蒼の聖杯と英雄の足跡 ~自称実力そこそこな冒険者、聖杯を探す旅の途中で追放された元悪役令嬢を拾う~

とうもろこし

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2章

第31話 追放令嬢の真実

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 ぎゅうぎゅう詰めの地獄を経て、俺達はヴェルリ王国王都へと無事に到着した。

 ヴェルリ王国王都は非常に「整った街」と言えるだろう。

 近年の人口増加に伴って、王都の街並みは再整備されたという話だが、その証拠に街並みを形成する建物のほとんどが規格化されて統一されている。

 木造やレンガ造りの家はほとんどなく、代わりに並ぶのはコンクリート製の建物だ。

 真新しい白い壁と深い海を連想させる青い屋根が並んでいる街並みは実に美しい。

 加えて、もう一つの特徴は街の中に多数の噴水や水汲み場があること。

 大きな広場には白い彫刻で装飾された噴水があり、建物と建物の間にある道を覗き込むと、建物の裏側には水汲み場らしきものが見られる。

 これらから水を汲み、建物に水をかけている住人が頻繁に見られた。これは塩害対策なのだろうか?

 何にせよ、再整備された美しい街と最大のランドマークである白く巨大な城は、王都を訪れた観光客の目を楽しませること間違いなしだ。

「しかし、とんでもない活気ですわね。人の数もトーワ王国王都以上ですわ」

 シエルの感想通り、ヴェルリ王国王都は非常に賑わっている。

 王都のメインストリートには様々な種族が入り混じり、更には様々な文化を持った人達で溢れている。

 文化的な特徴を顕著に表すのは服装だろう。

 ヴェルリ王国人のほとんどは、柄の入ったシャツを身に着けている。

 花であったり、海を現すものだったり、柄と色の入ったシャツを好むのがヴェルリ王国の服飾文化だ。

 それ以外の服を身に着けた人は他所の国から来たと考えるのが妥当なのだが――

 ある獣人男性は頭部と首に薄いマフラーのような布を巻き、腰にも長めの布を巻いた服を身に着けている。

 あるエルフ女性は肩とお腹の素肌を晒し、胸はチューブトップブラのようなものを巻いているだけ。下もほぼ下着のようなセクシーな格好とサンダルだ。

 今、俺の横を通過していたドワーフは角の生えたヘルメットにタンクトップ。下はスカートのような形状のものを履いていた。

 このようにヴェルリ王国の文化とは異なる服装を身に着けた人達がチラホラ見られる。

 これだけでも見ていて楽しいが、様々な文化を持つ人々がどうして王都に集まるのか。

「港へ行ってみよう」

 その答えを明らかにするため、俺は彼女を港へと連れて行く。

「まぁ……! 大きな船がたくさん!」

 ヴェルリ王国王都が賑わっている理由、様々な文化が見られる理由は、外国からやって来る巨大な商船だ。

 巨大な船を動かすにはたくさんの船員が必要になるし、商人は船旅で疲れた船員達を休ませるため王都に何日も滞在する。

 巨大な船から降りて来た人間が一週間近く滞在することになるのだから、街は人口以上の賑わいを見せるのだ。

「しかも、一隻二隻じゃないからね」

 何百、時には千人以上の船乗りが陸に上がり、王都の中で過ごすのだ。

 街が賑わうどころか、ヴェルリ王国王都の経済もとんでもなく潤うだろう。城の財務担当は笑いが止まらないんじゃないだろうか?

「色んな国から人が訪れるため、街の中にも多彩な人間で溢れていますのね」

「そうだね。まぁ、それ故に問題事も多いみたいだけど」

 文化が違う人間が多く混じることで、街の中ではちょっとしか喧嘩も多く発生するらしい。

 乗り合い馬車に乗っていたヴェルリ王国民の男性は「大らかな心を持つことだ」とアドバイスしてくれたが。

「まぁ、たくさんの人間が集まれば問題くらい起きるよね。これは文化が違う違わないの問題じゃないと思うよ」

 同じ国の人達同士で喧嘩もするんだ。

 互いの違いを理解することで問題を解決できるとは思うが、もっと時間が必要なのだと俺は思う。

「ところで、向こうに小さな船が停まっていますわよ?」

「あれは漁船だよ」

 港に来ると大きな商船ばかりが目立つが、当然ながらヴェルリ王国の食卓を支える漁師も多い。

「シエル、いいかい? ヴェルリ王国で最も有名な海産物は鋼貝と水斬りマグロだ!」

 鋼貝とは名の如く、鋼のように硬い殻を持つ貝である。

 殻を開けるのに苦労はするが、中の身はぷりっぷりで味も濃厚。

 網焼きにしつつ、バターを加えることで美食家も唸らせる一品の出来上がりだ。

 次に水斬りマグロであるが、こちらも名の如く水を斬るように高速移動するマグロである。

 鋭利なヒレと速い動きで漁師の網を両断してしまうことから、漁師泣かせの魚とも言われている。

 そのため、水斬りマグロの捕獲方法は太く頑丈な竿による一本釣り。

 大変な苦労を重ねての漁獲となるが、旬の大物は最大で金貨五百枚以上の取引を生んだ記録もあるんだとか。

 水斬りマグロ漁は漁師版の一攫千金といったところだろうか。

 そういった意味でも「漁師泣かせ」と言えるかもしれない。

「だが、何より美味い!」

 鋼貝も美味いが、水斬りマグロは焼こうが煮ようが美味い!

