15 / 57
1章 訳あり冒険者と追放令嬢
第14話 羨望の眼差しは蜜の味
しおりを挟む「シエル、大丈夫か!?」
ラプトルを仕留めた後、シエルの様子がどうにもおかしかった。
まさか、彼女も紫電を浴びてしまったのか!? と焦ったが、様子から察するに違うようだ。
「魔力酔いだね」
「はひ……。ひぃ……」
この症状は大魔石を使用した高出力魔法の行使に起きがちな「魔力酔い」である。
才能ある魔法使いとはいえ、慣れない魔法の行使に体がついていけなかったようだ。
「大丈夫? さぁ、息を繰り返して」
俺は彼女を抱き抱えながら規則正しい息をするよう促す。
しばらく続けていると、彼女の目と体が正常に戻ってきた。
「……つ、疲れましたわ」
魔力酔いに苛まれた魔法使いに起きる次の症状、精神的な疲労だ。
ここからは休めばよくなる。体の中で起きた異変が落ち着いてきた証拠だからね。
「でも、君のおかげで倒せたよ」
疲れた顔を浮かべるシエルは四つん這いになりながら穴を窺う。
「……本当に死んでいるみたいですわね」
「うん」
彼女は「ふぅ」と大きな息を吐くと、今度は俺に疑いの目を向けてきた。
「本当は一人でも倒せたのではなくて?」
「まぁ、そうだね」
単独でも倒せる、とハッキリ伝えなかった理由はちゃんとある。
一つは道中と同じように魔物退治の経験を積ませるため。
「これから先、もっと強い魔物に遭遇する機会は増えるよ。そうなった時、恐怖して足が動かないとなれば命取りだ」
ブラウンボアを討伐できたからといって満足してはいけない。
この先、俺と共に行けばロックラプトルと同じくらい強い魔物と戦うことはいくらでもあるだろう。
しかも、強敵である魔物が必ず一体しか現れない、なんてことは絶対にない。
複数の魔物に襲われることなんて日常茶飯事だ。
だったら、一体だと判明している時点で『魔物の恐怖』を体感しておいた方がいい。
レッドベアの時と同じく。
「冒険者としてやっていくなら、大魔石を使った高出力魔法の行使に慣れておくべきだ」
次に魔法使いとしてのステップアップ。
彼女は魔法使いとしての才能は十分に秘めているが、才能があるだけでは生き残れない世界だ。
小魔石、中魔石による魔法の行使だけじゃなく、体へ負担の掛かる大魔石による魔法の行使に慣らしておくこと。
何度も繰り返し行使することにより、今回のように魔力酔いすることはなくなる。
「高出力魔法を行使できるようになれば、君は切り札とも言えるオリジナル魔法を編み出せると思うよ」
冒険者において「切り札」は重要だ。
「あとは? 他にもありまして?」
この際だから全て言ってくれ、と彼女は俺を睨みつけるように言った。
「あとは君に自信をつけて欲しかったからかな」
「自信?」
「そう。ロックラプトルと対峙して生き残ったって自信。人の内面的な成長において、自信は重要な要素だと俺は思うんだよね」
過剰なほどの自信は不要だが、ある程度の成功体験は成長スピードを増す要素になるだろう。
魔物への恐怖ばかりでは足がすくんでしまうが、怖い魔物を倒せたという成功体験は勇気を生むはずだ。
「どう? 納得した?」
「……ええ、まぁ。確かにロックラプトルの突進を見た後なら、ブラウンボアの突進が怖くなくなりそうですわね」
彼女はとびっきり大きなため息を吐いた。
「はは。まぁ、何事も油断は禁物だけどね」
さて、彼女も回復してきたところで。
俺はリュックの中から光信号の筒を取り出し、先端を空に向けた。
軽く魔力を流すと緑色の光魔法が空高く打ち上がる。
あとは職員が回収に来るのを待つだけだ。
◇ ◇
打ち上げから一時間後、依頼を寄越したスキンヘッドの職員が他の冒険者を連れてやって来た。
「おお!」
「すっげえ!」
彼らは穴の中を覗き込み、死亡しているラプトルを見ると驚きの声を上げた。
「いやぁ、本当に助かった! さすがはワイバーン殺し!」
男性職員はご満悦だ。
厳つい顔に似合わないほどニッコニコの笑顔を見せた。
「んじゃ、引き上げて街へ持ち帰るからよ。あんたらも着いて来てくれよな」
「ああ、分かった」
冒険者達と男性職員はラプトルの死体とラプトルの鎧を引き上げ、台車に乗せて移動を開始。
彼らと共に街へ戻ったのだが、メインストリートを歩く俺達は注目の的になってしまった。
街のメインストリートを行く人達は台車に乗ったラプトルの死体へ釘付けになり、事情を知る者は「討伐したのか!?」と驚きの声を上げる。
俺は誇らしげに歩くこともなく、むしろ一足早く組合に向かいたかったのだが……。
「ふふーん! ですわ!」
すっかり魔力酔いから回復したシエルは、そのたわわな胸を張りながら誇らしげに歩いていた。
自己主張の甲斐あってか、街の人達はシエルを見て目を奪われる。
次に「あの女冒険者、すっげえ美人!」だとか「彼女が倒したのかしら!?」などという声が聞こえてきた。
「おーっほっほっほっ! 私、貴方の言っていた言葉がよく理解できましたわ!」
「どのこと?」
「自信の話ですわ!」
彼女は「これが成功体験!」とニヤリ。
「きっっっもち良いですわぁ! かの英雄もこのような気分だったのかしら!?」
いや、まぁ、うん……。
彼女の邪魔はしないであげよう。
シエルを温かく見守りながら道を行き、遂に組合へ到着。
ラプトルは建物の裏にある解体所へ持ち込まれ、早速査定が始まった。
待つこと数分、カウンターにやって来た男性職員に呼ばれる。
