだろうか。
ファーガルだって、オーウェンのことを思っているのではないだろうか。
だがしかし、これ以上ローガンは何も言わない。純粋な目の前の男が、恋に狂ってどんなことをするか想像がつかなかったからだ。
プロローグ 4
最初は週に一度。ファーガルの訴えで、三日に一度。今では二日に一度、ローガンはファーガルの下へ通っている。
何度かは王も同席していたし、なんなら王と睦あっている姿を見せつけられたこともある。ただ、姿は見せたくないと言われて声のみだったけど。仲が良いのを見せつけたいけど、好きな相手の姿は見られたくないとか、嫉妬深い男の思考回路は良く分からない。
王にも、ファーガルにも、だいぶ信頼されてきたと思う。
この信頼を裏切りたくないと思うと同時に、そろそろ時が近づいて来たことも分かっていた。
「ローガン。決行は今日だ」
陰から聞こえた声に、ローガンは思わず舌打ちしたくなった。
「分かっています。俺が寝室へと続く裏道を開ける。あの残虐王が死ぬほど大切にしているファーガル様を人質に取れば、あの男も大人しくなるでしょう」
自室の暗がりに、ローブを深くかぶった男がぬっと現れた。
転移の魔術は、高位の魔術師しか行うことができない。それに、転移を行うと痕跡が残るため、今回のような隠密の仕事にはふさわしくない。
だが、ローガンのいる宿舎には転移を感知する高度な魔法陣はないし、万が一バレたとしてもローガンを切り捨てればよいと思っているのだろう。
しょせん、捨て駒。
いつだってローガンの役割はそうなのだ。
男爵家で重要なのは、剣の腕があり、家を継ぐ長男だけ。
次男の自分は、こうして家の役に立てれば十分なのだ。
ティルベール家は、弱小の貴族家だった。騎士として名をあげた先祖のおかげで貴族の末席に名があるだけの家柄。代々子どもたちは騎士団に所属しているが、大した功績を遺すこともない。
そんなティルベール家が存続の危機に陥ったのが、あの“血の粛清”の日。本当に小さな不正だった。貴族なら誰しもしていた横領の罪。今なら、その罪だけであの王が当主を処刑まではしなかっただろうと分かる。
だが、当時のティルベール家はそんなことは分からなかった。
殺されるかもしれないと思った当主の前に現れたのは、第一王妃の手の者だった。助ける代わりに、手駒となれという取引。
当主であった父は、一も二もなく頷いた。
いずれ王を殺して、第二王子を玉座に就けるまで、第一王妃による極秘の指示は続いた。金策から暗殺まで。主にそれを請け負ったのは、次男のオーウェンであった。
今回のファーガルの話し相手の一件もそうだ。
ただ、第二王子派の暗躍で話し相手候補にまでは押し込めたけれど、それ以上は王の決定だった。あの時以上に、平凡で取り柄のない自分の見た目に感謝したことはなかった。
今回は、王の派閥の者を暗殺するいつもの仕事とは違う。
“王の暗殺”なのだ。
上手く行っても、失敗しても、おそらくローガンは殺される。
自分を捨て駒のように扱ってきたティルベール家にも、第二王子派にも忠誠心なんてない。第二王子だって、第一王妃だってローガンは一度も会ったこともない。
だが、ローガンが行ったことで、ファーガルが喜ぶのなら。
友人として親しくしてくれた、オーウェンが喜ぶのなら。
それを理由に、殺されてもいい気がした。
「お前が報告した通り、本当にファーガルは解放を願っているんだな?あの男は今でこそ王の愛妾なんてしているが、もともとは残虐王の片腕として血の粛清を手伝った天才魔術師だ。あいつが魔術を行使すれば、王の暗殺は難しくなる」
「……それについては、最後にもう一度確認します。後、俺からもいいですか?」
「なんだ」
「オーウェンをこちら側に引き入れませんか?彼はファーガルを愛していますし、ファーガルも彼を愛しています。もし彼をこちら側に引き込むことができれば、ファーガルも完全にこちら側に落ちるでしょう」
ローブの男が、ケッと下卑た笑いを浮かべる。
「男同士で愛だの恋だの、汚らわしい。まぁおかげで、あの残虐王にも隙ができたがな」
「どうしますか?」
「それは許せない。オーウェンは仮にも、パルシェーラ伯爵家の人間だ。パルシェーラはサリオン王の腹心と言っても差し支えない家柄だ。万が一にも計画を漏らされたら困る。今回は、不確定要素をできる限り排除する。分かったな」
分かりました。ローガンはうつむいたまま答える。
