昼、侯爵令嬢 夜、暗殺者

とうもろこし

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13 入学を控えて

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 ガーベラによる闇ギルド襲撃から数日後、彼女とビルワース家はスラムについての情報を徹底的に集めていた。

 彼女自身もスラムに向かい、影に潜みながらの偵察。更には廃屋の屋根を伝いながら高い位置での地理の把握などに勤める。

 加えて、ビルワース家に仕えるダニーを筆頭にスラムの情報を集めて行くと――確かに闇ギルドで得た情報の「傭兵団」が存在しているようだ。

「ダニーの調べによりますと、傭兵団の名は虎の牙と呼ばれております。過去に参戦した戦場は三つ。どれも他国の侵略戦争に参加しており、彼等は戦時中に略奪行為を繰り返していたそうです」

 屋敷のリビングにて、ダニーがまとめてくれた報告書を片手にセバスチャンが語る。

 虎の牙は戦争に参加しておきながら火事場泥棒のような事を繰り返し、奪取した金品を換金する事で報酬に上乗せする形で財を得てきた不届き者集団。

 それらの行為に味を占め、大きな戦争が無い時は街道を行く商人を襲って山賊紛いの行為すらも行っていたようだ。

 彼等のような存在は王国において「犯罪者」にカテゴライズされる。勿論、虎の牙も犯罪集団として王国には登録されており、容易に王都の中へ入る事など出来ないのだが。

「彼等を王都に招き入れたのは、私の殺害を企てる犯人でしょうね」

「はい。しかし、犯罪者を簡単に王都へ招き入れる事が出来る存在となると――」

「騎士か貴族ですわね」

「左様でございます」

 アグレシア王国王都には南側に王都入り口が設置されている。入り口には検問が設置されていて、そこで犯罪者か否かを確認しているのだ。

 しかしながら、他に侵入口が無いわけじゃない。王都は要塞としての機能を有していない故に壁で囲まれてはいないので、陸続きである北・東・西から侵入できなくもないのだが、勿論三方向には侵入防止の対策が取られている。

 西側には貴族の屋敷が固まる事もあって西区の端にはバリケードが設置されているし、常に騎士が常駐する警備施設も存在する。

 北側は王城がある故に警備は他よりも更に厳重、それに高い山が聳え立っているので天然の壁として機能している。標高の高い山を越えて、更には騎士団本部まである北側から侵入するのは現実的とは言えない。
 
 西と北は貴族と王家の存在がある事から、特に厳重だ。この二方向から犯罪者が侵入する事は難しいだろう。

 唯一の弱点とすれば東側、庶民街とスラムのある方向であるが、こちらを抜け穴とするほど騎士団も馬鹿じゃない。常に王都の外側を巡回する巡回騎士隊がスケジュールを組んでおり、犯罪者の侵入を防いでいる。

 例の傭兵団のような存在は巡回する騎士に見つかればすぐにお縄となるだろう。自力で王都周辺の警備を突破するには、巡回兵のルートや巡回時間などを入手して入念な計画を練らねばなるまい。

 しかし、最も簡単な侵入方法はやはり検問を突破する方法だ。例えば荷車に紛れて身を隠したり、そもそも検問を実施している騎士が傭兵団を素通りさせるよう手引きしたりだが……。

「傭兵団の数は……。結構おりますのね。ますます貴族の関与が疑われますわ」

 報告書によると、傭兵団の数は総勢百人以上。こんな数の犯罪者が騎士団にバレずに侵入するなど不可能だ。そう考えれば、騎士に影響力を持つ貴族の関与を否定する事は難しい。

「虎の牙を率いるリーダーの所在は掴めまして?」

「いえ、それはまだ分かっておりません」

 王都の一画という小さな領域でありながら、入り組んだ小道と廃屋が所狭しと並ぶ迷路のような場所。スラムで暮らす人々は、表から来た者を見ると息を潜めるように身を隠し、闇からその姿を窺っているという。

 声を掛けて協力を仰いでも応えてはくれず、特にスラムでの人探しを手伝う事はスラム住人達にとってご法度であった。

 過去、騎士が庶民に変装して犯罪者を探した事があったのだが、協力金の誘惑に負けた浮浪者が犯罪者の居所を口にしてしまった。犯罪者は無事に確保されたが、犯罪者の仲間が協力した浮浪者を見せしめとして殺害した事件が起きた。

