蒼の聖杯と英雄の足跡 ~自称実力そこそこな冒険者、聖杯を探す旅の途中で追放された元悪役令嬢を拾う~

とうもろこし

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1章 訳あり冒険者と追放令嬢

第23話 冒険者ルークの過去


 俺の本名はレオン。

 レギム王国王都に住む平民家庭の長男として生まれた。

 家族構成は四人家族。

 俺には十歳下の弟がいたのだが、弟――リオンは生まれつき体の弱い子だった。

 外で走り回りながら遊ぶ俺とは違い、弟は幼少期の頃から病と闘いながら生きる子供だったのだ。

「俺の父は騎士でね。家族を養うため必死に働いていたよ」

 母も家を空けがちな父に代わり、俺達兄弟を守ろうと懸命に生きていた。

「俺の人生が一変したのは十五歳になった頃だ」

 レギム王国が隣国と戦争を続けている最中、騎士が家にやって来て『お父上は戦死なされた』と告知されたのだ。

 ……母が玄関で泣き崩れた姿は、未だに俺の脳裏に焼き付いている。

 こうして一家の大黒柱を失った俺達家族だが、不幸はまだまだ続く。

 翌年、レギム王国内で流行り病が蔓延したのだ。

 母と弟は流行り病に罹ってしまい、結果――母は病で死んでしまった。

「俺と弟は両親を失ってしまった。二人っきりになってしまったんだ」

 病弱だった弟の体は更に悪くなり、遂にはベッドから一歩も動けない体になってしまった。

 だからといって、俺は弟を見捨てることなどできない。

 たった一人の家族なのだから。

 両親を失った直後、俺は決意した。

 下働きとして勤めていた商会の配達係を辞め、父と同じレギム王国騎士団に入団することにした。

「……家族を養うために騎士団へ?」

「ああ。あの時はそれしか選択肢が無かった」

 生前の父は家に帰って来る度に「騎士にはなるな」と言っていたが、もはや騎士となって剣を振るう以外に道は無かった。

 弟を養うために金が必要だったし、騎士になって成り上がれば弟に最先端の医療を受けさせてやれると考えたからだ。

「父が『騎士にはなるな』と言っていた理由を後に知ることになるんだが、この時の俺はとにかく必死だったよ」

 ――レギム王国騎士団に入るためには試験を受けなければならない。

 試験を受け、適正や見込みがあれば騎士見習いとして認められ、騎士団の下部組織である『兵士隊』に配属される。

 実力不足であれば入団を拒否されるか、あるいは雑用係としてこき使われることになる。

 だが、俺は試験の最中に認められた。

 俺を「なかなかやるな」と褒めてくれて、直接スカウトしてくれたのはレギム王国騎士団長であるヘイズ・シュナイダーだった。

「当時は嬉しかったよ。騎士団長から直接声を掛けられたんだからね」

 騎士団長ヘイズに認められた俺は飛び級で騎士団配属となり、国内の治安を維持する『第二十六部隊』へ新米騎士として入隊。

 そこで魔物や野盗を相手に戦い、たまに目をかけてくれる騎士団長ヘイズからの稽古を受けて。

 俺は着実に腕を磨いていった。

 同時に下働き時代よりも多くの給料を得られたことにより、弟の薬を十分に購入し続けることも可能となっていた。

「正直、俺には才能があったんだと思う」

 当時はとにかく弟のために早く出世したいと思い、必死になって戦っていたこともあるが……。

 しかし、ここで言う才能とは『殺し』の才能だ。

 今思えば全く誇らしくもない才能である。

「二年ほど治安維持部隊で活動したあと、俺は再び騎士団長に声を掛けられたんだ」

 戦績優秀、実力十分と判断された俺はヘイズの命を受けて、騎士団の中でも上位部隊である『第三部隊』へと転属になる。

 騎士団の中で『上位部隊』と呼ばれる第一~第十部隊は対外国からの国防を担いつつ、侵略戦争時の要として考えられる部隊だ。

「簡単に言えば出世だ。上位部隊に配属となった騎士は、レギム王国騎士団の中でも一目置かれる存在なんだよ」

 軍部からも重要な戦力の一人としてカウントされることにより、上位部隊に配属された騎士には通常の騎士よりも多くの給料が支払われる。

