蒼の聖杯と英雄の足跡 ~自称実力そこそこな冒険者、聖杯を探す旅の途中で追放された元悪役令嬢を拾う~

とうもろこし

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1章 訳あり冒険者と追放令嬢

第17話 不思議な魔法用品店


 ロッキード・アンティークの支店は全て木材本来の色を使った店舗と濃い緑色の屋根で統一されている。

 店名を表す看板は店舗の形を模した形状となっており、中央に描かれる文字は金色だ。

 上品かつ高級な店構えに平民達は圧倒され、貴族達は「自分達にこそ相応しい店」と胸を張りながら入店するのである。

 そんな店に容赦なく入店していく俺は、傍から見れば異端に見えるだろう。

 平民も貴族も「どうして冒険者が?」と首を傾げるに違いない。

「いらっしゃいませ」

 カランとなったドアベルに気付いた男性老人――執事のような恰好をした店員が深々と頭を下げる。

 彼の見せた態度に関してだが、これは別に俺が特別だからじゃない。後ろに続くシエルが元貴族令嬢だということを悟ったからでもない。

 誰に対しても同様の接客態度を見せる。

 この店は、ロッキード・アンティークという店はそういう場所だ。

 ただ、これからシエルに見せるのは「特別なこと」と言えるだろう。

 俺は店内を軽く見渡す。

 他に客がいないことを確認してから、ジャケットの内ポケットより金のコインを取り出して見せた。

 純金かつ中央に二本の杖がクロスする絵が刻印されたコインだ。

「特別な商品が見たい」

「ええ、どうぞ。こちらに」

 老人は金のコインを見ても態度を変えず。それどころか、表情さえ変えなかった。

 俺達は店の奥へと案内される。

 服の仕立てに使う生地が山ほど保管されるバックヤードだ。

 そのバックヤードには濃茶の分厚い扉があった。

 木を加工した扉には、扉単体で芸術作品と評価して良いほどの彫り物がなされており、開けるための取っ手は金で作られている。

「心行くまでお楽しみ下さい」

 老人が頭を下げつつ、扉を開けた。

 扉の向こう側は真っ暗だ。普通ならこのまま足を進めようとは思わない。

 しかし、俺はいつもと変わらぬ足取りで進む。

 すると、後ろから「え!? 消えた!?」というシエルの声が聞こえたが――

「きゃあ!?」

 彼女もまた、扉を潜ってこちら側へとやって来た。

 たぶん、向こう側で老人に背中を押されたのだろう。

「う、嘘!? どういうこと!? ここはどこなの!?」

 彼女が驚くのも無理はない。

 真っ暗闇へと続く扉をくぐると、辿り着いたのは『不気味な魔法用品店』と言わんばかりの場所。

 室内を照らすオレンジ色の照明。壁際には多数の棚があり、瓶詰めになった「何か」がたくさん陳列されている。

 他にも剣や槍、杖などが突っ込まれた大樽があったり、棚が並ぶ反対側の壁には古い本が山のように積まれていたり。

 そして、何より――

『ヒヒヒ、イラッシャイ』

 店の正面、カウンターの向こう側にいる謎の商人。

