蒼の聖杯と英雄の足跡 ~自称実力そこそこな冒険者、聖杯を探す旅の途中で追放された元悪役令嬢を拾う~

とうもろこし

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2章

第28話 商人の護衛


 一夜明けて、俺達は王都へ向かうべく行動を開始した。

 まず向かったのは冒険者組合で教えてもらった乗り合い馬車の停留所だ。

 広く用意された停留所には、まだ早朝だっていうのに十台以上の馬車が停車しているではないか。

「あっちは正真正銘、乗り合い馬車だね」

 停留所の右側に停まっている幌馬車の荷台へ続々と旅人や冒険者達が乗り込んでいく。

 荷台の後ろに立つ御者が「あと三人でーす!」と叫んでいるところを見ると間違いないだろう。

「左側が商人達のようですわね」

 逆側にも幌馬車が停まっているが、数台の馬車は荷台に木箱などの荷物を載せている最中だった。

 木箱を積載させているのは冒険者達であり、内一台は荷物の積載を終えて走り出す。

「どうしますの?」

「うーん、そうだな……」

 乗り合い馬車にしても、商人の馬車にしても、最初の目的地は南東にある街だろう。

 今日一日で王都との間にある街を目指し、そこで宿泊って流れになるだろうな。

 俺は脳内で残金の勘定を行い――

「商人に話を聞いてみようか。相乗りが難しかったら乗り合い馬車にしよう」

 シエルに『商人の護衛』を経験させるいい機会でもある。

 それに商人の馬車に相乗りする場合は賃金を払わずに済むからね。代わりに護衛の代金も貰えないけど。

「分かりましたわ」
 
 というわけで、俺達は荷物を積み込んでいる商人の一人に近付いていく。

「相乗り希望なんだが、どうかな?」

 メガネを掛けた細身の商人に問うも、すぐに首を横に振られてしまった。

「悪いね、足りているんだ」

 一人目は断られてしまったが、すぐに近くにいた別の商人に声を掛ける。

 今度は年下の青年だったが……。

「ごめんなさい、先に別の冒険者と約束してしまって」

 二人目もダメ。

 続けて、三人目も断られてしまった。

「そう簡単にはいきませんのね」

「まぁ、そうだね」

 この街に限らず、商人との相乗りは断られることが多い。

 特に珍しいことでもないのだが、人の往来が多いこの街ならチャンスはまだあるはずだ。

「次はあの人に聞いてみよう」

 今度は小太りの中年商人。

 重そうな木箱を一人で持ち上げている彼に近付き、相乗りできるかどうかを問う。

「次の街までならいいぞ。その代わり、荷物の積み込みをしてくれ」

 中年の商人は不機嫌そうな態度と声音を見せるも、相乗りを承諾してくれる。

「ありがとう。助かるよ」

「礼はいいからさっさと積み込んでくれ。時間が惜しいんだ」

 中年商人はフンと鼻を鳴らすと、俺達に荷物の積み込みを任せて御者台へと座ってしまう。

「……何ですの、あの人?」

「まぁまぁ」

 冒険者に対して、こういった態度を取る商人は少なくない。

 商人って人間が笑顔を見せるのは、金を使ってくれる客だけだ。

 タダで馬車に乗ろうとお願いしてくる冒険者なんぞ、小間使い程度にしか思わないのだろう。

「積み込み、終わったよ」

「じゃあ、さっさと乗れ」

 またしてもフンと鼻を鳴らす商人。

 俺達が荷台に乗り込むと、商人は馬を歩かせはじめた。

 街の門を出たところで、俺は商人に問う。

「商人さん、名前は?」

「……ゲオルグだ」

 辛うじて名前は教えてくれたものの、そこから友好的な世間話は発展しない。

「いいか、魔物が出たらすぐに戦え。積んでる商品が傷付いたら弁償してもらうからな」

 続くのは商人と雇われ冒険者のような会話だけだ。

「商品の種類は?」

「言う義理はない。とにかく、商品だけは傷付けるな」

 フン、と鼻を鳴らしながら俺の問いを突っぱねたゲオルグだったが、彼はチラリと荷台の奥に目をやった。

 視線の先にあるのは荷台の中で座るシエルの姿だ。

「……彼女は? 仲間か?」

「そうだが?」

「彼女を売る気は?」

「は?」

 何を言い出すかと思いきや、人を売れだって?

 こいつ、まさか裏で人身売買を行っているんじゃないだろうな?

