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1章 訳あり冒険者と追放令嬢
第8話 魔法の才能
魔石を購入した俺達が次に向かったのは装備を扱う総合商会。
名をパラメット商会という。
パラメット商会の本店は大陸西にあるドワーフ族の国『ロゴス王国』にある。
ロゴス王国に生まれたドワーフ、名工ダダン・パラメット――『金属の申し子』という異名を持つドワーフが立ち上げた商会だ。
ダダンの腕は疑いの余地なく素晴らしかったが、彼の名声は長年ロゴス王国内だけに留まっていた。
しかし、ロゴス王国が隣国と同盟を結び、ドワーフ族製の武器を輸出するようになったことが切っ掛けとなり、彼の名声は徐々に大陸中へ轟くこととなった。
輸出の際、他のドワーフ族の作った装備品と同時にダダンの物も混ざって輸出されたのだが、同盟国の騎士達がこぞって「この武器だけ異様にすごい!」と騒ぎ始めたという。
作り手の詳細を求めたところ、ダダンの製品だと判明。同盟国はダダンの作った装備品を求めるようになった。
その結果、ダダンは自身の商会『パラメット商会』を立ち上げることに。
パラメット商会の噂は大陸中へ広がることになり、今では大陸各地に支店を出すほどの巨大商会へと成長した。
「装備を買うならパラメット! って言葉は聞いたことない?」
「……ありませんけど?」
あら。
これは冒険者や騎士達だけに通じる話だったかな?
あるいは、女性である彼女が知らないだけで貴族家の男児なら知っているかもしれない。
「とにかく、装備を買うならパラメット! これは覚えておいた方がいい」
パラメット商会のすごいところは、巨大商会へ成長しても品質が全く変わらないところだ。
所属する職人達は本店のあるロゴス王国で修行を積み、パラメット商会会長に認められないと商会の看板は任せてもらえない。
職人達は皆プライドを持って仕事に従事し、一定水準以下の商品は絶対に売らないという鉄の掟がある。
しかし、そういった厳しい掟があるからこそ、使用者である俺達は安心して使えるのだ。
「品質良し、品揃えよし、価格……は、少し高いけど。でも、命に係わる物だからね。妥協しちゃいけないよ」
俺が熱弁している間に店へ到着した。
「ここでは自衛用の武器を買おう」
「自衛用?」
「うん。君は武器を振ったことがないと言っていたけど、小さなナイフくらいは持っておいた方がいい」
あとはシエル用の小さな鞄も買おうか。
革製品も質が良いからなぁ、ここ。
工房と店舗が一体化した建物の中に進入すると、中には多数の商品が陳列されている。
奥からは鉄を打つ音や足踏みミシンの音も聞こえてくる。
「ナイフは……。これはどうかな?」
ナイフが置かれている棚から一本手に取った。
小ぶりで軽いナイフは一見すると果物ナイフにも見える。
しかし、切れ味と鋭さは本物だ。
「こんな小さなナイフでよろしいの?」
彼女は隣にある太めのナイフを指差すが、訓練を積んでいない彼女には持て余してしまうだろう。
「別にナイフで戦うわけじゃないからね。あくまでも自衛用」
たとえば、突進してきた魔物に投げて気を逸らす時とか。
野盗に捕まってしまい、隙を見て相手に一撃を与える時とか。
そういった「逃げる前の一手」に繋がりそうなシーンで使って欲しい。
「君は魔法で戦った方がいいと思うよ」
「確かに……。そうですわね」
というわけで、ベルト式のナイフホルダーと一緒に購入。
続けて彼女の個人的な荷物や魔石を収納しておくための肩掛け鞄も購入した。
「さて、準備も整ったから次の街を目指して出発しようか」
店の外に出た俺は出発を宣言する。
「私は構いませんけど、三日ほど滞在する予定だったのではなくて?」
「ああ、あれは君が心配だったからね。三日間くらいは様子を見ようと思って」
滞在日数の事情を明かすと、シエルの頬がほんのりと赤くなるのがわかった。
「そ、そうでしたか……」
俺から目を逸らし、小さな声で「ありがとう」と言う彼女。
