蒼の聖杯と英雄の足跡 ~自称実力そこそこな冒険者、聖杯を探す旅の途中で追放された元悪役令嬢を拾う~

とうもろこし

文字の大きさ
1 / 57
1章 訳あり冒険者と追放令嬢

第0話 プロローグ

 ダイロス歴 百十五年 四月


 とある戦場に一人の男が立っていた。

 男は獣を模したような黒色の全身鎧を身に着けており、戦場に広がる屍達を兜越しに見つめていた。

「…………」

 男は兜を脱ぎ捨てる。

 兜の下には赤い髪が特徴的な若い顔があった。

「…………」

 男はクリアになった視界で、再び屍達を見つめる。

 敵味方入り混じった屍の山。血の海と化した大地の上に、敷き詰めるように築かれた屍を。

「……本当に正しいのか?」

 男は小さく呟く。

 彼はこれまで何度も自問自答を繰り返してきた。

 これでいいのか? これは正しい行いなのか? と。

 家族ため、家族を守ってくれる国のために、敵と呼ばれる人間を何人も殺してきたが……。 

 ここ最近になって、彼の中には迷いが生まれつつある。

「…………」

 震える手で顔を拭おうとすると、自身のガントレットが赤黒く染まっていることに気付く。

 それを見た彼の顔には苦痛の表情が浮かんだ。

「……会いに行こう」

 自身の中に生まれた迷いに押し潰されそうになった彼は、縋るような想いと共に決意した。

 握っていた黒い剣を鞘に納め、屍達に背を向ける。

 男の背中は弱々しさがあり、この場の勝者とは思えぬ雰囲気を纏っていた。

 ――以降、戦場でこの男の姿は確認されていない。


 ◇ ◇


 ダイロス歴 百十七年 五月

 トーワ王国 西部


 西へ続く街道を歩く赤髪の男――ルークは自由気ままな冒険者として生きていた。

 上は茶と黒のジャケット、中にはクタクタになった白いシャツ。下は灰色のズボンと鉄板入りのブーツ。

 腰に巻かれたベルトの左側には銀の剣を差し、右側には二本のナイフホルダー。背中には大きなリュックを背負って。

 まさしく、冒険者らしい旅の装いだ。

 少し特殊なのは、左手の指に何個も指輪をはめているところだろうか?