「どういうつもりだ?」

 声のトーンを落とし、じっとゲオルグを見つめながら問う。

 すると、彼は敏感にも俺の殺気を感じ取ったらしい。

「人身売買しようって話じゃない。あの美人を知り合いの貴族に紹介して、嫁にでもなってくれれば貴族との繋がりが出来るだろう?」

 つまり、シエルを商売の道具にしようってことか。

「シエル、君は貴族との結婚に興味はあるか?」

 一応聞いておくことにした。

「貴族? どれくらい有名な貴族ですの? 私、最低でも王子レベルじゃないと嫌ですわ」

 まぁ、元は王子と婚約していた侯爵家のご令嬢だしね。

「だとさ」

「随分と高い理想を持った美人だ。王子と結婚するとなると、侯爵家の娘くらいしか無理だろう」

 その侯爵家の娘だったんだよ、と内心でため息を吐く。

「私の野望は知っているでしょう? 中途半端な貴族の嫁になるなんてお断りですわ」

 彼女もまた「フン」と鼻を鳴らす。

「残念だったね」

「フン。だったら別の女に声を掛けるだけだ」

 自分の思惑通りにならなかったせいか、ゲオルグは黙って道の先を睨みつけてしまう。

 会話は終了だ。

 俺はふぅと息を吐いてからシエルの元へと戻る。

「一体、何だったんですの?」

「いや、大したことじゃないよ」

 ゲオルグとの会話を誤魔化しつつ、俺達はしばらく馬車に揺られた。

 街を出発してから二時間ほど経過すると、ゲオルグは一旦ここで馬を休ませると言い出した。

「荷台に水と餌がある。馬にくれてやれ」

「はいはい」

 彼の要望通り、俺は馬に水と餌を与えた。

 ゲオルグは「三十分ほど休む」と言っていたので、それまでは護衛らしく周囲警戒に勤めなければ。

 のほほんとするシエルに「魔物が寄って来ないから見てて」と言いつつ、俺も周囲をぐるぐると見渡していると……。

「あら? あれって魔物かしら?」

 シエルが指差したのは、額に角の生えたウサギ。

「あれがユニコーンラビットだよ」

「ああ、あれが。冒険者組合の受付嬢が言っていましたわね」

 ユニコーンラビットの大きさは動物のウサギと変わらないが、毛並みが真っ白な個体しか生まれないそうだ。

「……こっちを見ているだけですわ。くりくりとした目が可愛いですわね」

 くりくりとした大きく赤い目と小動物らしいフォルムは、魔物であっても「愛らしい」と感じる人も多い。

 じっと見つめてくるユニコーンラビットに笑顔を浮かべてしまうシエルもその一人だろう。

 しかし、魔物は魔物。

 額に生えた一本角はかなり鋭利であり、強烈な脚力と共に繰り出される『突き』は容易く人間の体を破壊してしまうのである。

「あと、もう一つ特徴があって」

「特徴? 角以外に?」

「うん。ユニコーンラビットは特定の女性に対して懐くんだ」

「特定の女性とは?」

 シエルがそう返した瞬間、ユニコーンラビットがぴょんぴょんと小さく飛びながら距離を詰めてくる。

「男性経験の無い女性」

 答えを告げた時、シエルに近付いたユニコーンラビットは彼女の足にぴたりと寄り添った。

 更には角で足を傷つけないよう気遣うように、頬擦りまで始めるではないか。

「……懐いたね」

 つまり――そういうことだ。

「なぁ、やっぱり彼女を売らないか?」

 一連の様子を見て言ったのはゲオルグだった。

 商品価値が高い、と改めて判断したのだろう。

「いや、だから――」

 再び否定しようとした時だった。

 急に俺達の頭上に影が走る。

 一瞬、大きな雲で太陽が隠れたのかと思ったが、それは間違いだった。

「ぴー!」

 シエルに懐いていたユニコーンラビットも慌てて走り出す。

 空を見上げると、そこには空を旋回するワイバーンの姿があったのだ。

「ワ、ワイバーン!?」

 空を見上げるゲオルグは驚きの声を発し、血相を変えて荷台に走る。

「あ! おい、そんな急に動くな!」

 空を飛ぶワイバーンはまだ幼体だろう。体が小さいのがその証拠だ。

 ……まぁ、幼体と言えども、その体は四メートルもあるのだが。

 ただ、ワイバーンの持つ習性は幼体だろうが成体だろうが変わらない。

 ワイバーンは空から獲物を見定める時、獲物のスピードで計るのだ。

 より素早く動く獲物は『新鮮』だと判断するのである。

 故にワイバーンと遭遇した際、急に走り出すのは厳禁。自分から『新鮮ですよ』と言っているようなものなのだが……。
 
「このくそったれえ!」

「うわっ!?」

 荷台に乗り込んだゲオルグは近くにあった麻袋の中身を掴み取り、それを俺達に向かってぶん投げたのだ。

「くさっ!?」

 ゲオルグの腕力は想像以上に乏しく、幸いにして俺達にぶっかかることはなかった。

 しかし、それでも地面に撒き散らされたドロドロの物体には問題アリだ。

「魔物寄せ!?」

 そう、この臭くてドロドロとした物体は魔物が好む匂いを発する『魔物寄せ』と呼ばれるものである。

『グワァー!』

 超強烈な匂いは空を舞うワイバーンにも届いてしまったらしい。

 ワイバーンの頭が俺達に向けられ、遠くながらも目が合ったように思えた。

「ルーク! 馬車が!」

「はぁ!?」

 何ということだ。

 ゲオルグは俺達を置いて一目散に逃げて行くではないか。

「魔物寄せを振り撒いたのは逃げるためか!」

 あいつ、俺達を囮にしやがった!

 魔物寄せも万能ではないが、そこに新鮮な人間がいればワイバーンの注意を長く惹けると考えたのだろう。

 ……いや、あの手際はやり慣れているな。

 常習犯か?

「ルーク、ワイバーン! ワイバーンがぁ!」

 隣にいるシエルがあわあわと慌てながらも、俺の服を引っ張りながら空を指差す。

 ワイバーンは完全に俺達を『餌』と認識しているようだ。

「クソッ! やるしかないか!」

 これではそう簡単に逃げられないだろう。

 俺は逃げることを諦め、左指をパチンと鳴らした。
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