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2章
第30話 ゲオルグとは何者なのか
俺達が街に到着したのは夜の八時を越えた頃。
街の入口を警備していた兵士が俺の姿を見るなりギョッと驚いていたのが印象的な入場だったな。
「ほら、早く商人組合に向かいましょう?」
「え? 今から?」
「当然でしょう。早急に報いを受けさせてやりますのよ」
今、足が痛いのも奴のせい。
シエルはそう主張しながら俺を促す。
外を歩いていた住民に話を聞くと、商人組合は街の中心部にあるようだ。
冒険者組合と違って夜遅くまで開いていないような気がするのだが……。
「あれ、開いてるんだ?」
意外にも建物の扉には鍵が掛かっていなかった。
レンガ造りの建物内に進入すると、内装は冒険者組合とよく似ている。
複数の窓口があり、奥の事務室っぽい場所には数名の職員が。
彼らは書類と睨めっこしていたが、俺達が進入してきたことに気付いたようだ。
「どうなされました? 商人……ではないですよね?」
窓口に近付く女性は俺達の身なりを見て商人じゃないと判断する。
まぁ、商人は返り血なんざ浴びないだろうし。
「実は――」
対応してくれた女性職員に訳を話し、最後にゲオルグの名前と外見の特徴を口にする。
すると、ゲオルグの名を聞いた女性職員の顔が露骨に歪んだ。
「ああ、あの人ですか」
すっごい嫌そう。
名前も聞きたくない、と言わんばかりに嫌そうな顔を見せる。
「有名なんですか?」
「うちの界隈だと有名ですよ。しかし、そうですか。今はヴェルリ王国内にいるんですか」
俺とシエルは「どういうことだろう?」と顔を見合わせてしまう。
「ゲオルグという商人は組合に所属していないんですよ」
「所属していない? ライセンスを持たない商人なんですか?」
「ええ。それと本人は商人じゃないと言い張っています」
「商人じゃない?」
ゲオルグの存在が商人界隈で有名になった頃、悪徳騎士がゲオルグを見つけて納税の有無を問うたらしい。
ライセンスを持っていない商人ならば「しっかりと納税しろ」と。
悪徳騎士はゲオルグを脅し、大金を盗み取ろうと考えたのだろう。
しかし、ゲオルグは「私は商人じゃない」とそれを拒否。加えて、積み込んでいる荷物はあくまでも「個人的な買い物だ」と言い張った。
「実際、彼は表で商売をしていないようなんですよ」
彼は馬車の荷台に荷物を積んで街から街へと移動しているが、到着した街で商売を行う姿は見られないという。
露店を開くわけでもなく、他の商会に商品を卸すわけでもなく。自身の店舗を構えている記録もない。
「じゃあ、何のために荷物を……?」
確かに彼は大量の木箱を荷台に積んでいた。
どれも商品で、傷付けば弁償してもらうとさえ言っていたのだ。
俺達を囮にしてまで逃げたのに。
あれは商品を守るための行動以外考えられないと思うのだが。
「それが謎なんですよ。国も商人組合もゲオルグを疑って長年調べたんです。ですが、表立って商売している痕跡は一切見られないんです」
本人が「商人じゃない」と言うように、どれだけ調べても商売を行った痕跡が発見できない。
ゲオルグと取引したという人物さえ見つからない。
事実かどうか確かめようにも証拠が見つからないのだ、と彼女は語る。
謎は深まるばかりだが、女性職員はここで俺達に顔を近付けながら小声で語りだす。
「……噂だと闇商人なんじゃないかって。商人組合の上層部が躍起になって証拠を掴もうとしているみたいなんですよ」
闇商人とは非合法の商売を行う連中だ。
この世にはたくさんの悪党がいるが、商人の悪党版といった感じであり、金さえ払ってくれれば何でも売る連中である。
国が規制する薬品から人間まで、とにかく客が求める物を何でも売る。
彼女が語った『噂』を聞いて一つの可能性を思いつく。
……もしかして、彼は奴隷商人だったとか? シエルを売ってくれ、と言っていたし。
断ると引き下がっていたが、実はどこかでシエルを攫おうと画策していたのだろうか? ワイバーンが現れたことで計画が崩れたとか?
いや、待てよ? でも、積んでいたのは木箱ばかりだったよな。
人が入るようなサイズでもなかったし……。
「そういった理由もありまして、今回の件は対応できないでしょうね」
一応、上に掛け合っても良いと女性職員は言うが、ゲオルグが組合に属していない以上はペナルティを課すこともできない。
唯一報いを受けさせる方法があるとすれば、ゲオルグの不正が見つかって逮捕された際に罪の一つとして加算してやることぐらいだろうか。
「というか、ワイバーンに襲われたんですか? それで生き残ったんですよね?」
今頃気付いたのか、女性職員は俺達の生存について驚きだした。
よっぽど運が良かったのか、それとも凄腕の冒険者さんなのか? と。
「前者だよ。運が良かったんだ」
女性職員にそう言いつつも、俺達は組合を後にした。
「うーん、結局難しそうだね。今回は諦めるしかないかな?」
「諦めますの!? まだ街にいるのではなくて!? 私達があいつを捕まえてしまえば――」
「おっと、それはダメだよ。こっちが犯罪者になりかねないからね」
それで捕まってしまえば旅を続けられなくなってしまうからね。
「まぁ、旅を続けていればこんなこともあるさ」
「納得できませんわ」
腕を組みながらぷりぷりと怒るシエルを「まぁまぁ」と言って落ち着かせる。
「何も盗られなかったんだしさ。美味い飯でも食って忘れてしまおうよ」
「……分かりましたわ」
この日、彼女の夕食代は歴代最高金額を記録した……。
◇ ◇
翌日、俺達は王都に向かうべく乗り合い馬車の停留所へ向かった。
「もう商人との相乗りは嫌ですわっ!」
だろうね。
というわけで、今回は乗り合い馬車を利用して王都へ向かうことに。
この街も王都との中間地点ということもあり、乗り合い馬車を利用する人の数はたくさんいる。
そのため、乗り合い馬車を走らせる商会も一度にたくさんの客を乗せて少しでも稼ぎたくなるのだろう。
「き、窮屈ですわ……」
本来、十人も乗れば満員となるであろうスペースに十五人もの人間が詰め込まれる。
隣の客と肩が密着するのは当たり前だし、足を伸ばすことも広げることもできない。
加えて、荷台に設置された椅子は木製で背もたれもない。
腰と背中、足まで痛くなる苦行のような道のりが始まった……。
「……もう一度聞くけど、どっちがいい?」
「……自分達専用の馬車が欲しくなりますわ」
シエルは苦々しい顔でそう言いつつ、肩に頭を乗せてきた居眠り中の老人の頭部を跳ね返す。
「馬車かぁ……。大きく稼げたら買うのもアリかもね」
「是非とも検討して下さいまし。……鬱陶しいですわね!?」
シエルはため息を吐きつつ、再び肩に頭を乗せた老人を跳ね返した。
……たぶん、この爺さん起きてるぞ。
「まぁまぁ。王都に着いたら美味しい魚料理でも食べようよ」
「ええ、もちろんですわ!」
最近、ちょっと分かってきた。
シエルの機嫌が悪くなったら食事の話題を口にすればいいって。
そんなことを思いつつも、そっと俺のリュックに手を伸ばす隣の客に顔を向ける。
リュックの間口に伸びた手を優しく掴みつつ、ニコリと笑ってやるのだ。
「…………」
「…………」
先に目線を逸らしたのは向こうだった。
そして、彼は手を引っ込めて項垂れる。
まったく、本当に楽しい旅だね。
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