 特にオススメはヴェルリ王国特有の食文化、刺身で食べるのが一番美味い! ――と、乗り合い馬車に乗っていた男性が熱弁していた。

「は、早く食べませんこと?」

 新鮮な海鮮料理で頭がいっぱいになってしまったのか、シエルは「はぁ、はぁ」と息を荒くしながら目を輝かせる。

「よし、さっそく店に向かおうじゃないか」

「ええ」

 俺達はヴェルリ王国料理を熱弁してくれた男性が教えてくれた『海鮮堂 漢道』という店を探し始めた。

 水揚げされたばかりの新鮮な魚を提供してくれる、最高の店という話だ。

 店は港の入口近くにあるという話だが……。

「うっわ」

「すっごい列ですわね……」

 店の入口には行列が形成されていた。

 ざっと見ても三十人はいる。

「とにかく並びましょう!」

 俺達は慌てて最後尾に並びだすが、その後も海鮮料理を求めて並ぶ人の数が後を絶たない。

 いつの間にか俺達の後ろには二十人以上の人が並ぶ、という事態に。

「あと五人くらいですわね」

 着々と列は進んで行き、俺達の番まで残り五人といったタイミングで――店の中から白い服とコック帽を被った厳つい男性が出てきた。

 嫌な予感がしたが、それは見事に的中してしまった。

「申し訳ありません! 本日分の食材が売り切れました! 本日はこれにて終了となります!」

「いやあああああッッ!?」

 シエル、膝から崩れ落ちる!

「わ、私の海鮮料理……! た、食べられないんですの……!?」

 その絶望っぷりは遺物遺跡で謎の生物を見た時以上だった!

「残念。まぁ、時間も時間だし」

 現在の時刻は夕方の六時を越えたところ。

 食堂のピーク時間には少し早いが、これだけ人気の店なら仕方ないところだろうか。

「今日は諦めて別の日に食べよう」

「うう……。仕方ありませんわね……」

 ガチ泣きするシエルを立たせ、俺達は別の店を求めて街の中央へ向かっていく。

 その途中で『ロッキード・アンティーク』を見つけた。

「あ、ちょっと寄って行っていい?」

 食事の前に指輪のリチャージを済ませておきたい。

 まだショックで足取りがおぼつかないシエルを支えつつも店内へ進入した。

 コインを見せて扉を潜ると――

「おや? ルークか?」

「あれ? ヘンゼル?」

 怪しい店内に置かれたソファーには、白髪白髭の魔法使い――ロッキード・アンティークが仕立てたであろう上品なスーツとコートを着る賢者ヘンゼルが本を読んでいた。

「久しぶりだね」

「ああ、久しぶり……というか、隣にいるお嬢さんは誰だ?」

 ヘンゼルはシエルの様子を見て「病気なのか?」と心配そうに問うてきた。

 まぁ、ある意味病気かもね。

「いや、ちょっとね。彼女はシエル。旅の仲間だ」

「ほう、こんなべっぴんさんと旅とはね。羨ましい限りだ」

 ヘンゼルは「カカカ!」と笑いながら読んでいた本をローテーブルに置いた。 

「そっちは? 相変わらず魔法物質の収集に勤しんでいると彼から聞いたけど」

 俺はそう言いつつ、カウンターにいる謎の商人に顔を向ける。

「うむ。最近はトーワ王国内で活動しとってな。希少鉱石を採掘する権利を得たのじゃよ」

 ご機嫌なヘンゼルは聞いてもいないのに経緯を語り始めた。
  
 ヘンゼルがトーワ王国内で素材採取を行っていたところ、トーワ王国の貴族という男性に声を掛けられたそうだ。

「彼に『娘の魔法を見てくれ』と頼まれてのう」

 普段の彼ならそんなお願いは断っていただろう。

 彼は他人の魔法よりも自分の欲求を優先する男だ。

 しかし、娘の魔法を見てくれたらトーワ王国でしか採掘されない鉱石を好きなだけ採掘させやる、と条件を提示されたそうだ。

 この条件に惹かれ、ヘンゼルは貴族の娘と会うことになった。

「初めは鉱石のためじゃったがな、会ってみて驚いた。貴族の娘は光属性魔法を使えたんじゃよ」

 人間が扱える属性魔法は基本的に四属性――火・水・風・土しか不可能だとされている。

 四属性の他に光と闇の魔法も存在するのだが、これは人間には扱えない。この二属性は神か魔人、あるいはそれに服従する眷属しか扱えないという認識だ。

 しかし、驚くことにヘンゼルが会った貴族令嬢は「光魔法」が使えたのだという。

「ありゃあすごいぞ。磨けば人類初の『回復魔法』が使えるかもしれん」

 光魔法が人間に扱えないとされる最大の理由は、人類が誰も扱うことのできない『回復魔法』がカテゴライズされているからだ。

 人の命を左右する奇跡は神にしか扱えず、と世界で最も有名な宗教――精霊教が説いているように、傷や病気を無条件に癒してしまう力はまさに奇跡と言えるだろう。

 そんな奇跡の片鱗を貴族令嬢は見せたという。

「その娘は王子と結婚することになったそうでな。娘の父親はワシに好きなだけ採掘してくれ! と言ってくれたよ」

 珍しい魔法も見れて、更には希少な鉱石まで採掘し放題。

 ヘンゼルも笑いが止まらないってところだろうか。

「…………」

 だが、しかし。

 聞いている俺は冷や汗が止まらなかった。

 恐る恐る隣にいるシエルに顔を向けると――そこには今にも街を滅ぼさんとするオーガがいた。

 いや、怒り狂ったオーガのように顔を真っ赤にしたシエルがいた。

「貴方のせいでしたのねえええええ!!」

 シエル、ブチギレ!
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