蒼の聖杯と英雄の足跡 ~自称実力そこそこな冒険者、聖杯を探す旅の途中で追放された元悪役令嬢を拾う~

とうもろこし

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1章 訳あり冒険者と追放令嬢

第11話 ラプトル討伐依頼 1


『――ク!』

 誰かが呼んでいる気がした。

『――ルーク!』

 知っている声だ。この声は誰だ?

「ルーク! ねぇ、ルーク!」

「――はっ!」

 目を覚ますと、目の前にはシエルの顔があった。

 彼女は心配そうに俺を見ていて「ようやく起きた」と口にする。

「大丈夫ですの? すっごくうなされていましたわよ?」

「あ、ああ……」

 またあの夢を見たせいだ。

 何度も何度も繰り返し続く、悪夢を――いや、俺が悪夢と呼ぶにはおこがましい。

「大丈夫。疲れが溜まっていたんだと思うよ」

 彼女を安心させるように言った瞬間、彼女の顔が骨になっていた。

 俺は再びハッとなるも、すぐにその幻覚は消え失せる。

 相変わらず心配そうな彼女の顔があった。

「……本当に大丈夫ですの?」

「大丈夫だよ」

 俺は軽く頭を振ったあとベッドから降りた。

「朝食を食べたら組合に行こうか。ラプトル騒ぎについても聞きたいしね」

 情報を仕入れずに進み、結局はラプトルのせいで通行止め……ってのは避けたいからね。

「ええ」

 予定通り、俺達は朝食を食べて組合へと向かった。


 ◇ ◇


 組合に到着したのは朝の九時を過ぎた頃。朝の混雑を避ける時間帯を狙った。

 その甲斐あってか、建物の中にほとんど冒険者はいない。

 この街にいる冒険者は皆、大移動中の魔物による被害の対処に出ているのだろう。 

 内心「大変だな」なんて思いながらカウンターへ向かう。 

 すると、奥にいたスキンヘッドの男性が俺を二度見したのが分かった。

「あ! 赤髪!」

「ん?」

 そして、俺の髪を指差した彼はドタドタと駆け寄ってくる。

「あ、あんた! 東部から来たか!?」

「え? 東部?」

「ラングル領だ! そこでワイバーンの討伐を請け負わなかったか!?」

「請け負ったけど……?」

 捲し立てるように質問してきた男性職員は、俺の返答を聞いてパァと輝くように笑みを浮かべた。

 顔が厳つい男からは想像できないほどの笑顔だ。目尻に涙まで浮かべてるし。

「あんたに頼みがあるんだ! ラプトル退治を請け負ってくれないか!?」

「ラプトルを?」

「ド、ド、ドラゴンもどきを!?」

 因みに最後の仰天声はシエルである。

「ああ! 街の南側にある森にロックラプトルが迷い込んだ話は聞いているか!?」

「一つ前の街で聞いたよ」

 男性職員は「なら話が早い」と言って言葉を続ける。

「ラプトルが森に居着いちまったせいで他の魔物が狩れなくなっちまったんだ。このままだと街が肉不足に襲われちまう」

 ラプトルに恐れをなした魔物達が周辺から移動を始めたせいで、街の食料にもなっていた魔物の数が森から激減してしまった。

 一部の魔物は畑に被害を出すなど追跡できる範囲にいてくれたが、対処できなかった分の魔物達は徐々に北へ向かって行ってしまったという。

 遠くまで魔物を追跡しても街の肉にはならない。戻ってくるまでに肉が傷んでしまうから。

 結果、冒険者が街に肉を持ち帰れず肉不足に陥るってことだ。

「街の一大事にまで発展しそうなら、領主が騎士を動員すればいいんじゃないか?」

「いや、それがさ。少し前に領内北部でゴブリンとオークの大繁殖が起きたんだ。そっちに騎士が回されちまって手が足りてない」

 大繁殖したゴブリンとオーク退治も難航しており、現状ではこちらに手を回す余裕がない。

 加えて、本物のドラゴンが大暴れしてるってわけでもないので、王都に援軍を頼もうにも後回しにされてしまっているという。

「他の冒険者達は? 人数を集めれば倒せるんじゃないか?」

「あいつらはダメだ! 根性無しのクソッタレ共だからな!」

 曰く、元々街に居着いている冒険者達は「割に合わない」「命を捨てたくない」などと言って依頼を拒否。

 組合側が非常事態と判断して強制することもできるが、相手が嫌がる仕事を押し付けたら終わった後に街を出て行ってしまうだろう。

 そうなるとラプトルを倒した後に発生する依頼が滞ることになり、組合側にもツケが回ってくるのでよっぽどのことがなければ強制できない。

 続けて、俺達のような外から来た連中にも声を掛けてみたようだが、こっちも様々な理由をつけられて拒否されてしまったそうだ。

「そりゃ困った話だね」

「だろう? そこであんただ!」

 男性職員はビシィ! と俺を指差した。

「東部でツガイのワイバーンを屠った赤髪の冒険者! あんたならラプトルも狩れるんじゃないか!?」

「あー……」

 確かにワイバーンを狩ったのは事実だ。

 ラプトルも同じく「ドラゴンもどき」の一種である。

 狩れなくはない。

「ロックラプトルだと言っていたよね。体に纏うのは岩だけ?」

「目撃者によると岩と鉄鉱石が見えたって。アダマンタイトやオリハルコン、ミスリルじゃないのは確かだな」

 ロックラプトルは自身の体に岩や土を纏う性質を持つ。

 その際、地中に埋蔵されている鉱石類も巻き込んで纏うことがあるのだ。

 これに関しては諸説あるが、幼体期の育った環境によって身に纏う物を変えるそうだ。

 つまり、今回のラプトルは岩や鉄鉱石が豊富な地域で生まれ育った……ということになるのかな?