 更には戦争で戦果を挙げれば給料とは別の報酬を要求することも可能となるのだ。

「当時の俺は『ついに来た』と思ったね。戦争で戦果を挙げれば弟に最新医療を受けさせられるって思っていた」

 ただ、レギム王国が行う戦争は悲惨だ。

 こちら側が相手国を侵略するのだ。

 こちら側が相手国を踏みにじっていくのである。

「最初の戦いは相当堪えた。相手は侵略されまいと必死だ。必死の形相で俺達に向かって来るんだよ」

 相手の心境からすれば、侵略してくるレギム王国は敵以外の何者でもない。

 故郷の大地を穢し、歴史を破壊し、街を蹂躙し、家で待つ家族に剣を向ける蛮族以外に他ならない。

「……俺は甘かった。侵略戦争とはどういうことなのか、レギム王国が外からどう見られているのかを理解していなかった」

 戦場で対峙した相手の必死な形相、片腕を失くしながらも組み付いてくる時の顔、相手を圧倒した際に見せる命乞いの表情。

 泣きながら「家族だけは見逃してくれ」という必死の懇願。

 あの時見た全てが未だ俺の中にある。焼き付くどころか、呪いのように圧し掛かってくる。

「だけどね、俺は耐えたよ」

 だが、俺は立ち止まるわけにはいかなかった。

 相手が必死なように、俺も必死だったから。

 薬を飲まなければ死んでしまう弟のために。たった一人の家族を救うために。

 独りぼっちになってしまわないために。

「俺は彼らを踏み台にし続けたんだ。生贄に捧げるかの如く、他人の命を奪って弟を救おうと……」

 俺は両手で顔を覆いながらも言葉を続けた。

「歯を食いしばって戦い続けたんだ……」

 結果、俺の念願は叶った。

 戦果を挙げた俺は騎士団長から王の前で称えられ、特別な報酬と授けて欲しいと言ってくれたのだ。

 彼が王へ願ってくれたおかげで、この日から俺の弟は王立医療院へ入院することとなった。

 ようやく、ようやく俺の弟が救われる日が来たのだ。

 だが、この日に行われた謁見はそれだけで終わらない。

 加えて、ヘイズは王へこうも言った。

『彼は私の跡を継ぐ騎士となるでしょう』

 彼の宣言後、俺は上位部隊の中でも特別な『第一部隊』へ転属となる。

 猛者達の集う部隊に配属となり、俺は次なる侵略戦争へ投入されていくこととなった。

「第一部隊に配属されて二年後、俺は副隊長にまで上り詰めた」

 そこだけ見れば順調な人生、出世街道を行く人生だと思えるだろう。

 だが、結局は他人と他国を侵略している事実には変わりない。

 他人の命を奪うことで利を得ていることには変わりないのだ。

「だけど、俺は『弟のため』『弟の病気を治してくれる国のため』という理由で顔を背け続けていたんだ……」

 戦う度に苦しかった。

 何度も「これでいいのか?」と自分に問いかけ続けた。

 だが、医療院に入院させることができた弟に会いに行く度――

『兄さん、僕のためにありがとう』

 そう言って笑う弟の笑顔が忘れられない。この笑顔を失いたくない。

 俺が「苦しいから」と除隊すれば、弟は治療を受けられなくなってしまう。

「……これで良いのだと自分を無理矢理納得させ続けた」

 本当は「よくないこと」と理解しておきながら。

「ただ、それからしばらくして……。医療院にいる弟の容体が悪化したと報告を受けたんだ」

 医者からは面会謝絶だと言われるほど悪化し、ガラス窓越しにベッドで眠る弟の姿を見ることしかできなくなってしまった。

 その後も度々医療院を訪れるも、毎回面会は断られてしまう。

 終いには窓ガラス越しに姿を見ることさえ断られてしまった。

 それを経験したせいか、俺は余計に「もっと、もっと」と焦るようになっていく。

「ただ、ある日……。俺の中に疑惑が生まれる日が訪れたんだ」

 それは俺が二十四歳になった頃。

 第一部隊の隊長に就任して初めての戦争だった。

 その日は隣国との戦争に参加し、戦場で勝利して、占領した街で休憩がてら散策していると――レギム王国騎士団の軽装を身に纏う集団が街の人々から略奪行為を行っていた。
 