「分かっているだろうな。ローガン、今回の件がうまく行き、第二王子が王となれば、お前を近衛騎士に命じよう。ティルベール家も侯爵位にしてやる。いい子だから、家のために頑張るんだ」
あり得ない。
例え暗殺が成功したところで、きっとそんなことはあり得ない。
ローガンはぐっと目を閉じて、深く頷いたのだった。
プロローグ 終わり
「ローガン!待っていたよ!」
最近では、王が不在の時も温室へと入ることができるようになった。
王の寝室のカギ渡されるとは、とんでもない信用である。そのカギの複製を作り、すでにもうローブの男に渡してある。
ファーガルは足を引きずりながら鳥籠から出ると、にこにこと定位置になった噴水の淵に腰かける。
「今日も、オーウェンのことを聞かせて欲しい」
最近の話題はもっぱらオーウェンのことだ。
不謹慎な気はしている。目の前のファーガルは、王の寵愛を受けているのだ。首筋には赤い印だけでなく、歯形まで見えるほどに執着されているし、気だるい色気は彼が愛されている証拠だ。にもかかわらず、他の男について語っている。
だが、この話題が一番、ファーガルが喜ぶ。
今回の暗殺で、ファーガルも殺されてしまうかもしれない。
暗殺を目撃するだろうファーガルは、第二王子たちにとっては邪魔者でしかないからだ。だからローガンは、オーウェンを連れて来たかった。会わせてあげたかったし、あれほどまでファーガルを愛しているオーウェンなら、ファーガルとともに死んでも悔いは残らないとさえ思ったのだ。
「……ファーガル様、オーウェンに会いたくはないですか?」
口をついて出た言葉に、ファーガルは微笑んだ。
「会いたいよ。でも、ローガンの口から出るオーウェンは別人みたいだ。オーウェンと私は確かに仲が良かったけど、それは悪友みたいなもので……。だから分かってるんだ。ローガンは私に気を使って、オーウェンが私のことを思ってるなんて言ってくれるんだろ?」
私の片思いなんだ。
そう寂し気に話すファーガルの横顔は、オーウェンにそっくりだ。
「会って確かめたくはないですか?このままで良いのですか?あなたは最初、私が王の信頼を得たらこの話をしようと言いました。もはや時は満ちたのではありませんか?」
ほろほろと、ファーガルの赤紫色の瞳から涙が零れ落ちる。
ローガンはそれをじっと見つめる。瞳はこんなに鮮やかな色をしているのに、涙に色はないんだなんて、不思議な気がした。
「会いたい。そのためなら、王を裏切ってもいい。サリオンは、こんな人じゃなかったんだ。いつの間にか狂ってしまった。こんなことなら、第二王子が王となれば良かった。あんな狂ってしまった男、王には相応しくない」
ファーガルの口から出た言葉に、ローガンは嬉しくなった。
ファーガルが第二王子派となってくれれば、どれほど心強いか。今でこそ、可憐な少女のように泣く彼は、本来は天才魔術師として名高い男なのだ。彼が一緒ならば、ローガンも殺されずに済むかもしれない。
それに、ファーガルも生き残って、オーウェンと愛し合える未来があるかもしれない。
「ローガンはどう思う?」
「同じです。あの男が即位してから、この国はおかしくなってしまった。ファーガル様、どうか私の手を取って。私は第二王子の指示の下、あなたを助けに来た者です」
うん、と頷いて、ファーガルがローガンの手を取った。
「今ここで決着をつけましょう。手練れがそろっています。あなたがここにサリオン王を呼んでください。すぐにでも」
温室が、ぐらりと揺れて見える。草木の影のあちこちに、黒いローブが見えた。
ローガンが渡した合い鍵によって、暗殺者たちが入り込んだのだ。
ローガンは暗殺者の一人から一振りの短剣を受け取り、ファーガルに渡した。
ファーガルは、短剣をしっかりと受け取った。
「分かったよ。だけど、サリオンは手ごわい。いい?まずは私が誘いこむから、それからだ」
ファーガルは足を引きずりながら鳥籠の中へ戻る。そしてそっと、鳥籠に触れた。
「魔術がかかってる。私が呼べば、サリオンはすぐに来る」
少しだけ、鳥籠が揺れたように見えた。
「どうした?俺を呼ぶなんて珍しいな、ファーガル」
温室の中へとやってきたサリオンは、鳥籠の中にいるファーガルを見て目を細める。
ファーガルに気を取られて、暗殺者たちには気づかないようだ。
いくら残虐王と呼ばれる人間でも、自分の陣地と分かっている場所で警戒したりしないだろう。
