蒼の聖杯と英雄の足跡 ~自称実力そこそこな冒険者、聖杯を探す旅の途中で追放された元悪役令嬢を拾う~

とうもろこし

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2章

第27話 旅の楽しみ


 越境した俺達は、すぐ近くにある街へと移動した。

「大きな街ですわね。人もたくさん」

 街の大きさはトーワ王国南部にあった街と同等くらい。

 事前に収集した情報によると、この街の人口はヴェルリ王国の中でも五番目にあたる規模らしい。

 それほど人口が多くないはずなのに、街の活気は王都を彷彿させるほど。

 ただ、これは国境に近いからに違いない。

 両国を行き来する人間が多い分、数字以上に街が賑わっているのだろう。

「初めての越境ということで期待はしておりましたが、思いの外……。トーワ王国と変わりませんわね?」

 キョロキョロと周囲を見やるシエルが口にした通り、家屋や商店の建築様式はトーワ王国と然程変わらない。

 レンガ造りをメインとしつつ、たまに木造で年季の入った建物が見られるくらいだ。

 街の通りで営業する露店にもトーワ王国製の製品を販売する店が多い。

「まぁ、この地域は元々トーワ王国人と同じルーツを持つ民族が住んでいた土地だからね」

 建築様式や生活スタイルが似ているのは、地域住民の祖先がトーワ王国人と同じだからだ。

 かつて、トーワ王国とこの土地に住む人間は「コスカ族」と呼ばれる民族だったという。

 コスカ族の人口が増えていくと、トーワ王国の前身国にあたる「コスカ王国」が建国されるが、建国から数十年経った際に事件が起きた。

「ああ、コスカ川の氾濫ですわね」

「そうそう」

 現在、国境の役割も果たしているコスカ川――現在はヴェルリ大川と呼ばれている――が大氾濫を起こし、コスカ王国が二分されてしまったのだ。

 この時、コスカ王国でひと悶着あったらしく、川の向こう側――現在地に住むコスカ人達は祖国に見捨てられる形となってしまったようだ。

 見捨てられたコスカ人達は南東に住んでいた別の民族、ヴェルリ王国の祖にあたるヴェルリ民族に助けられた。
 
 恩を感じたコスカ人達はヴェルリ民族の一員となり、やがて共にヴェルリ王国の一員になる……のだが。

「未だに土地について揉めてますものね」

 トーワ王国とヴェルリ王国は敵対関係にあらず、友好的な交流を続ける国同士であるものの、未だに解決されていない問題が一つある。

 それが、現在地となっている土地の所有権だ。

「元々はコスカ人の土地だったけど、見捨てられた土地。ヴェルリ人に助けてもらった人達が勝手にヴェルリ王国へ組み込んだ……って話だったよね?」

「ええ。トーワ王国側は元々は自分達の土地と主張し、ヴェルリ王国側は見捨てたじゃないかと主張しているわけですわね」

 未だ解決していない問題だが、戦争に発展しないのは幸いなんだろうな。

「ただ、私の予想ではもっとヴェルリ民族文化に染まっているものかと」

 土地の所有権で揉めているとしても、ここに住む人達は『ヴェルリ王国人』という認識を持っているだろう。

「コスカ人の文化を尊重しているんじゃないかな? コスカ人の系譜も多く住んでいるんだろうし」

 その証拠に建築様式だけじゃなく、食文化も当時のコスカ人が残した物が多くみられる。

 それは酪農だ。

「チーズ工房が多いのも、この街の特徴だね」

 トーワ王国の名物は羊肉であったが、こちらは牛を飼育することが主流となっている。

 そのため街のメインストリートを進んで行くと、中央に近付くにつれてチーズを売る店が多くなっていく。

 中央区から西側には多くのチーズ工房が並び、色んな種類のチーズが生産されているのだ。

 ここで生産されたチーズはヴェルリ王国国内だけじゃなく、国外にも輸出される特産品の一つとなっているという。

「今日はチーズ料理を堪能したいですわ」

「もちろん」

 だが、その前に周辺状況の情報収集を行いたい。

「まずは冒険者組合に行こう。換金もしたいし」

「ええ」

 というわけで、まずは冒険者組合へと向かうことになった。

 ――街の人に聞いてみると、この街の冒険者組合は北側にあるようだ。

 それらしい建物はすぐに見つかる。

 続々と冒険者達が建物の中に吸い込まれていくからね。

 たぶん、彼らも俺達と同じ目的だろう。

 そんなことを考えながら建物内に足を踏み入れると……。

「混んでるね」

 特に『換金窓口』という札が天井から吊り下がった窓口は長蛇の列だった。

 逆に他の窓口はガラガラである。

「この街に定住する冒険者は少ないのかしら?」

「どうだろう」

 換金する前にガラガラの窓口で情報を得ることにした。

 俺達は暇そうに頬杖をつく受付嬢へと近付いて声を掛ける。

「すまない、ヴェルリ王国に入国したばかりなんだが」

「ああ、国内状況? 何が知りたいの?」

 やる気が見られない受付嬢は、少し乱暴な口調で応えはじめる。

「王都に向かいたいんだが、道中の情報はあるかな?」

「王都に行くなら乗り合い馬車を使って一気に向かった方がいいわよ」

「一気に? 歩き旅は難しいのか?」

 何か凶悪な魔物でも出没するのか? あるいは、歩きでは難しい問題が起きているのだろうか?

