蒼の聖杯と英雄の足跡 ~自称実力そこそこな冒険者、聖杯を探す旅の途中で追放された元悪役令嬢を拾う~

とうもろこし

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1章 訳あり冒険者と追放令嬢

第7話 元貴族令嬢の冒険者デビュー 2

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 旅に使う買い物のほとんどは市場で揃う。

 メインストリート沿いに『冒険者御用達』なんて看板をデカデカと掲げる商会もあるが、そういった店の商品は総じて価格が高い。

 たとえば水筒。

 冒険者が使いやすいように特注しました! なんて売り文句を大々的に推し、普通の水筒よりも大きくて形がちょっと違っている。

 だが、そんなもんは街の雑貨屋でも普通に売ってる。

 なんなら、市場内にある露店でも似たような商品が低価格で売ってる。

「商売ってのは競争だ。商人って生き物は嗅覚が鋭く、恥じの感情なんてものは持ち合わせていない」

 あいつらは「儲けたもん勝ち」を地でいく人種だ。

 金は命よりも重い、と平然とした顔で言い放つやつらだ。

「つまり?」

「他所でよく売れる商品を見つけたらすぐに模倣する。模倣した上で他よりも安く売り出すんだ」

 ただ、買い手からすれば有難いこととも言える。

 価格と品質のバランスを見て、より良い物を買う目利きも冒険者には必要だ。

 掛かる費用を圧縮することも、長く続けるコツと言えるだろう。

「有名な商会で売っている物の方が質が良いのではなくて?」

「洋服とかアクセサリーならそうかもね。でも、冒険者が使う生活用品にブランドなんて関係無いと思うよ」

 旅において一番重視するべきは物の耐久性だと思うが、そういった点は実際に手に取って材質を確認すればいい。

 その上で一番安いものを買うべきだ。

「ただ、お金を掛けるべき物もちゃんと存在する」

「それは?」

「自身の命に関わる物だね」

 最も大切なのは武器と防具だろう。

 しっかりした武器じゃないと戦闘中に問題が起きがちだ。剣の刃が途中で折れた、刃こぼれした……なんてこともあり得る。

 防具だって同じ。

 魔物に引っ掛かれたら破れて使い物にならなくなった。メンテナンスが異様に難しい。鉄板入りと謳っておきながら、実際の中身は別の素材だった……などなど。

 自身の命に直結する物は絶対に妥協してはいけない。

 よくよく吟味して、材質や使い心地などを入念に確認してから購入した方がいい。

 魔法使いが使う触媒、魔石に関しても。 

「シエル、君は買い物をしたことがあるか?」

「馬鹿にしていますの?」

 彼女は腕を組みながらぷくりと頬を膨らませた。

「買い物の経験なんて何度もございますわ。実際、夜会で身につけるアクセサリーは私が自ら選んでいましたもの」

「それはどうやって買ったんだい?」

「家に商人を呼びましたけど?」

 シエルは「何かおかしいことがございまして?」と首を傾げた。

「今の君は冒険者だから商人を直接呼ぶことはできないね」

「……そうですわね」

「つまり、君は店に行って直接目利きしなきゃいけない」

 俺はポケットから銀貨五枚入りの革袋を取り出した。

「市場の中には魔石を売る露店もあるんだ。このお金で青魔石を買ってきてね」

「青魔石ですの?」

「うん。青魔石は水属性魔法と親和性が高い魔石だからね」

 魔石とは鉱山で採掘される宝石に似た石であり、学者の間では『魔力の凝縮体』とも呼ばれる物質だ。

 魔石にはサイズと色の違いがある。

 大きければ大きいほど内包する魔力が高いと考えられており、各属性――火・水・風・土――に準じた赤・青・緑・黄と色が存在する。

 水属性魔法が使えるシエルが青魔石を触媒にして魔法を使うことにより、威力や持続力などの上昇が見込める……ということである。

 余談であるが、魔石無しでも魔法の発動は可能だ。

 しかし、すっっっっごく疲れる。

 凡人級の火属性魔法の使い手を例にすると、小さな種火を作るくらいで精一杯。

 魔法が得意ではない……どころか、才能が皆無な――過去に検定を受け、検定官から「魔法は無理だね。魔法使いに憧れるのはやめた方がいい」とまで断言された――俺は小さな種火すらも作れない。