 フード付きのローブを着る人物の性別は不明だが、フードの頭頂部付近には獣人の耳の形に膨らんでいる。

 しかし、フードの中は闇に覆われて顔が見えない。目と思われる二つの赤い点が怪しく光るだけ。

 両手は白い手袋で隠されており、この人物が人間であるのかどうかさえ分からない。

 以前、彼の名を聞こうと試みたが教えてはくれなかった。

「な、何者……」

「ここは魔法用品店だよ」

 普通じゃない、という前置きが必要だが。

 あと「どこにあるか分からない」も付け加える必要があるだろう。

『ヒヒヒ、ココは選ばれた人しか、来れないカラネェ』

 店主の声は所々声が変わっており、老若男女の声音が入り混じる。

「…………」

 謎の場所、謎の店主。謎だらけな状況に連れ込まれたせいか、シエルの顔には怯えの色が浮かぶ。

「大丈夫。ここは……。怪しいけど怪しくない場所だから」

「こ、答えになっていませんわ……」

 確かに。

 店に来てからちゃんと説明するつもりだったし、説明に納得してもらえるよう「とある人物」に会って欲しかったんだが……。

「ヘンゼルはいないのかい?」

『今日はフザイだねぇ。ナンデモ、珍しい鉱石を取りにイクとか言っててネ』

 残念。

 彼がいれば彼女も一発で状況を飲み込んでくれただろうに。

「本人不在だから信じてもらえるか分からないけど、ここは賢者と名高いヘンゼル・コージィ・レヴィアトールが作った店なんだよ」

 ヘンゼル・コージィ・レヴィアトールとは、現代にしぶとく生きる大魔法使いであり、賢者とも呼ばれる人物だ。

 年齢は今年で九十を超える爺であるが、未だ現役バリバリ。

 腰は曲がっても自分の信念は曲げないがモットー。

 本人曰く、自分にはエルフの血が流れているからあと五十年は生きる――エルフの寿命は二百年くらい――と言っているが、果たして。

「本当に? 本当にあの賢者ヘンゼルが?」

「そう、転移魔法を編み出したと言われる賢者ヘンゼル」

 ヘンゼルという男は元々有名な人物だった。

 遥か昔から続く魔法使いの家系、大陸に名を轟かせた伝説の魔法使いコージィを祖に持つ家に生まれた男だったからだ。

『ヘンゼルはムカシから優秀だったカラねぇ。あの子はオネショしてた頃からユウシュウだった」

 店主はフードの奥で「クシシ」と笑う。

 彼の言う通り、ヘンゼルは幼少期から優秀だった。

 三歳で既に魔法を操り、十歳になる頃には当時の魔法理論――祖であるコージィが確立した理論――を完全に理解し、オリジナルの魔法をどんどん編み出したのだ。

 そして、決定的な瞬間が訪れたのは彼が三十歳になった頃。

 彼は「転移魔法」という伝説級の魔法を完成させ、とある国のお姫様の湯浴み場へ転移したのである。

『ハナヂを垂らしながら近衛兵に捕まったとキイタときは、ミンナ大爆笑だったネェ』

 またしても店主はクシシと笑った。

 因みに処刑されそうになったらしいが、転移魔法で逃げたらしい。

 この事件が起きて以降、ヘンゼルは伝説の魔法「転移魔法」の使い手と認知されるが、その後も様々なオリジナル魔法を生み出したことから大陸内では賢者と呼ばれるようになった。

