蒼の聖杯と英雄の足跡 ~自称実力そこそこな冒険者、聖杯を探す旅の途中で追放された元悪役令嬢を拾う~

とうもろこし

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1章 訳あり冒険者と追放令嬢

第21話 過去との対峙 2


「ハッ! やってみろやァッ!!」

 ガードナーが腰の手斧を抜くと、四人の部下達も同時に剣を抜いた。

「殺せェッ!!」

 奴の命令に従う部下達が剣を構えながら走り出す。

 対する俺も剣を抜くと、相手に向かって走り出した。

「オオオオッ!!」

 叫びながら先頭を走る男に注目するが――遅すぎる。

 非正規隊の一員だとしても剣の構えも雑だ。

 レギム王国騎士団の質が落ちたのか、それともこいつらが特別『落第生』なのか。

 どちらにせよ、剣の構えだけで正規の部隊に配属されていない理由がよくわかる。

「――ッ!」

 最初の一撃を躱し、体を入れて一人目をすり抜ける。

 続く二人目だが、隙間を縫うようにすり抜けた俺を目撃すると、ギョッとするような表情を見せて手が止まった。

 相手の剣はまだ上段にある。

「フッ!」

「ぎゃあ!?」

 隙だらけの首筋に剣を突き込む。

 相手の血飛沫が舞う中、俺は左手を伸ばして胸当ての縁に手を引っかける。

 強引に体を引っ張り込み、更に続く三人目の斬撃を躱す盾にした。

「この野郎ッ!」

 三人目は仲間の背中を斬ってしまい、肉盾を使った俺に対して怒りの声を上げた。

 自分達が行ってきた非道を棚に上げて怒りの声を上げるなど、心の底から呆れてしまう連中だ。

 内心ため息を漏らしながらも、肉盾として使った男を三人目の男に向かって蹴り飛ばす。

「うわっ!?」

 瀕死の仲間を受け止めた三人目はたたらを踏む。

「でやぁぁ!」

 機会を伺っていたであろう四人目は、ここぞとばかりに斬り込んでくるが……。

「――ッ!」

 やはり、遅すぎる。踏み込みも甘い。

 俺は体を前のめりにしながら懐へ飛び込み、四人目の腹に剣を突き刺した。

「このバケモンがよォッ!!」

 一部始終を見ていたガードナーが再び吼える。

 奴は持っていた手斧を掲げ、逆の手で俺を指差した。

 ――何かする。例の影か。

 違和感を感じ取ると同時に、吼えるガードナーの目が笑っていることにも気付く。

 ……なるほど。

 俺は相手の腹から剣を抜きながらも、指輪を刀身に擦り付けた。

 そして、紫電が迸る血濡れの剣を槍投げの如くガードナー目掛けてぶん投げる。

「チッ!」

 ガードナーは舌打ちを鳴らしつつ、迫る剣を大きく避けた。

 だが、それでいい。

 それを確認しつつも、間髪入れずに左手でナイフを抜く。

 バヂンと弾ける音を鳴らしたナイフを手の中で回転させつつ、背後へ振り返りながら投げた。

 ナイフが向かった先は、床に倒れていたシエルを狙う部下の一人。

 今にも彼女を人質に取ろうとしていた男の喉にナイフが突き刺さる。

「汚いお前達のやり方などお見通しだ」

 ガードナーを睨みつけながら言ってやると、向こうは奥歯を噛んで悔しがる表情を見せた。

 しかし、すぐに表情を改める。

「ハッ! 武器を投げ捨ててんのにか? 勝ち誇ってんじゃねえよッ! 馬鹿がよォッ!」

「馬鹿はお前だ」

 俺は左腕をガードナーに向かって伸ばす。

 奴は「何してんだ?」と言わんばかりの表情を見せるが、すぐに異変を察知して横へ飛ぶ。

 ガードナーの背後を強襲したのは剣だ。

 俺が投げた剣が紫電を纏いながら戻って来る。

「な、テ、テメェ! 魔剣か!?」

 正解は『紫電の指輪』という遺物の効果――紫電を纏わせた物を自在に操作する――だが、相手に教えてやる道理はない。

「キエエエッ!!」

 ガードナーと睨み合いを続けている俺に対し、生き残っていた部下が奇声を上げながら突っ込んで来る。

 ここがチャンス、と思ったらしい。

 だが、真横から飛んできた俺のナイフが首に突き刺さり、最後の一人が絶命した。

「…………」

「どうした? もう降参か? さっきの影を操る奇襲は使わないのか?」

 睨みつけながら挑発してやると、ガードナーは奥歯をギリリッと噛む。

「何見下してやがるッ! 俺を見下してんじゃねえッ!!」

 目を血走らせながら吼えたガードナーは、懐から何かを取り出した。

「目に物見せてやるッ! 泣き叫びながら死にやがれッ!」

 奴は取り出した小さな球体――飴のような物を口の中に放り込む。

 乱暴にガリガリと嚙み砕いて飲み込むと、奴の目が真っ赤になっていく。

「殺せェェッ!!」

 再び叫んだ瞬間、右手側から殺気が放たれた。

 横目で確認すると、先ほど殺したばかりの、首にナイフが突き刺さったままの部下が立ち上がっている。
 
 死んだはずの男は糸で操られる人形のような動きを見せ、その背後には濃く黒い影が纏わりついているのが分かった。

「…………」

 影に操られているのか? 操られている死体を両断すれば無力化できるか?