 たまに涼しい顔を浮かべながら魔石無しの魔法をぽんぽこ行使する者もいるが、そういった者は単純に『規格外』あるいは『天才』と呼ばれる部類だ。

 そういった者達であっても、魔法使い連盟――魔法を研究する世界的な組織――は魔石の使用を推奨しているがね。

「サイズと個数は問わないよ。君が使いやすい物を買ってきてね」

「……一緒には来てくれませんの?」

 銀貨を受け取ったシエルの顔には不安の色が浮かぶ。

 不安そうな顔をしながら上目遣いで懇願されると気持ちが負けそうになってしまうが、これも彼女に経験させるため。

「その間、俺は食料を買ってくるよ。買い物が終わったら市場の入口で会おう」

 丁度辿り着いた市場の入口を指差す。

「分かりましたわ」

 まだ不安そうな顔をしていたが、俺は彼女を送り出した。


 ◇ ◇


 魔石の調達を任された私は、ルークと別れて市場の中へと進入した。

 貴族だった頃と違い、これからはこういった買い物にも慣れなければなりません。

 彼の言った通り、自分自身による目利きにも。

「……よく考えたら簡単なことじゃございませんこと?」

 歩きだす前は不安を覚えましたが、よくよく考えれば家に呼んだ商人からアクセサリーを買うことと変わらないのでは?

 単に商品を選び、お金を払うだけのことではありませんか。

 そう思うと自信が湧いてきました。

「あの人、私のことを子供か何かと勘違いしているのでは?」

 私のことを馬鹿に――は、していませんわね。

 あの人は何だかんだ優しいですし……。

 過保護と言った方がよろしいのかしら?

「ふふ。ですが、ここでしっかり結果を残してみせましょう」

 私、実家で商人と交渉した経験もございますのよ?

 商人を相手にするなんてチョチョイのチョイですわ!

 私は内心で意気込みながらも市場の中にあるお店を見渡しました。

 お肉や野菜を売るお店。パンを売るお店。果実を売るお店。他にも鍋や包丁を売るお店までございましてよ。

「はぁ~……。お店がいっぱい。目を回してしまいそうになりますわ」

 あら! あのお店で売っている果実! 瑞々しくて美味しそう!

 一つくらい購入して食べてしまっても……。

「いいえ、だめですわ!」

 これは魔石を買うお金ですもの!

「……そうですわ!」

 商人と交渉して魔石を銀貨五枚以下で買えば! 残ったお金で果実が買えますわ!

 あの人の分も買っていけば……ふふ。

『うわあ! シエル、すごいや! 交渉して銀貨五枚以下で買ったのかい!? ついでに果実まで!? ひゃー! すごいいぃ!』

 私の実力を示す良い機会になりそう!

 いつもはお世話になりっぱなしですが、こういった時に挽回しないと!

 今後の買い物はシエルに任せるよ! と、言うくらいの活躍を見せつけてやりましょう!

「そうと決まれば――あ!」

 魔石を売っている露店を見つけましたわ!

 露店の店主は――何だか貧しそうな方ね。お金に困ってそうな顔をしておりますわ。

 これはチャンスですわね。

 私は意気揚々と露店に近付いていく。

「もし、魔石を見てもよろしくて?」

「ええ! どうぞ、どうぞ!」

 私が声を掛けると、貧乏顔の商人は途端に笑顔を見せた。

 お客が来てくれたことがよっぽど嬉しいのかしら?

「お客さんは何をお探しで?」

「青魔石を探しておりますのよ」

 テーブルに並べられた色とりどりの魔石から青色の物を探していく。

 大きさは……。中サイズで銀貨二枚と銅貨五枚。

 二つ買えばぴったり銀貨五枚になりますわね。

 一方、小サイズの青魔石だと一つ銀貨一枚のようですわ。こちらのサイズを五つ買うのもアリかもしれませんわね。

「お客さんは運が良い!」

 どちらにしようか悩んでいると、店主が揉み手をしながら声を掛けてきました。

「これを見てくだせえ!」

 店主が懐から取り出したのは『紫色』の魔石でした。

「これは特別な魔石でしてね? 青魔石と赤魔石両方の性質を持つんでさあ!」

 しかも、嬉しい中サイズ! と、店主は言葉を続けました。

「青と赤の?」

「そうそう! お得だと思いません? 青魔石としても、赤魔石としても使えるんですよ?」

「いえ、私は火属性魔法を使えま――」

「しかも! このサイズで銀貨一枚!」

「買いましたわ!」

 青と赤両方の性質を持ち、更には中サイズで銀貨一枚!?

