蒼の聖杯と英雄の足跡 ~自称実力そこそこな冒険者、聖杯を探す旅の途中で追放された元悪役令嬢を拾う~

とうもろこし

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2章

第34話 大歓迎!


「やぁやぁ! よくぞ参られました!」

 取り残された俺達の元にやって来たのは、満面の笑みを浮かべる村長だった。

「あ、ありがとうございます。実は――」

「英雄ポアンの伝説を見に来たのでしょう!?」

 俺が目的を口にする前に村長は食い気味に割り込んでくる。

「この村は英雄譚に登場する場所ですからなぁ! 英雄譚が有名になった当時は村もすごく盛り上がって――」

 然も自分が見ていたかの如く語っているが、当時は村長もまだ生まれていなかっただろうに。

 先代、先々代あたりから言い伝えられてきたのだろうか?

「とにかく! 英雄ポアンが剣一本でクラーケンを倒したのは事実なんです! ワシの祖父がその目で見たと言っておりましたからな!」

 ついでに当時は何度も物書きからの取材を受けたんだとか。

 ……村長のお祖父さんがね。

「あの! 彼はどうしてこの村に立ち寄ったのでしょう? 何か理由があったんですか?」

 ずっと喋り続けている村長の話に無理矢理割り込んだ。

 そうでもしないと、このままずっと喋り続けそうな雰囲気だったから。

「祖父の話では休憩のために立ち寄ったそうですが、向こうの入り江にある洞窟に何度も足を運んでいたとの話です」

 村長は村の北側を指差した。

 そちらには起伏の激しい山があり、海に向かって崖が突き出ている。

 あの崖を海側から船で迂回すると、小さな入り江があるそうだ。

 入り江の傍には大きな洞窟があり、英雄ポアンは中にある『建造物』を何度も観察しに向かったという。

「建造物?」

「ええ。ケンスケという青年によると、門がどうこうと言っておりましたな」

 村長は曖昧な様子で首を傾げながら語る。

「ケンスケ? 門?」

「ケンスケっちゅうのは、最近になってこの村に流れ着いた青年です。今は冒険者になってしまいましたが」

 ケンスケなる人物は一年前に村へ『漂着』した人物らしい。

 砂浜に倒れているところを漁師が発見し、村で保護した人物のようだ。

 既に彼は回復しており、生活費を稼ぐために冒険者になったという。

 続けて『門』についてだが――

「彼の故郷にあった建造物と似ている、と。ワシはヴェルリ王国から一度も出たことがないのでサッパリ分かりませんが」

「なるほど……」

 英雄ポアンが興味を示していた『門』とはやらは非常に気になる。

 是非見てみたい。何かヒントが得られるかもしれないし。

「入り江に行ってみたいのですが」

「漁師に頼めば船を出してくれると思いますよ」

「ああ、じゃあさっそく――」

「その前に! 旅でお疲れでしょう? お腹も減ったんじゃありませんかな?」

 村長は手で俺達を制止すると、再びニコリと笑う。

 そして、彼の手が近くにあった食堂へ伸びた。

「まずは食事でも楽しんで下さい。漁師達も明日の漁に向けて忙しいでしょうからな」

「わ、分かりました」

 村長が放つ異様な圧に負け、俺達は食堂へと向かうこととなった。

 村に唯一ある食堂は小さく、内装も非常に簡素な造りとなっている。

 木のテーブルに丸太の椅子。狭い厨房の向こう側には元漁師らしき厳つい料理人の姿が。

「いらっしゃい! 観光に来たんだろう? よく来たね!」

 俺達を観光客だと一目で見抜くと、続けて壁に掲げられた板――オススメと書かれたメニューを指差す。

「おすすめは英雄ポアン定食! この村に来たらこれを食わなきゃ!」

 英雄ポアン定食……。ここにも英雄の名を冠したものが……。

「じゃあ、それで」

「私も」

「あいよ!」

 さて、どんな料理が出てくるのやら。

 英雄ポアンの名を冠しているのだから……。イカ料理とか?

「ヴェルリ王国にはイカの刺身って料理もあるみたいだよ」

「へぇ。では、それが出てくるのでしょうか?」

 なんて話していると、定食が運ばれてきた。

「はい、お待ち!」

 何ということでしょう。

 英雄ポアン定食の内容にイカ料理は一つも無かったのです。

 ……魚しかねえ!!