「サリエル。突然呼んでごめんなさい。でも、会いたくなってしまったの。体がうずいて仕方がないの」
誘うようなファーガルの声に、ローガンが今まで見たことがないほどサリエルの顔が高揚した。
「そうか。分かった!ようやくこの時が来たんだな!待っていたぞ、ファーガル。あぁ、本当に長かった。まさかお前から誘ってくれる日が来るなんて」
興奮したように鳥籠へ近づくサリエルにファーガルは手を伸ばす。
そしてサリエルがファーガルを抱きしめたその瞬間、真っ赤な血がシーツに飛び散った。
「ごめんなさい、サリエル。私はあなたを愛していないの」
横腹を刺され、あまりの衝撃に固まるサリエルを置いて、ファーガルは鳥籠から飛び出る。
怖がるように鳥籠のドアを閉めたファーガルを、一人の暗殺者が羽交い絞めにした。
「きゃっ」
「サリエル王子。ここが運の尽きのようだな。愛した男を殺されたくなければ、大人しく我々に殺されるのだ!」
ファーガルの喉元に短剣を突き付けたままの暗殺者の言葉に、サリエルは何も返さない。それほどに、ファーガルに裏切られたことがショックなのだろうか。
もしや、裏切った男など知らないとサリエルが言ったらどうしようか。いくら手練れを連れてきているといっても、いくらファーガルに刺された傷があるといっても、剣の達人であるサリエルには勝てないかもしれない。
そんなローガンの不安をよそに、サリエルは不敵に笑った。
「ファーガル。仕方ない。お前のために死んでやろう」
「サリエル」
「お前は俺を嫌っていても、俺はお前を愛している。お前への愛のために殉じれば、少しはお前も俺を思ってくれるだろう!」
ほら、殺せ!
サリエルが叫んだ声を合図に、一斉に暗殺者たちが銃を撃った。
王宮内では、許された一部の者しか魔術を使うことができない。実戦ではあまり役立たない銃も、こんな時だけは役に立つのだ。
銃声が止み、噴煙が徐々に晴れてくる。
終わってみれば、あっけない。
そんなローガンの思いをよそに、鳥籠には少しの傷もついていなかった。
もちろん、中にいた王にも。
「残念だったなぁ。俺が殺せなくて」
横腹に刺さった短剣を抜き、王は不敵に笑った。
「だが、さすがに刺されれば痛かったぞ、ファーガル」
「うっせぇなぁ!人の足の腱を切って、お前と愛し合ってるフリまでさせやがったんだ、それくらい軽いもんだろっ!俺の方が何百倍も気持ち悪かったんだ!」
……は?
今の声は、聴き間違いだろうか?
さっきまで、「きゃっ」とか言っていた男はどこにいるんだ。
可憐な少女と見間違うばかりだったファーガルは、うっとおしいとばかりに自分を拘束する暗殺者の腕を振り払う。
彼が一つ指を鳴らすと、みるみる間に足の鎖も、傷も消える。
……治療の魔術は、非常に高度な魔術だ。
それを詠唱も魔法陣もなく行使するとは。
「お前ら、本当に俺がこのアホ王に捕まったと思ったのか?天才魔術師ファーガル様が?この温室の目くらましを作ったのは俺だし、絶対に魔術も銃も剣も通さない守りの鳥籠を作ったのは俺なのに!?俺のことを見くびりすぎだと思わなかったのかっ!」
この男は、何に怒っているのか。
「この俺を相手に、たかがこの程度の暗殺者で足りると思ったのかよ!」
ごごごごと地鳴りのような音がする。
いつの間にか入口は閉ざされ、温室内のバラの蔦が暗殺者を捕らえる。
剣も銃もすべてが無意味だ。この、絶対的な魔術の前では。
先ほどまで絶対的優位だと思っていた暗殺者たちが、次々に悲鳴を上げて捕らえられていく。
持っていた銃は無残にもひしゃげて、万が一王と戦うかもしれないと携えた剣さえ、バラの蔦に傷一つつけることができない。
まさに、一瞬の出来事。
あっけにとられることしかできない。
「ほら、早く近衛兵呼べよ。とりあえず全員捕まえてやったから」
「その前に、俺の腹の傷を治してくれないか?」
「残念。鳥籠の中は、俺でも魔術が使えないんだ。傷口は治せないよ。それに暗殺者がまだいるかもしれないから、鳥籠からは出せない。ごめんね」
せいぜい苦しめばいい、という副音声が聞こえそうなほど憎しみのこもった笑顔で言い放ったファーガルに、とりあえずこの場の全員が見とれることしかできなかった。
近衛兵に引き渡されていく暗殺者たちを横目に、ファーガルは大きなため息をつく。
「ローガン。俺の傍を離れない方がいいぜ。まだ、ネズミが1匹残ってる」
え?とローガンがファーガルを見る。