 普通の青魔石を買うよりも安いですわ!

「四つ買えませんの!?」

「おお、ありますとも! ありますとも!」

 私は四つも魔石を購入することに成功しましたわ!

 余ったお金で果実まで買えてしまいますわね!

「まいど!」

 おーっほっほっほっ!

 私ってば運が良い! やっぱり、嫌なことがあった後は良い事が待っていますのね!

 私ほどの不幸を経験した人間は、これからもしばらく運が良い事が続きそうですわよぉ!

 ――そして、私はご機嫌のまま果実を買って入口に戻った。

 既に入口で待っていた彼に声を掛けると、彼は笑顔で「買えた?」と問うてくる。

「ふふん! 私を甘くみないことね!」

 私は彼の分の果実を手渡しつつ、革袋に入った『紫色』の魔石を見せつける。

「これは青と赤両方の性質を持つ魔石ですわ! しかも、中サイズで銀貨一枚!」

 どうだ! とばかりに見せつけた私だったが――

「それ偽物だね」

「え……?」

 手元から魔石が落ちた。カランと鳴った音が私の耳にへばりつく。

「よくある詐欺商品だよ。これは魔石じゃなくて紫色の水晶だね」

「え……?」

 詐欺? 水晶?

 私の銀貨は? 魔石は?

「あ、あ、あ、あの詐欺師ィィィィィッ!!」

 私は怒りを露わにしてしまいました。
 
 外で叫ぶことは淑女としてはしたないと分かっていながらも、叫ばざるを得ませんでしたわ。

「今すぐ銀貨を取り返してきますわ!」

「いや、たぶんもういないよ」

 彼曰く、詐欺師は一人カモったらすぐに逃げるとのこと。

 街の中を探し回るのは苦労するし、下手すれば既に街の外へ逃げているかもしれないと。

「騙されっぱなしということですの!?」

「今回はね。次回からは魔石に魔力が通るか確認してから買うと良いよ」

 ああ、そういう確認方法があったのですね……。

 確認しなかった私が悪かったのでしょう。

 簡単に騙される弱者であった私が悪かったのでしょう……。

 しょんぼりと肩を落とすと、彼は私の頭を撫で始めました。

「何事も経験だよ」

 彼は私に「世の中にはこういった悪も存在するぞ」と知ってほしかったのでしょう。

 しかし、銀貨四枚分の勉強代は……。今の私にはあまりにも重い!

「んじゃ、次はちゃんとした魔石売りに行こうか」

「はい……」

 まだショックが抜けきれない中、彼の後を追って魔石屋へと向かいました。

 次のお店は彼が決めたお店。間違いないと思いますわ。

 その証拠に店主は私を見ても「紫色の魔石があるんですよぉ!」なんて言いませんもの。

「どれを買う?」

「中サイズ……」

 中サイズの魔石を見ると、価格は銀貨二枚と銅貨五枚。この値段は変わりませんのね。

 念のため、魔力を通してみると青く光りましたわ。本物ですわね……。

「おじさま、少し安くしてくれませんこと……?」

 私は先ほど失った銀貨四枚のことが忘れられず、少しでも安く買いたい気持ちがありました。

 青魔石を二つ買うから、合計価格を銀貨四枚と銅貨八枚にして下さいと心からお願いした。

「うーん、よし! 美人さんの言うことには逆らえないね! 銀貨四枚と銅貨八枚でいいよ!」

「ありがとうございます! ありがとうございます!」

 私は何度も頭を下げた。

 プライドなど捨てて、何度も何度も。

 そんな私を見て店主は哀れに思ったのか「オマケで青の小魔石もつけちゃう!」とサービスまでしてくれました……。

「まいどありー!」

 しょんぼりしたまま店の外に出ると、隣にいたルークがニコニコと笑っていることに気付いた。

「シエル、君はすごいな! 少し安く買えた上にオマケまで貰えるなんて!」
 
 彼は私に「値切りの才能がある!」と言って笑みを浮かべた。

 …………。

 …………。

「ふふーん! ですわ!」

 全部計算ですわ!

 私ってば、大女優の才能まであるのかもしれませんわね!

「これからも魔石の購入はシエルに任せようかな」

「ふふーん! 私にお任せあれ、ですわ!」
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