「当然、彼は当時の事件を起こしたことで指名手配されたわけだけど」

 指名手配されてしまったのは、お姫様の湯浴みを覗くだけじゃなく他にも色々な国でやらかしたからなんだが。

「ええ、それも有名な話よね」

「逃亡を続けていた彼が創り上げたのが、この店ってこと」

 曰く、この店は俺達が住む世界と別世界の境界線上に位置しているらしい。

 ヘンゼルが言うには「認知外の世界」あるいは「内と外の間」という話だ。

 初めて聞いた時からサッパリ分からんがね。

 とにかく、この場所はヘンゼルから認められた者しか訪れることができない。

 同時に賢者と名高いヘンゼルが生きるために商売をする場所でもある。

「つまり、賢者ヘンゼルが経営する商会ってこと?」

「そう。この店の中にあるのはヘンゼルが収集した趣味の品なんだ。俺が前に使った魔法紙もここで購入したんだよ」

 地面に大穴を開ける魔法、あれはヘンゼルの魔法だ。

 ただ、魔法紙を購入するには本人が店内にいる時に限る。

 その場で依頼し、その場で描いてもらうってことだ。

『ウチには良いモノがタクサンあるよォ。オジョウサンにはコレが似合うカナ?』

 店主がカウンターの下から取り出したのは、虹色に光るトカゲの尻尾を五本繋げたネックレスだった。

「そ、それは?」

『性格がオダヤカになるネックレスだね。危険な魔物をシイクする時にツカウンダ』

「それってどういう意味ですの!?」

 店主はクシシと笑いながらそれをカウンターの下に戻した。

「とにかく、さっき潜った扉はヘンゼルが作った商会への入口ってこと」

「……わからないことが一つありますわ。どうしてロッキード・アンティークの店に入口がありますの?」

「ヘンゼルとロッキード家は仲が良い……んだよね?」

 俺は店主に問う。

『ソウソウ。随分前にロッキード家のモンダイを解決したのがキッカケでね』

 それはまだヘンゼルが逃亡している最中だった。

 ロッキード家の存続に関わる大問題だったらしいのだが、それを見事解決したのがヘンゼルだった。

 以降、ロッキード家はヘンゼルを家の大恩人としており、潤沢な財を惜しまず支援するようになったらしい。

 ロッキード家の支援を受けるようになったヘンゼルは、大陸中にある支店を巡りながら逃亡と研究の旅を続け、遂にこの『店』を作り上げることに成功したってわけだ。

「そして、彼に認められて店の存在を知ったというわけ。表の店で見せた金のコインは『友好の証』ってことさ」

「……どうやって認められたの?」

 賢者と呼ばれる有名人と、そこそこな実力を持つ俺がどうやって知り合ったのか。

 確かに気になるところだろう。

 しかし、答えは簡単だ。

「君と同じように空腹で倒れていた彼に食料を分けてあげたんだよ」

 彼もシエルと同じように街道の途中で倒れていたっけ。

 死んだカエルのような恰好でね。

 次の街まで一緒に旅をして、お互いを知ったところで「友好の証」を渡されたってことだ。

「以降、便利に使わせてもらっているんだよ。商品は高いけどね」

『クシシ! 賢者が目をつけたモノをツカエルんだからヤスイものさ!』

 まぁ、確かにそうなんだが。

「待って下さいまし。ということは、転移魔法を描いた魔法紙も買えますの!?」

「買えるよ。本人がいればね」

『金貨七千枚だけどネ』

 買えると聞いて目を輝かせたシエルだったが、金額を聞いて絶望するような表情を見せた。

『お姫様のハダカを見れるマホウなんだ。金貨七千枚でもヤスイくらいだね』

 それを実現させるのは処刑とセットだけどね。

「さて、事情も説明したことだし。用事を済ませるよ」

 魔法紙を購入することが目的だったが、もう一つ重要な用件がある。

 俺はカウンターに近付き、指にはめていた指輪を外して小さなトレイに置いた。

「再チャージを頼むよ」

『ヨロコンデ』

 店主はトレイを持ってバックヤードへと消えていく。

 その間、俺はシエルと共に店内の商品を見て回ることにした。

「おっ! これはお買い得じゃないかな?」

 見つけたのは小瓶に入った赤色の液体だ。

 瓶の蓋部分に括り付けられたラベルには――

「……ロイヤルポーション?」

 と、書いてある。

「レア物だよ。ヘンゼルの気分が乗った時にしか作らない特製のポーションだ」

 この世界にはポーションと呼ばれる薬が存在する。

 ポーションを飲むと人体が活性化し、一時的に病気や怪我から命を守ってくれるのだ。

 片腕を失った冒険者や騎士がポーションを飲み続け、血を大量に流しながらも一命をとりとめた。致死率の高い流行り病に罹った貴族がポーションを飲み続けたことで完治した――なんて話をよく聞く。

 ポーションの効果は噂でも笑い話でもなく、本当に飲むことで襲い来る死から逃れることができるのだ。

 そして、目の前にあるロイヤルポーションは通常効果の三倍も効き目があるという代物。

 飲むことで腹に開いた穴もみるみる塞がって元通り……となるらしい。

 腹に穴が開いたことがないので試したことはないけどね。

「こんな小さな瓶一つで金貨三十枚もしますのね」

 確かに瓶の大きさは普通のポーションよりも小さい。サイズ的には半分くらいだ。

 具体的に言うと大人の人差し指くらいのサイズ。

 しかし、効果は絶大。

 むしろ、普通のポーションと同じ量を飲んだら逆に何か副作用が起きそうで怖い。

「金貨三十枚で命が助かるなら安いものじゃないか」

 そう言うと、彼女は「確かにそうですわね」と納得してくれた。

「お金を引き出してきたら買おうかな」

 組合で用事を済ませて、明日にまた買いに来よう。

『オワッタよ』

「ああ、ありがとう」

 戻った店主が持って来た指輪を再び指に通し、メンテナンス代として金貨五枚を渡す。

「欲しい物が見つかったから、あとでまた買いに来るよ」

『アア、来るといい、来るといい。クシシ!』

 笑う店主に見送られながら、俺達は向こう側へと戻って行った。
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