ファーガルがいまだ自分を心配することが不思議で、むしろ自分も暗殺者と一緒に近衛兵に捕まると思っていたのに。
固まるローガンを横目に、ファーガルは片頬をあげて笑ってみせると、いまだ鳥籠から王を解放することなく、目の前にやってきた近衛兵に向き直る。
「ファーガル魔術師様。無事に暗殺者たちを全員捕らえました」
「ご苦労」
「あ、あの。その、サリオン王はあのままで良いのですか……?」
「ん?あぁ。いいんだよ。あいつはもう少しそのままで」
そうですか、と奇妙なものを見る目で近衛兵はファーガルを見る。
あれ、この声、どこかで聞き覚えがある気がすると、ローガンは近衛兵を見る。
いつもはフードで隠されていて、くぐもった声だったけれど。
この声は、まさか——!
ファーガル様、危ないっ。そう叫ぼうとしたローガンの声は、目の前の近衛兵の叫び声にかき消された。
「覚悟しろっ」
目の前の近衛兵が、短剣を構える。
「危ないっ!ファーガル!」
それと同時に叫ぶ声は、暗殺者たちを連れていく近衛兵集団の中から。
ローガンはそこに、見知った顔を見つけた。
しかし、ファーガルの側にいた近衛兵が短剣を向けた先は、ファーガルとは違う方向。
この男が狙っているのは、自分だ——!
当たり前だ。作戦に失敗したローガンは、王に殺される前に、第一王妃一派に殺される。
いつものフードの男が、ローガンを始末しに来たのだ。
短剣の痛みを覚悟してぎゅっと目を瞑ったローガンはしかし、いつまで経っても痛みが訪れないことを疑問に思って、ゆっくりと目を開けた。
目を開けた先には、ニヤニヤと笑うファーガル。それと、ローガンを襲ってきた近衛兵を捕まえるもう一人の近衛兵——オーウェン。
「ファーガルっ!ローガン、無事だったか?」
「あぁ。この男を捕らえろ。どうせ拷問したところで碌な情報なんざ吐きゃしないだろが…」
舌を噛んで死のうとしたのか、それとも口内に毒を隠してでもいたのか。思い切り口の中を噛もうとしていた男を、ファーガルの魔術がいっそ鮮やかなほど素早く拘束する。
柔らかな光が男を包み込み、すぐに彼は眠りに落ちてしまったようだ。
そんな男を見て、オーウェンはほっと安心したような眼差しでファーガルを見つめる。
「本当に無事で良かった」
「大丈夫だよ。俺を誰だと思ってるんだ。それにしても、オーウェン。お前は近衛兵じゃなかったよな?どうしてここにいるんだ?」
ギクリと、オーウェンがローガンに視線を向ける。
それもそのはず。オーウェンをここに送り込んだのは、ローガンだ。
今夜この襲撃が行われることをフードの男に告げられたローガンは、こっそりオーウェンに夜警の近衛兵として王宮の見張りに混ざることを提案したのだ。
襲撃がうまく行けば、オーウェンがファーガルを救い出すことができる。
もし失敗してファーガルが殺されることとなっても、その今際の際に一目会うことができたら……などと考えていたのだ。
それがまさか、こんな結果になるとは。
このまま行けば、なぜか今は見逃されていても、襲撃を手引きした罪でローガンも投獄される。しかし今はそれよりも、この二人の気まずい再会の方が気になってしまう。
「それは、だな……」
何と言おうか迷っているオーウェンが視線をさ迷わせると、ばっちりと胸元の開いたファーガルの胸に視線がいってしまった。
男なんだから、別にいいだろう……とも言い切れない何とも妖しげな胸元に、オーウェンの顔が真っ赤になる。それに一拍遅れて気づいたファーガルが、同じく顔を真っ赤にして胸元を締めた。
「ち、違うっ!これは、違うからなっ!」
「わ、分かってる。分かってるから……」
「いや、分かってない!お前も勘違いしてるだろっ。本当に、俺とサリオンはなんでもないんだ。うっとおしい第一王妃派を騙すために仕組んだことで……」
「実際にセックスはしていないがな。だが、確かにファーガルの首元にキスマークをいくつも付けたのは俺だし、演技とはいえ、あいつの喘ぎ声を聞いたのは俺だがな?」
ニヤニヤした声は、鳥籠の中から。
腹に血のにじむ傷を抱えながら、楽し気にこちらを見る男。
「サリオンっ!」
「ローガンを騙す時は、お前も楽しんでただろう?何を、俺だけの責任にするんだ」
「てめぇっ。本当にふざけるなよ。誰のために、恥を忍んでこの俺があんな演技に付き合ってやったと思ってるんだっ」
そんなサリオン王とファーガルのやりとりを見て、オーウェンがくっと笑い声をこぼした。
「「オーウェン?」」
