蒼の聖杯と英雄の足跡 ~自称実力そこそこな冒険者、聖杯を探す旅の途中で追放された元悪役令嬢を拾う~

とうもろこし

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1章 訳あり冒険者と追放令嬢

第10話 噂話


 翌日、俺達は街に辿り着く。

 道中後半も積極的に魔物を討伐していたせいもあるが、到着時には夕方に差し掛かっていた。

「今日は討伐の証を提出したら宿を探そうか」

「ええ……」

 シエルは疲労困憊な顔で頷く。

 魔物討伐を二日間も続けた上に慣れない野宿を経験。更には街まで歩いての移動。疲れるのも仕方ない。

 ただ、代わりに戦果は上々だ。

 組合の受付で討伐の証を提出すると、全部で金貨一枚になった。

「今夜は贅沢できるよ」

 金貨一枚を彼女を見せながら、俺は「どうしたい?」と問う。

「……ちゃんとしたベッドで眠りたいですわ」

「うん。じゃあ、ちょっと良い宿に泊まろうか」

 地面へ横になって眠ったこともだが、昨晩現れた異界生物も気になって眠れなかったんだろうね。

 ずっと毛布を被りながらモゾモゾ動いていたし。

「貴方はよく平気な顔をしていられますわね?」

「慣れているからね。君も慣れるよ」

 俺は彼女に微笑んでから街の東側にある『宿通り』へ歩きだす。

 宿通り入口にあるのは貴族や豪商が使う高級宿ばかりだが、道を少し先にいくと『中堅クラス』の宿が多く見えてきた。

「宿屋の中でも中堅クラスは最も競争率の高い商売だからね。各宿にはそれぞれ特徴があることが多いよ」

 所謂、その宿が持つ『個性』あるいは『武器』と言うやつだ。

 最初の一軒目は「食事が美味い」こと。

 元有名食堂で働いていた料理人を雇い、美味くてリーズナブルな食事を振舞うことを最大の売りとしている。

 二軒目は中堅宿の中でも価格が安いこと。

 トーワ王国内の中堅宿は一泊銀貨八枚程度だが、この宿は一泊銀貨五枚で泊まれる。代わりに食事やサービスなどは他よりも劣る。

「三軒目は浴場付きだって」

 現代に生きる平民達は自身の衛生状態を守るために公衆浴場で体を洗う。

 国が経営する公衆浴場は平均銅貨三枚という格安で利用でき、利用時間も朝の八時から夜の九時までと自由が利く。

 安さと利用時間の長さは、国が疫病を流行らせないための努力だろう。

 宿の特徴に話を戻すが、この宿は自前の浴場を持っているらしい。

 利用料金は宿代に含まれ、利用制限は無し。利用時間に関しても制限はない。いつでも入れて、いつまでも利用できるってことだ。

「この宿にしましょう」

 シエルは即決だった。

「髪はゴワゴワですし、体も汗でベトベトですわ」

 さっぱりしてすっきり寝たい、ってのが彼女の要望か。

 まぁ、わからんでもない。

「んじゃ、ここにしよう」

 三軒目の宿に決めた俺達は早速中へ。

「一部屋。ベッドは二つで」

 もちろん、ベッドは別々だ。

 部屋が同じなのは安全性も考慮してのこと。一人部屋を狙う荷物泥棒がいる可能性もあるからね。

 まだまだ世間知らずの域を出ないシエルを一人で寝かすのは心配だ。

 鍵を貰って部屋に到着すると、荷物を下ろしてから一息つく。

「先に浴場へ行くかい?」

「いえ、食事を済ませてしまいたいですわ」

 彼女の要望に従い、食堂へ向かうことに。

 宿の食堂は普通だ。

 夕食として提供されるメニューは日替わりの一つだけ。酒はワインのみ。

 本日は鶏肉のソテーとパン、野菜スープとサラダという組み合わせらしい。

「……普通ですわね」

 魔物肉を食べた時ほどの感動はないようだ。

 ワインも普通。

 むしろ、普通の有難みを感じ取るいい機会かもしれないが。

「ねぇねぇ、聞いた? また北の方で戦争が始まるかもしれないって話」

 シエルと食事を続けていると、隣の席にいた冒険者達の声が耳に届く。

「ああ、聞いたよ。レギム王国が戦争の準備を始めているって話だろ? あの国はまた侵略を始めるのかね?」

 話し合う冒険者の片割れが「今度はどこの国を狙うんだか」と鼻で笑う。

「戦争の気配ですって」

 シエルも同じく話を聞いていたらしい。

「大陸北を目指す予定はありますの?」

 彼女はナプキンで口を拭きながら言った。

「今のところは無いね」

 俺達がいるトーワ王国は大陸中央から南東に位置する国だ。

 一方、話題に出たレギム王国はトーワ王国の北、大陸の北東に位置する国。

 隣接もしていないので、トーワ王国民にとっては「他所の話」って感じだろうか?