「その略奪行為を行っていたのがガードナーだ」

 この日までレギム王国騎士団は略奪行為などしていなかった……と思う。

 単に俺が今まで目撃してこなかったのか、あるいはそういった場面を見せないよう遠ざけられてきたのか。

 どちらかは不明であるが、略奪行為を目撃した俺はガードナー達を叱り飛ばした。

「当然、彼が奪った金品は住民に返したよ」

 加えて、王都に戻った際は騎士団長にも事情を説明。

 ガードナー達を罰するよう求めたが……。

「彼らは罰を受けることはなかった。それどころか、次の戦場ではガードナー達に加担して略奪する騎士が増えたんだ」

 このあたりから俺は「何かおかしい」と感じ始めた。

 違和感の正体は不明だが「何かが変わった」と組織全体に感じたのだと思う。

「その後、略奪行為だけでは収まらなくなっていった。組織の下位にいる騎士隊が虐殺行為も行うようになってきたんだ」

 見過ごせなかった俺は誰の命でやっているのか、と問うた。

 すると、騎士達は「上からの命令」と言うではないか。

「そういった変化を感じたこともあってか、俺の中にあった疑惑と苦痛が爆発してね。騎士団にいることが苦しくてたまらなくなってしまったんだ」

 先に語った通り、俺が除隊すれば弟は治療を受けられなくなってしまう。

 だが、この頃になると少し事情も変わりつつあった。 

「この頃は結構金も貯まっていてね。医療院にいる弟を連れて、平和な国へ移住することも考えたんだ」

 レギム王国は戦争に明け暮れる国だ。

 いつかしっぺ返しが来るのではないか? という恐怖も抱きつつあった。

「弟ともしばらく会えていなかったから……。俺は王都に戻って弟へ会いに行ったんだ」

 弟に会って相談しよう。

 南では薬学技術の成長が著しく、新しい薬も開発されたという話も聞こえてくる。国を出て、平和な国に移住してゆっくり治療するのはどうだ? とね。

「だけど……」

「だけど?」

「……弟は死んでいたんだよ」

「え?」

「俺の弟は、とっくの昔に死んでいたんだ……」

 王都に戻った俺は医療院に向かい、医者に弟と会いたい旨を告げた。

 しかし、医者は頑なに面会をさせてくれない。

 それどころか、彼の顔には焦りの色さえ感じられた。

 不審に思った俺は強行突破し、弟の病室へ急いだ。

 しかし、そこに弟の姿は無かったのだ。

「医者を問い詰めたら……。既に死んでいたことを白状したよ」

 死んだのは医者から面会謝絶を言い渡されてからしばらく経った頃。

 医療院へ行く度に面会を断られていたが、これは弟の死を隠すためだったのだ。

「弟の死体は勝手に燃やされ、墓地に撒かれてしまった」

 大事な弟の死に目にも会えず、最後に手を握ることも、言葉すら交わすことさえできなかった。

 しかも、最悪なことに弟の遺骨は雑に墓地へ撒かれてしまったのだ。

 墓すら建ててもらえなかった。

「俺は怒り狂ったよ。医者を問い詰め、どうしてだと何度も聞いた」

 すると、衝撃の事実が告げられる。

「……弟の治療を止めること、死亡した事実を黙っておくように命令したのは騎士団長であるヘイズだったんだ」

「嘘でしょう……?」

 嘘じゃない。

 事実、俺は医療院を飛び出してヘイズの元へ向かった。

 奴を問い詰めると……。

 あいつは、悪びれもせずに言ったんだ。

『あの弟はお前の弱点だった。弱点がある限り、お前は真のレギム王国騎士にはなれない』

 とね。

「意味が分からなかったよ。どうしてだ、と何度も聞いたよ」

 目をかけてくれて、恩人だと思っていた。

 新米の頃から稽古をつけてくれたし、飯や酒の場に連れてってくれた。

 何度も「お前には素質がある。お前は強くなる」と励ましてくれた。

「なのに、奴は……!」

『これで心置きなく戦えるではないか』

『これから国は大きくなる。陛下の念願を叶えるため、我々はもっと強くならなければならない。弟のために心を痛めながら戦うお前は相応しくないと判断される日が来るだろう』