不思議そうな声は、ファーガルとサリオン王の二人から。
この二人、恋人を“演じていた”はずだが、なかなかにやはり息が合っている。
「まったくもう、こちらがどれだけ心配したと思っているのですか。それに、サイオン王。この度のことは、この私にも教えてくれず、二人で企んだのですね。さすがに少し、お二人に妬いてしまいます。いつもは私も、混ぜてくださったのに」
「いいぞ、オーウェン。今からでもお前も混ざるか?二人でファーガルを愛でようではないか」
ニヤリと笑ったサリオン王に、ついにファーガルが切れた。
先ほどと同じような魔術でできたバラの蔦が鳥籠に絡まり、ガラガラと鳥籠を揺らす。
「いい、加減に、しろっ!どれだけ俺が恥を忍んで、女役をしたと思ってるんだっ!」
「似合っていたぞ。何なら本当に、俺の愛妾になるか?」
ファーガルの作り出した蔦が、ついに鳥籠をひっくり返そうとしていた時だった。
「それくらいにしておけ、ファーガル。サリオン王がふざけるのはいつものことだろう?」
静かなオーウェンの声が、二人の間に割って入った。
「オーウェンは、俺がどんな辱めを受けたか知らないからそんなことを言えるんだ。女みたいにドレスを着させられて、女みたいに喘ぎ声を強要されて、嫌だって怒る俺に、面白がってアホみたいにキスマークまでつけやがって」
わーんっと泣き真似をするファーガルを優しくオーウェンがなだめる。
それはまるで兄弟のようで、一見するとほのぼのとする光景だ。
だが、オーウェンがファーガルに恋をしていると知っているローガンだけは、気づいていた。
オーウェンの目が、決して笑ってはいないことを。
「本当に、サリオン王がお前のことを閉じ込めたのかと思った」
優しく頭を撫でながら、ぽつりと呟かれた言葉。
ファーガルは、拗ねたような甘い視線を、オーウェンに向ける。
サリオン王との“演技”をさんざん見てきたローガンも、初めて見る表情。この表情を見ると、一瞬で分かってしまう。
確かに、サリオン王とのやりとりは、“演技”だったのだと。
「さぁ、とにかくここから出よう。その前にファーガル、さすがにサリオン王を治してやってくれ」
オーウェンの一言に、仕方ないとばかりにファーガルもようやく鳥籠へと向かったのだった。
プロローグおわり
結論から言えば、ローガンが処刑されることはなかった。
そしてさらに言えば、あの日捕まった男たちから、第一王妃の名前が出ることもなかった。
しょせん、自分に指示を出していたあのフードの男さえ、第一王妃たちにとっては捨て駒だったのだ。
第一王妃一派が関わっているということは誰もが分かっていたが、決定的な証拠が出てくることはなかった。
ローガンも、自分に暗殺を指示した者は分かっても、それ以上先は分からない。第一王妃が関わっていると憶測で言うことはできるが、確実な情報がない限り、例え王と言えど、前王の王妃を処刑することはできないのだ。
「つまりは、俺の演技は、無駄足だったわけだ」
王宮魔術師としての黒いローブに身を包んだファーガルは、むっすりとそう言い放った。
「ただただ、ファーガル魔術師は王の愛妾だって噂が残っただけで、本当に何の意味もないことだったんだ!」
ここは王の私室。
どうしてそんな場所にローガンが入ることができたかと言うと、これもローガンの命を守るためだと言う。
王の寝室での一件から、ローガンの生い立ちを知った王とファーガルは、ローガンを生かすと決めた。今後何かの役に立つかもしれない、という打算もあるのかもしれない。だが、仲間にすると誓った王は、いつ狙われるか分からないローガンを自身の護衛として、王宮内に引き入れることを選んだ。
王宮内であれば、王も、そして天才魔術師として名高いファーガルの目もある。この場で、殺人事件を起こすことはなかなかに至難の業だった。
騒ぎ立てるファーガルを横目に、つまらなさそうに王は書類をめくっている。
そして、ローガンと同様に“仲間”として王の私室にいるオーウェンが、そんなファーガルの様子を微笑みながら見守っている。
「この、天才魔術師ファーガル様がだぞ!?魔術師の間で噂されてるんだ。あれは囮捜査なんかじゃなく、本当に王は俺を愛していたんだって。で、俺を愛しているからこそ、王は俺が第一王妃一派に殺されることを恐れて解放したんだって!そして俺も、そんな王の愛を知りながら、王のためを思って泣く泣く身を引いたって……!」
その噂は知っている。