吹っ切れて気が強くなった――本来の彼女を見せてくれるようになったと思ったが、こういった可愛らしい一面もあるんだなと内心頷く。
元貴族故に世間知らずではあるが、人間としてはしっかりしている人なんじゃないだろうか。
こんな女性から鞍替えした王子はアホだと思うがね。
◇ ◇
「んひぃぃぃぃ!?」
街を出発してから三時間程度。
街道を西へ向かっていた俺達だったが、途中でシエルに戦闘を経験させることになった。
タイミング良く魔物が街道を横切っていたからね。
「どうすれば良いんですの!? どうすれば良いんですの!?」
現在、彼女はイノシシの魔物――ブラウンボアを前にして、ナイフを握りながらガタガタ震えている最中である。
対するブラウンボアは前足で地面を掻きながら、口から生える鋭く反り返った牙を見せつけている状態だ。
たぶん、あと少しで突進が始まる。
真正面から突進を受けた人間は牙が腹に突き刺さり、同時に衝撃で内臓がグッチャングッチャンになること間違いなし。
「魔法、魔法!」
俺はブラウンボアに向かって石を投げた。
コツンと頭に当たったことで、奴の狙いが俺に変わる。
「ま、ま、ま、魔法って言っても!」
「水魔法で攻撃しよう」
水の攻撃魔法って何があったっけ。
前に冒険者の魔法使いが水の弾を高速で撃つ、みたいなことしてたけど。
あれはあの魔法使いがアレンジした独自の魔法なのだろうか?
「んひぃぃぃ!」
パニック状態のシエルは片手を突き出した。
「み、みずぅぅぅ!」
そして、突き出した手の前に魔法陣が浮かぶ。青い簡単な魔法陣だ。
魔法陣の中心から出たのは――チョロチョロ~と流れ出る細い水。
「それって飲み水を出す魔法じゃない?」
俺は「アハハ!」と笑いながらも、ブラウンボアの突進を回避した。
「だってえ! だってえええ!!」
彼女は激しく首を振る。
綺麗な金髪がばっさばっさと揺れる様は、まるで風が激しい日の旗のようだ。
「ほら! このブラウンボアを憎き王子様だと思って!」
俺がそう声を掛けた瞬間、彼女の震えがぴたりと止まった。
「……この、馬鹿王子めええええ!!」
魔法とはイメージが重要だ。
魔法とは使用者の持つ欲望を体現する、とも言われている。
たぶん、彼女は王子を絞め殺したいと思っていたのだろう。
その証拠に魔法陣から出て来た水の縄が、ブラウンボアの首に巻き付いたのだ。
「このクソ王子ィィィィッ!!」
ブチギレ状態のシエルは叫び声と共に水の縄を締め上げる!
『グ、ギ……!』
首を絞められたブラウンボアの口から聞いたこともない音が漏れ、同時に口の端からは泡が溢れ出る。
やがて、ブラウンボアの足から力が抜け、そのまま巨体が地面に沈んだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……! ど、どうです……!」
俺はブラウンボアの生死を確認すると、確かに死亡しているようだ。
よく見たら首に強烈な締め跡が残ってる。
これって首の骨がイッてんじゃないの?
「死んでるね」
「シャオラッ!!」
元貴族令嬢とは思えぬほどのガッツポーズ。すごい様になってた。
「はぁ、はぁ……。感謝しますわ。貴方の一言でコツが掴めました」
「そりゃ良かった」
肩で深く息を繰り返す彼女に返答しながらも内心思う。
彼女、魔石を使ってなかったよね。
「魔石、使わなかったの?」
「ああ……。忘れていましたわ」
やっぱり。
魔石無しでブラウンボアの首をへし折るほどの威力を実現させるのか。
単なる怒りの力なのか、はたまた彼女の内にある『才能』なのか。
貴族の血は濃いと表現されることがある。
祖先に英雄と呼ばれた人物や当時の優秀な人間同士が結婚しているため、現代でも貴族家の中には優秀な人間が生まれやすいと考えられているからだ。
彼女の家は侯爵家だったという話だし……。
王都で評価されていた通り、彼女は魔法使いとしても『優秀』なんじゃないだろうか?
「次は魔石を使おうね」
「ええ」
これはなかなか面白くなってきたな。
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