 対策を考えていると、背後からゾッとするような気配を感じた。

「くっ」

 咄嗟に前へ飛び込み、ゴロンと床を転がる。

 慌てて背後を見ると、シエルを襲った針を持つ影が俺を狙っていた。

「ヒャハハッ!! 俺の影は一つだけじゃないぜェ!!」

 宣言通り、殺した部下達が影に操られて続々と立ち上がる。

 人数差を失くしたかと思いきや、振り出しに戻ってしまった。

「実にお前らしい戦い方だ。一人じゃ何もできず、群れなきゃ何もできないクズめ」

「ハッ! 負け惜しみか? 死ぬ前の言葉はそれだけでいいのかよ?」

「いいや、死ぬのはお前だ」

 人数差があろうと、奴が影を操ろうと、突破方法は初めから変わらない。

「お前を殺せば全て解決する」

 剣を握り直し、ガードナーに向かって走り出した。

「なッ!?」

 全力で突撃し、一気に間合いを詰める。

 剣をコンパクトに振ると、俺の接近を恐れたガードナーは後ろへ飛ぶ。

 その間、影による奇襲や支援は無し。

 ――やはりな。

「お前は影を操る際、指示を出さねばならないのだろう? あるいは目線による攻撃指示が必要か?」

「…………!」

 図星だ。

 奴の表情が物語っている。

「お前は三流だ」

 実力不足で騎士として認められない。

 かといって努力もせず、他人の力を妬むだけ。

 努力もせず、同じ者同士で群れて弱者を虐げて悦に浸るクズ。

 それがガードナーという男。

「極めつけは有能な指揮官気取り。お前は他人を操る器ではない」

 そんな男が指揮官になどなれるはずもない。
 
 これまで上手くやってこれたのは、部下がある程度自身の考えで動く人間だったからだ。

 百パーセント、一から十まで全て指示せねば動かない影など上手く操れるはずがない。謎の能力を持とうが、それを活かせるはずがない。

「恐ろしい能力を得ようとも、能力を扱うやつが雑魚なら意味がないな」

「テ、テメェ!」

 ――ガードナーの眼球が動いた。

 右だ。

 ガードナーの腹を蹴飛ばし、直後に剣を横へ振る。

 振った剣が斬り裂いたのは針を持つ影だった。

 剣で斬り裂かれた影は霧散し、地面の中へ吸い込まれるように消えていく。

 再びガードナーに視線を向けると、今度は手斧を横へ振った。

 来る。

 左手でナイフを二本取り、背後に向かって投擲する。

 一本は影に操られた部下の頭部に刺さり、二本目は二体目に向かって伸びていくが剣で弾かれてしまう。

「…………」

 だが、左手を伸ばすと、弾かれたナイフが空中で向きを変える。

 そのまま影を追尾し始めて、死体を操っている影に突き刺さった。

「影を全て操れない。それがお前の限界だ」

 しかも、操る際に見せる動作が分かり易い。

「影は一度壊せば使い物にならなくなるのか? それとも再び操るには時間が必要か?」

 加えて、能力にも制限がありそうだ。

 影による奇襲という最高の手札を活かしきれない。弱点を補う使い方すらできていない。

「やはり、お前は三流だ」 

 再び評価を口にすると、俺は剣を構えて間合いを詰めた。

 相手が手斧で剣を受け止めようとするのを見越して、初手は中段からの軽い一撃で釣る。

「ぐっ!」

 予想は的中。

 相手の手斧にカンと軽く当ててから、剣を引いて軽く突きを見舞う。

 剣は相手の肩口を斬り裂いた。