というか、そんな話で王宮内は持ち切りだ。
なんて悲恋。なんて健気な愛。男同士で報われない、切ない愛——。
王の鳥籠を離れた可哀そうな夕焼け姫は、気丈にもまだ愛する人に仕えるために、王宮魔術師として王宮に残った——。
目の前で悪態をまくしたてるファーガルを見れば、彼がそんな悲恋に殉じる人間だとは思わないだろう。
ローガン自身も、こうして“夕焼け姫”と親しく接するまで、彼がこんな見た目と反する性格だとは知らなった。
「人のうわさも七十五日、だ。魔術師も、騎士も、貴族たちも、皆お前の有能さは分かっているんだ。少しの我慢だ、ファーガル」
「オーウェンは、それでいいのかよ。俺が、お前の友人である俺やサリオンが、ありもしない噂にさらされてても」
むすっと返したファーガルに、オーウェンはニヤリと笑って返す。
「最初に、俺を仲間外れにしたのはお前たちだろう?俺ができることなんて、限られる」
うっと黙り込んだファーガルに、今度は愉し気にサリオン王が口をはさむ。
「オーウェンが噂を上書きしてやればいい。王宮のど真ん中でファーガルに告白でもすれば、俺とファーガルの噂なんぞ過去のことになるだろうよ」
サリオンの一言に、オーウェンとファーガルの二人が固まった。
目を合わせて二人して赤くなり、さっと目を逸らす様子に、サリオン王の唇がニヤリとゆがんだ。
「まぁ、そんな面白いことになったら、俺が再びファーガルを鳥籠にさらって、噂を盛り上げてやるがな?」
おや?
ローガンは盗み見たサリオン王の瞳に、真剣な色を見つけて首を傾げる。
王とファーガルの恋人は、あくまで“演技”。少なくともファーガルは、サリオン王に対して恋愛感情を持っていないように思えた。
だが、ひょっとして。もしかして、サリオン王の方は……。
「どうして噂を大きくしようとするんだ、このバカ王はっ!」
オーウェンの視線を避けるように怒鳴ったファーガルは、気づかない。
だが、オーウェンの目はしっかりと、サリオン王を捕らえていた。
「そうしたら、前代未聞の三角関係ですね?陛下」
「うむ。なんならローガンも混ざるか?仲間外れは良くないだろう?」
からかうように言われたサリオン王の一言に、こんなややこしい関係に混ぜないで欲しいと、ローガンは心底思ったのだった。
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オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【8話完結】いじめられっ子だった僕が、覚醒したら騎士団長に求愛されました
キノア9g
BL
いじめられ続けた僕は、ある日突然、異世界に転移した。
けれど、勇者として歓迎されたのは、僕を苦しめてきた“あいつ”の方。僕は無能と決めつけられ、誰からも相手にされなかった。
そんな僕に手を差し伸べてくれたのは、冷酷と恐れられる騎士団長・ジグルドだった。
なのに、あいつの命令で、僕は彼に嘘の告白をしてしまう――「ジグルドさんのことが、好きなんです」
それが、すべての始まりだった。
あの日から彼は、僕だけをまっすぐ見つめてくる。
僕を守る手は、やさしく、強くて、どこまでも真剣だった。
だけど僕には、まだ知られていない“力”がある。
過去の傷も、偽りの言葉も超えて、彼の隣にいてもいいのだろうか。
これは、いじめられっ子の僕が“愛されること”を知っていく、嘘と覚醒の物語。
全8話。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
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過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される
中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」
夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。
相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。
このお話はムーンライトでも投稿してます〜
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