昼、侯爵令嬢 夜、暗殺者

とうもろこし

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23 騎士団本部へ

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 ガーベラは学園で授業を終えるとクリストファーに言われた通り、王都北側にある王城内に設立された「騎士団本部」へと案内された。

 案内してくれたのは、なんと騎士団長の息子であるリグルだ。

 学園が終わってから直接向かうとあって、彼女はバーデン家の馬車に乗って向かう事に。

 リグルと同じ馬車に乗り込む際、目撃した周囲の者達が俄かにざわついたが、いつも通りガーベラは気にしていない様子。同乗するリグルも表情は変えなかった。

「こうしてお話するのも初めてですね。私はリグル・バーデンと申します」

 馬車に乗り込み、対面に座るリグルが最初に切り出したのは自己紹介だった。確かにこれまではクリストファーと話しをしただけで、近くに控えていたリグルと直接話す機会は無かったので当然かもしれない。

「ガーベラ・ビルワースです。よろしくお願いします」

 両者を比べると爵位的にはビルワース家の方が上だ。ただ、王城内での発言力を比べるとバーデン家の方が上だろう。ただし、当主である彼の父親に限っての話であるが。

「本日向かう先は騎士団本部となります。そこで、私の父と面会になるでしょう」

 これからの予定を聞かされるガーベラだったが、面会相手がまさか組織のトップである騎士団長とは思ってもいなかった。てっきり、事件を調査している担当官と話す程度と思っていたが……。

「それと……。私の父からも謝罪があるでしょうが、私からも言わせて頂きたい。騎士としてありながらビルワース家当主様と奥様を守れず、申し訳ありませんでした」

 ただただ誠実に。

 馬車の中で深々と頭を下げるリグルからは騎士としての使命、そして国民を守るという事の誠実さが感じられた。

「……頭をお上げ下さい、バーデンさん。殿下に申し上げましたが、悪いのは両親を殺害した犯人です。いくら騎士様が国民を守る盾であっても、不幸は誰にでも訪れる事です」

 クリストファーの時同様に、口にした言葉はガーベラの本心だ。いかに騎士が国民を守る使命を胸に働いていても、助けられない命があるのはしょうがない事だと彼女は思っている。

「……申し訳ありません」

 最後にもう一度謝罪を口にしたリグルはようやく頭を上げる。顔に張り付いていた表情は苦々しく、起こってしまった事への後悔が見えた。

 しかし、事件当時は彼だって幼かったはずだ。それでもこの表情を浮かべるのは、彼が騎士としての任に対して真摯に向き合っている故か。それとも別の理由があるのか。それは定かではないが、今は問うタイミングではないだろう。

 それからは終始お互いに無言であった。特別仲良く話し合う間柄でもなく、昔から知り合いというわけでもない。

 ガーベラはキャビンの窓から外を眺め、リグルはジッと姿勢を正しながら目を瞑って。時より彼の視線がガーベラに向けられるが、何を思っているのかは分からない。

 馬車が王城の門を潜ると、正面玄関には向かわず西側に向かってぐるっと迂回を始める。騎士団の兵舎を過ぎた後、馬車は三階建ての建物の前で停止した。

「到着しました」

 リグルがキャビンのドアを開けて先に降りると、後に続くガーベラに向かって手を差し出す。彼女も彼の手を拒否する事無く、手を添えながらゆっくりと外に出た。

「参りましょう」

 彼の案内で建物内を進み、辿り着いたのは一階の最奥にあった部屋。騎士団長の執務室であった。

 リグルがドアをノックすると中から返事があり、彼と共に部屋の中へ。待っていたのはリグルと同じ茶の髪を持ったナイスなおじ様。リグルの父親であり、騎士団長である彼の名はノルド・バーデン。