「えーっと、まずは討伐の報奨金。こっちは金貨五十枚な」
カウンターの上に置かれた革袋の中からはジャラリと音が鳴った。
「次に素材についてだが、残念ながら皮は少し損傷してた。全身の皮を全て買い取りに出すなら金貨九枚なんだが、色を乗せてキリよく十枚にしておくよ」
たぶん、紫電で焼いた部分だな。
まぁ、これは仕方ない。
全身無事だったら金貨十二枚にはなっていたかな? ただ、それでも二桁台にはなったので十分だろう。
「素材は全部売ろうと思うんだけど、シエルは欲しい部位とかある?」
「別にありませんわ」
彼女に確認しつつ、素材は全て買い取りに出す旨を改めて伝えた。
「となると、素材分の金額は全部で金貨二十五枚。報奨金分と合わせて、全部で金貨七十五枚だ」
結構な金額になったなぁ。
「とりあえず、金貨三枚以外は組合に預けておくよ」
冒険者組合には独自の銀行システムが備わっている。
これを利用すればトーワ王国内の組合ならどこでも指定額を引き出すことが可能だ。
ただ、これは預けた国内だけ。
別の国に向かう場合は、移動する前に向かう先の国が発行する通貨に換金しておく必要がある。
換金後は改めて別国の組合に預けるのだが、大金を持って国境を渡る際は注意が必要だ。
盗難、大金持ち込みを狙った野盗の襲撃、悪人に片足を突っ込んだ国境警備担当の騎士による不当な没収など、とにかく問題が発生しやすい。
「あいよ。ドッグタグを貸してくれ」
銀行システムの仕組みだが、預けた金額と場所がドッグタグの裏に刻印される仕組みだ。
これらの情報は冒険者組合が独自に開発した暗号が使用され、各組合に所属する一部の人間にしか解読できないようになっている。
じゃあ、刻印を覚えてしまえば不正し放題じゃないかって思うかもしれないが、ドッグタグに使う刻印には遺物、あるいは冒険者組合が独自に開発した魔導具を使用しているという噂だ。
刻印をマネして不正ドッグタグを作り、架空の金貨を引き出そうした悪人が即バレしたという話も有名である。
仮にその場から逃げられても、冒険者組合本部が保有する戦力に地の果てまで追われる……という話だが。
「よし、完了だ」
俺は新しい刻印の入ったドッグタグを受け取った。
「本当に助かった。あんたがいなきゃどうなるかと思ったぜ」
「お役に立ててよかったよ」
俺は男性職員に「また明日の朝に情報を聞きに来る」と告げてから外へ出た。
「今日はどうしますの?」
「疲れたでしょう? 今日はゆっくり休もうよ」
お金も入ったしね。
俺は金貨三枚を見せながら言った。
「何か欲しい物や食べたい物はある? 今回の報酬には君の分の報奨金も含まれているからね」
「そうですわねぇ」
シエルは少し悩む様子を見せたあと――
「……ワインですわ」
彼女はニヤッと笑いながら言葉を続ける。
「今日はワインと美味しい食事を楽しんでから、気持ちよく眠りたいですわね」
「よし、決まりだ! 食堂に向かおう!」
「おー! ですわ!」
俺達は二人して笑顔を浮かべ、街で美味しいと評判の店へと向かった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
勇者の隣に住んでいただけの村人の話。
カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。
だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。
その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。
だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…?
才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~
かくろう
ファンタジー
【ためて・放つ】という地味スキルを一生に一度の儀式で授かってしまった主人公セージ。
そのせいで家から追放され、挙げ句に異母弟から殺されかけてしまう。
しかしあらゆるものを【ためる】でパワフルにできるこのスキルは、最高ランクの冒険者すらかすんでしまうほどのぶっ壊れ能力だった!
命からがら魔物の強襲から脱したセージは、この力を駆使して成り上がっていく事を決意する。
そして命の危機に瀕していた少女リンカニアと出会い、絆を深めていくうちに自分のスキルを共有できる事に気が付いた。
――これは、世界で類を見ない最強に成り上がっていく主人公と、彼の元へ集まってくる仲間達との物語である。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】
~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)
荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」
俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」
ハーデス 「では……」
俺 「だが断る!」
ハーデス 「むっ、今何と?」
俺 「断ると言ったんだ」
ハーデス 「なぜだ?」
俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる