蒼の聖杯と英雄の足跡 ~自称実力そこそこな冒険者、聖杯を探す旅の途中で追放された元悪役令嬢を拾う~

とうもろこし

文字の大きさ
9 / 57
1章 訳あり冒険者と追放令嬢

第8話 魔法の才能


 魔石を購入した俺達が次に向かったのは装備を扱う総合商会。

 名をパラメット商会という。

 パラメット商会の本店は大陸西にあるドワーフ族の国『ロゴス王国』にある。

 ロゴス王国に生まれたドワーフ、名工ダダン・パラメット――『金属の申し子』という異名を持つドワーフが立ち上げた商会だ。

 ダダンの腕は疑いの余地なく素晴らしかったが、彼の名声は長年ロゴス王国内だけに留まっていた。

 しかし、ロゴス王国が隣国と同盟を結び、ドワーフ族製の武器を輸出するようになったことが切っ掛けとなり、彼の名声は徐々に大陸中へ轟くこととなった。

 輸出の際、他のドワーフ族の作った装備品と同時にダダンの物も混ざって輸出されたのだが、同盟国の騎士達がこぞって「この武器だけ異様にすごい!」と騒ぎ始めたという。

 作り手の詳細を求めたところ、ダダンの製品だと判明。同盟国はダダンの作った装備品を求めるようになった。

 その結果、ダダンは自身の商会『パラメット商会』を立ち上げることに。

 パラメット商会の噂は大陸中へ広がることになり、今では大陸各地に支店を出すほどの巨大商会へと成長した。

「装備を買うならパラメット! って言葉は聞いたことない?」

「……ありませんけど?」

 あら。

 これは冒険者や騎士達だけに通じる話だったかな?