「ガーベラ嬢。お越し頂き、申し訳ない。まずは席へどうぞ」

「はい。失礼します」

 ノルドが自ら案内してくれた席に着き、彼が対面の席に移動するとまず顔を向けたのは息子だった。

「リグル。案内ご苦労だった。こちらは任せて殿下の護衛に迎え」

「はい。失礼します」

 同級生が去って行き、室内にはイケおじとガーベラのみに。だが、彼は席には着かず頭を下げた。

「ガーベラ・ビルワース殿。この度は、貴方のご両親を守れず本当に申し訳なく。騎士団を代表し、謝罪させて頂きます」

「いえ。殿下とリグル様にも申し上げましたが、謝罪は不要です。悪いのは犯人ですので」

「本当に申し訳ない」

 謝罪の言葉と返す言葉も息子と似ているのは、やはり親子だからだろうか。謝罪が終わると、彼はようやく席に着いた。

「まず、本日の用件ですが」

「はい。私の両親についてどれほど調査は進んでおりますでしょうか?」

 ガーベラの質問を聞くと、ノルドは一拍置いて話し始める。だが、彼の表情には少し迷いがあった。

「実は……。この事件について、詳細は上から制限が設けられています」

「制限、ですか?」

「はい。詳しくは申し上げられませんが……。国防に関する問題が」

 騎士団長であるノルドが「上」と称するのは恐らく王家だろう。王家より直接制限が設けられるほどの「国防」に関する事態。

 かなりの大事だな、と察する事ができるが、彼の表情と言葉の選び方からしてビルワース家の長女であるガーベラだからこそ、ここまで匂わせつつも伝わるよう言ってくれているのだろう。

「まず、ご家族であるガーベラ嬢へ明確に伝えるべきなのは、ご両親は被害者であることです。これは確実なことです」

 ガーベラの両親が何かしらの悪事を働いて、それが理由で殺害されたわけじゃない。この事実だけは、ノルンはハッキリと自信を含ませた口調で告げる。

「犯人の目星はある程度ついている、という事でしょうか?」

「……それに関してはお答えできません」

 ノルドはゆっくりと首を振りながら質問の答えを拒否した。しかし、彼の口ぶりと表情から見るにある程度の目星、もしくは関与しているの存在については知っているように思える。

 恐らく口にしないのは、世間一般的には知られていない、更には貴族による暗殺依頼なども請け負っている闇ギルドの存在が明るみになる事を避けての回答だろう。

 正直、これに関しては仮にガーベラがノルドの立場であっても同じ事をしただろう。さすがに貴族に対して「貴族が暗殺依頼を出す組織があるんですよね」なんて言えるわけがない。

 そこで、ガーベラは少し突っ込んだ質問をする事で様子を窺うことにした。

「我が家の使用人から、生前の父は陛下の相談役を賜っていたと聞きました。それが原因なのでしょうか?」

「……貴女の御父上は正義を成そうとしていた。今言えるのは、これだけです」

 ノルドは肯定も否定もしなかった。ただ、悔しそうに奥歯を噛み締めながら目を閉じて告げる。

「もしかして、ノルド様も父と……?」

「共に仕事をする仲でありました。貴女の御父上は陛下にも深く信頼されていて……。本当に惜しい方を失ってしまった。私の人生において、ビルワース侯爵閣下以上に優秀な方は知りません」