「鉄混じりかぁ……。剣の刃が通らないかもしれないな」

 加えて、ロックラプトル独自の特徴に纏っている岩や土、鉱石をより硬くするという能力がある。

 これは本物のドラゴンが魔力の火――ドラゴンブレス――を吐くように、ロックラプトルも自身の魔力を使って硬化能力を使っているのでは? と推測されている。

「いや、そうなんだけどさ! ワイバーンは倒したんだろ!?」

 なかなか無茶を言う。

「このままじゃ食料不足になっちまうし、そうなったら元々いた冒険者達も拠点を変えるために街を出て行っちまう!」

 言った通り、彼も街と組合のために必死なのだろう。

「頼む! この通り!」

「…………」

 拝み倒される中、俺はチラリとシエルの顔を見た。

 彼女は「受ける気!?」と俺を疑うような表情を浮かべていたが……。

 どうしようかな。

「……ラプトルと戦ってみたい?」

 シエルに問うと、彼女はぶんぶんと首を横に振った。

「ラプトルを倒した際の報酬は?」

「緊急事案認定にして金貨五十枚! それとロックラプトルの素材分は好きな部位を持っていい! ウチが買い取るなら色を乗せて払う!」

「金貨五十枚ですの!?」

 彼女の目の色が変わった。

「ロックラプトルの皮はよく高級バッグとかに使われるよね」

 ラプトル皮を使った鞄は貴族にも人気だ。

 全身の皮を売れば金貨十枚くらいにはなるんじゃないだろうか?

 他にも内臓は薬の材料にもなるし、牙は工芸品や冒険者用の道具にも使われる。纏っている岩と鉱石の中に希少な物があれば更に儲かるだろう。

「素材を全て売ったらどれくらいになりますの?」

「う~ん。全部で金貨二十枚くらい? 運が良ければ三十枚になるかも」

 これはざっと見積もっての話だが。

 しかし、金額を告げた瞬間にシエルの両目が金貨に変わった。

「どうする?」

「そもそも倒せますの?」

「君が協力してくれれば可能だね」

 単身で倒すことも可能だが、シエルが協力してくれればもっと楽になる。

 そう告げると、彼女は大いに悩んだ。

 今、彼女の脳内では自身の命と金貨を天秤に乗せた状態で揺れていることだろう。

「……やりますわ」

 結果、金貨の重みが勝ったらしい。

「なら受けよう」

 俺達が決断すると、男性職員は「おお!」と声を上げた。

「その代わり、一つお願いがある」

「なんだ!? 何でも言ってくれ!」

「青色魔石の大サイズを二つ用意してくれないか?」

「おお! すぐに用意させる!」

 男性職員は「ちょっと待ってろ!」と口にして、組合の奥へと走って行った。

 よし、あとは手持ちの道具で何とかなりそうだ。

「ああ、そうだ。討伐には経費が掛かるから、報奨金をそのまま全部とはいかないよ?」

 恐らく半分くらいは経費代になる、と説明した。

 後出しになってしまったので申し訳ないところもあるけど。

「半分も!?」

「まぁ、二人で討伐するわけだからね。それくらいの準備は必要だよ」

 相手は剣が通用しない魔物だ。

 本来なら腕の立つ魔法使いが十人は必要になるのだが、そもそも魔法使いって存在自体が冒険者の中では貴重だし。

 彼女は衝撃を受けて固まるも、すぐに回復した。

「……まぁ、地道にブラウンボアを狩るよりは実入りが大きいですわね」

 彼女は「一日中戦い続けて金貨一枚」よりはマシ、と腕を組みながら頷いた。

「おおい! これでいいか!?」

 話し合っていると、男性職員が両手に大きな魔石を持って戻って来た。

 魔石は成人男性の手にも余る大きさだ。

「ラプトルがいる場所は? 正確な場所は分かってるのかい?」

「ああ、この地点だ」

 男性職員はカウンターの下から地図を取り出し、ラプトルのいる場所に赤い丸をつけた。

「討伐したらこれで知らせてくれ」

 続けて、彼は騎士団でも使用される「光信号の筒」をカウンターに置いた。

 これは遺物を解析して作られた魔導具の一つだ。

 筒の先端を空に向けて魔力を流すと、筒から色付きの光が発射される。光は一定の時間空に留まり、それを合図に使うってやつだ。

「了解。ダメそうだったら戻ってくるよ」

「そうならないことを祈るぜ」

 俺達は男性職員に見送られながら組合を後にした。

「……本当に倒せますのよね?」

 今更になって不安がぶり返してきたのか、シエルは再び不安の色を見せながら問う。

「君が協力してくれればね」 

 水魔法の使い手が全力で頑張ってくれれば何とかなる。

「まぁ、最悪逃げればいいさ! まぁ、ラプトルは人間よりもずっと速く走れるけどね!」

「…………」

 俺は「あっはっはっ!」と笑いながら歩き出した。
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