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22 人脈を使いましょう
しおりを挟む「騎士が、ですか……」
「ヨルンの口ぶりによれば、騎士を駒にしている貴族が背景にいるようですわね」
屋敷に戻ったガーベラはヨルンから聞き出した衝撃の内容をセバスチャン達に告げる。誰もが「国民を守る盾」が殺害に関与する事実に言葉を失った。
「騎士団所属の騎士を私物化する貴族などおりますの?」
この時代、貴族個人が騎士を従える事はない。騎士とは全て王に仕えた武官であり、それ故に地方の治安維持や国境警備等には王が派遣した騎士団所属の騎士達が行っている。
要は国防の全てを国そのものが負担しており、国境付近に領土を持つ貴族は武装集団の維持に個人的な金銭を投資しなくて良いシステムとなっている。その代わり、貴族が武力を持つ事――クーデター等の予防策として――を禁じているという事だ。
貴族が個人で戦力を持つ場合は「衛兵」として扱われるが、こちらはビルワース家の衛兵であるダニー達のように敷地内の警備や門番としての役割としてでしか雇えない。もちろん、不必要に大人数を雇っていると国から監査が入る。
「いない、とは言い切れませんね。騎士団を統括する軍務省に勤め、それなりの席についていれば騎士団に対しての発言力を持つ家もありますし」
王都騎士団長であるバーデン家が良い例だろう。彼は王都騎士団の指揮を執る騎士団長でありながら、軍務省でも騎士団統括責任者の任にも就いている。彼のような存在であれば、騎士一人に密命としてコントロールする事も容易い。
同時に騎士を輩出する武官の家は貴族の庇護を受けている家が多い。例えば、衛兵として雇っていた者を騎士に推薦して騎士団に送り込んだり、元傭兵の者が騎士団採用試験の際に貴族から推薦状を書いてもらうなど、騎士と貴族の繋がりは深いのも事実だ。
「他にも軍務省勤めの貴族と横の繋がりを持つ貴族もおりますし、一概に軍務省勤めの貴族の中にいるとも言い切れません」
こういった事実から騎士団に強い影響力を持つ家は複数家存在しているので、誰が黒幕なのかは簡単には予想できなかった。
今のところ、黒幕に繋がるヒントは襲って来た騎士くらいだろう。
「それに魔法を使って来た事も看過できませんわね」
あれは本当に衝撃的だった、と再度語るガーベラ。
魔法という神秘は確かに存在しているものの、魔法に関する概要のほとんどが国によって秘匿されている。大っぴらに明かされている情報は「稀に人間の中から魔法使いが誕生すること」「魔法という神秘はその身一つで行使できること」くらいだろうか。
発動までのプロセス、魔法に関する研究の進捗や成果など、それらは国防の要という理由で一切が王家によって秘匿されている。詳しい内容を知る者は魔法研究所に勤める学者と魔法使い本人達、それと管理する王家くらいだろうか。
「奴の見せた金のタリスマンが魔法行使に使われたのは確かだと思うのですが、情報が少なすぎますわ」
「左様でございますね。撤退のご判断は正しいと思います」
統率のとれた騎士三人組、それもこれまでの相手の中でも一番強かった騎士を相手にしながら、更には情報が極端に少ない魔法まで使って来るとさすがに手が負えない。
改めて考えても、あのまま戦闘を続行していたらガーベラは夢のように殺害されてしまったのでは、と思う。
「しかし、情報は得られましたわね。私の殺害に関わっているのは騎士団内部にいる実行犯、そしてそれを影から操る貴族らしき黒幕ですわ」
ヨルンの言葉を信じれば、であるが。しかし、この線は濃厚と思える。
襲撃者である騎士三人組、部下の漏らした「隊長」という言葉、虎の牙を王都に招き入れた事も加味すれば、ヨルンが語った通り貴族が黒幕であるのは確かだろう。
「疑いのあったオークマン家は容疑者から外しますか?」
これまでの情報を総合すれば、明らかにビルワース家の財産目当てなオークマンは容疑者から外れる事となるだろう。