『そうなる前に処置してやった』

『散々世話してやっただろう? 今度は国のために戦え。私の恩へ報いるために戦え。どうだ? これなら戦えるか?』

 奴は王の抱く欲のため、最強の騎士団を構築するという自身の理想のため、俺の弟を殺した。

 死を隠蔽し、弟のために戦う俺を利用し続けたのだ。

「……俺には何も無くなってしまった」

 家族を失った俺には戦う理由が無くなってしまった。

 残ったのは血に塗れた全身と後悔。

 侵略に加担し、他人を殺したという罪だけだ。

「ただ、俺は最悪の中で思いついたんだ」

 後悔と罪の意識、そして弟のことを想う過程で一つの選択肢を見出した。

「蒼の聖杯だ」

 伝説の聖杯。

 所持者の願いを叶えてくれる遺物を手に入れること。

「蒼の聖杯を手に入れて、弟と自分が戦争で殺した人々を生き返らせよう……とね」

 自分の罪を償うために願いを叶えること。

「……蒼の聖杯を探しているのは、そのような理由があったのですね」

 シエルは少しだけ俯いたあと、言葉を続ける。

「しかし、前にも聞きましたが……。本当に聖杯は存在しますの?」

「ああ、存在するとも。これがその理由だよ」

 俺は首に掛けている紐を辿り、胸元から『金属の鍵』を取り出す。

「これは聖杯が安置される聖域を開く鍵だ」

「聖域を開く鍵?」

 そんなものをどこで、と彼女は小さく問う。

「蒼の聖杯を語る伝説――英雄譚、英雄ポアンの旅路ってどこが発祥だか知ってる?」

「え? いえ、分かりませんけど……」

「英雄譚の発祥はレギム王国の北部なんだ」

 蒼の聖杯が最初に発見されたのはレギム王国北部の土地。

 発見当時はレギム王国の前身である国が存在しており、その国に所属していた騎士――後に英雄と語り継がれる『ポアン』が聖杯を発見する。

 聖杯を得たポアンは強さを求めた。

 国を侵略してくる敵国を退け、民の生活を脅かす魔物を屠り――聖杯は彼を英雄へと至らせたのだ。

「後に英雄ポアンは聖杯を隠す旅に出るんだ」

 これが英雄譚の始まり。

 どうして聖杯を隠そうとしたのかは不明であるが、彼は聖杯を『聖域』と呼ばれる場所に隠すことにしたとは言い伝えられている。

 彼は聖杯の隠し場所を探しながらも、大陸各地で人助けを行いながら旅を続けた。

 そして旅立ちから数年後、ポアンは一本の鍵と共に再び故郷に戻って来ることとなる。

「ただ、その頃に国を二分する内乱が起きたらしくてね。歳をとっていたポアンは殺されてしまうんだ」

 内乱の中で英雄ポアンは死亡してしまうが、鍵を託されたのが現在のレギム王国王家の祖先にあたる人物だった。

 後に王となる男は内乱を制し、レギム王国という新しい国を建国。

 建国後、託された鍵を宝物庫へ仕舞い込んだ――という話だ。

 この『英雄ポアン伝説』については、レギム王国に住む人なら誰でも知っているだろう。

 ただ、鍵が本当に存在していたという事実を、鍵や聖杯が実在していると信じている人はほとんどいない。

 現に俺も真実を知るまでは「ただの英雄譚」「御伽噺みたいなもんだろう」くらいの感想しか抱いていなかった。

「鍵の存在は治安維持部隊の頃に聞かされていたんだ。まぁ、当時は本当だと思っていなかったけどね」

 元々英雄ポアンの伝説については知っていたが、鍵の存在については治安維持部隊所属時の先輩騎士から聞かされていた。

 先輩騎士の兄は宝物庫の警備を担当していたようで、弟である彼に「伝説の鍵は本当に存在しているんだ!」と酔う度に漏らしていたらしい。

 そして、酔っ払い兄貴の話をこれまた酔っ払った弟から聞かされたわけだが、当然ながら当時の俺は信じてなかった。

「全てを失った人間は何をするか分からない、なんてよく聞くけどね。本当にそうだと思うよ」