 すぐに剣を引き、今度は横にステップしてから側面を狙った中段横斬り。

「クソッ!」

 無理な態勢で剣を防御したせいか、ガードナーの体が後ろに流れた。

 今度は上段に構え、力を込めた一撃を落とす。

「クソォッ!」

 振り下ろした剣は手斧で受け止められるも、力比べは俺の方が強い。

 押し込む剣の刃が徐々にヤツの首元に近付いていく。

 両手を使って剣を押し返そうとするガードナーの顔は、目と同じく赤く染まりかけていた。

「俺が、俺が! お前を殺す――」

 ガードナーの眼球が動く。

 そう察知した俺は、相手の顔面に頭突きをかました。

「ぶはっ!?」

 たたらを踏んだガードナーは片手で鼻を押さえて俺を睨みつけた。

 鼻を粉砕してやった直後も容赦はしない。

 再び間合いを詰め、上段から剣を振り下ろす。

 ガードナーは次も手斧で受け止めようとしたが、剣と手斧が当たった瞬間に俺は勝ちを確信する。

 全力で振り下ろした剣は手斧を粉砕し、同時にガードナーの片腕を斬り落とした。

「ぎゃああああ!!」

 絶叫したガードナーは両膝を地面につき、失った腕の断面から吹き出る血を止めようと必死になる。

 しかし、俺は奴の胸を蹴飛ばして地面に押し倒した。

 剣を逆手に持ち、剣先を首に当てる。

 すると、ガードナーは――

「ひ、ひひ! 俺を殺すのか!? もう殺したくないだとか、クソみたいなことを言って逃げ出したくせに!」

 恐怖と負け惜しみ。

 その両方が感じ取れる表情と声音を露わにしながら言葉を続ける。

「お、お前は何も変わっちゃいない! 敵国に恐れられ! 獣と! 悪魔と恐れられたあの頃から! 名前を変えようが、お前は何も変わっちゃいないんだ!」

 俺は戦争で敵を屠る際、常に罪悪感を感じていた。本当は殺したくないと思っていた。

 しかし、俺は俺の家族を守るために。家族を守ってくれる国のためにと言い訳して殺しを続けていたんだ。

 たった唯一の家族。弟のためだと歯を食いしばりながら、両手を血で染め続けてきた。 

 だが、それももう終わった。

「いいや、変わったさ」

 あの日、真実を知ってから。

「あの頃と違って、お前のような悪人を殺すことに罪悪感は感じなくなった」

 獣でも悪魔でも、何とでも呼ぶがいい。

「や、やめ――」

 ガードナーの首に剣を突き刺した。

「…………」

 深く、深く突き刺して剣を抜く。
 
 血濡れた剣を払うと、背後から操られていた部下達の死体が再び地面へ沈む音が聞こえた。

 同時にガードナーの体に変化が起きる。

 奴の死体が灰に変わったのだ。

 まさかと思い操られていた部下達の死体に顔を向けると、彼らもまた灰に変わってしまう。

「なんだ、これは……」

 思い当たるのは……。奴が口にした飴みたいな物体だろうか? あれを飲み込んだせいでこうなった?

 影を操る能力をどうやって得たのかも気になる。あれは遺物による効果だったのだろうか?

「……王国はどうなっているんだ?」

 再び侵略を開始する、という王国の噂とガードナーの見せた力は何か関係性があるのだろうか?

 謎は深まるばかりだ。

「いや、それどころじゃない!」

 我に返った俺は、慌ててシエルに駆け寄っていった。
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