「レギム王国は大陸統一を目指していると聞きますが」

「ああ、そうみたいだね」

 レギム王国の歴史は大陸北東の端から始まった。

 狩猟民族だったレギム人が建国を果たし、徐々に人口を増やしていくと、彼らは自分達の『資源不足』に気付く。

 国内で採掘される金属類は乏しく、同時に魔法使いの要でもある魔石の採掘量も少なかった。

 このままでは自分達が小国として纏まってしまうと危惧した彼らは、同じく小国であった隣国を侵略することに。

 当時の世界的な常識で言えば「弱い国は食われる」だっただろう。

 また、この時代においての戦争は「種族・民族の生き残りをかけた生存競争」という側面も強かった。

 レギム人だけではなく、大陸中の人間達が己の人種を後世に残すため、国民が望む豊かさと繁栄のために、強くならねば生き残れない時代でもあったのだ。

 ――ただ、戦争が当たり前の日常にも終わりはくる。

 各地で覇を唱えた国だけが残ると、大陸中で起きていた戦争はぴたりと止んだのだ。 

 これは大陸中で起きていた生存競争が終わりを告げたと言ってもいいだろう。

 弱き者は強き者に吸収され、周囲には「強い人種」しかいなくなったわけだ。

 となると、今度は強い者同士の衝突になるのか?

 いや、違う。

 国が大きくなり、自分達の生存環境が盤石になると、その指導者達は「安定」を求めるようになったのだ。

 これ以上国が膨れたら収拾がつかなくなる。隣国も強者であるため、仕掛ければ負ける可能性もある。

 リスクとリターンを天秤にかけて判断するのは間違っちゃいない。

 ある程度の大きさに育った国は、次に安定を求めて同盟国の構築へと移行していく時代となった。

 ――しかし、レギム王国は違った。

 最初は他の国と同様だった。自国が生き残るため、レギム人という血を残すための生存競争だ。

 だが、レギム王国は生存競争で生き抜くと同時に欲望も強くなっていったのだ。

 もっと大きく、もっと強い力を、もっと、もっと。

 あの国は際限無く他国を飲み込んでいく。

 どんな国が相手だろうと戦いを挑み、力づくで相手国を屈服させる。

 国を統治していた王族は例外無く処刑され、抵抗する元国民も女子供だろうが容赦しない。

 力と恐怖によって他者を飲み込む、巨大な口を持つ化け物のような国だ。

 そうして、北東の端から始まったレギム王国は次々に他国を侵略していき、今では大陸北東部を全て占有する巨大な国になった。

「侵略を止めた際はトーワ王国でも話題になっていましたわね。暴君アリゾラ・レギムも遂に足を止めたか、と」

 二年前、大陸四分の一を我が物にしたレギム王国は一度侵略の足を止めた。

 しかし、ここ最近になってまた派手に動き出す気配が漂ってきたようだ。

「……あの国は最低だ」

 俺の口から自然と声が出た。

 だが、これは本心だ。

「仮に旅の間、滞在している国が戦争を起こしたらどうしますの?」

「んー……。やることは変わらないかな」

 俺は少し悩みながら言った。

「俺は俺の目的のために旅を続けるよ」

「そう」

 彼女はホッと息を吐く。

「戦争に参加すると言われたらどうしようかと思いましたわ」

「するわけないよ。戦争、嫌いだもの」

 俺は苦笑いを浮かべた。

「さて、食事も終わったし。浴場に行こうか」

「ええ」

 俺達はそれぞれ浴場で汗を流し、部屋に戻ったらすぐ眠ってしまった。


 ◇ ◇


 ――気付くと、俺は血だまりの中に立っていた。

 辺りには大量の武器と死体が散乱しており、先は真っ暗で何も見えなかった。

「ここは、どこだ」

 俺は手探りで先を進む。

 足元に転がる死体を跨ぎ、突き刺さった状態で放置される剣や槍を掻き分け、俺は前へ前へと進んで行った。

 出口はどこだ。

 そう考えながら進んで行くと、暗闇の中に誰かの背中が見えた。

 赤髪で背の低い、寝間着姿の男の子。

 俺は彼の姿を見た時、笑みが浮かんだ。

「リオン!」

 俺は彼の名を叫び、その後ろ姿に向かって走り出す。

「リオン、よかった! ここに――」

 彼の肩に手を置いた瞬間、振り返ったその顔は――骨になっていたのだ。

『どうして……』

 そして、彼は骨の口で囁く。

 どうして僕を見捨てたの? と。

「ち、違う! 見捨ててない! 俺がお前を見捨てるわけ――」

 動揺する俺がたたらを踏むと、今度は背中に誰かが纏わりついてきた。

『私のことも見捨てるんでしょう?』

 そう言ったのは、同じく骨になったシエルだった。

「み、見捨てるわけ……!」

 違う!

 違う! 違う、違う! 

「違う! お、俺は――」

 俺がリオンとシエルに弁明しようとした時、今度は何かが足に纏わりつく。

『嘘だ、嘘だ。お前は俺達を殺した』

『嘘をつくな。見て見ぬ振りをしたくせに』

『仕方ないと言い訳をしながら、私達を殺したくせに』

 俺の両足に纏わりつくのは、骨になった男女だった。

 ある者は騎士の鎧を身に着けて。ある者は農夫の恰好をして。ある者は骨になった子供を抱える女性だった。

 彼らは怨嗟の言葉を口にしながら、俺を血だまりの中に引っ張り込む。

「俺は、俺は――!」

 否定しようとするも、口から言葉が出なかった。

『お前は罪人だ』

『お前は悪人だ』

 血だまりの中から無数の手が現れ、俺の足を強く引っ張る。

 抗うことができなかった俺は、血だまりの中に沈んでいくしかなかった。
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