ガーベラが死亡してしまえばビルワース家は消え、財産は国が回収する。となれば、オークマンがガーベラを殺そうとする意味が分からない。
「いえ、まだ疑ってはいますわよ? 前にも言ったように、私の暗殺とお父様とお母様の殺害は別件であった線も捨てきれませんわ」
ヨルンは両親殺害にも関与していたが、肝心の依頼主は分からなかった。あらゆる可能性を考えれば、ガーベラの推測が正しい可能性だってあるのだ。
両親を殺害してビルワース家の財や爵位を取り込もうとした誰か――容疑者の第一候補はオークマン――と、何らかの理由があってガーベラをも殺害してビルワース家を終わらせたい誰か。
それぞれの事件には別々の犯人がいて、どちらも干渉していない、もしくは互いの思惑を知らずに動いているという可能性だって捨てきれない。
「ややこしい事になってきましたね」
「そうですわね……。セバスチャン、貴方はオークマン家を探って下さいまし。経営状況や家の金銭事情を調べるように。私は騎士の方をあたってみますわ」
「承知しました」
-----
翌日、ガーベラは予定通りに学園に向かった。
「おはよう、ガーベラ嬢。今日も美しいね」
「おはようございます。殿下」
教室の席に着き、隣の席であるクリストファーと朝の挨拶を交わす。毎日のように告げられるクリストファーのお世辞を真顔でスルーしつつ、微妙な顔をしながら肩を落とす彼を気にもせずに授業開始を待つのが通常であったが……。
「殿下。少々、お願いがございます」
「え!? なんだい!?」
今日に限っては朝の挨拶を交わしてから、会話が続いた。それもガーベラからだ。これに対し、クリストファーは驚きの後に満面の笑みを浮かべて対応する。
「ここでは言い難い事ですので、お昼にお時間を頂けませんか?」
「ああ、いいとも! 勿論だ!」
即決したクリストファーは、いつもよりご機嫌な様子で午前の授業を受けていた。
昼になると、いつもより二割増しの笑顔を浮かべて、親友二人を引き連れながらガーベラをカフェに誘った。しかも、他の者が寄り付かぬよう本来であれば用意されていない場所にテーブル一式を準備するという気合の入れっぷり。
さて、どんな話がガーベラの口から飛び出すのか。
普通の令嬢であればお茶会の誘い、もしくはドキドキデートの誘いだろうか。何にせよ、クリストファーは気になる女性を少しでも知れるいい機会だと思っているに違いない。
「実は、私の両親についてどの程度まで調査が進んでいるのかお聞きしたいのですが」
残念、マジな話でした! おお、ガーベラよ。なんと罪作りな女性だろうか!
憐れな王子は「あ、はい……」と一瞬だけ落ち込むが、すぐにガーベラにとって重要な事であると認識を改めて、真面目な表情を浮かべる。
「確かにご両親がどうして事件に巻き込まれたのかは知りたいだろうね」
被害者の家族としては当たり前の感情だ。突然失った家族に対して「どうして」と思わぬ者はいない。その気持ちを汲んだものの、クリストファーは悩むような仕草を見せて即答はしなかった。
「捜査に関しては騎士団が主導で行っているんだ。中間報告は父上だけが受け取っている。内容について私は聞いていないし、仮に知っていても話せる権限がない」
クリストファーは王家の一員であるが、王並みの権力を持っているはずもなく。
捜査は騎士団主導であり、報告は王にだけ渡される。彼が希望したとしても中間報告でさえ手元に寄せる事は出来ないと告げてきた。
そう言われて、ガーベラはほんの微かに眉を動かした。
これまでの情報収集で両親の死には闇ギルド、騎士、貴族の三つが関わっていると既に彼女は知っている。加えて、王にのみ報告されるほど事件は重要視、尚且つ秘匿されているとも解釈できる彼の言い様。
父は王の相談役として働いていたようだが、もしかしたら闇ギルドや貴族の繋がりに関係していたのだろうか。
頭の中で推測を続けるガーベラであったが、その表情を見たクリストファーは慌てて付け加えた。