「いいえ。単につまらないから」

 受付嬢は「フンッ」と鼻を鳴らしながら意外な答えを口にした。

「は?」

「あのね、この街から王都までずぅぅぅぅっと平和なの。長閑な道が続くだけ。魔物もユニコーンラビットとハリガネモグラが出るくらいよ」

 ユニコーンラビットとは、額に一本の角が生えた大人しいウサギである。

 ハリガネモグラは大半の人生を土の中で生き、たまに土から顔を出して野菜を食べるくらいの脅威しかない。

「他は牛を育てる牧場と畑が点在するだけ。超絶平和だけど、他に楽しむものが何一つない。それがこの土地の特徴よ」

 魔物被害に苦しむ地域に住む人達からすれば「なんて素晴らしい土地だ!」と叫ぶだろう。

 しかし、平和慣れした地元住民からすれば「スリルが足りねえ!」となるらしい。

 実際、平和なこともあって定住する冒険者の数は十人にも満たず、若くて将来有望な冒険者達は国内の東か南を目指すことが当たり前となっているようだ。

「魔物肉は食べないのかい?」

「魔物よりも牛の方が多いからね。魔物肉なんて、もっと東か南に行かないと食べないわよ」

 なるほど。

 となると、今夜は牛肉料理か。

 食堂の主力メニューになる食材について考えていると、隣にいたシエルの腹から「ぐう」という音が聞こえてきた。

「歩くだけ時間の無駄ってこと。一気に王都まで行ってしまった方が何かと便利よ」

 加えて、街の南側には大きな乗り合い馬車の停留所があるという。

 単に乗り合い馬車を運営する商会だけじゃなく、トーワ王国南部とヴェルリ王国王都を行き来する商人が護衛と荷下ろし人の募集を行う場所ともなっているとのこと。

 そのおかげか、とにかく王都行きの馬車を探すのが楽なようだ。

「だから、隣が繁盛してるのよ」

 受付嬢は親指で換金窓口を指す。

 逆にだからこっちは暇なんだ、と。

「まぁ、楽してお金稼げるからいいんだけどね」

「そうか……。遺物について情報はあるかな?」

 続けて遺物の情報を求めると、受付嬢は「はぁ?」と呆れるような声を出した。

「遺物の情報なんて入って来ないわよ。それこそ、王都に行った方が詳しく聞けるわね」

 あまり期待はしていなかったが、そうなるか。

「ふわ~。やんなっちゃう。遺跡の一つでも見つかれば楽しくなりそうなのにね」

 受付嬢は大きなあくびをして、怠そうな目からは「もう終わりでいい?」と言わんばかりの雰囲気が感じられた。

「最後に一ついいかな?」

「なに?」

「街でオススメの食堂は?」

「モーデン&ロッティア」

 即答だった。

「ステーキセットがオススメ。別皿で溶かしチーズを頼むといいわ」

 ステーキセットに含まれるパンでチーズをすくいながら食べるのが最高、と。

「分かった。ありがとう」

 俺達は窓口を後にすると、次は換金窓口の列に並び始めた。

「……早く換金したいですわ」

「ああ」

 もう俺達の頭の中はステーキとチーズのことでいっぱいだ。


 ◇ ◇


 換金に三十分以上を費やした俺達だが、早速受付嬢に教えてもらった店を探して入店した。

 もちろん、頼んだのはステーキセットと溶かしチーズ。

 ついでにヴェルリ王国産のワインも一本。

「お待たせしました~!」

「おほっ! 美味しそうですわ!」

 シエルが声を上げるのも無理はない。

 アツアツの鉄板に乗った牛肉ステーキはジュウジュウと音を立て、ちょこんと乗せられたバターは半溶け状態。

 付け合わせは蒸かしたジャガイモと焼いたニンジン。

 続けて、バスケットに入った丸いライ麦パンもテーブルに置かれた。

 パンも焼きたてみたいだ。

「こっちが溶かしチーズでーす」

 そして、別皿に盛られたのはトロトロに溶けたチーズである。

「た、食べますわよ!」

 我慢できなくなったのか、シエルはバスケットの中にあったパンを掴む。

 彼女はパンを千切ると、溶けたチーズにダイブさせた。

「おっほっ!」

 チーズがにゅい~んと伸びる。

 存分にチーズをすくい取ると、彼女はパクリと口の中に入れた。

「アツゥ!!」

 滅茶苦茶熱かったらしい。

 だが、口をはふはふとさせながらチーズとパンを堪能する彼女の瞳は光輝いていた。

「俺は肉から行こうかな」

 ジュウジュウと美味そうな音を奏でる肉にナイフを入れ、一口サイズにカットしてからパクリ。

「美味い!」

 肉厚な牛肉は噛む度に肉汁が溢れ出る。味付けは塩ベースのシンプルなものだが、逆にこれが丁度良い。

 肉の熱で半溶けなバターを付着させて食べるのも良し!

「これはこれは……。たまらん!」

 平和な土地、美味しい肉料理。

 最高じゃないか。

「ふぅむ……。ワインもなかなか」

 気付けば対面に座るシエルがワインソムリエになっていた。

 香りと味わいを堪能していたかと思いきや、一気飲み始めたけども。

「酔いすぎるのは勘弁してくれよ?」

「分かっていますわ」

 と、言いつつも、彼女は結局ワインを二本も飲んだ。

 結果どうなったかは想像するに容易いだろう。
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