 それ以降、力の無い者達は協力を拒むように。

 入り組んだ小道は逃げるに良く、使われていない廃屋は身を隠すのにぴったり。それでいて、自分の姿を目撃されても告げ口されない。犯罪者にとっては絶好の場所だ。

 独自のツテを頼りに情報収集するダニーも例外じゃなく、スラムの独特な状況に悪戦苦闘中といったところである。

「調査は継続させますが、その前に」

 セバスチャンはゴホンと一度咳払い。そして、再びガーベラに顔を向けた。

「まずは明日の学園入学についてが先かと」

 そう、明日は学園入学の日。遂にガーベラも華の王立学園生となり、貴族令嬢としての正しい一歩を歩み始める事となる。

「憂鬱ですわ……」

 華々しい一歩が始まるというのに、ガーベラの表情は優れない。大きなため息を零しながら、イヤイヤと首を振る始末。ただ、決して勉強が嫌というわけじゃなく。

 彼女がこうも入学に対して負の感情を見せる理由は「お友達作れるかな問題」である。

「貴族って鬱陶しいですし、メンツにこだわったアホしかいなさそうですし、強欲ですし……」

 彼女が言う要素は一部の王国貴族のみを指している――地方領では善政を敷いている貴族もいるし、王都貴族の中にも清廉潔白な者は勿論存在する――のだが、彼女がここまで他の貴族を嫌がるのはビルワース家の財産目当てで羽虫のように群がって来た者達を知ってしまったからだろう。

 恋愛結婚宣言は王城に受理され、その噂が貴族界隈に駆け巡ったのだ。それ以降、オークマンの脅迫めいた婚姻は無くなったものの、代わりに「うちとお見合いはどうですか?」というアプローチが山ほど増えた。

 アプローチしてくるのは歴史の浅い貴族から始まり、強欲と噂のある貴族達ばかり。しかも、生まれた子が女子しかいない家からもアプローチがあって、セバスチャンが調べてみると適当な庶民の子を養子に受け入れてビルワース家へ送ろうとしている動きもあるとか。 

 見合いは正式かつ正攻法な誘いであるが、アプローチしてくる家の思惑は以前と何も変わっていない。それを知り、ガーベラはすっかり貴族でありながらも王国貴族に対して嫌悪感を抱いてしまった。

「それに貴族令嬢とのお付き合いとなると、お茶会ですとか夜会とかに出席しなければならないのでしょう?」

 クソ面倒臭え! とソファーに身を沈めるガーベラ。

 貴族社会とは誇りと気品に溢れた華々しい世界――という都合の良い幻想に生きる者達と共に生きる。学園に入学すれば建前やら見栄やらを全面に押し出し、クッッッソ面倒で遠回しな言葉遊びを駆使しながら生活せねばならない。

 特にガーベラが一番触れ合うであろう貴族令嬢は将来の旦那を探す為に学園へ入学するといった動機を抱いている者が多い。となれば、自然と彼女等との会話は恋だ愛だと浮ついた話がメインになるだろう。

 もう一度言おう。クッッッソ面倒だ。

 秩序とルールに縛られた社会において「面倒だから殺す」というのはご法度である。恋だ愛だとブっこきながら勝手に敵視してくる令嬢がいたとしても、ムカつくという理由で喉を切り裂いてはいけない。

 事前にモナから注意されているが「Fuck!」と中指を立てるのもダメ。

 ストレス過多な状況で生活せねばならぬのだ。今後の生活を考えると、ガーベラのようなサイコパスめいた考えは絶対的にNGである。

「それに……。ぼっちになると心労で死ぬと聞いていますわ……」

 かといって、一人ぼっちの学園生活も苦痛であるとモナから教わった。前述したストレスを口にできない状況、それらを聞いてくれる友人がいないのは心によくない、と。

 一日の大半を集団生活の中で過ごさなければならない中、常にストレスを溜め込んで生活していれば頭がおかしくなるのも頷ける。屋敷に帰ればモナ達が話を聞いてくれるが、それでも突発的な相談事を学園内で出来ないのも問題だろう。

 想像するだけで恐ろしい。

 彼女はいつかおじさんに「ぼっち」による運命の死を告げられるんじゃないかと不安でしょうがない。

 そうなったら最後だ。だって、ぼっちは殺せないのだから……。

「そのような事、ご心配なさらずともよろしいと思いますが……」

 嫌だ嫌だと零すガーベラにセバスチャンは苦笑いを浮かべるしかなかった。

 ただ、翌日になって入学を果たしたガーベラの初日は、そう悪いものでもなかったとだけ先に語っておこう。
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