昼、侯爵令嬢 夜、暗殺者

とうもろこし

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12 運命に抗えおじさん #2

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 報告会を終えたガーベラは暗い自室の中、ベッドの上にいた。

「ううん……。うう……。ううー!」

 何度も寝返りを繰り返し、ベッドの上をゴロゴロ……。ゴロゴロ……。

「全然眠れませんわ……」

 既に時間は朝方の四時を越えているというのに全く眠れない。脳からはアドレナリンがドバドバ出て、目はギンギン、胸はドッキドキと高鳴り続けていた。

 原因は今夜行った事が原因だろう。もっと簡単に言えば「初めての殺人」を行ったせいだ。

 これまで魔法の本で過酷なブートキャンプをクリアしてきたガーベラは確かに強くなった。並の人間では敵わぬほど、王国内でも五本の指に入ろう強さを得ている。

 だが、経験不足であった。訓練で組手や模擬戦は何度も繰り返して来たが、正真正銘、命を賭けた戦いは初めて。相手の血を浴びる事も、相手の命を絶つ事も、全部が初めてだった。

 今日の彼女を思い出せば、誰がどう見ても「初めて」とは思えぬほどの戦いっぷりだったろう。大胆かつ冷酷な殺人マシーンたる彼女の実力が申し分ないほど発揮できたと言っても良い。

 それでも彼女は人間だ。初めての殺人という行為に彼女の体が反応を示してしまっているのだろう。

 この症状に、彼女自身も自覚はあった。覚悟は決めていたし、やめるという選択肢はあり得なかった。

 まだ歩みを止めるわけにはいかない。自分の運命に抗う事も重要であるが、やはり彼女の脳裏に浮かぶのは両親の笑顔だ。

「お父様、お母様……」

 二人が今の自分を見たらどう思うだろうか。

 誇らしいと言ってくれるだろうか? それとも真っ当な人間の道を外れた自分を嘆くだろうか? 考え続けても、答えは出ない。

 出口の無い答えを探しながら瞼を閉じると、いつしか彼女は誘われるように寝息を立て始めた。

 一旦思考が闇に落ちた瞬間、次に気付いた時には見覚えのある空間。そう、あの真っ白な空間だ。

 真っ白な空間に立つ自分を自覚すると、彼女の前には「おじさん」が現れた。毎度お馴染み、アロハシャツとサングラスを掛けた神様おじさんだ。

 彼はガーベラに向かって無言で頷くと口を開く。

『YOU、死ぬよ』

 おじさんの第一声に、ガーベラは「ああ、やっぱり」と声を漏らした。

「やはり、あの侵入者を殺害して、闇ギルドを潰して、それだけで終わりとはいきませんわよね」

 今日の行動は彼女なりに考えての事だった。侵入者を殺害しても次が送り込まれてくるのは容易に想像できる。ならば、元を断つしかない。よって、闇ギルドの拠点に踏み込むまでを決行したのだが、そう簡単に運命は変わっちゃくれなかった。

『YOUの行動、Very Goodだったね。でも、まだ終わらない』

 そう告げたおじさんはパチンと指を鳴らす。空間にはスクリーンが登場して、お馴染みのイントロが流れた後に映像が始まった。

 今回の映像に登場する舞台は夜の王都。夜の王都を走るのは黒いドレスとコート、仮面をつけたガーベラの姿。

 彼女は愛用のナイフを振るいながら敵と思わしき者達を屠り続けた。一人、二人、三人……何人もの首を切り裂き、華麗に夜を舞う。だが、彼女が駆けた先にはまだ敵が待ち構えており――次第に彼女は疲弊していった。

 一対多数の連続戦闘。人間故の体力的限界と敵との圧倒的な戦力差。肩で息を繰り返す彼女の前に、一人の男が立ちはだかる。

 男は金属製の鎧を着た騎士だ。しかし、肝心の顔は鎧の中から伸びるフードで隠れていた。男がロングソードを抜き、ガーベラは相手と戦闘を始めるが――疲弊した彼女は胸を剣で突かれてしまった。

 理想的なパフォーマンスを発揮できず、奮闘虚しくも殺されてしまう。

 これが次の運命。

「この騎士は……?」

 ただ、ガーベラは自分の死を見ながらも冷静に状況を分析していた。次の運命に抗う為にも、夢の中で見られる未来は重要なヒントなのだから。

「最初に戦っていたのは例の傭兵団かしら? しかし、最後の人物は明らかに騎士らしい装いをしているし……」

 傭兵団を潰して終わり、とはいかないのか? それとも傭兵団とは別の何かが現れるのか。

「どちらにせよ、多数戦闘は避けるべきなのは間違いなさそうですわね」

 やる事は既に決まっている。次の目標は傭兵団を襲撃し、ヨルンを見つける事。ヨルンから詳しい話を聞いて、黒幕を突き止めるしかない。

 その過程で死が訪れるのだとしたら、今見た映像が現実にならぬよう対策を練りながら立ち回るのが正解だろう。

 そこまで考えたところで、次におじさんと会えた時に聞こうと思っていた事を口にした。

「私の運命、それにお父様とお母様の死。これは関係していますの?」

『…………』

 ガーベラが問うも、おじさんは無言。じっとその場に立つだけで頷きもしない。これは答えられないという意味なのだろうか。

『真実とは、己で見つけるもの。ほんの少しの手伝いしかできない』

 やっと出てきた言葉は肯定でも否定でもなく「自分で見つけろ」の言葉。ガーベラは静かに頷いた。

「分かりましたわ。見つけてみせます」

 運命に抗い、そして両親の死も暴く。これは最初から決めていた事だ。今更、迷う事なんてない。

『YOUに祝福あれ。Good Hunting!』

 おじさんはニィと笑うとサムズアップした。彼のリアクションを見た途端、ガーベラの意識は一瞬だけ闇に落ちる。

 気付けば瞼に光を感じ、目を開けると時計の針は昼の十二時を指していた。
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