 そう告げた後、ノルドは深く息を吐く。彼の表情からは、やはり後悔の念と仲間を失った時の痛みが窺える。

「必ず犯人は見つけ出しますので――」

 改めて犯人確保を約束している最中、執務室のドアがノックされる。

 ノルドが中から「入れ」と返すと、入って来たの一人の騎士だった。

「え!?」

 ガーベラは入室して来た騎士の顔を見て、驚愕のあまり声を出してしまう。

「失礼しま――ん?」

 現れた騎士は学園入学時に校舎前で出会った騎士だった。ただ、驚いたのはそこじゃない。彼の茶色の髪に緑の瞳。それに――頬に新しい斬り傷があったことだ。

 そう、数日前の夜にガーベラを襲った騎士に対して傷付けた位置と同じ箇所に。それどころか、微かに確認できた髪の色と瞳の色も一緒だ。驚くなと言う方が無理があるだろう。

「あの、何が不手際がございましたか?」

 しかし、相手はガーベラを知らぬ様子。その事に気付いた彼女は、慌てて別の理由を口にした。

「いえ、入学式の際に講堂の場所を教えて下さった騎士様ではございませんか?」

「え? ああ! あの時の!」

 咄嗟に考えた言い訳を告げると、彼もまた思い出したようだ。とても爽やかで、良い人そうな笑顔を浮かべて「お力になれたようで何よりです」と言ってくる。

 ガーベラは「あの時はありがとうございました」と笑顔で返す。だが、内心では「Holy shit!!」と叫んでいるに違いない。

 挨拶を終えた後、やって来た騎士は騎士団長に小さな箱を手渡した。

「ガーベラ嬢。こちらは証拠品として保管していた物です。調べは済んでいるので持ち帰って下さって構いません」

 そう言って渡された小さな箱。蓋を開けるとブルーダイヤモンドのイヤリングだった。しかし、宝石を留める金のチェーンの先は黒焦げになって千切れてしまっている。

「これは……。母のイヤリングですね」

 当時の傷跡が残るイヤリングを見て、ガーベラは苦しそうな表情を浮かべる。それと同時に彼女の脳裏に浮かんでいた考えはたった今、確定された。

「はい。どうぞ、お持ち帰り下さい」

 ノルドの提案に頷きつつ、彼女は母親の形見を箱に仕舞うと、壁にあった時計に顔を向けた。

「ああ、こちらから面会をお願いしましたのに申し訳ありません。そろそろお時間が……」

「そうですか。こちらもあまり多くを語れずに申し訳ない。おい、ガーベラ嬢を馬車でお送りしてくれ」 

 ノルドの言葉を聞いた後、彼女は礼をしながら頭を下げて――この場にいる二人にバレないようほくそ笑む。何という僥倖。ナイスアシストと叫びたくなるのをグッと抑えるように、顔の表情を制御する。

「はい。了解しました。では、こちらへ」

 騎士団長ノルドと別れの挨拶を済ますと、彼女は母の形見が入った箱を大事に持ちながら騎士と共に廊下を進んで行く。

 外に用意された馬車に乗り込み、騎士が御者台に座るとビルワース家に向かって走り出した。

 屋敷に到着すると、馬車から降りたガーベラは――

「送って頂き、申し訳ありません。どうぞ、お礼に中で紅茶の一杯でも飲んでいって下さいまし」

「お気遣いありがとうございます」

 基本的に貴族からの申し出を断るのはマナー違反だ。騎士側からしてみても、帰りが多少遅れたところで「お茶を頂きました」と言えば上司も咎めない。

 これは彼女が選択してきた行動から得られた運命か。それとも、彼女に味方するおじさんの配慮だろうか。

 どちらにせよ、大変都合がよろしい。今すぐ笑ってしまいたいほどに。

「さぁ、どうぞ」

 ガーベラ自ら玄関ドアを開け、騎士を先に中へと誘う。素直に中へ入って行った騎士に対し、彼女は背後を取った。

「ビルワース家にようこそいらっしゃいました。では、リビングの方へ」

 と、出迎えてくれたセバスチャンが言ったタイミングで、背後にいたガーベラは玄関に飾ってあった壺を両手で持ち上げる。鍛え抜かれた脚力を活かしてジャンプすると―― 

「ふぅぅんッッッッ!!」

 思いっきり、騎士の後頭部に叩きつけた。

 バリンと破砕音を鳴らしながら散らばる壺の破片。後頭部を殴られた事で、気を失って玄関に倒れる騎士。

「Fuck you Asshole」

 口元に三日月を浮かべながら、中指を立てるガーベラ。

 楽しい楽しいパーティータイムの始まりだ。
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