 彼の外見はさておき。

 彼は何者にも縛られず、何者にも従属しない。

 自身で全てを選択し、自分の目的を達するために旅を続ける彼は、トーワ王国西部に敷かれた街道の一つを西へ進んでいる最中だった。

「ふぅ~」

 今日はすこぶる天気がいい。

 少し前までは肌寒い日々が続いていたが、今日は雲一つ無くポカポカとした陽気が降り注ぐ。

 歩きながら背筋を伸ばして、背負っていたリュックの位置を直しつつ。

「街に着いたらどうするかなぁ~」

 なんて、独り言を呟きながら平原を貫くように敷かれた街道を歩いていると――

「ん?」

 道の先、ずっと先に何かが落ちていた。

 彼がそれを視認すると同時に風が吹くと、それはヒラヒラと揺れるのだ。

 見つけた時は遠すぎて何か分からなかったが、近付いていくにつれて徐々に正体が見えてくる。

「洋服? と、靴か? 商人が荷物を落としたのか?」

 道端に物が落ちていることなど珍しいことじゃない。

 この世界には魔物という恐ろしい生き物も生息しており、魔物に襲われた商人が慌てて逃げる際に荷物を落とした……なんてこともよくある話だ。

 ただ、更に近づくと違和感を感じたのだろう。

 ルークの表情はみるみると強張っていく。

「……人だ」

 落ちていたのは洋服と靴じゃない。洋服と靴を身に着けた人間だ。

 道端に人が倒れている。

 しかも、女性だ。

「……魔物にやられたか、あるいは野盗に殺されたか」

 着ている服は高級そうなものだった。

 平民が好んで着る類の服ではなく、貴族が好むタイプの服だ。

 魔物は人間の身分など気にしない。

 平民だろうが貴族だろうが、襲うと決めたら容赦しない生き物だ。

 逆に野盗が貴族を襲ったのであれば、生き残りを捕らえてアジトへと連れ帰るだろう。

 そうせずに放置されているってことは、ひと悶着あった際に誤って殺してしまったか。

 どちらにせよ、悲惨な最期を終えた人間には変わりないのだ。

「せめて埋めるくらいはしてやるか」

 決意するように独り言を呟いたルークは死体の傍まで近付いた……が、ここで更なる違和感に気付いた。

「あれ? 生きてる?」

 うつ伏せのまま倒れている女性の姿は、まるで死んだカエルのようだった。

 ただ、パッと見た感じでは魔物に肉を食い荒らされた形跡はない。野盗に襲われて傷を負った形跡もない。

 身に着けている薄ピンク色のドレスが所々土色に汚れているが、血が滲んでいる様子はなかった。

「おい、生きてるか?」

 うつ伏せの状態だった彼女を裏返すと……。

「……すっごい美人」

 死んだカエルみたいに倒れていた、とは思いたくないほどの美人だった。

 全身薄汚れてはいるものの、毛先に軽いウェーブのかかった長い金髪と整った顔は正しく貴族令嬢と言わんばかりの迫力がある。

「どうしてこんなところに?」

 彼女が予想通り貴族令嬢だったのなら、どうしてこんな場所に一人で倒れているのだろうか?

 付き人や護衛はどこへ行ったのだろうか?

 ルークが頭の上に疑問符を浮かべていると、女性の口からうめき声のようなものが漏れた。

「ん、んん……」

「おい、大丈夫か?」

 ルークが彼女の上半身を抱き抱えながら声を掛けると、女性の目が薄く開いた。

 直後、彼女の腹から「ぐぅぅぅぅ」と強烈な音が鳴る。

「た、たべもの……」

 どうやら腹が減っているらしい。

 謎の貴族令嬢(?)は空腹の末に倒れてしまった……のかもしれない。

「飯、食わせてやる」

 ルークは彼女を抱き上げると、街道から外れた場所に連れて行った。

 木陰になっている場所を見つけると、そこに彼女を下ろす。

 次にリュックを下ろすと、中から水の入った水筒といくつか食料を取り出した。

「ほら、まずは水を飲みな」

 水筒を口に近付けて、慎重に彼女へ飲ませていく。

 最初は少しずつしか飲めない彼女だったが、徐々に意識が覚醒してきたようだ。

 最終的には水筒を掴んでゴクゴクと飲み始めた。

「水を飲む元気はあるな。じゃあ、これはどうだ?」

 次に取り出したのは、少し前に立ち寄った村で購入した干し肉とパン。

 パンは二つに割ってから、比較的柔らかい部分を千切って差し出した。

 両手に持った食料を彼女に差し出すと、彼女はルークからふんだくるように奪いとる。

 そして、勢いよく食べ始めた。

「はぐはぐ! ん、んん!」

「おいおい、落ち着きなよ。誰も取りゃしないよ」

 ばくばくと飯を食い、ゴクゴクと水を飲む姿から察するに、彼女はしばらく食事を摂っていなかったのだろう。

 勢いある食事を終えると、彼女の瞳には活力が戻っていた。

「食事と水を恵んで頂き、感謝致しますわ」

 座ったままではあるが、彼女の礼には品があった。

「君、貴族の娘さん?」

 ルークが問うと、彼女の体がびくんと跳ねる。

「……ええ。元、ですが」

「元?」

「そうです。お父様から……。実家から追い出されましたの」

 ルークが繰り返すと、彼女は弱々しく笑いながら言った。

感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった

雷覇
ファンタジー
ワノクニ、蒼神流・蒼月道場。 天城蒼真は幼き頃から剣を学び、努力を重ねてきた。 だがある日、異世界から来た「勇者」瀬名隼人との出会いが、すべてを変える。 鍛錬も経験もない隼人は、生まれながらの天才。 一目見ただけで蒼真と幼馴染の朱音の剣筋を見切り、打ち破った。 朱音は琴音の命で、隼人の旅に同行することを決意する。 悔しさを抱えた蒼真は、道場を後にする。 目指すは“修羅の山”――魔族が封印され、誰も生きて戻らぬ死地へと旅立つ。

他人の寿命が視える俺は理を捻じ曲げる。学園一の美令嬢を助けたら凄く優遇されることに

千石
ファンタジー
【第17回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞】 魔法学園4年生のグレイ・ズーは平凡な平民であるが、『他人の寿命が視える』という他の人にはない特殊な能力を持っていた。 ある日、学園一の美令嬢とすれ違った時、グレイは彼女の余命が本日までということを知ってしまう。 グレイは自分の特殊能力によって過去に周りから気味悪がられ、迫害されるということを経験していたためひたすら隠してきたのだが、 「・・・知ったからには黙っていられないよな」 と何とかしようと行動を開始する。 そのことが切っ掛けでグレイの生活が一変していくのであった。 他の投稿サイトでも掲載してます。 ※表紙の絵はAIが生成したものであり、著作権に関する最終的な責任は負いかねます。

ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった

仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。 そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。