 いや、魚も美味そうだけどね? 刺身だし、貝のバター焼きもあるし。

「……イカ料理ってあるんですか?」

「イカ料理? ああ、あるよ! イカ料理はあっちだ」

 店主が指差したのは「クラーケン、新鮮刺身」というメニューだった。

「クラーケン風?」

 どういうことだ? と俺が訪ねると、店主は苦笑いを浮かべる。

「クラーケンなんて化け物、そんな滅多に現れないだろう? 頻繁に現れてたら村なんて滅んじまう」

 しかし、クラーケンが出たという事実は村にとって重要だ。

 クラーケンという魔物のおかげで多少は村が有名になったのも事実である。

「だから、名前だけ借りてるのさ」

 実のところ、普通のイカを刺身にして提供する料理だが、名前だけインパクトをつけようと「クラーケン風」としているらしい。

「食ってみるか? コリコリして美味いぞ」

「お願いします」

 イカの刺身を待っている間に定食をパクリ。

「普通に美味しいですわね」

「うん」

 ヘンゼルと食べた店には及ばないが、身はぷりぷりしてて美味しい。

 貝のバター焼きも濃厚で美味だ。

「はいよ、お待ち」

 イカの刺身が届いたので、こちらもさっそく。

 醤油にチョンとつけて口の中に運ぶと、コリコリとした触感がやみつきになる。

「う~ん。ヴェルリ王国の食事は美味いな」

「主食のパンを出さない店も多いですが、それでも満足感はありますわね」

 俺もシエルも食事と言えば「パン + α」の構成が当たり前だった国の出身だ。

 ヴェルリ王国に来るまではパンを食べないと食事した気にならないって感じだったが、ここへ来てそうも思わなくなってきた。

 様々な文化に触れ、固定概念を崩すのも悪くはない。

 ――ただ、衝撃だったのは食事を終えたあと。

 会計の時だった。

「美味しかったです。お会計お願いします」

「ありがとよ。銀貨六枚な!」

 たっっっけええ!!!???

 思わず叫びそうになったが、ぐっと堪えた自分を褒めたい。

 横にいるシエルは口を開けて放心しているけど。

 街の食堂で一食食べても銀貨一枚か二枚程度だ。二人分を払っても銀貨三枚以内になることが多い。

 それに比べてこの店は……。二倍も……。

 俺は震える手で銀貨を摘まみ、ニコニコと笑顔を浮かべる店主に支払う。

 店を後にすると、シエルが俺の服をちょこんと摘まみながら顔を向けてくる。

 彼女は無言で「高すぎィ!」と悲鳴を上げているようだった。

「お食事は終わりましたかな?」

 未だ驚愕が抜けない俺達は、外で待機していたであろう村長に声を掛けられる。

「お腹がいっぱいになったら眠くなるでしょう? そろそろ陽も落ちてくる時間ですし、宿を取られた方がよろしいでしょうな」

 ニコニコと笑う村長。

 しかし、その笑顔が恐ろしく見えた。

「さぁ、行きましょう。行きましょう」

 グイグイと押され、俺達は村唯一の宿へ連れ込まれる。

「一泊、銀貨九枚です」

 高すぎィ!!

 街の中堅宿よりも高い!!

「さぁ、本日はゆっくりお休み下さい。明日になったら入り江に案内しましょう」

 村長は宿の扉をガッチリとガードするように立ち、ニコニコと笑いながら「入り江」というワードを口にした。

 まるで脅しだ。

 このまま宿泊し、村に金を落とさないなら案内しないと言わんばかりに。

「い、一泊で……」

 俺は再び震える手で銀貨を摘まんだ。

「まいど。奥の部屋です」

 鍵を渡してくる宿の店主は満面の笑み。もちろん、扉をガードする村長も。

「…………」

「…………」

 俺とシエルは部屋の中へ。

 部屋は簡素な部屋にベッドが二つ置いてあるだけ。

 明らかに値段と見合わない部屋であるが……。

「観光客から搾り取ろうってことか……」

 あるいは、久々の観光客だから容赦がないのか。

 あの村長からは「取れる時に取ってやろう」って感じがビンビンと伝わってくる。

「もしかして、これが原因で観光客がいないんじゃありませんこと?」

「あり得る……」

 最初は人気の村だったが、時を経るごとに観光地としては寂れていった。

 あるいは強気すぎる値段設定が原因か。

 俺達の他に観光客がいない、余所から来た人達がいない原因が垣間見れたような気がした。

「……とにかく、明日は入り江に行こう。何かヒントが得られるかもしれないからね」

「ええ、そうですわね」

 よし、今日はもう外に出ないぞ!

 これ以上金を搾り取られないよう、俺達は強く頷き合った。
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