 実際、本当に存在するかどうか分からない「鍵」を盗んでやろう、なんて思ったんだから。

「ただ、思いの外上手くいってしまってね」

 宝物庫の中に入るのは簡単だった。

 まだヘイズとのいざこざは王城にまで届いておらず、第一部隊隊長の役職を得ていた俺は信頼されていたからね。

 悠々と宝物庫に入り込み、聖域を開けるための鍵を探した。

「最初はちょっと疑っていたよ。感情に任せて行動しているとも自覚していた。だけどね、本当にあったんだよ」

 事実、鍵はあった。

 厳重に保護されていたが、力任せにぶち破って鍵を盗むことに成功した。

「力任せにって……」

「物理的な保護と魔法的な保護が二重で掛かっていたけどね。騎士団で培った知識を存分に発揮させてもらったよ」

 鍵を奪った俺は即座に王都を脱出。

 その後、追跡を躱しながら国をも脱出した。

「その後は知っての通りさ。名前を捨て、冒険者となり、各地で蒼の聖杯に関する情報を集めながら旅を続けているんだ」

 死んだ弟を生き返らせるため。殺した人々を生き返らせるため。

 俺は贖罪のために蒼の聖杯を求め、旅を続けている。

「その過程で私を助けた、ということですわね?」

「ああ」

「……もしかして、私を助けたのも罪の意識からですの?」

 そう問われて、俺は言葉に詰まってしまう。

 しかし、白状することにした。

「そう、だね……。君を助ければ自分の罪が少しでも軽くなるって考えもあったよ」

 人助けすれば過去に犯した罪が軽くなる。少しでも贖罪になる。
 
 なんて、未だ俺は甘い考えを持っている愚か者だ。

 彼女を助けて以降、偉そうに色々と言ってきたが……。

 この口から出た偉そうな言葉は、無意識に自身へ言い聞かせるために発していたのかもしれない。

 結局のところ、俺は『侵略に加担し、罪もない人々を殺した殺戮者』なのだ。

「ふぅん、そう。なら、私は幸運でしたわね」

「え?」

 しかし、彼女の口から飛び出たのは予想に反する言葉だった。

「貴方と貴方の弟さんには申し訳ないけども、貴方が罪の意識を持っていなければ私は助かっていなかったはずですわ。貴方が贖罪の旅に出たからこそ、こうして今一緒にいるのでしょう?」

 そう言ったシエルはニヤリと笑う。

「貴方は私に教えを説くことで罪を軽くできる。私は貴方から冒険者として生き方を学び、目的を果たすことができる」

 お互いに得しかありませんわね、と彼女は言った。

「……いいのかい? 俺と一緒いたらまた巻き込まれるかもしれないよ?」

「だとしても、ここで放り出される方が嫌ですわ。一人で冒険者稼業を続けるにはまだ知識もお金も足りませんもの」

 彼女は立ち上がると、腰に手を当ててフフンと鼻を鳴らす。

「最後まで面倒見てもらいますわ。私が一攫千金の夢を掴むまでね」

 ……もうちょっと責められるかと思ったが、彼女らしい答えだとも思った。

「それに……。独りぼっちは寂しいわ」

 小さな呟きを聞き逃さなかったが、すぐに彼女は首をブンブンと振って俺を指差す。

「ええと、その、とにかく! お互いに野望を叶えましょう!」

 彼女は少し頬を赤らめながら言い直した。

「そうか。そうだね」

 確かに独りぼっちは寂しい。

 理由を知っても尚、一緒にいてくれる彼女の存在は――正直、ありがたかった。

「シエル、改めてよろしく」

「ええ」

 俺達は握手を交わす。

「よろしくお願いしますわね、冒険者

 今日ここで、俺達は正真正銘の仲間となったのだ。

 拾った者と拾われた者という関係ではなく、お互いの野望を叶えるため、共に旅を続ける仲間となったのだ。

 そう思える握手だった。
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