 あるいは、女性である彼女が知らないだけで貴族家の男児なら知っているかもしれない。

「とにかく、装備を買うならパラメット! これは覚えておいた方がいい」

 パラメット商会のすごいところは、巨大商会へ成長しても品質が全く変わらないところだ。

 所属する職人達は本店のあるロゴス王国で修行を積み、パラメット商会会長に認められないと商会の看板は任せてもらえない。

 職人達は皆プライドを持って仕事に従事し、一定水準以下の商品は絶対に売らないという鉄の掟がある。

 しかし、そういった厳しい掟があるからこそ、使用者である俺達は安心して使えるのだ。

「品質良し、品揃えよし、価格……は、少し高いけど。でも、命に係わる物だからね。妥協しちゃいけないよ」

 俺が熱弁している間に店へ到着した。

「ここでは自衛用の武器を買おう」

「自衛用?」

「うん。君は武器を振ったことがないと言っていたけど、小さなナイフくらいは持っておいた方がいい」

 あとはシエル用の小さな鞄も買おうか。

 革製品も質が良いからなぁ、ここ。

 工房と店舗が一体化した建物の中に進入すると、中には多数の商品が陳列されている。

 奥からは鉄を打つ音や足踏みミシンの音も聞こえてくる。

「ナイフは……。これはどうかな?」

 ナイフが置かれている棚から一本手に取った。

 小ぶりで軽いナイフは一見すると果物ナイフにも見える。

 しかし、切れ味と鋭さは本物だ。

「こんな小さなナイフでよろしいの?」

 彼女は隣にある太めのナイフを指差すが、訓練を積んでいない彼女には持て余してしまうだろう。

「別にナイフで戦うわけじゃないからね。あくまでも自衛用」

 たとえば、突進してきた魔物に投げて気を逸らす時とか。

 野盗に捕まってしまい、隙を見て相手に一撃を与える時とか。

 そういった「逃げる前の一手」に繋がりそうなシーンで使って欲しい。

「君は魔法で戦った方がいいと思うよ」

「確かに……。そうですわね」

 というわけで、ベルト式のナイフホルダーと一緒に購入。

 続けて彼女の個人的な荷物や魔石を収納しておくための肩掛け鞄も購入した。

「さて、準備も整ったから次の街を目指して出発しようか」

 店の外に出た俺は出発を宣言する。

「私は構いませんけど、三日ほど滞在する予定だったのではなくて?」

「ああ、あれは君が心配だったからね。三日間くらいは様子を見ようと思って」

 滞在日数の事情を明かすと、シエルの頬がほんのりと赤くなるのがわかった。

「そ、そうでしたか……」

 俺から目を逸らし、小さな声で「ありがとう」と言う彼女。

 吹っ切れて気が強くなった――本来の彼女を見せてくれるようになったと思ったが、こういった可愛らしい一面もあるんだなと内心頷く。

 元貴族故に世間知らずではあるが、人間としてはしっかりしている人なんじゃないだろうか。

 こんな女性から鞍替えした王子はアホだと思うがね。


 ◇ ◇


「んひぃぃぃぃ!?」

 街を出発してから三時間程度。

 街道を西へ向かっていた俺達だったが、途中でシエルに戦闘を経験させることになった。

 タイミング良く魔物が街道を横切っていたからね。

「どうすれば良いんですの!? どうすれば良いんですの!?」

 現在、彼女はイノシシの魔物――ブラウンボアを前にして、ナイフを握りながらガタガタ震えている最中である。

 対するブラウンボアは前足で地面を掻きながら、口から生える鋭く反り返った牙を見せつけている状態だ。

 たぶん、あと少しで突進が始まる。

 真正面から突進を受けた人間は牙が腹に突き刺さり、同時に衝撃で内臓がグッチャングッチャンになること間違いなし。

「魔法、魔法!」

 俺はブラウンボアに向かって石を投げた。

 コツンと頭に当たったことで、奴の狙いが俺に変わる。

「ま、ま、ま、魔法って言っても!」

「水魔法で攻撃しよう」

 水の攻撃魔法って何があったっけ。

 前に冒険者の魔法使いが水の弾を高速で撃つ、みたいなことしてたけど。

 あれはあの魔法使いがアレンジした独自の魔法なのだろうか?

「んひぃぃぃ!」

 パニック状態のシエルは片手を突き出した。

「み、みずぅぅぅ!」

 そして、突き出した手の前に魔法陣が浮かぶ。青い簡単な魔法陣だ。

 魔法陣の中心から出たのは――チョロチョロ~と流れ出る細い水。

「それって飲み水を出す魔法じゃない?」

 俺は「アハハ!」と笑いながらも、ブラウンボアの突進を回避した。

「だってえ! だってえええ!!」

 彼女は激しく首を振る。

 綺麗な金髪がばっさばっさと揺れる様は、まるで風が激しい日の旗のようだ。

「ほら! このブラウンボアを憎き王子様だと思って!」

 俺がそう声を掛けた瞬間、彼女の震えがぴたりと止まった。

「……この、馬鹿王子めええええ!!」

 魔法とはイメージが重要だ。

 魔法とは使用者の持つ欲望を体現する、とも言われている。

 たぶん、彼女は王子を絞め殺したいと思っていたのだろう。

 その証拠に魔法陣から出て来た水の縄が、ブラウンボアの首に巻き付いたのだ。

「このクソ王子ィィィィッ!!」

 ブチギレ状態のシエルは叫び声と共に水の縄を締め上げる!

『グ、ギ……!』

 首を絞められたブラウンボアの口から聞いたこともない音が漏れ、同時に口の端からは泡が溢れ出る。

 やがて、ブラウンボアの足から力が抜け、そのまま巨体が地面に沈んだ。

「はぁ、はぁ、はぁ……! ど、どうです……!」

 俺はブラウンボアの生死を確認すると、確かに死亡しているようだ。

 よく見たら首に強烈な締め跡が残ってる。

 これって首の骨がイッてんじゃないの?

「死んでるね」

「シャオラッ!!」

 元貴族令嬢とは思えぬほどのガッツポーズ。すごい様になってた。

「はぁ、はぁ……。感謝しますわ。貴方の一言でコツが掴めました」

「そりゃ良かった」

 肩で深く息を繰り返す彼女に返答しながらも内心思う。

 彼女、魔石を使ってなかったよね。

「魔石、使わなかったの?」

「ああ……。忘れていましたわ」

 やっぱり。

 魔石無しでブラウンボアの首をへし折るほどの威力を実現させるのか。

 単なる怒りの力なのか、はたまた彼女の内にある『才能』なのか。

 貴族の血は濃いと表現されることがある。

 祖先に英雄と呼ばれた人物や当時の優秀な人間同士が結婚しているため、現代でも貴族家の中には優秀な人間が生まれやすいと考えられているからだ。

 彼女の家は侯爵家だったという話だし……。

 王都で評価されていた通り、彼女は魔法使いとしても『優秀』なんじゃないだろうか?

「次は魔石を使おうね」

「ええ」

 これはなかなか面白くなってきたな。
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった

雷覇
ファンタジー
ワノクニ、蒼神流・蒼月道場。 天城蒼真は幼き頃から剣を学び、努力を重ねてきた。 だがある日、異世界から来た「勇者」瀬名隼人との出会いが、すべてを変える。 鍛錬も経験もない隼人は、生まれながらの天才。 一目見ただけで蒼真と幼馴染の朱音の剣筋を見切り、打ち破った。 朱音は琴音の命で、隼人の旅に同行することを決意する。 悔しさを抱えた蒼真は、道場を後にする。 目指すは“修羅の山”――魔族が封印され、誰も生きて戻らぬ死地へと旅立つ。

他人の寿命が視える俺は理を捻じ曲げる。学園一の美令嬢を助けたら凄く優遇されることに

千石
ファンタジー
【第17回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞】 魔法学園4年生のグレイ・ズーは平凡な平民であるが、『他人の寿命が視える』という他の人にはない特殊な能力を持っていた。 ある日、学園一の美令嬢とすれ違った時、グレイは彼女の余命が本日までということを知ってしまう。 グレイは自分の特殊能力によって過去に周りから気味悪がられ、迫害されるということを経験していたためひたすら隠してきたのだが、 「・・・知ったからには黙っていられないよな」 と何とかしようと行動を開始する。 そのことが切っ掛けでグレイの生活が一変していくのであった。 他の投稿サイトでも掲載してます。 ※表紙の絵はAIが生成したものであり、著作権に関する最終的な責任は負いかねます。

ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった

仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。 そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。