「ああ、そう落ち込まないでくれ。君の気持ちは理解できる。だから、私の方から掛け合ってみるよ」
「え? 本当ですか?」
「ああ。絶対とは言い切れないが……。詳しい人間と話しができるよう掛け合ってみよう」
クリストファーはガーベラを安心させるように言いつつ、チラリとリグルへ視線を向けた。
「ありがとうございます」
ガーベラは礼を述べると、深々と頭を下げる。
望みが叶えば、騎士団との関係性を探れるかもしれない。その後、彼女はクリストファーから「午後の予定は空いてる? 空いてたらお茶しない?」と誘われたが、普通に経済学の授業があるので断った。
王子は落ち込んだ。
-----
「お嬢様。オークマン家の件ですが、おおよその調査が終わりました」
授業を終えて屋敷に帰ると、早速とばかりにセバスチャンから話を振られた。彼は非常に優秀な執事長であるが、まさか半日程度で調査がほぼ終了するとはガーベラも思ってはいなかったようで、驚きの表情が顔に浮かぶ。
「随分と早いですわね」
「ええ、私も驚きました。というのも、オークマン家の現状は商人の間で非常に注目されておりまして……」
勿論、悪い意味で注目されているという事だ。
セバスチャンは情報収集するにあたって、まずはビルワース家の御用商人やブルークリスタルの取引相手となっている宝石商から収集を始めた。すると、彼等は口を揃えて言うのだ。
『オークマン家は新規事業に失敗しましたので、最近では落ち目ですね。資金繰りも難航しているそうで、最近では家財を売り払って補填しているとか』
どの商人から聞いても同じ内容が返ってくる。商人達からの聞き込みが上手くいかなければ、王城の経済省に勤める友人を頼ろうとも覚悟していたそうだが、それすらも必要なかった。
「新規事業を始めたのが九年前。そして、失敗の兆しが出たのがその翌年です。徐々に赤字が続き、五年前には完全に失敗となりました」
オークマン家が新規事業として始めたのは他国からの輸入業。それも海を挟んで反対側にある別大陸の国から珍しい物を輸入するという内容であった。
最初は順調だったものの、オークマン家が購入した船が海で沈没。これが最初の損害であったが、巨額の投資を行ったせいもあって後戻りはできず。再び船を購入して輸入業を続けていたのだが、商品の売上はあまり好調とはいかなかった。
徐々に赤字が続き、投資資金の回収が出来ないと焦ったオークマン。そこにビルワース家の夫婦が死亡するという事件が起きる。
残されたガーベラに目をつけて、ビルワース家の財産を元に商会の立て直しを図ろうとした――というのが、商人達の間で密かに噂になっていたようだ。
「初耳ですわね」
「私もです。しかし、オークマン家も伯爵位を持っていますからね。商人達も滅多な事は言えなかったのでしょう」
目的がどうあれ、あくまでも婚約騒動は侯爵家と伯爵家の間で起きた問題だ。そこに一介の商人が噂話だったとしても、オークマン家を侮辱するような話をすれば最悪の場合は侮辱罪になりかねない。商売を生業とする商人達が、これほど簡単なリスクを犯すはずもないだろう。
「うーん……。失敗の兆しに焦ったオークマンがお父様とお母様の殺害を企てる……。可能性も捨てきれませんわね」
タイミングとしてはバッチリだ。
ただ、そこまでオークマンが悪に染まっているかどうか。確かに彼は強欲と噂が絶えないが、殺人を成す程の強欲さがあるかは本人しか分からない。
「今の段階ではまだ何とも言えませんね。引き続き調査を行います」
「頼みますわね。あとは……。殿下に期待するしかありませんわね」
ふぅ、と小さなため息を吐き出しながらガーベラはモナの淹れてくれた紅茶を口に運ぶ。
しかし、彼女の期待が届いたのか、翌日に学園へ行くとクリストファーから「夕方から騎士団本部で話し合いの場を設けた」と告げられるであった。
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